曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・つなちゃん(26)

2013年03月17日 | 連載小説
《大学時代に出会った、或る大酒呑みの男の小説》
 
 
(26)
 
 
作業内容こそ単純だが、プレス棟にはさまざまな危険が溢れていた。
まずはプレス機。プレスをかけるときには高圧電流を流すので、うっかり触れば大やけどで、ヘタをすれば電気ショックで死んでしまうことにもなりかねない。実際プレスをかけているときに蛍光灯を機械に寄せると点灯するほどだ。
そして糊付け機。これは糊を固めないために常にローラーが動いているので、手でも巻き込まれたらひとたまりもない。昼前と終業前に機械を洗うのだが、ローラーは水をかけながらブラシを当てて汚れを落とす。ごくまれにうっかりブラシが巻き込まれてしまい、ローラーにはさまれてとんでもなく変形してしまう。これが手だったらと思うと、ゾッとしてしまう。
工場内はいろいろ置いてあるので決して広いとは言えないのだが、そこをフォークリフトが走る。重い物を持ち上げても大丈夫なように設計してあるフォークリフトは、もし轢かれるなら乗用車の方がマシだろうなと思えるくらい重量感のあるものだ。
ベニヤを切る大型の電動ノコギリはコンセントをはずしておくのだが、使用した人がスイッチだけ切ってコンセントをはずし忘れていることが時おりあった。うっかりスイッチを入れてしまったら大惨事になりかねない。
さらには積まれているベニヤ板や凝固液の詰まっているタンク、在庫の束などもバカにできない。突風やフォークリフトの接触などで倒れてきたら、間違いなく圧死だ。
それらの危険に加え、ぼくは配送も担当していたのでトラックの運転という危険もあった。車は2トンロングと1、25トンの2つで、もちろん大きいロングも怖いのだが、中途半端な1、25トン車が意外にも怖かった。バランスが悪いからか、ちょっとの段差でもかなり跳ねるのだ。本社や在庫置き場に行くにはどうしても街道や国道を通らねばならず、流れに合わせるように多少スピードを上げなければならない。そんなときに道路の穴やキャッツアイなど踏むと、まるでバウンドするかのようなのだ。ぼくは舌など噛まないように、グッと口を結んで運転していた。
こんなにも危険に溢れた職場だが、働いている当時はそんな実感がなかった。けっこう平日の夜も酒を呑み、二日酔いで出勤したことも多かった。