『異端の鳥』(英題:The Painted Bird)
監督:ヴァーツラフ・マルホウル
出演:ペトル・コトラール,ウド・キア,レフ・ディブリク,イトゥカ・ツヴァンツァロヴァー,
ステラン・スカルスガルド,ハーヴェイ・カイテル,ジュリアン・サンズ,バリー・ペッパー他
TOHOシネマズ西宮にて。
169分という長さと、地面から頭だけ出た少年とそれを見つめるカラスの構図が恐ろしくて、
気になっていたものの観に行くのを躊躇っていました。
ご覧になった人が「今年いちばんの洋画」とおっしゃっているのを聞いて、
上映終了間際、滑り込みで間に合って鑑賞。
チェコ/ウクライナ/スロヴァキア作品。
原作は1965年に発表されたイェジー・コシンスキの同名小説。
ウィキペディアを見ると、この作家の人生がもう凄絶。
本作は両親と別れてホロコーストを逃れた実体験から生まれたのでしょうか。
ホロコーストから逃れるため、田舎で一人暮らしの叔母のもとへ預けられた少年。
その叔母が急死したうえに、家が焼けてしまう。
致し方なくさまよい歩きはじめた少年は、行く先々でさまざまな形の虐待を受ける。
少年が出会った人びとの名前による章立て。
旅する少年を思えばロードムービーと言えなくもないのでしょうが、温かさなんて皆無。
呪術師に売り飛ばされて助手をさせられているのなんてまだマシなほうで、
その壮絶さが増して行くと共に、少年も生きる術を覚えます。
やがて人を殺すことも厭わなくなる。
3時間近い作品の中にあって、少年が発する台詞はほんの数言。
私が覚えているのは、怪我を負った馬に向かって語りかける言葉だけです。
少年役のペトル・コトラールは新人なのだそうですが、凄すぎる。
表情だけで彼の心の裡がじわじわと伝わってきて、苦しくなります。
羽をペンキで塗られた小鳥が空中で他の鳥たちの総攻撃に遭って落下する様子は、
少年がカラスに頭を突かれて血だらけになっていたときと同じ。
どこの国のことなんだろうと思っていたら、
舞台となる国や場所を特定されないよう、
インタースラーヴィクという人工言語が使われているとのこと。道理で。
ラストシーンがとても好きでした。
一度も名前の出てこなかった少年の、名前。