「平均勤続年数ランキング」トップ300
長く働き続けられる会社はどこだ?
赤峰 みどり :
東洋経済(『就職四季報』編集長)
2013年06月17日
東京スカイツリーが好調な東武鉄道が2位に入った
自民党の参院選公約に盛り込まれるかが注目された
ブラック企業の社名公表。
かつて「ブラック企業」といえば、
悪質な法令違反や暴力的な取り立てが露呈した
“ありえない”企業を指したが、
今日の見方はそれだけではない。
おそらく自民党では、
その数値的な線引きの基準について相当な議論を重ねたと思われるが、
現代のブラック企業認定が
「働き続けられる会社なのかどうか」を基に判断されているのは間違いない。
口コミに踊らされ、考えなしにブラック呼ばわりすることは避けなければいけないが、
ブラック企業は決してありえない会社だけとは言えなくなっている。
そこで今回は、自分の目で、
働き続けられるかどうかを検証できるデータ「平均勤続年数」に着目して、
『就職四季報2014年版』掲載の1135社から、
「長く働ける」300社を紹介しよう。
「3年後離職率」の代替指標
入社3年後離職率がブラック企業を判定できる指標として注目を浴びて以来、
『就職四季報』調査でも、
公表に神経をとがらせる会社が増えてきている。
離職率がわからないときでも、
だいたいの離職状況がつかめるのが平均勤続年数だ。
平均勤続年数は有価証券報告書で必ず開示しなくてはならない項目なので、
上場企業なら必ずわかる。
『就職四季報』掲載企業の平均は14.7年。
毎年安定して新卒の大卒を採用し、
ほとんど中途採用のない会社なら、
22歳から定年60歳までの38年の半分、
勤続19年程度が「社員がほとんど辞めない会社」の目安となる。
インフラ系強し! 社数は少ないながら上位を占有
最も長く働ける会社に輝いたのはJR四国で、
勤続年数は24年を数える。
昔から長く勤めるには電力・ガスなどのインフラ業界と言われてきたが、
インフラ代表格の鉄道は、
2位の東武鉄道が続きワン・ツー・フィニッシュ。
名古屋鉄道(20位)、京阪電気鉄道(31位)と
3大都市圏の私鉄の雄に、JR東日本(31位)も加わり、
上位50社中1割の5社を占めた。
電力会社もやはり強い。
3位の中国電力をはじめ、対象となっている回答企業7社のうち、
鉄道と同数の5社が50位以内に顔をそろえた。
と来れば、同じエネルギー産業の石油元売り。
同率3位の出光興産は民族系だが、
外資メジャー系でも東燃ゼネラル石油(17位)、
コスモ石油(35位)、昭和シェル石油(45位)と
勤続年数は20年を超える。
小売りでもデパートと大手スーパーは働きやすい
50位内には百貨店も目立つ。
島屋(11位)、阪急阪神百貨店(25位)、
大丸松坂屋百貨店(27位)、そごう・西武(35位)、
三越伊勢丹(50位)と全国区のデパートが肩を並べた後は、
216位の松屋までこのジャンルは登場しない。
80~100位には、イトーヨーカ堂(80位)、ユニー(85位)、
東急ストア(98位)の大手スーパーもランクインした。
勤続年数は3社とも約20年、
ヨーカ堂とユニーの3年後離職率はともに10%前後にとどまる。
一般に小売業の早期離職率はどちらかというと高い部類に入る。
厚生労働省による2009年3月卒の大卒3年後離職率35.8%は、
調査18産業中12位で、全産業平均の28.8%を7ポイント上回っている
(新規大学卒業就職者の産業別離職状況)。
小売りをはじめ、人が休んでいるときが稼ぎどきの飲食業や宿泊、
サービス業は離職率が高くなるが、
デパートと大手スーパーの働きやすさは、
長く培われた福利厚生基盤と、それを背景とした社風の賜物といえる。
激務でも勤続年数は長い、商社と新聞社
103~144位のゾーンには、激務で知られる総合商社のうち、
三井物産(117位)、三菱商事(137位)の2強が入った。
商社といえば起業を志す人が多く、
実際に両社出身の著名な経営者は幾人もいるが、
両社とも大卒入社中心で丸めて勤続19年と、
「社員がほとんど辞めない会社」に当てはまる。
激務といえば、144位に朝日新聞社が登場したことで、
読売新聞社(85位)、毎日新聞社(91位)と、
朝毎読の全国紙3社が150位以内に入ることとなった。
産業経済新聞社も169位、18.5年と勤続年数は長いといえる。
これらと並んで、NTT西日本(108位)、NTTコミュニケーションズ(137位)、
日本郵便(125位)、ゆうちょ銀行(137位)、
中日本高速道路(144位)といった「民営化」企業が同居しているのが興味深い。
同じ業種でも男女の働きやすさには大きな差
男女の勤続年数を比較すると、
女性の活躍推進が課題とされるわが国ゆえ、
女子が男子よりも長く働けるという会社は極めて少数だ。
その中で、100位を超えたところから、
セイコーエプソン(103位)、安川電機(117位)、
リョービ(144位)、日本信号(185位)と、
女子の平均勤続年数が男子のそれを大きく(3年以上)上回っている会社が出てくる。
反対に、鉄道や建設業界においては、男子の勤続年数、
男子従業員比率が女子を大きく上回るのは容易に想像できるが、
同じメーカーでもセイコーエプソンなどとは対照的に、
グンゼ(11位)、キリンビバレッジ(144位)などは、
男子の勤続年数が女子のそれを10年以上も上回る。
男子:女子の従業員比率をみると、セイコーエプソンはおおむね5:1、
安川電機とリョービが8:1、日本信号6:1と、
メーカーの女性従業員比率は商社や金融、
小売りなどの非製造業ほど高くない。
これは男子の勤続年数が高い企業でも同じで、
キリンビバレッジが5.5:1、グンゼは実に25:1である。
新卒女性の採用も少ないため、
一見、働きにくいイメージを受ける会社でも、
実はそうではない会社もある。
その一方で、肌着や飲料というイメージだけで会社を見ていては、
実態を大きく見誤ってしまうこともある。
女性の働きやすさを計るためには、
全体平均だけでなく、必ず男女別に数字を押さえておくべきだ。
男性優位の業界でもJFEとスーパーゼネコンは別
そうした男女差に注目すると、
216位のJFEスチールは女子が男子を5.5年上回るという、
業界では異例の女子の勤続年数の長さを誇る。
新卒採用の男女比は両社でそう変わらないものの、
従業員の男女比率は旧新日本製鐵の20:1に対し、
JFEは4:1で、社内風景はかなり違っていそうだ。
また、建設業界も伝統的に男子従業員のウエ-トが高いが、
竹中工務店(61位)をはじめ、
清水建設(117位)、大成建設(125位)、鹿島(157位)、大林組(216位)の
スーパーゼネコンだけは、全体の勤続年数も長いうえ、
女子も男子に劣らず長く働いていることは注目される。
勤続年数は長ければ長いほどよい?
271位には、よく比較される資生堂と花王が同じ17.7年で並んだ。
両社とも化粧品メーカーのイメージだが、
従業員の男女比は資生堂が1:1、花王が3:1とかなり違う。
勤続年数の男女別も、資生堂がバランス型、
花王は男性主導型といった感じだ。
ところで、ここまで「長く働ける」ことを主眼にランキングを見てきたが、
勤続年数は長ければ長いほどよいのだろうか。
大卒中心ならば19年で「辞めない会社」だとしたが、
トップの四国旅客鉄道は高卒等も含むとはいえ、
この基準を5年も上回る。
19年の根拠には、「毎年安定的に採用を続けていれば」という条件もついている。
上がつかえていて若年層を採らなければ、
勤続年数は長くなり平均年齢は上がる一方だ。
実際に上位企業でも、
持ち株会社ベースのため参考値扱いだが、
再編を経た学研ホールディングス(7位)や、
まだAV不振の爪あと深いパナソニック(11位)、
そして楽天などが第三者割当増資を共同で引き受ける方針が報じられた出版取次の大阪屋(7位)など、
経営の不安定さの背景に新陳代謝の悪さもあったとみられる会社も散見される。
いわゆるブラック企業ではないにしても、
経営が立ちゆかなくなれば辞めざるをえなくなることもある。
会社は皆同じではないし、「ブラック」「非ブラック」などと
なかなか線引きできるものではない。
「長く働ける会社」かどうかは、他人の判定に頼らず、
やはり自分の目で判断しなければならないのだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/14322より
長く働き続けられる会社はどこだ?
赤峰 みどり :
東洋経済(『就職四季報』編集長)
2013年06月17日
東京スカイツリーが好調な東武鉄道が2位に入った
自民党の参院選公約に盛り込まれるかが注目された
ブラック企業の社名公表。
かつて「ブラック企業」といえば、
悪質な法令違反や暴力的な取り立てが露呈した
“ありえない”企業を指したが、
今日の見方はそれだけではない。
おそらく自民党では、
その数値的な線引きの基準について相当な議論を重ねたと思われるが、
現代のブラック企業認定が
「働き続けられる会社なのかどうか」を基に判断されているのは間違いない。
口コミに踊らされ、考えなしにブラック呼ばわりすることは避けなければいけないが、
ブラック企業は決してありえない会社だけとは言えなくなっている。
そこで今回は、自分の目で、
働き続けられるかどうかを検証できるデータ「平均勤続年数」に着目して、
『就職四季報2014年版』掲載の1135社から、
「長く働ける」300社を紹介しよう。
「3年後離職率」の代替指標
入社3年後離職率がブラック企業を判定できる指標として注目を浴びて以来、
『就職四季報』調査でも、
公表に神経をとがらせる会社が増えてきている。
離職率がわからないときでも、
だいたいの離職状況がつかめるのが平均勤続年数だ。
平均勤続年数は有価証券報告書で必ず開示しなくてはならない項目なので、
上場企業なら必ずわかる。
『就職四季報』掲載企業の平均は14.7年。
毎年安定して新卒の大卒を採用し、
ほとんど中途採用のない会社なら、
22歳から定年60歳までの38年の半分、
勤続19年程度が「社員がほとんど辞めない会社」の目安となる。
インフラ系強し! 社数は少ないながら上位を占有
最も長く働ける会社に輝いたのはJR四国で、
勤続年数は24年を数える。
昔から長く勤めるには電力・ガスなどのインフラ業界と言われてきたが、
インフラ代表格の鉄道は、
2位の東武鉄道が続きワン・ツー・フィニッシュ。
名古屋鉄道(20位)、京阪電気鉄道(31位)と
3大都市圏の私鉄の雄に、JR東日本(31位)も加わり、
上位50社中1割の5社を占めた。
電力会社もやはり強い。
3位の中国電力をはじめ、対象となっている回答企業7社のうち、
鉄道と同数の5社が50位以内に顔をそろえた。
と来れば、同じエネルギー産業の石油元売り。
同率3位の出光興産は民族系だが、
外資メジャー系でも東燃ゼネラル石油(17位)、
コスモ石油(35位)、昭和シェル石油(45位)と
勤続年数は20年を超える。
小売りでもデパートと大手スーパーは働きやすい
50位内には百貨店も目立つ。
島屋(11位)、阪急阪神百貨店(25位)、
大丸松坂屋百貨店(27位)、そごう・西武(35位)、
三越伊勢丹(50位)と全国区のデパートが肩を並べた後は、
216位の松屋までこのジャンルは登場しない。
80~100位には、イトーヨーカ堂(80位)、ユニー(85位)、
東急ストア(98位)の大手スーパーもランクインした。
勤続年数は3社とも約20年、
ヨーカ堂とユニーの3年後離職率はともに10%前後にとどまる。
一般に小売業の早期離職率はどちらかというと高い部類に入る。
厚生労働省による2009年3月卒の大卒3年後離職率35.8%は、
調査18産業中12位で、全産業平均の28.8%を7ポイント上回っている
(新規大学卒業就職者の産業別離職状況)。
小売りをはじめ、人が休んでいるときが稼ぎどきの飲食業や宿泊、
サービス業は離職率が高くなるが、
デパートと大手スーパーの働きやすさは、
長く培われた福利厚生基盤と、それを背景とした社風の賜物といえる。
激務でも勤続年数は長い、商社と新聞社
103~144位のゾーンには、激務で知られる総合商社のうち、
三井物産(117位)、三菱商事(137位)の2強が入った。
商社といえば起業を志す人が多く、
実際に両社出身の著名な経営者は幾人もいるが、
両社とも大卒入社中心で丸めて勤続19年と、
「社員がほとんど辞めない会社」に当てはまる。
激務といえば、144位に朝日新聞社が登場したことで、
読売新聞社(85位)、毎日新聞社(91位)と、
朝毎読の全国紙3社が150位以内に入ることとなった。
産業経済新聞社も169位、18.5年と勤続年数は長いといえる。
これらと並んで、NTT西日本(108位)、NTTコミュニケーションズ(137位)、
日本郵便(125位)、ゆうちょ銀行(137位)、
中日本高速道路(144位)といった「民営化」企業が同居しているのが興味深い。
同じ業種でも男女の働きやすさには大きな差
男女の勤続年数を比較すると、
女性の活躍推進が課題とされるわが国ゆえ、
女子が男子よりも長く働けるという会社は極めて少数だ。
その中で、100位を超えたところから、
セイコーエプソン(103位)、安川電機(117位)、
リョービ(144位)、日本信号(185位)と、
女子の平均勤続年数が男子のそれを大きく(3年以上)上回っている会社が出てくる。
反対に、鉄道や建設業界においては、男子の勤続年数、
男子従業員比率が女子を大きく上回るのは容易に想像できるが、
同じメーカーでもセイコーエプソンなどとは対照的に、
グンゼ(11位)、キリンビバレッジ(144位)などは、
男子の勤続年数が女子のそれを10年以上も上回る。
男子:女子の従業員比率をみると、セイコーエプソンはおおむね5:1、
安川電機とリョービが8:1、日本信号6:1と、
メーカーの女性従業員比率は商社や金融、
小売りなどの非製造業ほど高くない。
これは男子の勤続年数が高い企業でも同じで、
キリンビバレッジが5.5:1、グンゼは実に25:1である。
新卒女性の採用も少ないため、
一見、働きにくいイメージを受ける会社でも、
実はそうではない会社もある。
その一方で、肌着や飲料というイメージだけで会社を見ていては、
実態を大きく見誤ってしまうこともある。
女性の働きやすさを計るためには、
全体平均だけでなく、必ず男女別に数字を押さえておくべきだ。
男性優位の業界でもJFEとスーパーゼネコンは別
そうした男女差に注目すると、
216位のJFEスチールは女子が男子を5.5年上回るという、
業界では異例の女子の勤続年数の長さを誇る。
新卒採用の男女比は両社でそう変わらないものの、
従業員の男女比率は旧新日本製鐵の20:1に対し、
JFEは4:1で、社内風景はかなり違っていそうだ。
また、建設業界も伝統的に男子従業員のウエ-トが高いが、
竹中工務店(61位)をはじめ、
清水建設(117位)、大成建設(125位)、鹿島(157位)、大林組(216位)の
スーパーゼネコンだけは、全体の勤続年数も長いうえ、
女子も男子に劣らず長く働いていることは注目される。
勤続年数は長ければ長いほどよい?
271位には、よく比較される資生堂と花王が同じ17.7年で並んだ。
両社とも化粧品メーカーのイメージだが、
従業員の男女比は資生堂が1:1、花王が3:1とかなり違う。
勤続年数の男女別も、資生堂がバランス型、
花王は男性主導型といった感じだ。
ところで、ここまで「長く働ける」ことを主眼にランキングを見てきたが、
勤続年数は長ければ長いほどよいのだろうか。
大卒中心ならば19年で「辞めない会社」だとしたが、
トップの四国旅客鉄道は高卒等も含むとはいえ、
この基準を5年も上回る。
19年の根拠には、「毎年安定的に採用を続けていれば」という条件もついている。
上がつかえていて若年層を採らなければ、
勤続年数は長くなり平均年齢は上がる一方だ。
実際に上位企業でも、
持ち株会社ベースのため参考値扱いだが、
再編を経た学研ホールディングス(7位)や、
まだAV不振の爪あと深いパナソニック(11位)、
そして楽天などが第三者割当増資を共同で引き受ける方針が報じられた出版取次の大阪屋(7位)など、
経営の不安定さの背景に新陳代謝の悪さもあったとみられる会社も散見される。
いわゆるブラック企業ではないにしても、
経営が立ちゆかなくなれば辞めざるをえなくなることもある。
会社は皆同じではないし、「ブラック」「非ブラック」などと
なかなか線引きできるものではない。
「長く働ける会社」かどうかは、他人の判定に頼らず、
やはり自分の目で判断しなければならないのだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/14322より