1998年6月,記念すべきワールドカップ本大会初戦,
アルゼンチン-日本戦を日本中が固唾をのんで見守っていたころ
ボクはデトロイト郊外の安ホテルでクロアチア-ジャマイカ戦を見ていた.
ボクが滞在していた安ホテルはESPN2が受信できなかった.
デトロイトには仕事で3週間ほど滞在した.
一人での滞在だった.
一人で過ごすデトロイトの週末は凄く暇である.
デトロイトで行くところといえば,フォードミュージアムくらい.
とうぜん最初の週末の土曜日に出かけた.
日曜日は車で1時間くらいのところにあるなんとかという名前のNational Parkと
近所のショッピングモールに.
2週目の週末は既にもうすることがない.いくところがない.
7年も前でもう名前を覚えていないが,向こうで一緒に働いた計測装置の会社の人
がそんな状況を察してくれたのか,「暇だったらウチに遊びに来ないか?」
と,誘ってくれた.
彼の家はミシガンの西の湖のほとりにあった.
デトロイトから1時間30分くらいのドライブだった.
ボクが訪ねると,彼はちょっと脚を引きずりながら迎えてくれた.
「午前中にアイスホッケーの試合で打撲しちゃったんだよ」
照れながら彼は笑った.
それから彼の"おもちゃ"の数々を見た.
バイク,レストア中のMG-B,スノーモービル.
モーターボートは現在修理中.
地下の工作室でボクはボートのシートの皮を張りなおす作業を手伝った.
作業の手を休めてビールを飲みながら,ニッコリと子供のような笑顔で彼は言った.
"I refuse to grow up since I was eighteen."
たしかそんな感じの言葉だったと思う.
ボートのシート修理が終わった後,大学で航空宇宙工学を学んでいるという
娘さんとボーイフレンドの写真を見せながら,嬉しそうに娘さんの話をしてくれた.
18歳のまま27年間を過ごした"青年"の優しい父親の顔がそこにあった.
ボクもそんな風に歳をとりたいと思った.
年齢を重ねるとともに覚えてしまうもの, 忘れてしまうもの.
"要領"とひきかえの"ひたむきさ"
"常識"とひきかえの"創造性"
"分別"とひきかえの"情熱"
ボクは今何歳だろう.