ももママの心のblog

猫が大好き。有料老人ホームで生活相談員をしています。映画が好きだけど、なかなか見られません。

潜水服は蝶の夢を見る

2008-04-18 | 映画 さ行
有名な編集者ジャン=ドーが42歳にして脳梗塞に倒れる。死んだほうがマシだと考えていた彼だが、左目の瞬きだけで本を出版。病は、彼から想像力を奪うことが出来なかった!

2008年(公開) フランス/アメリカ ヒューマンドラマ
2008年4月17日 ワーナーマイカル・シネマ新百合ヶ丘
監督 ジュリアン・シュナーベル
原作 ジャン=ドミニク・ボビー
出演 マチュー・アマルリック(ミュンヘン)、エマニュエル・レニエ、
(出演作品などは私が観たものに限る)

野心的で皮肉屋のジャン=ドミニク・ボビー(ジャン=ドー)(マチュー・アマルリック)はELLE誌の編集長として成功していた。しかし、42歳で脳梗塞の後遺症・ロックイン症候群になってしまう。意識もあり、思考力には何の問題もないが、全身が麻痺しているのだ。まるで潜水服に閉じ込められているようだと感じた彼だが、やがて想像力で蝶のようにはばたく。そして、唯一動く左目の瞬きだけで本を出版した。

ずっと楽しみにしていた映画です。やっと近くのシネコンで上映してくれたので、早速行ってきました。やはり、想像していた通りすばらしい映画。感動しました。
一流の仕事をして人生を謳歌していたジャン=ドーは、まだまだ男盛り。脳梗塞で倒れでも、女性の胸元や足が気になります。指一本動かすことが出来ないのに、言語療法士アンリエットの口元にそそられてしまったりするのです。美人の彼女が顔を近づけ、舌を動かすのを見せてくれるのですから・・・。
映画の最初のうちはぼけています。ジャン・ドーの視点だからです。しかも彼に話しかける人たちの顔はやたらと至近距離で、いつもフレームから切れてしまいます。彼はこんな風にしか見ることができないのです。右目が縫い付けられるシーンはこちらもつらいくらいでした。
しかし、絶望していた彼は次第に内なる人間性にしがみつき、想像力を蝶のように羽ばたかせるのです。彼の周囲の女性たちはみんな美人。そして、彼を愛しています。それほど魅力的な伊達男ジャン=ドーは、流れるよだれを子どもにぬぐってもらいながら、自伝をまばたきだけで書いていくのです。
「ESRI・・・」。使う頻度の高い順に並べたアルファベットを唱えてもらい、彼は必要なところで1回瞬きます。単語が出来ると確認のため相手はその単語を口にします。ウィは1回、ノンは2回の瞬きです。こうやって、彼は意思表示をし、本を書くのです。
彼の日常は、介護の現場で働く私にはとても身近な問題を提起してくれました。誰も来ない日曜日は、「砂漠を渡るようなもの」と言っています。テレビのチャンネルを一度決められてしまうと、少なくとも3~4時間は変えてもらえない。せっかく観ていたサッカーの試合なのに、世話をする人の影になって肝心のゴールの瞬間を見逃してしまう。しかも、処置が終わって、職員はテレビを消して退室してしまうのです。「チクショウ!」
魂は動かない体に閉じ込められていても、彼は世界中のどこにでも羽ばたいていきます。その映像の美しいこと。生命の輝きは、本人しだいでこんな状況のときにも失われることがないのですね。元気だったときの彼より、こうなってからの彼の方が魅力的になったのではないかと思うくらいです。
才能に恵まれ、時に傲慢に生きていた彼だけれど、自分自身と向き合い、豊かな人間性にさらに磨きを掛けていくのです。苦しい作業だっただろうけれど、彼は体を病気にヤラレたけれど、魂は完全に自分自身の物であり、どこまでも自由人だったのです。どこまでも、自分自身を失わないのですね。
元妻しかいないところに愛人から電話がかかってくるシーンや、90歳を超えた父親とのシーンはどうしようもない切なさを感じました。
しかし、切なさやつらさより彼から感じるものは、いかにもフランスの男の魅力なのです。こんな状況でも美女に興味があり、生牡蠣を一緒に食べまくるシーンを妄想します。実にセクシー。
音楽もすばらしいです。エンドロールがまた、印象的です。崩壊する氷河が、逆に海から立ち上がっていくのです。崩壊するかと思えた彼の魂ですが、見事に逆境から立ち上がり、奇跡的な出版にいたるのです。しかし、彼が出版の10日後に合併症により亡くなっています。容赦ない現実を突きつけられるのでした。


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2 コメント

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頭を垂れるcyazかな~ (cyaz)
2008-04-18 17:39:39
ももママさん、こんにちは^^
TB&コメント、ありがとうございましたm(__)m
こういう映画を観ると、つくづく五体満足でここまで生きて来れたことに感謝の念を抱きます。 必然的に神社仏閣の前では頭を垂れる角度が深くなってきました(笑) やっぱ年ですね~
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尊敬します (ももママ)
2008-04-19 00:02:30
一文字、一文字を瞬きで伝えながら本を出版したジャン=ドーは、尊敬に値しますね。もし、身体がここまでだめになっても人間であることは変わりないという一筋の光明を与えてくれた人です。私も頭をたれます・・・。
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