曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・つなちゃん(20)

2013年03月07日 | 連載小説
《大学時代に出会った、或る大酒呑みの男の小説》
 
 
(20)
 
 
菊花賞の日は馬券を買ったらすぐに引き返したので、当たり馬券は手元に残っていた。
その当時のJRAの番組編成、秋のG1時は天皇賞→菊花賞→エリザベス女王杯→マイルCS→ジャパンカップというカタチ。競馬に興味なかったぼくでもエリザベス女王杯は名前を知ってるレースで、払戻しついでに行ってみようと考えていた。ところが、河瀬のバンドメンバーでぼくとも友達だった飯野が一週延ばせと言ってきた。彼も競馬を始めたばかりで、府中に行ってみないかと言うのだ。せっかくの誘いなので飯野の都合に合わせ、ぼくはエリザベス女王杯を見送ることにした。なに、一週くらい見送ったって、当時の馬券の払い戻し期限は太っ腹の一年間なのだ。
マイルCSの日は雨の降る日で寒かった。せっかく競馬場に来たというのに、ぼくたちは実際のレースは観ず、スタンド内でモニター観戦していた。
東京メインのアルゼンチン共和国杯はガチガチの本命馬券でカスりもしなかったが、マイルCSが一点で的中。サッカーボーイがぶっちぎって後方からホクトヘリオスが追い込み、枠連で千円弱と、実績上位馬の組み合わせにしては意外な高配当。それもこれも人気を集めた逃げ馬ミスターボーイが凡走してくれたからだ。ぼくはさらに財布を膨らませて府中をあとにした。
その日は車で来ていたので地元に戻って車を置いて、呑みに出た。飯野が一緒だったので河瀬は誘ったがつなちゃんは誘わなかった。
調子付いたぼくは、飯野と一緒に翌週のジャパンカップも行くことに決めたのだが、その週中、本社のシマさんがぼくの的中話を聞きつけて連絡してきた。土曜の晩にジャパンカップの前夜祭をやろうというのだ。シマさんは第1回のジャパンカップから観ている、長年の競馬ファンだった。
土曜の晩に集まったのはシマさん、ぼく、河瀬、つなちゃんだった。場所はいつも行っている団地のそばの居酒屋。シマさんは河瀬やつなちゃんと同じ市内在住なので、都合がいいのだ。
帰りも楽となればトコトンコースで、結局ぼくが家に帰りついたときは秋も深まっているというのに空が少々明るくなっていた。ちょっと眠って飯野と府中に向かったが、まったくもってヨレヨレだった。車が運転できるはずもなく、当然電車。立川から南武線がとっても長く感じた。
ぽかぽか陽気で4コーナーの芝生に持参したマットを敷いたが、しばらくは馬券も買わずに横になっていた。その日、黒のGパンを履いていたことを覚えている。11月最終日曜日だというのに、黒い服装で失敗したと思うくらい日差しが強かったからだ。