能登から戻ってくる場合、金沢でも高岡でも時間と距離に大差はありませんでした。しかるに高岡を選んだのは、金沢に戻った場合はまたも野町に車を置いて「わり勘」へ行く流れとなり、さすがに芸がないと思ったからでもあります。趣向を変えるという目的に加え、新幹線に素通りされた高岡にせめてもの貢献をしたいという考えもあり、高岡で一杯やって帰れればと考えた次第です。
ところが、輪島の遠さは思った以上で、高規格のバイパスを行けども行けどもなかなかたどり着きません。帰りの列車の時刻から逆算すると、遅くとも八時過ぎには店を出る必要があります。車内を片付け、帰りの列車を手配するのにそこそこ時間が要ることを考えると、高岡には六時半頃までに着いた方が望ましく、七時を大きく回れば見送るしかなかろうと思っていました。しかるに想定していた六時半を回り、さらには七時が迫ってきました。十分な時間はない、ただし駆け足ならば行けないこともないという、何とも微妙な状況の中、むざむざ切ることもできずにそのまま駅まで走りきり、列車の手配は後回しにして「たかまさ」に駆け込むという顛末です。
安全策を採るなら見送りもやむなしのところ、あえて拡大策に走ったのは、金沢、富山に比べて再訪が困難という条件によるところが大です。駐車場に迷いなくたどり着ける状況だったことに加え、過去二度の一時帰京で仕度の要領がつかめていたという事情もあります。さらには駅の近くに何度か訪ねた店があり、おおよその品書きが頭に入っていました。これらの条件が一つでも欠けたり、到着が五分、十分遅れれば、一杯やるという選択肢はなくなっていたでしょう。まさに紙一重の決断でした。
時間が切迫する中で呑み屋に駆け込んだといえば、去年の
初夏に「葉牡丹」を訪ねたときのことが思い出されます。30分しかなかったあのときほどではないにしても、今回の持ち時間は45分しかありません。注文は一度に済ませるしかなかろうと判断し、まず刺身、次いですり身揚、さらに豆腐のおでんを注文しました。しかしこの判断が必ずしも的確ではありませんでした。
刺身、豆腐に揚物という組み合わせは、「葉牡丹」のときと奇しくも同じになりました。しかしここでは突き出しがあり、刺身はサス、鰤、〆鯖、平目、白海老、鰯の六点あります。さらに、豆腐は半丁に大量の葱ととろろ昆布をかけたもので、すり身揚にいたっては二、三人で取り分けてもよさそうです。予想を超える分量により、時間内にいただけるかが覚束なくなってきました。
しかも誤算だったのは、それらがほぼ同時に出てきたことです。豆腐もすり身揚も温かいうちにいただかなければならず、さりとて刺身が最後に残るのも流れとしてはよろしくありません。皿が三つ並んで手元が散らかり、何をどの順番でいただくかが悩ましい中、列車の時間は次第に迫って、四の五の言わずいただくしかなくなってきました。このまま行けば酒が切れる状況ながら、もう一本追加する時間がないのは明らかでした。物足りなさはありながらも、残った刺身を酒なしでいただき、時間を使い切ったところで席を立ちました。
結果論をいうなら、刺身を半分ほどいただいてから豆腐を注文すれば、酒も時間も過不足がなく、腹具合としてもさほど不足はなかったのだろうと思われます。すり身揚までいただくなら、酒をもう一本いただいて、最後に味噌汁でもすすることができれば理想的でした。そのためにはあと30分あれば足りたでしょうか。わずかな時間を捻出できなかったばかりに、落ち着いて呑めなかったのが惜しまれます。
しかし、慌てると分かっていながら駆け込んだのは、この店で久々に一杯やりたかったからに他なりません。金沢と富山に挟まれ、なかなか足の向かない高岡だけに、今回行けるのと行けないのとでは大違いでした。短い時間ながらも再訪できたことについては満足しています。
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居酒屋たかまさ
高岡市末広町42
0766-24-5745
1500PM-2400PM(日祝日 -2200PM)
正月休業
成政
突き出し(蕪あんかけ)
造り盛合せ
とうふ
すりみ揚