夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『オアシス』

2005年02月08日 | 映画(あ行)
『オアシス』(英題:Oasis)
監督:イ・チャンドン
出演:ソル・ギョング,ムン・ソリ他

前科者の男性と脳性麻痺の女性とのラブ・ストーリー、
しかも韓国の作品と聞けば健気な物語を想像するところですが、
観るとぶっ飛びます。きっと。

清掃員をひき逃げした罪で服役していたジョンドゥが、刑期を終えて町に出る。
真冬だというのに、半袖のシャツ姿。
身内が暮らすはずの家へ帰るが、そこには別人が住んでいた。
連絡先もわからず、金もないジョンドゥは無銭飲食。
警察にしょっ引かれる。

やがて弟が身柄を引き取りにやって来る。
弟に連れられて、母と兄夫婦の住む家に帰るが、
ジョンドゥの帰宅を喜ぶ者は誰もいない。

ある日、ジョンドゥは事故の謝罪をするつもりで
清掃員の遺族の住む古アパートを訪れる。
ところが、清掃員の息子夫婦は、
重度の脳性麻痺の妹コンジュをアパートにひとり残し、
新しいマンションへの引っ越し作業中だった。

コンジュが身をこわばらせ、顔を歪める様子を見て、
興味を持ったジョンドゥは、翌日再び花束を持ってコンジュを訪ねる。
しかし、強姦未遂の逮捕歴もあるジョンドゥは、あろうことか、コンジュを見て欲情。
恐怖のあまりコンジュは失神、ジョンドゥは逃げるようにその場を去る。

酷い目に遭わされたコンジュだったが、花を贈られたことが忘れられず、
ジョンドゥに電話を入れる。
コンジュになんとか許してもらおうと、純粋な気持ちで接するジョンドゥ。
ふたりで会う日を重ねるうち、互いに信頼をおくようになる。

世間はふたりの絆に無理解で、ジョンドゥのことは変態扱い(最初は確かに変態)。
飲食店では、大勢客がいるのに、ふたりが入店すると「閉店です」。
家族の誕生会にコンジュを連れていけば、早く追い返せと嫌な顔。
一見善人の清掃員の息子夫婦も、実はコンジュを利用して、
障害者本人名義でしか入居できない綺麗なマンションの権利を手に入れています。

絵空事のような優しさはなく、
タブーとここまで正面から向き合って描き切った作品は他にないでしょう。
救われない話だけれど、なぜか後味は決して悪くないのです。
人の幸せは人には計れない気がして、
人としての強さを分けてもらったような気がします。
コンジュが見上げる空や、鏡の破片に陽を反射させてキラキラ光る蝶、
壁に映る木の影が本当に美しい。

体力のあるときに、ぜひお薦めしたい一作。

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