日本の財政危機をめぐる虚実/
本当に危機的なのか?
THE PAGE 7月10日(水)12時23分配信
今年の秋にはいよいよ消費増税の最終判断が行われる。
消費増税に関する法律には景気条項がついているとはいえ、
基本的に来年4月からの引き上げはほぼ規定路線となっている。
その最大の理由は限界まで来たといわれる日本の財政問題である。
日本の公的債務は計算方法にもよるが、
ほぼ1,000兆円の水準に達しており、
公的債務のGDP比は200%を超えている。
これは国際的にも突出した数字であり、
このままでは日本の財政は破綻してしまうといわれている。
これが消費税を増税する最大の理由である。
一方、日本の公的債務のリスクが強調されるのは
増税を主導したい財務省の意向が強く反映されており、
世界最大の債権国である日本は、
それほど公的債務を気にする必要はないとの見解もある。
果たして日本の公的債務は本当に危機的な水準にあるのだろうか?
図1 政府債務のGDP比率
グロスとネットは違うと言われるが・・・
日本の公的債務を国際比較すると確かにその高さは突出している。
図1は主要国にギリシャとスペインを加えた8カ国における
政府債務のGDP比を比較したものである(2012年)。
日本は238%とダントツのトップで、
債務問題で破綻の瀬戸際にあったギリシャよりもはるかに高い。
主要国は総じて100%程度であることから日本はほぼ2倍の水準である。
一方この数値はグロス(負債総額)であり、
ネット(負債総額から資産を差し引いた純負債)で比較すべきだという議論もある。
図1の右側はネットで比較したものである。
確かに日本の政府債務GDP比率は134%と大幅に低下し、
順位もギリシャと逆転している。
だが主要国との比較という意味ではあまり状況は変わっていない。
政府が保有する資産の多くはあまり価値がない
また政府が保有する資産についての解釈も様々だ。
政府は現在、600兆円ほどの資産を保有している。
主な内訳は有価証券が100兆円、
独立行政法人などへの貸付金が140兆円、
年金積立金110兆円、固定資産180兆円などである。
このうち有価証券の多くは米国債であり流動性も高く資産としては問題ない。
だがそれ以外は必ずしも優良な資産とはいえないものも多い。
年金積立金は年金加入者のお金であり、
そもそも政府債務と相殺できるものではない。
また貸付金も半分が地方公共団体向けであり、
残りも多くが独立行政法人向けである。
貸し付けの種類によっては、回収が困難であることが予想される。
固定資産の多くは道路や堤防、港湾などであり、
収益性のある資産ではない。
むやみにグロスの債務残高を強調するのは問題だが、
現実に負債から差し引くことができる資産が乏しいのも事実である。
後述するが、公的債務問題を財政破綻のリスクと考えるか、
金融危機のリスクと捉えるのかで考え方も大きく変わってくる。
金融危機のリスクと考える場合には、
ネットかグロスかという議論はほとんど意味をなさない。
歴史的には太平洋戦争時に匹敵する水準
一方、公的債務は国際的な比較(横方向の比較)よりも、
時系列的な変化(縦方向の比較)が重要であるとの考え方もある。
国際的に見て債務比率が高くても、
増加幅が緩やかであればそれほど心配する必要はないと解釈することも可能だ。
図2は明治時代から現在までの120年間にわたる
超長期的な政府債務のGDP比推移を示したチャートである。
これを見ると、GDP比が200%という現在の政府債務水準は
歴史的に見ても極めて高い水準であることが分かる。
唯一の例外が、太平洋戦争の終了時で、
日本政府が事実上破綻した1945年前後である。
太平洋戦争では、国家予算(一般会計)の70倍という途方もない金額が投じられた。
戦費のほとんどは日銀による国債の直接引き受けで賄われたため、
日本は終戦と同時にハイパーインフレになった
(ちなみに米国は日本の2倍の戦費をかけたが、
国家予算の30倍で収まっている)。
単純比較は危険だが、現在の日本は、
経済が完全に破綻した終戦当時に迫る債務比率なのである。
ちなみに政府債務が増大するという傾向は米国も同じで、
やはり第二次対戦当時の水準に近付いている。
だがその割合は100%程度であり、日本の半分以下である。
しかも米国は財政再建をすでに開始しているので、
今後は政府債務比率の低下が見込まれている。
日本と比較すると状況はかなりよい。
財政破綻リスクなのか金融危機のリスクなのか?
公的債務の議論では、日本の国債保有者の多くが
日本人なので基本的に問題ないという見解も聞かれる。
この点については、公的債務問題が財政破綻のリスクを警戒してのものなのか、
金融危機のリスクを警戒してのものなのかで大きく変わってくる。
現実問題として、日本の公的債務がさらに増大したからといって、
ただちに日本が財政破綻を引き起こす可能性は極めて低い。
市場関係者の中で、直接的な財政破綻のリスクを気にしている人は
ほとんどいないだろう。
国際的に日本の財政が危険であると「認識」され、
債権市場で日本国債が売却されるリスクを市場関係者は気にしているのである。
国債の現物は日本人が保有しているとしても、
先物市場には外国人投資家が多数参加している。
また新発の短期債に限って言えば、
外国人の保有比率は20%に達しようとしている。
ヘッジファンドなどが先物市場で売りを仕掛け、
現物保有者の一部がこれに追随すれば、
国債の価格をあっという間に下落させることができる。
これだけで日本経済を破綻させることはできないが、
国債価格の下落は金融機関にとって大打撃となり、
金融市場は混乱するだろう。
市場関係者の多くが口にする公的債務リスクとは
このことを指しているのだ。
増税ではなく経済成長が何よりの処方箋
整理すると、問題なのは公的債務そのものではなく、
公的債務リスクが存在すると市場から「認識」されることである。
その意味で、国際比較や時系列比較で
突出した水準にあることはマイナスに作用する。
やはり財政再建は日本にとって
避けて通ることができない課題のようである。
では、次々と増税を繰り返す以外に、
財政再建を実現する方法はないのだろうか?
それについては、財政再建の成功例として
よく引き合いに出されるカナダの事例が参考になる(図3)。
カナダでは1990年前半に政府債務のGPD比が100%を超え、
財政再建を決断した。
だが緊縮財政で景気に悪影響を与えないよう、
成長率がプラスになるタイミングを見計らって、
支出の抑制を断行した。
90年代後半には財政収支がプラスに転じ、
その後はみるみるうちに政府債務比率が減少した
(図中のオレンジの矢印)。
高齢化が進み、極めて重い社会保障負担に苦しむ日本と
単純に比較することはできないかもしれない。
だがカナダの事例は、財政再建を実現するには、
順調な経済成長が何よりも重要であることを示している。
日本でもバブル崩壊以後、唯一、
高い経済成長を実現していた2005年から2007年にかけては
一時的に公的債務比率の増加が止まっている(図2の赤丸)。
この事実は、今後の財政再建を考える上で、
非常に有益な示唆を与えてくれる。
(The Capital Tribune Japan)
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本当に危機的なのか?
THE PAGE 7月10日(水)12時23分配信
今年の秋にはいよいよ消費増税の最終判断が行われる。
消費増税に関する法律には景気条項がついているとはいえ、
基本的に来年4月からの引き上げはほぼ規定路線となっている。
その最大の理由は限界まで来たといわれる日本の財政問題である。
日本の公的債務は計算方法にもよるが、
ほぼ1,000兆円の水準に達しており、
公的債務のGDP比は200%を超えている。
これは国際的にも突出した数字であり、
このままでは日本の財政は破綻してしまうといわれている。
これが消費税を増税する最大の理由である。
一方、日本の公的債務のリスクが強調されるのは
増税を主導したい財務省の意向が強く反映されており、
世界最大の債権国である日本は、
それほど公的債務を気にする必要はないとの見解もある。
果たして日本の公的債務は本当に危機的な水準にあるのだろうか?
図1 政府債務のGDP比率
グロスとネットは違うと言われるが・・・
日本の公的債務を国際比較すると確かにその高さは突出している。
図1は主要国にギリシャとスペインを加えた8カ国における
政府債務のGDP比を比較したものである(2012年)。
日本は238%とダントツのトップで、
債務問題で破綻の瀬戸際にあったギリシャよりもはるかに高い。
主要国は総じて100%程度であることから日本はほぼ2倍の水準である。
一方この数値はグロス(負債総額)であり、
ネット(負債総額から資産を差し引いた純負債)で比較すべきだという議論もある。
図1の右側はネットで比較したものである。
確かに日本の政府債務GDP比率は134%と大幅に低下し、
順位もギリシャと逆転している。
だが主要国との比較という意味ではあまり状況は変わっていない。
政府が保有する資産の多くはあまり価値がない
また政府が保有する資産についての解釈も様々だ。
政府は現在、600兆円ほどの資産を保有している。
主な内訳は有価証券が100兆円、
独立行政法人などへの貸付金が140兆円、
年金積立金110兆円、固定資産180兆円などである。
このうち有価証券の多くは米国債であり流動性も高く資産としては問題ない。
だがそれ以外は必ずしも優良な資産とはいえないものも多い。
年金積立金は年金加入者のお金であり、
そもそも政府債務と相殺できるものではない。
また貸付金も半分が地方公共団体向けであり、
残りも多くが独立行政法人向けである。
貸し付けの種類によっては、回収が困難であることが予想される。
固定資産の多くは道路や堤防、港湾などであり、
収益性のある資産ではない。
むやみにグロスの債務残高を強調するのは問題だが、
現実に負債から差し引くことができる資産が乏しいのも事実である。
後述するが、公的債務問題を財政破綻のリスクと考えるか、
金融危機のリスクと捉えるのかで考え方も大きく変わってくる。
金融危機のリスクと考える場合には、
ネットかグロスかという議論はほとんど意味をなさない。
歴史的には太平洋戦争時に匹敵する水準
一方、公的債務は国際的な比較(横方向の比較)よりも、
時系列的な変化(縦方向の比較)が重要であるとの考え方もある。
国際的に見て債務比率が高くても、
増加幅が緩やかであればそれほど心配する必要はないと解釈することも可能だ。
図2は明治時代から現在までの120年間にわたる
超長期的な政府債務のGDP比推移を示したチャートである。
これを見ると、GDP比が200%という現在の政府債務水準は
歴史的に見ても極めて高い水準であることが分かる。
唯一の例外が、太平洋戦争の終了時で、
日本政府が事実上破綻した1945年前後である。
太平洋戦争では、国家予算(一般会計)の70倍という途方もない金額が投じられた。
戦費のほとんどは日銀による国債の直接引き受けで賄われたため、
日本は終戦と同時にハイパーインフレになった
(ちなみに米国は日本の2倍の戦費をかけたが、
国家予算の30倍で収まっている)。
単純比較は危険だが、現在の日本は、
経済が完全に破綻した終戦当時に迫る債務比率なのである。
ちなみに政府債務が増大するという傾向は米国も同じで、
やはり第二次対戦当時の水準に近付いている。
だがその割合は100%程度であり、日本の半分以下である。
しかも米国は財政再建をすでに開始しているので、
今後は政府債務比率の低下が見込まれている。
日本と比較すると状況はかなりよい。
財政破綻リスクなのか金融危機のリスクなのか?
公的債務の議論では、日本の国債保有者の多くが
日本人なので基本的に問題ないという見解も聞かれる。
この点については、公的債務問題が財政破綻のリスクを警戒してのものなのか、
金融危機のリスクを警戒してのものなのかで大きく変わってくる。
現実問題として、日本の公的債務がさらに増大したからといって、
ただちに日本が財政破綻を引き起こす可能性は極めて低い。
市場関係者の中で、直接的な財政破綻のリスクを気にしている人は
ほとんどいないだろう。
国際的に日本の財政が危険であると「認識」され、
債権市場で日本国債が売却されるリスクを市場関係者は気にしているのである。
国債の現物は日本人が保有しているとしても、
先物市場には外国人投資家が多数参加している。
また新発の短期債に限って言えば、
外国人の保有比率は20%に達しようとしている。
ヘッジファンドなどが先物市場で売りを仕掛け、
現物保有者の一部がこれに追随すれば、
国債の価格をあっという間に下落させることができる。
これだけで日本経済を破綻させることはできないが、
国債価格の下落は金融機関にとって大打撃となり、
金融市場は混乱するだろう。
市場関係者の多くが口にする公的債務リスクとは
このことを指しているのだ。
増税ではなく経済成長が何よりの処方箋
整理すると、問題なのは公的債務そのものではなく、
公的債務リスクが存在すると市場から「認識」されることである。
その意味で、国際比較や時系列比較で
突出した水準にあることはマイナスに作用する。
やはり財政再建は日本にとって
避けて通ることができない課題のようである。
では、次々と増税を繰り返す以外に、
財政再建を実現する方法はないのだろうか?
それについては、財政再建の成功例として
よく引き合いに出されるカナダの事例が参考になる(図3)。
カナダでは1990年前半に政府債務のGPD比が100%を超え、
財政再建を決断した。
だが緊縮財政で景気に悪影響を与えないよう、
成長率がプラスになるタイミングを見計らって、
支出の抑制を断行した。
90年代後半には財政収支がプラスに転じ、
その後はみるみるうちに政府債務比率が減少した
(図中のオレンジの矢印)。
高齢化が進み、極めて重い社会保障負担に苦しむ日本と
単純に比較することはできないかもしれない。
だがカナダの事例は、財政再建を実現するには、
順調な経済成長が何よりも重要であることを示している。
日本でもバブル崩壊以後、唯一、
高い経済成長を実現していた2005年から2007年にかけては
一時的に公的債務比率の増加が止まっている(図2の赤丸)。
この事実は、今後の財政再建を考える上で、
非常に有益な示唆を与えてくれる。
(The Capital Tribune Japan)
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