第二次世界大戦後、ケインズ経済学が先進主要国における主流経済学となった。しかし、石油危機(1973年)や「大きくなりすぎた政府」への反動から、1980年代になると反ケインズ主義の経済理論が台頭してきた。主なものに次のようなものがある。
(反ケインズ派の経済理論)
◆サプライサイド経済学
◆マネタリズム
◆合理的期待形成の経済学
日本ではバブル崩壊後、特に小泉政権以降こうした経済政策が幅を利かすようになってきた。アベノミクスもその延長にある。そもそもアベノミクスとは何か? 一般的には
①機動的な財政政策
②大胆な金融緩和
③成長戦略
の3本の矢とされる。
しかし、こんなものは表面的な説明にすぎない。アベノミクスの本質を簡単に要約すれば、次のようになる。
①及び②の政策で2%のインフレを引き起こし、「お金でもっているよりは使ったほうがいいですよ」と国民を扇動しておいて、消費需要や投資需要を引き起こし、最終的に経済成長につなげる。もとより③の政策などはあるはずもない。③は国民に期待を持たせるための時間稼ぎにすぎない。
こうしたアベノミクスの根底にある考え方がシカゴ大学のロバート・ルーカスらによる「合理的期待形成学派」と「マネタリズム」である。マネタリズムは、金融緩和をすればインフレが起きると考える。また、インフレが起きれば、人々は貨幣を持っていると損をするので消費に走るだろうという「合理的期待を形成」し行動をするはずだと考える。
こうして、浜田宏一先生(エール大学)や伊藤隆敏先生(東京大学)らがブレーンとなってアベノミクスが推進され始めたのが2012年。それから、2年半が過ぎた。株価は日経平均で2万円を超えた。国債価格は、日銀の買い支えでバブル状況にある。土地はまだ上がっていないが、強含みである。
しかし、肝心の物価は一向に上昇する気配がない。いくら金融緩和をしようと、不況の不安に備えて人々の財布の紐はあいかわらず固い。また、退職金を手にして一番お金を持っている団塊の世代は、将来の年金破たん(?)にそなえてお金を全く使おうとしない。
一方、本来、消費の柱となるべき若い人たちは、非正規雇用が多く使うべきお金がない。その結果、企業も海外投資には熱心でも国内投資には慎重である。
結局、金融緩和をしてもインフレはなかなか起きない状況が続いている。皮肉にも、これらはすべて人々が「合理的」な行動をした結果である。いま、多少なりとも景気が上向いているのは、インフレを起こす政策が、外国為替市場で「合理的期待」が形成され、円安になっているからである。
アベノミクスはこの先どうなるのか。物価をあげることにシャカリキになりすぎ、本当に物価上昇が起きた時、一気にインフレの炎が燃え盛り、手がつけられなくなる状況が起きる可能性が高い。つまり、ハイパーインフレになるのだ。そうすれば、政府の借金もチャラにできるからめでたしめでたし。多くの政治家はそのように考えているのではないか。
あと、数年間、高みの見物としゃれこもう。