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南英世の 「くろねこ日記」

AIと人類の未来

        
 AI(人工知能)に大学入試問題を解かせるというプロジェクトがある。東大の数学の模擬試験(理系)を解かせたところ、6問中4問完答し、全受験生のトップ1%(偏差値76.2)の成績を叩き出したという。囲碁の世界でも、数年前までAIは人間の足元にも及ばなかったが、今では世界のトップ棋士でもAIには勝てない。なにしろ、1秒間に数万局の対局をし、1兆局もの猛勉強をして「記憶」させるのだから、人間には到底まねができない。
 しかし、AIにも苦手なことがある。それは文章が読めないことだ。たとえば、次のような問題があったとする。

問  次の文章の(  )内に(complex , me, solve, for, to, with)の語句を適当に入れて正しい文にせよ。
 This problem is too (  )(  )(  )(  )(  )(  )ease.

 人間がこの問題を見れば、too…to のあの構文だと一目で分かる。しかし、AIは文章の意味がわからない。そこでAIにこの問題を解かせる場合、6個の単語をアット・ランダムに並べ、出来上がった6の階乗(6×5×4×3×2×1=720)通りの文章を、あらかじめ覚え込ませた例文に適合するまで検索させる。こうして、This problem is too complex for me to solve with ease. という正解にたどりつく。しかし、こうしたやり方には限界があり、150億個の文章を学習させたにもかかわらず、入試問題の正解率は4割に届かなかったという(『AI vs 教科書が読めない子どもたち』新井紀子)。

 MITの物理学者であるマックス・テグマークは、AIの未来について次のような予測をする(『コロナ後の世界』文春新書 2020年発行)。
 第一に、ビッグデータ不要の時代が来る。現在、ビッグデータを活用することで様々な分野でデーターベースがつくられ、データは「新しい石油」だと表現される。しかし、大量のデータを必要とするのは、AIの知能がまだまだ低いからである。近い将来AIは何かを学習するのに、大量のデータを必要としなくなる。たとえば、プロの囲碁棋士より強い現在のAIは、実は人間の過去の対局データを一切使っていない。ゲームのルールを学んだ後は、AI内部で自己対戦を繰り返し強くなっていった。これからはこうした技術開発が様々な分野で起きるであろう。

 第二に、現在開発中のAIの多くは特定の用途(例えば囲碁)のみに限定された「特化型」であるが、おそらく数十年以内にはあらゆる面で人間の知能を超える汎用型AI(AGI=Artificial General Intelligence)が完成する。AGIができれば人間はその時点で、地球上でもっとも知能が高いという地位を明け渡すことになる。

 AGIの登場によって車の自動運転で交通事故を減らすことができるかもしれない。がんなどの検診で最高品質の検診ができるようになるかもしれない。GDPを何倍にも増やすことができるかもしれない。もちろん、いいことばかりではない。AGIが自動兵器に利用されテロや戦争というものが一変する可能性がある。所得格差を広げる手段として使われるかもしれない。AGIを手に入れた独裁者が、地球上のすべてをコントロールするために使う可能性だって否定できない。

 どんなテクノロジーにも良い面と悪い面がある。人類がこれまでとってきた戦略は「失敗から学ぶ」ことであった。火事の教訓から消火器や消防車を作り、交通事故が起きたので信号機や交通ルールを作った。しかし、AGIの危機管理対策はAGIができてからでは遅い。失敗をする前に「越えてはならない一線」を定め、早めに戦略や倫理基準を作る必要がある。
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