海人の深深たる海底に向いてー深海の不思議ー

地球上の7割を占める海。海の大半は深海。深海生物、潜水調査船など素晴らしい深海の秘蔵画像を紹介。奇抜・奇妙な姿に驚愕!!

深海の忍者ダルマザメ

2012年09月07日 | 日記
 深海生物の中には奇抜な行動をしている生き物が多い。今回紹介するダルマザメはとても個性的な深海生物である。 ダルマザメは体長30~50センチほどの小型のサメで通常水深3,000mほどの深海に生息している。身体には腹側に発光器官があって他の深海生物のように自分の姿を消すのに使っているようだ。

 ダルマザメの体型は“葉巻型”と呼ばれるようにやや細長い体型に小さな尾びれがついている。この体型から想像すれば、速く泳ぐことはできず、くねくねと身体を動かしてゆっくり泳ぎ、深海の中層で発光器官を巧みに使ってエビや小魚を獲物としているイメージである。しかし、歯を確認すると下あごの歯は身体の割に大きく鋭い歯が並んでいる。エビや小魚を食べている普通の歯ではない。

 一方、マグロやクジラの身体に削ったようなキズがあることが昔から知られていた。大きな身体に500円玉程度の丸いキズで深くえぐられている。深くえぐられているが小さいキズなので致命傷にはならない。クジラなどには古いキズや新しいキズまで数十か所も見られる個体もある。 この丸いキズの正体が分かったのは1981年である。「マグロの噴火口状のキズの犯人は体長50センチ程度のダルマザメだった」と報告されたのだ。

 マグロの丸いキズとダルマザメの歯型は確かに一致していて犯人がダルマザメであることは理解できた。 しかしどうやってダルマザメが高速で泳ぐマグロを襲えるのかまだ納得できない。
ダルマザメの体型はどう見ても磯の魚のようでマグロ並みの高速遊泳ができないからだ。通常捕食者は獲物より速く泳いで獲物を襲う、あるいは待ち伏せして突然襲い掛かっている。深海にはダルマザメの身体を隠すようなものは無く、獲物より速く泳ぐ方法しか想像できない。なのになぜマグロやクジラを襲えるのだろうか?

 潜水艦のソナードームのゴムカバーも同様に500円玉ほどの穴を開けられたことがある。米ソが対立していた頃だから米軍はソ連のスパイにやられたキズと長く思われていた。水中を20~30ノット(10~15m/sec)で航行している潜水艦もこのダルマザメが襲っていることが分かって米海軍は愕然とした。世界最強の兵器である最新鋭の潜水艦がたった50センチのサメにやられてしまったからである。 潜水艦以外にも海底石油開発のストリーマーケーブルも被害にあっている。 ここまでくるとダルマザメは海を荒らす人工物に立ち向かっているようにも思える。

 ダルマザメがマグロを襲う行動について研究者は、ダルマザメは胸の発光器官をチラつかせて自分を囮にしてマグロを誘き寄せている。高速で近づいてきたマグロに襲われる直前、身体を反転させてマグロの身体に下あごの鋭い歯を食い込ませる。流される身体の力で肉を食いちぎっていると書かれている。 本当だろうか? まだ我々の想像力からは小さなダルマザメがマグロを襲うシーンを想像できていない。