海人の深深たる海底に向いてー深海の不思議ー

地球上の7割を占める海。海の大半は深海。深海生物、潜水調査船など素晴らしい深海の秘蔵画像を紹介。奇抜・奇妙な姿に驚愕!!

原子力潜水調査船NR-1

2012年09月16日 | 日記
原子力潜水調査船「NR-1」

 潜水調査船とは学術調査のために潜航する潜水船であって軍事目的で潜航する潜水艦とは大きな違いがある。構造的にも潜水艦にはない覗き窓、人工の腕(マニピュレータ)、外部観察用テレビカメラを持っているのが特徴だ。
 潜水調査船で有名なのは日本のJAMSTEC(海洋研究開発機構)の「しんかい6500」(潜航深度6500m、3人乗り)、ロシアの科学アカデミー所属の「ミールⅠ」「ミールⅡ」(潜航深度6000m、3人乗り)フランスのイフレメール海洋研究所の「ノチール」(潜航深度6000m、3人乗り)アメリカのウッズホール海洋研究所の「アルビン」(潜航深度4500m、3人乗り),中国の「蚊竜号」(潜航深度7000m、3人乗り)の6隻である。他にもロシアの「コンスル」やキャメロン監督が乗った「デープシーチャレンギャー」がある。

 アメリカの「アルビン」は一応海軍の所属でもある。そこで米海軍は潜水調査船に原子力潜水艦の機能を加えて1969年に新たな潜水調査船を作ったのが原子力潜水調査船「NR-1」(潜航深度900m13人乗り)だ。
 「NR-1」の凄さはエネルギー源にある。通常の潜水調査船はバッテリー駆動なのに対し世界で初めて原子力駆動の潜水調査船である。 通常の潜水調査船はバッテリー駆動なので潜航時間は10時間ほどである。10時間の制限時間以内で深海まで降りて、海底を調査して、海底から海面へ浮上しなければならない。 浮上した海面で支援母船に揚収できないと事故になってしまう。支援母船の船長は、低気圧はこないだろうか?うねりはないだろうか?海面での揚収に一番気を使っている。 しかし、「NR-1」はこのような心配はいらない。原子力駆動の潜水調査船だから1週間も10日も潜航を続けることができるのだ。

 船内にはトイレ・ベッドはあるし、簡単な調理台、シャワーもある、交代で休めるのだ。 1986年のスペースシャトル・チャレンジャーの捜索、1990年のエジプト航空の捜索では他の潜水調査船や無人探査機が荒天で待機している間も連続で海底捜索を続けて大きな成果を挙げている。 カルタゴ通商航路の考古学的調査や深海生物の生態調査にも連続潜航の威力を発揮した。

 原子力潜水調査船「NR-1」のチームは35名ほどで支援母船「キャロライン」に乗船している、いずれも原子力潜水艦の知識・経験が豊富で優秀な人材でこの中から11名が「NR-1」の乗員が選抜されている。研究者は2名が乗船でき観察・記録に従事している。研究者はこれまで「アルビン」などに乗船した経験はあっても「NR-1」のようにトイレを使用することもベッドで寝るという当たり前のような経験にも感動している。これは研究者がこれまで長年研究してきた深海のフィールドで睡眠を取ることには深い思い入れがあり、深海の中で見た夢などを大切にメモしている。 さらに「NR-1」は連続数日の潜航もあるので支援母船を経由してEメールのやり取りができる唯一の潜水調査船であった、こうして建造以来40年間第一線で活躍し、2008年惜しまれて退役した。