日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

最後のランチ - NORD KUDAN

2020-06-02 20:52:48 | B級グルメ
業務が在宅での対応に切り替えられたことは、三つの効用をもたらしました。気疲れしなくなったことが一つ。散らかり放題だった自室が多少なりとも片付いたことが一つ。そして何より、素通りを続けてきた近隣の店との出会いです。昼の部に関していうと、最大級の発見はこの店かもしれません。
外濠の土手沿いにある一軒の店が、常々気になっていました。やや高い位置からほどよい間合いで土手を見渡す、日除けの下りた喫茶店風の店構えもさることながら、それ以上に興味を引かれたのはカレー専門店を標榜する立看板です。自慢のカレーがいかなるものか、一度試してみたいという考えが、少なくともこの数年来ありました。しかし、平日は職場との行き来に明け暮れ、休みの日は旅の空で過ごすということになると、たまの在宅であっても慣れた店ばかりを贔屓にしてしまいます。ようやく機会が巡ってきたのは、取りも直さず足止めのせいに他なりません。災い転じて福というべき結果です。

喫茶店風とは申しましたが、その手の店につきものの軽食が各種揃っているわけではありません。あるのはカレー、それも実質一種のみという潔さに、専門店としての矜恃が窺われます。
ステンレスのポットで供されるカレーは、インド風か、欧風かの二者択一で考えれば後者です。ただし、その分野の有名店のカレーとは似て非なるものがあり、十把一絡げに欧風と決めつけるにもいささかのためらいがあります。自身が知る中で最も近いのは、福山の名酒場「自由軒」のカレーです。具体的には、黒っぽい色合い、粘度の高さ、具材が煮込まれ溶け込んだところなどがことごとく共通します。ただし、果物を煮詰めた風味は控えめで、その代わりに玉葱の風味と香辛料が際立つ味です。玉葱の持ち味を活かしたカレーといえば、いの一番に挙げたいのは「デリー」のコルマカレーですが、こちらも引けを取りません。焙煎したような香辛料の風味は函館の「小いけ」を彷彿とさせます。自分が心底感銘を受けたカレーの真骨頂というべき部分が集約され、なおかつ独自の味に昇華されているという点で、相当な研究の跡が窺われる逸品です。

入居する集合住宅は、おそらく昭和末期から平成初期の建築でしょう。カウンターに一人で立つのは、白髪にバンダナを巻いた、いかにも喫茶店のマスター然とした風貌の店主です。年季の入った店内の様子からして、建物ができると同時に開店し、そのまま続いてきたようにも見えます。「アジャンタ」ほどではないにしても、実はかなりの老舗なのかもしれません。
手伝いのお姉さんを見たことはあるものの、それ以外の従業員がいそうな気配はないだけに、この味が末永く受け継がれるかは未知数です。それ以前の問題として、在宅勤務が終わればそう滅多に通える店でもなくなります。今のうちに努めて足を運びたいと思う一軒です。

NORD KUDAN
東京都千代田区九段北4-3-20 九段フラワーホーム1F
03-3222-3329
1130AM-1400PM(LO)/1800PM-2100PM
土日祝日定休
カレー各種900円より
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