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南英世の 「くろねこ日記」

政党の劣化を招く小選挙区制

(資料の出所 第一学習社 『最新政治・経済資料集』)

1994年に衆議院の小選挙区比例代表並立制が始まった。それ以前の中選挙区制には「選挙にお金がかかりすぎて汚職の原因になる」「党内に派閥ができて身内同士の戦いになる」といった批判があったからである。あれから25年。小選挙区制の弊害が目立つようになってきた。そろそろ選挙制度を抜本的に考え直す時期に来ているのではないか。

第一の弊害は「死票」が多く、民意が議会に反映されないことである。前回(2017年)の衆議院総選挙で、自民党は小選挙区では48%の得票率で75%の議席数を得た。有権者の半分も支持していないのに4分の3の議席を獲得したのである。

当初、小選挙区制は二大政党制を生みやすいと期待された。フランスの政治学者モーリス・デュヴェルジェは、有権者が当選可能性の低い候補者には投票しなくなるため、結果的に小選挙区制は二大政党に収斂していくと主張した(デュヴェルジェの法則)。

たしかに2009年までは日本にも二大政党制が定着するかに思われた。しかし、直近3回の総選挙(2012年、2014年、2017年)はまったく逆で、自民党の圧勝に終わった。「一強多弱」の状況の下では、小選挙区制は第一党に過剰な議席を与えただけであった。「デュヴェルジェの法則」が期待通りの働きをしなかったことが事実をもって証明された。

第二の弊害は、首相に権限が集中しすぎてしまうことである。小選挙区制では一つの選挙区から一人しか公認を出さない。もし、公認を得ることができなければ政治家の政治生命にかかわる。公認するかしないかは執行部(最終的には首相)が決定する。したがって、小選挙区制の下では、首相に誰もモノが言えなくなってしまう。

2005年の郵政民営化の是非をめぐって行われた衆議院総選挙の際、郵政民営化に反対した自民党候補者は公認を得られなかった。それどころか、小泉純一郎首相から民営化に賛成する候補を「刺客」として送りこまれた。首相の力をまざまざと見せつけられた瞬間だった。

党内で自由にモノが言えなくなれば、政党としての活力は失われ、政党の劣化が進む。憲法改正について、安倍首相と同じように「なにがなんでも変えたい」と思っている自民党議員はどれほどいるのか。もしいたとしても、多くは封印して表立っては口にしない。

こうして首相の独裁権が次第に形成される。自民党は首相の忠実な人ばかりで構成され、国会の議決で賛成票を投じる one of them と化す。「私は国民から選ばれた。だから何をしてもよい」という人がもしいるとすれば、それではヒトラーと同じである。

今の選挙制度は複雑すぎて、ほとんどの有権者は理解できていない。しかも、メリットよりもデメリットのほうが大きくなってきた。小選挙区制の導入は完全に失敗だった。現行の制度は早急に改められるべきである。

しかし、選挙制度を規定する公職選挙法を改正するのは国会議員自身であり、現行の制度の下で当選している国会議員は、現状の変更に及び腰である。「一票の価値」以外の視点から、最高裁判所に「公職選挙法は憲法違反である」という判決を引き出す方法はないものだろうか。
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