坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

ラファエロ展 多様な魅力

2013年03月22日 | 展覧会
今年は、イタリア・ルネサンスの巨匠イヤーということで、第一弾として日本初とも言える「ラファエロ」展が開催されています。ラファエロ作品が1、2点含まれるだけでも目玉作品となるのですが、本展では、油彩、素描など約20点を含めて、さらに影響を与えた周辺画家の作品を合わせて、約60点の展覧で見ごたえのある内容でした。
ラファエロ・サンツィオ(1483-1520)は、レオナルド・ダ・ヴィンチより30歳若く、イタリアのウルビーノに生まれました。幼くして両親を亡くしましたが、宮廷画家であった父のもとで修業に励み、若くして頭角を現し、ペルージャ、フィレンツェと移り住みながら、そこで活躍していたペルジーノを師匠として、さらに磨きをかけていきます。当代随一のレオナルドやミケランジェロなどからも多くを学び、自己の絵画世界に生かしていきます。
掲載作品は〈自画像〉1504-1506年 四分の三正面像で描かれ、最盛期を迎えるローマのヴァチカン宮殿の大作〈アテナイの学堂〉に描かれた肖像画と非常によく似ています。20歳ころの作品で、今でいう草食系男子のような繊細で優美さをひめた肖像画になっています。



この作品は、17歳のときに制作された、〈天使〉1501年、ブレーシャ、トジオ・マルティネンゴ美術館。
この作品は、礼拝堂に描かれた大作の一部です。地震によって大部分は破壊されました。父の工房で修業中の制作ですが、繊細な筆使いと清らかな美しさは秀でています。



代表作〈大公の聖母〉1505-1506年、パラティーナ美術館。ラファエロと言えば聖母像、その典型的美しさをこの作品は秘めています。ピラミッド型の構図で、節目がちな聖母に抱かれたイエス・キリスト。背景が黒く塗りつぶされている作品は、ラファエロには珍しいのですが、X線撮影などによる調査の結果、黒色の背景の下には、窓のある室内風景が描かれていることが判明しました。レオナルドが考案したスフマートという輪郭線をぼかした立体表現がラファエロ風に生かされ、柔らかい陰影を生んでいます。
ラファエロは静的な構図のイメージが強いですが、本展では〈聖ゲオルギウスと竜〉など竜を退治する迫力のある場面など、その中にも優美さはあるのですが、多様な魅力を感じさせました。レオナルドは作品を多く残しませんでしたので、ルネサンスの美の規範を創り上げたのは、ラファエロと言えるでしょう。

◆ラファエロ展/開催中~6月2日/国立西洋美術館




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