坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

与えられた形象ー辰野登恵子/柴田敏雄

2012年08月08日 | 展覧会
今日から、国立新美術館で開催される本展は、表現メディアの異なる二人展で、面白い対比を見せていました。東京藝術大学油画科の同級生で、辰野登恵子さん(1950年~)は、80年代日本のニューペインティングのリーダーとして、色彩と奥行き、物質感の新たな抽象絵画の探究を行いました。今回の展覧会では初期からの大型の作品群も多く展示され、画面にあるような壁のタイルなどの装飾パターンを採り入れた鮮やかな発色の色彩模様の作品が並びました。作品の方向性などを話す辰野さんの力のこもった話に引き込まれました。



柴田敏雄さん(1949年~)は、近年東京都写真美術館でも大規模な回顧展を開催し、注目されました。美術表現としての写真は、現在では重要なメディアとなっていますが、柴田さんが、写真を始めた頃は表現としての確立がスタートした時期でありました。
70年代半ばからベルギーで制作を開始し、山野に見出される大規模な土木事業を重厚なモノクローム写真に定着した「日本典型」連作などにより国際的に高い評価を受けました。それらの作品は自然と人為とのスケール感のある対極に求心力があります。



辰野さんの作品は、積み重ねられた箱など、日常の中で偶発的に見出された形象がモチーフとして選ばれ、300号もある大画面に単純化された形態と力強い線の拮抗と重厚な厚塗りの絵肌(マチエール)によって、画面の二次元性と視覚的構成による奥行きのイリュージョンを面白く組み合わせています。



柴田さんは、一時日本での発発表の場を失った時、写真をもうやめようかとも考えたこともありますが、そんな折アメリカでの評価が高まりシカゴ現代美術館で発表の機会を得ます。構造的な力強さを秘めた作品群です。



辰野さんの力強い色彩の発色とストロークはおおらかさもあり、フォーマリズム(形式主義)の志向のなかで大いに自由に羽ばたいている感じが気持ちよかったです。

◆与えられた形象ー辰野登恵子/柴田敏雄  /開催中~10月22日/国立新美術館