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南英世の 「くろねこ日記」

大統領令

 アメリカの大統領制は三権分立が厳格だとされている。実際、日本と違って大統領は法案提出権を持っていないし、議会に出席することも年に2~3回である。だから間違っても「私は立法府の長でもあります」などと錯覚することはない。

アメリカでは建国以来「議会に対する不信感」が強い。かつてイギリスの植民地だった頃、イギリス議会がアメリカにさまざまな税をかけたからである。だから大統領には拒否権が付与されたし、違憲立法審査権も発達した。これにより議会の暴走を防ぐことができる。

一口に行政権といっても日本とアメリカでは性格が大きく異なる。、日本の行政権は内閣に与えられており、首相個人に与えられたものではない。首相は”Prime Minister"、すなわち閣僚の中の最高位という位置づけにすぎない。これに対して、アメリカでは行政権は大統領に属するとされ、大統領個人が行政権を持つ。だから、国務長官(連邦政府の国務とは外交であり、国務長官は日本の外務大臣にあたる)は ”Secretary of State" すなわち大統領の秘書という位置づけである。

行政部内における大統領の権限は絶対である。閣僚が何を言おうと全否定する権限を持っている。また、行政部を統括しやすいように、大統領が交代すれば行政部に属する3500人の人員を全て入れ替える権限も持つ。日本では首相が交代しても公務員試験に合格した官僚が行政部を支え、政治に影響力を持っている構造とは全く異なる。

ところで、最近トランプ大統領が盛んに「大統領令」を出しているが、そもそも大統領令とはいったいどういう性格のものなのか?イメージ的には「大統領が発する強力な法令」と思われがちであるが、それは全くの誤解である。

アメリカでは立法はすべて議員立法であり、日本のように内閣法制局が事前にほかの法令と齟齬をきたさないようにチェックする仕組みがない。だから、既存法令と整合性がとれていないことも少なくない。そこで、法律の執行方針を定め行政が円滑に進むように配慮する必要が出てくる。大統領令とはそのためのものであり、決して法律を代替するものではない。

しかし、現実には大統領令は法律と同じような効力を持つこともある。大統領令に対抗する方法は基本的に二つである。
第一に、憲法違反であると司法に訴える。
第二に、議会が大統領令に反対する法律を作る。ただし、この方法については大統領に拒否権があるため、議会(両院)が3分の2以上の多数で再可決する必要がある。

この二つの方法は極めてハードルが高い。
最近、大統領の権限がますます強くなってきており心配だ。因みに不法移民対策としてメキシコとの国境に壁を作るという大統領令は、議会が予算(アメリカの予算は法律として成立する)を認めなかったため壁はまだ一部しか完成していない。
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