エリザベス・テイラー ハリウッドの宝石箱

絶世の美女で恋多き女、ハリウッドを代表する大女優・リズの波乱に満ちた半生をたどる。

2003年 アメリカ　ドキュメンタリー
2005年5月23日　VTR(ＷＯＷＯＷ)
監督　ケヴィン・バーンズ
出演　エリザベス・テイラー、マーガレット・オブライエン、シャリー・マクレーン

2度のアカデミー賞受賞と7回も繰り返した結婚と離婚。相手はハリウッドの俳優や大富豪ばかりである。かと思うと、エイズ撲滅運動に尽力したり、香水をプロデュースしてヒットさせる人でもある。華麗な映像の合間に、彼女自身や親しい俳優たちが思い出を語る。
ゴージャスでセクシーな恋多き大女優・リズ。リズと比べたら叶姉妹なんて全く小さい。彼女たちが大きいのは胸だけ・・・と思った。

リズはイギリスから戦火を逃れてアメリカに渡り、古美術商で成功した父親と元女優の母親に育てられ、生まれながらにして抜群の美貌の持ち主という恵まれた人である。デビューは低予算映画の脇役だったが、ＭＧＭと契約、他の映画会社にも貸し出されて次々と出演する。「若草物語」が印象に残るけれど、役柄のエイミーそのものの、おしゃまな少女だったと言う。しかし同年代の友達と過ごす時間もなく、会社と親に束縛された生活に嫌気がさした彼女は独立をもくろむ。それが50年、18歳でのホテル王の息子、コンラッド・ヒルトン・ジュニアとの結婚である。写真を見ると、いかにも王子様とお姫様の結婚である。また、保守的な家庭に育った彼女は結婚以外に男性と親しくなることはできなかったと言うのもうなずける。アメリカの一般家庭は意外に保守的だったのではないか？
しかし、性的に未熟な花嫁に物足りなかった彼とは1年と経たずに離婚。52年に撮影で知り合った年上で落ち着いたマイケル・ワイルディングと再婚。二人の息子を儲ける。その頃の映像は実に幸せそうである。しかし、妻だけが有名になっていく中で夫婦間は破綻して57年に離婚。3日後にプロデューサーのマイケル・トッドと再婚している。
彼は大胆な性格で、仕事振りもリスクを恐れず「80日世界一周」などを成功させていた。人気女優との付き合いに、気後れするようなタイプではなかったと言う。彼女の好む下品なジョークが好きで、息がぴったり合っていたらしい。写真を見ても、今までの二人と違って豪快な印象である。

リズはこの時点で、プライベートは既に大変なあわただしさ。しかも女優としての仕事も精力的にこなしている。美貌は出産や離婚・再婚でやつれず、女性としてますます輝いていることが分かる。人当たりが良くて子ども好き、主婦として家庭をきりもりしていく才能もあるらしい。その辺はハデハデなイメージとは裏腹な一面もあり、下品なジョークが好みと言うのも、優等生でなくて逆に好感が持てる。

しかし、こんな幸せな時間は短い。トッドは58年に飛行機事故で悲惨な最期を遂げる。リズの悲しみは大きく、周囲は彼女が自殺するのではないかと心配したと言う。落ち込んでいた彼女をトッドの親友である歌手のエディ・フィッシャーが励ましているうちに、二人は親密に。しかし問題は、彼がデビー・レイノルズと結婚していたことである。悲劇の未亡人として国民の同情を一身に受けていたリズは、一転して「他人の夫を取る悪女」という批判を浴びることになる。59年には批判を浴びながら再婚している。ＭＧＭ側はこの悪評を逆に利用して「バタフィールド８」という映画を企画し、リズは娼婦役を演じる事になる。エディを出演させることを条件にいやいや出演を承諾したが、なんとこの映画で初のオスカーを手にすることになる。人生って分からないもの。しかし、私が感じるのはリズが本当のプロだということ。いやいやの出演でも、プロの女優として手を抜かなかったのだろう。人生の機微を学んだ彼女が、ただの美人女優から本物の演技派に成長できた陰には、大変な苦労と努力があると思う。
このころ、やっとＭＧＭとの長きに渡る契約が切れて、晴れて彼女は自由に映画を選べる事になった。多分、収入もぐんとアップしたのだろう。ＭＧＭの奴隷生活とまで、批判するリズである。

その頃「クレオパトラ」出演のオファーが来る。初稿脚本は良くなかったとのことで、断ってくると予想して、とんでもない高額な出演料を吹っかけるリズ。しかし、ＦＯＸはその条件でＯＫ。イギリスで撮影が開始される。しかし、気候が合わず無理を重ねたリズはついにダウン。生死の境をさまよう。しかしなんとか回復し、肺炎の症状があるまま、帰国した飛行機から車椅子で移動するリズの姿が貴重な映像としてみることができる。重傷患者でも十分に美しい。国民はリズの生還を喜んだと言う。リズが回復するのを待ち、「クレオパトラ」は配役を変えて今度は温暖なイタリアで撮影される。大金をつぎ込んだ大スペクタクルだが「駄作」とも言われているこの作品は、しかし興行的にはなんとか成功。この映画では、浮名を流していたリチャード・バートンと競演して親しくなったのが一番の収穫である。当時の彼はもちろん妻子持ちで二人の関係は大スキャンダルだが、もう大女優は世間の目など恐れない。主演俳優・女優の不倫が公になっている中、何千人ものイタリア人（カソリックが多く、不倫には批判的）エキストラを使った撮影では、「リズ暗殺」を恐れた会社側が護衛さえつけたと言う。しかし、ローマ法王が公に非難したリズより、彼らは美貌の恋多き女優を選んだ。「クレオパトラ！」と叫ぶはずの群衆は「リズ！」と叫んだそうである。リズが法王に勝ったと言われる所以である。感動
こんな中、バートンもリズもお互いに離婚して、64年にリズの離婚の9日後に二人は一緒になっている。この後、大物二人は数々の共演を果たし、「バージニアウルフなんか恐くない」では二度目のオスカーを手にしている。美しさも演技も乗りに乗っている時期である。バートンは病的なほどリズにプレゼントを贈り、有名な宝石を買いあさったという。豪華なプレゼントを愛の証として受け取るリズ。宝石や毛皮でさらにゴージャスに着飾ったリズがハンサムなバートンと並んで立つと、ハリウッドそのものである。人前でも夫婦喧嘩をはばからなかった二人は、激しい情熱をぶつけ合ったベストカップルにも見える。
しかし、バートンは前妻に対する後ろめたさから飲酒に走り、リズもこの悪癖に染まってしまう。若いときに痛めた背骨の痛み止めのためなのか薬物にもハマり、ゴージャスな外見の内側には心を病んだ二人がいたようである。74年いよいよ深刻になった夫婦生活はピリオドを打ち、翌年よりを戻して再婚するがわずか10ヶ月で破綻。もう、二人ともぼろぼろである。

76年に上院議員ジョン・ワーナーと結婚するが政治に没頭する彼に、寂しい生活を強いられたリズはこれも耐えられず離婚。飲酒や薬物依存症になっていた彼女は立ち直るための施設に2回も入っている。一般の人と一緒に掃除当番などもする姿があったという。2回目の入院で知り合った作業員ラリー・フォーテンスキーと再婚するが、この二人の共通は元依存者ということくらい。あまりに違いのある二人は上手く行くはずもなく破局して、リズの結婚・離婚暦は通算7回となっている。

寂しさから飲酒・過食に走って、すっかり美貌が衰えた時期もあったが、強靭な精神力でダイエットに成功。美貌を取り戻している。
親友だったロック・ハドソンがエイズで亡くなったことからか、エイズ撲滅キャンペーンに精力的に取り組み、60代になって他の人が引退を考える時期になってから香水のプロデュースを成功させるという見事な生き様である。

この映画ではリズにとって都合の悪いことは、あまり取り上げていないのかもしれないと思う。しかし、人並みはずれた美貌の持ち主が、親しい人の死や大病という過酷な試練と戦いながら、女優という仕事にプロとして徹底して取り組み、人間として率直に生きてきたことを感じた。リズ万歳！