日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

四谷赤坂麹町 - まるしげ夢葉家

2020-06-08 19:46:32 | 居酒屋
二月続いた在宅勤務がついに終わり、職場での業務が再開されました。直前まではさしたる実感が湧かなかったものの、出がけに押し寄せる憂鬱さで現実に引き戻されました。かつては毎日のように感じていた、しかしいつしか薄らいでいた感覚が呼び覚まされたことで、現世に戻った浦島太郎のような気分になったとでも申しましょうか。一応覚悟はしていた、しかし直視はしたくなかった現実を、否応なしに実感させられる一幕でした。
その後も追い討ちをかける出来事が続きました。目下の社会情勢に鑑み、部分的に在宅の対応も可とのお達しではあったものの、予定していた時間には帰れず、あまつさえお昼も逃してしまったのです。とはいえ、一杯やれる時間帯に上がれたのがせめてもの救いではありました。久々の赤坂ならここしかありません。「まるしげ夢葉家」を再訪します。

先月までの状況なら、たとえ定時に終わっても店で呑む選択肢はありませんでした。生殺しに等しい「要請」の緩和により、二時間とはいえ看板が延びたのは大きかったことになります。その代わりに一抹の不安がありました。最後に当店を訪ねたのは大型連休後半、つまり、極限まで減った人出が戻り始める直前の時期です。数えるほどのお客を相手に、店主が一人で営業しているという、平時の姿を知る者には俄に信じがたい状況でした。あの頃に比べれば飲食店の賑わいも戻っています。赤坂でも屈指の人気を誇る当店なら、満席で振られる可能性もあろうと覚悟したのです。それだけに、先客がわずかに三組という状況には拍子抜けしたものの、結果としては頃合いだったともいえます。八時が迫るや立て続けにお客が入り、いつの間にやら七割方、つまり目下の状況では事実上の満席に近い入りとなったからです。
不用意に羽目を外せば再び蔓延しかねません。さりとて闇雲な「自粛」は街を荒廃させます。病原体を殲滅する「聖戦」を支えるために「我慢」するという気違いじみた思想から、むしろ共存していくための方策を、店だけでなく客の側も学んだということでしょうか。本来の姿には及ばないものの、あたかも通夜のようだった一時を思えばまだましです。

ただし、何もかもが元通りになったわけではありません。豊富な品数と良心的な値段を維持してこられたのは、いわゆる「3密」も当たり前の繁盛ぶりがあってのことでした。それができなくなった今、何かを犠牲にせざるを得ません。店主が採った選択は人手を減らすことでした。料理人は店主を含む二人、接客はお姉さん二人というのが今夜の布陣です。平時はカウンターに不動の二人組が立ち、奥の厨房にも料理人がいて、店主が全体を差配していました。つまり、料理人を実質半減させた上で、店主が一人二役、三役を受け持っていることになります。厨房を主な持ち場としつつ、時にはカウンターに出て調理を手伝い、帰るお客も見送るという獅子奮迅の働きぶりには脱帽です。
鉄人のごとき店主の奮闘により、ようやく活気が戻ってきたこと自体は歓迎すべき出来事です。しかし、手放しでは歓迎できない面もあります。「不動の二人組」と評した料理人の片割れが去った上での結果でもあるからです。一連の騒動が発端となって実家の猛反対を受け、郷里に戻ったらしいと小耳に挟みました。渦中にいる我々にとっては当たり前の日常でも、余所からは地獄のごとき世界に見えるということでしょう。自分自身、このようなことになる前に脱出してしまいたいというのが本音でした。残念ではあっても詮方なしというほかない結果ではあります。
よほど規格化された全国チェーンでもない限り、同じ店を一から作り直すことはできません。店が積み重ねてきた歴史は、二度とは戻ることのない時の流れの中で生まれるものだからです。これは、店に関わる人々の人生が刻まれていくということでもあります。いわば店主の片腕だった料理人の一人を失ったことは、この店にとって取り返しのつかない損失です。

命が金で買えないのは事実です。だからといって、命以外のあらゆるものが金で買えるということにはなりません。当店が被った損失は、いくら金を積んだとしても取り戻すことができないものです。同様にして損失を被る人々の存在を、闇雲な「自粛」を叫ぶ勢力が果たして想像できたのでしょうか。誰もが責任をなすり合い、最も権威のありそうな「専門家」に縋った結果、一面的な視点からの意見ばかりが偏重され、このような結果がもたらされてしまったのは残念でなりません。
このことからもいえるのは、何事も盲信はよろしくないということです。持続可能な方策を模索するかのように、自身で考え行動する人々が増えてきたようなのはよい傾向と思います。最低限の秩序を守って冷静に行動し、「自粛」を叫ぶ勢力の鼻を明かしてやりたいという心境です。

まるしげ夢葉家
東京都港区赤坂2-14-8 山口ビル2F
03-3224-1810
平日 1700PM-100AM(LO)
金曜・祝前日1700PM-300AM(LO)
土日祝日定休

ブラウマイスター
奥能登の白菊
武勇
お通し(しらす沖漬け)
お造り六点
ざくざくポテトサラダ
くじらの竜田揚げ
タコとうるいのぬた
牛すじ煮込み豆腐
コラーゲンの王様
チャーシュー、やや台湾風
牛すじカレー
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