つれづれなるまま(小浜正子ブログ)

カリフォルニアから東京に戻り、「カリフォルニアへたれ日記」を改称しました。

iPad2

2011-06-10 17:45:28 | 日記

数日前、腎臓を売ってiPad2を買った中国の高校生のことがニュースに出ていた。私は日本のニュースサイトで見たのだけれど、こちらのワイドショーでも、「臓器売買がまかり通る人権無視の国」というお決まりの中国批判の話題として取り上げられていたらしい。臓器密買人から3300ドル余(中国元でおそらく2万元)を受け取って、iPad2とパソコンなどを買ったという。
この話は、世界市場を席捲する多国籍資本の魅力的な新製品と、臓器売買が横行する医療の商業化と、中国の内外での経済格差、等々が交叉する、現在の世界を象徴する事件で、いろいろ考えてしまった。
何を隠そう、私も買ったのだ、iPad2!
ふだんはこういうものにあまり興味のない私だが、サバティカルなのだもの、いろいろ新しいコトを試みなくては。ブログだけでなくfacebookも始めたし、twitterもしっかり見てるもんね(あまり呟かないけど)。iPad2だってやってみよう、と。
で、これが予想以上に面白い! eBookを読もうという当初の期待ははずれたが、メールやtwitterを見たり写真を撮ったり、うれしいのは画面と音質が予想以上で、YouTubeでナツメロを探して聞いたりすると、もう楽しい! もっともっと色々遊べるはずで、高校生が狂うほどに欲しくなるのは、わかる。
とはいえ500ドル以上という世界共通価格は、安くはない。それでもアメリカや日本の高校生なら、その気になってひと夏アルバイトをすれば何とかなる金額ではある(アメリカや日本でも、iPad2どころではない貧しい子供の増加は大問題だが)。
しかし、いくら中国が世界第二の経済大国になっても、一部の富裕層を除く中国の若者にとっては、これはまだ手の届かない値段だ。想像するに、この高校生は、貧しい農村の若者というよりは、都市の中流家庭の子供だろう(こういう世界商品は、いちおう衣食足りて、もっとすてきな暮らしをしたい人々に、それが出来るという幻想を与える小道具なのだ)。iPad2という具体的なモノは、それに手が届くと届かないとの落差を見せつける。それがまだ見ぬ豊かな外国のモノというよりは、隣の金持ちの高校生は持っている、という形でリアルになってしまうのが、格差のはげしい中国社会だ。
そしてその不条理を超える方法として、臓器を売ることが可能な、今の世の中の恐ろしさ! もちろん大人の眼からは、片方の腎臓と共に失う将来の可能性の大きさは、とてもiPad2とは比べられない。バカな若者に違いないが、若者は何時の世もバカに決まっている。
メディカルツーリズムと結びついた臓器売買は、現在世界の大きな問題だ。生き残りのために収益を追求せざるをえない昨今の中国の病院は、国内外の富裕層を顧客に臓器移植を手がける。彼の売った腎臓は、数百万円の手術料を払った腎臓病の日本人に移植されたのかもしれない。豊かなアメリカや日本は、人ごとのように「人権無視の中国」を批判できない。
iPad2という「酷!(中国語でcool!-カッコイイ、の意)」なモノに憧れる若者を食い物にする多国籍資本と商業化する医療。背景としての世界的中国内的経済格差。なんとも、現在世界の矛盾が凝縮したような事件で、そうした事件が渦巻いているのが今の中国だ。
この話は、高校生の母親がiPad2を持っているのを不審に思い、お腹の手術痕を見つけて問い糾して発覚したという。母親の絶望を思うと、心が痛い。