ユニクロとしまむら、なぜ明暗が分かれたか
週刊東洋経済
写真:しまむらはショッピングセンターへの出店でおなじみ(撮影:今井康一)
写真:しまむらは多品種、少量の品ぞろえが特徴【写真は2013年11月撮影】(撮影:今井康一)
国内アパレルの「優等生」が陥った停滞局面
「ファッションセンターしまむら」を軸に低価格の
実用・ファッション衣料、寝具などの専門店を展開するのが、
東証1部上場の「しまむら」。
さいたま市に本社を置き、
グループ全体で1,900店弱のネットワークを有しています。
そんな国内有数のアパレル企業が、
近年なかった「停滞局面」に直面しています。
今後、発表となる最新本決算(2015年2月期)の営業利益について、
しまむらは今のところ前年度比9%増の457億円という予想を出していますが、
減益になりそうだとの見方が強まっています。
3月13日に東洋経済が発売した『会社四季報2015年2集』は
同3%減の410億円を独自予想。
3月7日付の日本経済新聞も
同1割弱の減益になりそうだという観測記事を報じました。
●2期連続の営業減益となれば上場来で初
売り上げについては前年度の5029億円よりも増えそうな見込みのようですが、
実際の決算が減益だった場合は、
1988年の上場以来初となる2期連続の営業減益になる可能性が浮上しています。
消費増税後の節約志向の高まりが逆風となり、
日常的に身に着ける肌着や靴下、
そして寝具などが値下げしないと売れない状況となり、
採算が悪化したとの見立てがされています。
10~20代向けのセカンドブランド「アベイル」も
落ち込んでしまったとされています。
国内ファッション業界で、しまむらは、
ファーストリテイリングが展開する「ユニクロ」
(7,156億円、2014年8月期)に次ぐ2番手の売り上げ規模を誇ります。
その次は「洋服の青山」で有名な青山商事(1,857億円、2014年3月期)が
健闘しているものの、ユニクロとしまむらは、抜きん出た存在です。
ユニクロが企画から製造・販売まで一貫して行うSPA型で、
少品種、多量販売としているのに対し、
しまむらはメーカーからの買い取りで品ぞろえするセレクト型で、
多品種、少量販売なのが特徴です。
それ以外にも、しまむらには、たとえば、
商圏世帯数が5,000世帯という小さなマーケットで、
面積300坪の店舗を立ち上げ、3年間で初期コストを回収し、
1店舗あたり3億~3.5億円程度の売り上げを狙うという出店戦略があり、
出店場所が必然的に限定されます。
ロードサイドはもちろん駅ナカ、百貨店の中と人通りが多く、
目につくところに出店しているユニクロとの違いがあります。
しまむらはもともと、1953年に埼玉県で設立。
2000年ごろまでは節約志向の主婦向けのチェーンとして、
ロードサイドを中心に安さを売りにして展開するお店でした。
下着やソックスなどの実用衣料品と呼ばれるものを中心に、
メンズ、レディス商品はもちろん、ベビー、シニア、
フォーマルといったアパレル商品から、
リビング、寝具、レジャー用品にいたるまでの
生活用品を扱っていたことは現在も変わりません。
ある意味でワンストップショッピングができるお店でもあります。
正直なところファッションセンターというわりには、
パッとしないお店だったことをご存知の読者も多いはずです。
転換点は2001年2月期に7期ぶりの減益に陥ったことです。
世界のファッショントレンドを採り入れようという商品展開がスタート。
市況を先読みした本部一括の仕入れ体制の構築や、
全従業員の8割程度を占めるパートタイム社員を生かし切るための業務の標準化、
売れ残り商品の発生を抑えるための在庫調整など、
さまざまな観点で経営改革が進みました。
物流体制や出店方針の見直しなどもなされました。
●10年あまりで売上高は2倍以上に
その後、しまむらの武器である「ローコスト」「低販管費率」
「高回転経営」が確立されていき、成長は加速します。
この10年あまりで売上高は2倍以上に成長。
利益も伸ばしてきました。ところが、ここへきての停滞。
赤字でもなんでもありませんが、
好調を維持しているユニクロと比べてみると
実は明暗が分かれています。
たとえば、2014年3~8月期は、しまむらの既存店売上高は
前年同期比0.9%減、対するユニクロは同1.9%増でした。
2014年9月~2015年2月期でみると、
しまむらの既存店が前年同期比ほぼ横ばいだったのに対し、
ユニクロは同8.4%伸びています。
これはどういうことでしょう。
ことあるたびによく並び称される2社は、
お客が重なっていることが解っているからこそ比較対象とされます。
筆者の知っている限りでも、ユニクロ、
しまむらの両方を回っている人は少なくありません。
では2社の違いはどこにあるのでしょうか。
もっとも大きいのはブランドイメージに差が出てきたことかもしれません。
ユニクロもしまむらも雑誌とのコラボや有名タレント、
モデルを起用しての各種宣伝が頻繁に行われています。
それぞれ見る側の好みはありますが、
近年のユニクロはテニスの錦織圭選手やジョコビッチ選手、
ゴルフのアダム・スコット選手を起用。
世界的デザイナージル・サンダー氏の起用や
ファッションアイコンのイネス・ド・ラ・フレサンジュ氏とのコラボなど、
世界の一流といわれる人と組むことによって認知度を上げ、
商品力を上げ、洗練度を上げてきています。
特にジル・サンダー氏とのコラボ企画などは、
それまでの氏の活躍を知っている業界人からすれば、
あり得ないとしか言いようのないほど衝撃的な出来事でした。
●しまむらは「あか抜けない」
しまむらは、そこまでの洗練されたブランド戦略が見受けられません。
残念ながらお客の多くは、
しまむらがいま一つ追いつけていない、
「あか抜けない」と感じてしまう要因でもあります。
また、今のようなスマートフォン全盛時代への対応にも差があります。
ユニクロは姉妹ブランドの「GU」とともに
モバイル会員システムを持っています。お買い得、
新着などの各種情報が配信され、
店頭に行けば会員のみの割引という特典もあるほか、
オンラインでの買い物にも使用できるため、
忙しいときや近くに店舗がないときに重宝します。
プロモーションやブランディングのほか、
EC(電子商取引)による売り上げの増加にも一役買っています。
一方のしまむらには残念ながら、
モバイル会員システムもECサイトも準備されていません。
小売業を営むうえでしまむらほどの大手企業で
ECサイトですら用意されていないのは、
大きな販売チャンスを逃してしまっている可能性があります。
しまむらの商品戦略の強みは、多品種少量の品揃えです。
最大のメリットとして、同じ品番の商品が1店舗に数枚しかないために、
小さい商圏でもお客の服がかぶりにくいことが挙げられます。
ただ、これが店頭でうまく生かされていません。
店頭では、同じラックの中に違う商品ばかりが掛けられ、
棚の上も違う商品ばかりが畳んで重ねられてしまうという現実を生みます。
視覚的にはバラバラで決してきれいに見える物ではありません。
むしろ、やぼったくさえ見えてしまいます。
その逆の少品種多量のユニクロは、
同じ品番の商品で同じカラーのサイズ違いを大きなかたまりで見せますから、
ラックの中も棚の上も形もカラーもきれいに整理されているように感じ、
買いやすい環境になっています。
以前のように他人と同じものを着ているのが嫌だという、
「ユニかぶり」という言葉も消えてしまった今では、
なおのことユニクロに人が吸い寄せられることになります。
しまむらが、今の特性を生かしたままで店頭商品の見せ方(ディスプレイ)を
大胆に変えることができれば、突破口になりえるかもしれません。
少なくともこれまでどおりでは、
停滞を脱するのは難しいと見ています。
http://dot.asahi.com/toyo/2015031600023.htmlより
週刊東洋経済
写真:しまむらはショッピングセンターへの出店でおなじみ(撮影:今井康一)
写真:しまむらは多品種、少量の品ぞろえが特徴【写真は2013年11月撮影】(撮影:今井康一)
国内アパレルの「優等生」が陥った停滞局面
「ファッションセンターしまむら」を軸に低価格の
実用・ファッション衣料、寝具などの専門店を展開するのが、
東証1部上場の「しまむら」。
さいたま市に本社を置き、
グループ全体で1,900店弱のネットワークを有しています。
そんな国内有数のアパレル企業が、
近年なかった「停滞局面」に直面しています。
今後、発表となる最新本決算(2015年2月期)の営業利益について、
しまむらは今のところ前年度比9%増の457億円という予想を出していますが、
減益になりそうだとの見方が強まっています。
3月13日に東洋経済が発売した『会社四季報2015年2集』は
同3%減の410億円を独自予想。
3月7日付の日本経済新聞も
同1割弱の減益になりそうだという観測記事を報じました。
●2期連続の営業減益となれば上場来で初
売り上げについては前年度の5029億円よりも増えそうな見込みのようですが、
実際の決算が減益だった場合は、
1988年の上場以来初となる2期連続の営業減益になる可能性が浮上しています。
消費増税後の節約志向の高まりが逆風となり、
日常的に身に着ける肌着や靴下、
そして寝具などが値下げしないと売れない状況となり、
採算が悪化したとの見立てがされています。
10~20代向けのセカンドブランド「アベイル」も
落ち込んでしまったとされています。
国内ファッション業界で、しまむらは、
ファーストリテイリングが展開する「ユニクロ」
(7,156億円、2014年8月期)に次ぐ2番手の売り上げ規模を誇ります。
その次は「洋服の青山」で有名な青山商事(1,857億円、2014年3月期)が
健闘しているものの、ユニクロとしまむらは、抜きん出た存在です。
ユニクロが企画から製造・販売まで一貫して行うSPA型で、
少品種、多量販売としているのに対し、
しまむらはメーカーからの買い取りで品ぞろえするセレクト型で、
多品種、少量販売なのが特徴です。
それ以外にも、しまむらには、たとえば、
商圏世帯数が5,000世帯という小さなマーケットで、
面積300坪の店舗を立ち上げ、3年間で初期コストを回収し、
1店舗あたり3億~3.5億円程度の売り上げを狙うという出店戦略があり、
出店場所が必然的に限定されます。
ロードサイドはもちろん駅ナカ、百貨店の中と人通りが多く、
目につくところに出店しているユニクロとの違いがあります。
しまむらはもともと、1953年に埼玉県で設立。
2000年ごろまでは節約志向の主婦向けのチェーンとして、
ロードサイドを中心に安さを売りにして展開するお店でした。
下着やソックスなどの実用衣料品と呼ばれるものを中心に、
メンズ、レディス商品はもちろん、ベビー、シニア、
フォーマルといったアパレル商品から、
リビング、寝具、レジャー用品にいたるまでの
生活用品を扱っていたことは現在も変わりません。
ある意味でワンストップショッピングができるお店でもあります。
正直なところファッションセンターというわりには、
パッとしないお店だったことをご存知の読者も多いはずです。
転換点は2001年2月期に7期ぶりの減益に陥ったことです。
世界のファッショントレンドを採り入れようという商品展開がスタート。
市況を先読みした本部一括の仕入れ体制の構築や、
全従業員の8割程度を占めるパートタイム社員を生かし切るための業務の標準化、
売れ残り商品の発生を抑えるための在庫調整など、
さまざまな観点で経営改革が進みました。
物流体制や出店方針の見直しなどもなされました。
●10年あまりで売上高は2倍以上に
その後、しまむらの武器である「ローコスト」「低販管費率」
「高回転経営」が確立されていき、成長は加速します。
この10年あまりで売上高は2倍以上に成長。
利益も伸ばしてきました。ところが、ここへきての停滞。
赤字でもなんでもありませんが、
好調を維持しているユニクロと比べてみると
実は明暗が分かれています。
たとえば、2014年3~8月期は、しまむらの既存店売上高は
前年同期比0.9%減、対するユニクロは同1.9%増でした。
2014年9月~2015年2月期でみると、
しまむらの既存店が前年同期比ほぼ横ばいだったのに対し、
ユニクロは同8.4%伸びています。
これはどういうことでしょう。
ことあるたびによく並び称される2社は、
お客が重なっていることが解っているからこそ比較対象とされます。
筆者の知っている限りでも、ユニクロ、
しまむらの両方を回っている人は少なくありません。
では2社の違いはどこにあるのでしょうか。
もっとも大きいのはブランドイメージに差が出てきたことかもしれません。
ユニクロもしまむらも雑誌とのコラボや有名タレント、
モデルを起用しての各種宣伝が頻繁に行われています。
それぞれ見る側の好みはありますが、
近年のユニクロはテニスの錦織圭選手やジョコビッチ選手、
ゴルフのアダム・スコット選手を起用。
世界的デザイナージル・サンダー氏の起用や
ファッションアイコンのイネス・ド・ラ・フレサンジュ氏とのコラボなど、
世界の一流といわれる人と組むことによって認知度を上げ、
商品力を上げ、洗練度を上げてきています。
特にジル・サンダー氏とのコラボ企画などは、
それまでの氏の活躍を知っている業界人からすれば、
あり得ないとしか言いようのないほど衝撃的な出来事でした。
●しまむらは「あか抜けない」
しまむらは、そこまでの洗練されたブランド戦略が見受けられません。
残念ながらお客の多くは、
しまむらがいま一つ追いつけていない、
「あか抜けない」と感じてしまう要因でもあります。
また、今のようなスマートフォン全盛時代への対応にも差があります。
ユニクロは姉妹ブランドの「GU」とともに
モバイル会員システムを持っています。お買い得、
新着などの各種情報が配信され、
店頭に行けば会員のみの割引という特典もあるほか、
オンラインでの買い物にも使用できるため、
忙しいときや近くに店舗がないときに重宝します。
プロモーションやブランディングのほか、
EC(電子商取引)による売り上げの増加にも一役買っています。
一方のしまむらには残念ながら、
モバイル会員システムもECサイトも準備されていません。
小売業を営むうえでしまむらほどの大手企業で
ECサイトですら用意されていないのは、
大きな販売チャンスを逃してしまっている可能性があります。
しまむらの商品戦略の強みは、多品種少量の品揃えです。
最大のメリットとして、同じ品番の商品が1店舗に数枚しかないために、
小さい商圏でもお客の服がかぶりにくいことが挙げられます。
ただ、これが店頭でうまく生かされていません。
店頭では、同じラックの中に違う商品ばかりが掛けられ、
棚の上も違う商品ばかりが畳んで重ねられてしまうという現実を生みます。
視覚的にはバラバラで決してきれいに見える物ではありません。
むしろ、やぼったくさえ見えてしまいます。
その逆の少品種多量のユニクロは、
同じ品番の商品で同じカラーのサイズ違いを大きなかたまりで見せますから、
ラックの中も棚の上も形もカラーもきれいに整理されているように感じ、
買いやすい環境になっています。
以前のように他人と同じものを着ているのが嫌だという、
「ユニかぶり」という言葉も消えてしまった今では、
なおのことユニクロに人が吸い寄せられることになります。
しまむらが、今の特性を生かしたままで店頭商品の見せ方(ディスプレイ)を
大胆に変えることができれば、突破口になりえるかもしれません。
少なくともこれまでどおりでは、
停滞を脱するのは難しいと見ています。
http://dot.asahi.com/toyo/2015031600023.htmlより