ねこやま

徒然備忘録

純平、考え直せ / 奥田英朗

2011-11-27 09:58:22 | 奥田英朗
抜粋

坂本純平、21歳。埼玉県東松山市出身。
新宿・歌舞伎町のチンピラにしてみんなの人気者。
心酔する兄貴分の命令は何でも聞くし、しゃべり方の真似もする。
女はちょっと苦手だが、困っている人を見るとほうっておけない。
そんなアナクロな純平が組長から受けた指令、それは鉄砲玉(暗殺)。

決行までの三日間、自由時間を与えられた純平は
羽を伸ばし、さまざまな人たちと出会う。
しかしその間、携帯サイトではなんと「純平」に関するスレッドが立ち、
ふらちな書き込み合戦が白熱していく──。



























電車のドアに貼り付けられた広告が出会い。
お、奥田さんの新刊が出たんだ!
と思い早速予約すると何百件待ちと出た。
だから、半年ぐらい待たされてようやく手元に来た一冊。
それなりの期待もしただけに、評価はいっこ少ない。
そこそこ面白かったけど、読後感の物悲しさはララピポを思い出させた。
あれほどぶっとんだ内容ではないとは思うけど。
笑える内容かといったら、全然違うし。

ヤクザの鉄砲玉といえば・・・
最近ランナウェイというドラマを見ている。
無実の罪で服役中の1人アタルが、一緒の房のじいさんから
脱獄できる可能性の高いルートを教えてもらう。
しかしそのルートを使うには助けが必要だ。
その話を聞いていた輩が3人いた。
そのうち1人が娑婆で運び屋をやっていた時のヤバい金を
一緒に掘り出すことを条件に山分けしようと持ちかける。
逃亡後は金が要る。
だから自分も仲間に入れてくれといわれる。もう一人はオマケ。
そしてもう一人、柄の悪い男にも聞かれてしまった。
その男はばれたくなかったら俺も仲間に入れろという。
計5人になってしまったが、脱獄が決行される。
じいさんは途中で力尽きて、4人が脱獄成功となった。

4人で逃亡中にたまたま空き巣した家には、女の子がいた。
母親とその彼氏から激しい虐待を受けているその子が
自分が幼い頃にもらった父親からの手紙を頼りに
父親に会いたいから、逃亡する4人に自分もつれていけとせがむ。

こうして4人の脱獄囚とひとりの女の子をお供に逃亡珍道中が始まる。
なんと警察のマヌケな描かれ方か。
逃亡劇のエンターテイメントとして見ないと
あちこちに違和感がありすぎて見ていられない。

そこで冒頭に戻るが
刑務所内で柄の悪い男が一味に加わったというのがヤクザの鉄砲玉だ。
リュウという男が、組を抜ける代わりに鉄砲玉の名乗りをあげた。
服役中だったが、娑婆に残した恋人が彼を待ちきれず
他の人と結婚するという報告を受けていてもたってもいられなくなった。
という設定で脱獄の一味に何が何でもくわわりたくなったといういきさつ。

鉄砲玉(暗殺)とあるが、こういうのって今もあるのかなぁ。
やっぱり世界が違うな。
純平が後半ぶっとんじゃって世界がぐるぐるになった時。
自分の今までの人生が走馬灯のように駆け巡っていた。
それ読んでたら悲しくなった。

途中、街で先生と呼ばれる奇人と出会う。
彼の言葉が一番印象に残った。




人は殺すよりも、殺さるるに難きものなり。
殺すよりも、殺さるるに資格を要するものなり。
願わくは殺されん、殺さるるを得ずば、願わくは、殺さん。
殺さず殺されざるも、猶人たるの甲斐ありや疑わし。

殺し屋よりも、殺される人間のほうが価値が上だということだ。

だってそうだろう。
報復にしろ、戦争を仕掛けるにしろ、価値のない人間を殺してもしょうがない。
君が殺そうとしている人間が、君より隠したの人間だったら、殺す意味がない。
君らの世界は、釣り合いで動いているんだろう

たとえば、さあ殺せ、と大の字になる輩がいるとする。
しかしその輩は、自分に殺されるだけの価値がないことを
知っていてやっているにすぎない。
向こうだって内心、こんな奴を殺してもそうがないと思っている。
それを当人は知っている。
本当に価値のある人間は開き直ったりはしない。
開き直るのはいつも誰からも頼りにされていない価値の低い人間だ。

若者が死を恐れないのは、人生を知らないからである。
知らないのは、ないのと同じだから、惜しいとも思わない。
我が子を抱いた感動も、大業を成しえたよろこびも、
肉親を看取った悲しみも、旧友と語り明かした温かみも、
ろくな経験がないから、今燃え尽きてもいいなどと平気で言う。
まったく若者はおめでたい生き物だ。おまけにやっかいなのは、
渦中にいる者はその価値がわからないということだ。
健康の価値は病気にならないとわからないのと同様、
若さの価値は歳をとらないとわからない。まこと神様は意地が悪い。





先生の長セリフ。
>さあ殺せ、と大の字になる輩がいるとする。
この言葉で純平は、これは俺のことだ。
と自分の行動を思い起こしていた。
俺は価値の低い人間なのか。
信頼していた兄貴の裏の顔。
真実を突き止めたくても勇気がない自分。
そして今、鉄砲玉として役目を果たそうとしているけれど
それは誰のためだったんだ?
俺は俺の為にやるんだといいきかせるが
なんだかからまわりしていて虚しい。
ただ、誰かの役に立ちたい、誰かの為になりたい。
そう思っているのがすごく伝わってくるだけに、むなしい。














物語は唐突に終わる。
あっけなく。
あのラストに腑に落ちない人はわりと多いと思われる。
というのはわたしがその一人だからだけれど。
いったいどうしたいんだ?
どっちなの、と思いながら先をすすめていたのに肩透かしをくらった感じ。
つまらないなぁ、とまでは思ってなかったけど、期待はずれ。
掲示板の無責任な発言にはただ腹が立った。
掲示板を物語りに絡めた理由は最近のワカモノ像を入れたかったのかな。
発言は不愉快なものが多くて、沖縄に関する発言なんてかなり過激だった。
おーこわ。













鉄砲玉は暗殺することだけど、
自分の指紋がついた証拠品をもって出頭するやつも鉄砲玉っていうのかな。
それは身代わり出頭?
でも懲役くらうっていうのは、同じだよな。


2011.11.26


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