今回も襟裳岬まで走り通すことはできず、途中で宿をとる必要が出てきました。問題は、浦河とえりものいずれに泊まるかです。選択肢の数でいうなら支庁もある浦河でしょう。実際のところ、予約サイトで照会できる宿はいずれも静内か浦河でした。これに対し、今日中に距離を稼いでおくつもりなら、えりもに軍配が上がります。そして選んだのは後者でした。ただし、岬の近くの宿ではなく、10km以上手前にある市街の宿をとりました。往年の名曲の唄い出しにも登場する「北の街」の雰囲気に浸りたかったのに加え、市街に呑み屋の一軒でもあれば、そこで一献傾けるにやぶさかではなかったからです。
その一方で、そもそも呑み屋があるかどうかは未知数でした。そこで、宿を押さえる際に訪ねたところ、寿司屋と食堂が一軒ずつあるというのが返答でした。一杯やるなら前者でしょう。寿司屋で呑む習慣は持ちませんが、最果ての町で一杯やれることに価値があります。念のため市街を車で往復し、他の選択肢がないことを確認の上、寿司屋の暖簾をくぐりました。訪ねるのは「いさみ寿し」です。
店主らの住居を兼ねたであろう建物には年季が入っており、店内もそれ相応と予想されました。しかし、飛び込んできたのは目にも眩しい白木のカウンターでした。まず女将が迎えてくれ、跡取りらしき青年が一瞬現れ下がった後、鼻筋の通った男前の店主が登場するという展開です。
年季の入った店構えと真新しいカウンターは明らかに不釣り合いです。居抜きで入ったか、最近改装したかのどちらかなのでしょう。しかし答えはどちらでもありませんでした。開業当時に設えた桂のカウンターが、寄る年波に勝てなくなってきたため、削って直したというのが店主の弁です。つまり店主は二代目で、先ほどの青年が三代目ということになりそうですが、これも見当違いでした。青年は連休で帰省している長男坊で、跡取りになる次男坊は修行で小樽に出ているそうです。
居酒屋で親子三代続く店なら、大きく外すことはないものです。それと同様、三代続くにはそれ相応の理由があります。寿司について高みを目指せばきりがないとはいえ、少なくとも自分にとっては上々の店でした。
奮発して注文した刺身の上は、まず甘海老、タコ、ツブ、ウニの順で盛られていき、ここまでが地物との説明が。その両脇に赤身と大トロが盛られ、仕込み中のタラバガニを少し分けてもらうというおまけもつきました。同じネタで作った海鮮丼がいくらするかを考えれば、これで二千円ならお値打ち品でしょう。
刺身は奮発する一方、寿司については最後に軽くつまむ程度で十分と思っていました。そうすると千円の並ですが、その上に梅、竹、松、特上と四段階も並べられると、どれを選んでよいのかが分からなくなってきます。それを見透かしたかのように、店主からは竹以上とそれ以下では大きく違うとの指南がありました。竹以上は地物中心になり、大トロ、ボタンエビなど高価なネタも入るそうです。その勧めに従い竹を選ぶと、刷毛で醤油を塗ったにぎりが一貫ずつ提供されました。高級店では板前が刷毛で醤油を塗ってくれると噂に聞いたことはありますが、現に体験したのは恥ずかしながら初めてです。二千円少々で大トロが入るところはなかなかないというのが店主の弁ですが、この仕事ぶりも含めて考えれば、たしかに破格なのかもしれません。
先日輪島を訪ねたとき、想像をはるかに超える遠さから、ここは離島も同然だと思いました。走っても走ってもたどり着かない隔絶された場所なのは、この町についても同じです。そのような町で一献傾けると、店の良し悪しにかかわらず印象に残るという経験則があります。一期一会を噛みしめるからでしょう。
寿司以外に焼物、揚物、一品料理も揃っており、居酒屋使いもできそうではありますが、主役はあくまで寿司であり、自分が求めるものと必ずしも一致していたわけではありません。しかし、地物のネタと一枚上手の仕事ぶりを、居酒屋並みの予算で楽しめたのは貴重な経験です。後年まで記憶に刻まれそうな一軒でした。
★いさみ寿し
幌泉郡えりも町字本町86-3
01466-2-3141
1130AM-1330PM/1630PM-2200PM
その一方で、そもそも呑み屋があるかどうかは未知数でした。そこで、宿を押さえる際に訪ねたところ、寿司屋と食堂が一軒ずつあるというのが返答でした。一杯やるなら前者でしょう。寿司屋で呑む習慣は持ちませんが、最果ての町で一杯やれることに価値があります。念のため市街を車で往復し、他の選択肢がないことを確認の上、寿司屋の暖簾をくぐりました。訪ねるのは「いさみ寿し」です。
店主らの住居を兼ねたであろう建物には年季が入っており、店内もそれ相応と予想されました。しかし、飛び込んできたのは目にも眩しい白木のカウンターでした。まず女将が迎えてくれ、跡取りらしき青年が一瞬現れ下がった後、鼻筋の通った男前の店主が登場するという展開です。
年季の入った店構えと真新しいカウンターは明らかに不釣り合いです。居抜きで入ったか、最近改装したかのどちらかなのでしょう。しかし答えはどちらでもありませんでした。開業当時に設えた桂のカウンターが、寄る年波に勝てなくなってきたため、削って直したというのが店主の弁です。つまり店主は二代目で、先ほどの青年が三代目ということになりそうですが、これも見当違いでした。青年は連休で帰省している長男坊で、跡取りになる次男坊は修行で小樽に出ているそうです。
居酒屋で親子三代続く店なら、大きく外すことはないものです。それと同様、三代続くにはそれ相応の理由があります。寿司について高みを目指せばきりがないとはいえ、少なくとも自分にとっては上々の店でした。
奮発して注文した刺身の上は、まず甘海老、タコ、ツブ、ウニの順で盛られていき、ここまでが地物との説明が。その両脇に赤身と大トロが盛られ、仕込み中のタラバガニを少し分けてもらうというおまけもつきました。同じネタで作った海鮮丼がいくらするかを考えれば、これで二千円ならお値打ち品でしょう。
刺身は奮発する一方、寿司については最後に軽くつまむ程度で十分と思っていました。そうすると千円の並ですが、その上に梅、竹、松、特上と四段階も並べられると、どれを選んでよいのかが分からなくなってきます。それを見透かしたかのように、店主からは竹以上とそれ以下では大きく違うとの指南がありました。竹以上は地物中心になり、大トロ、ボタンエビなど高価なネタも入るそうです。その勧めに従い竹を選ぶと、刷毛で醤油を塗ったにぎりが一貫ずつ提供されました。高級店では板前が刷毛で醤油を塗ってくれると噂に聞いたことはありますが、現に体験したのは恥ずかしながら初めてです。二千円少々で大トロが入るところはなかなかないというのが店主の弁ですが、この仕事ぶりも含めて考えれば、たしかに破格なのかもしれません。
先日輪島を訪ねたとき、想像をはるかに超える遠さから、ここは離島も同然だと思いました。走っても走ってもたどり着かない隔絶された場所なのは、この町についても同じです。そのような町で一献傾けると、店の良し悪しにかかわらず印象に残るという経験則があります。一期一会を噛みしめるからでしょう。
寿司以外に焼物、揚物、一品料理も揃っており、居酒屋使いもできそうではありますが、主役はあくまで寿司であり、自分が求めるものと必ずしも一致していたわけではありません。しかし、地物のネタと一枚上手の仕事ぶりを、居酒屋並みの予算で楽しめたのは貴重な経験です。後年まで記憶に刻まれそうな一軒でした。
★いさみ寿し
幌泉郡えりも町字本町86-3
01466-2-3141
1130AM-1330PM/1630PM-2200PM