375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

歴史的名盤を聴く(1) シャルル・ミュンシュ @1967 Paris Live

2010年01月03日 | クラシックの歴史的名盤


ベルリオーズ:幻想交響曲』、ドビュッシー:
シャルル・ミュンシュ指揮パリ管弦楽団
(1967年11月14日 シャンゼリゼ劇場:ステレオライヴ録音) ALT182

2010年の新年を迎えたところで、長らく温めていた新シリーズ「歴史的名盤を聴く(指揮者編)」をスタートしてみたい。クラシック音楽を聴き始めて、ほぼ30年。これまでいろいろなレコードやCDを聴いてきたが、その中でこれだけは欠かせないと思える名演奏を、できるだけ録音状態のいいライヴ録音から選出していこうと思う。

第1回目に登場するのはフランスの名指揮者シャルル・ミュンシュ。彼の代表作は最晩年の1967年、当時のド・ゴール政権の文化大臣アンドレ・マルローの肝煎りで誕生したパリ管弦楽団の初代指揮者として演奏した、ベルリオーズの『幻想交響曲』とブラームスの交響曲第1番にとどめを指すといわれている。特に『幻想交響曲』は、某評論家が言うように「いのちを賭けた情熱と生命力が吹きすさぶ、きれいごとでない名演」であり、長い間同曲1位の名盤として人気を博してきた。ただその反面、EMIから出ているスタジオ録音盤は今一つ音色の鮮明さに欠け、100%満足とまではいかないのも事実だった。

そんな時、ミュンシュの没後40年も経った今頃になって、とんでもないディスクが現われた。なんとミュンシュとパリ管弦楽団によるシャンゼリゼ劇場でのライヴ録音の音源が発見され、往年の巨匠によるライヴ録音の発掘で実績を上げているAltusから発売されるというのである。これはなんとしても聴かなければ、ということで、最近としては珍しく、発売日を待たずにCDを予約購入した。

そして早速聴いてみると…これは凄い! EMIのスタジオ録音盤の食い足りなかったところがすべて解決されたような満足感がある。例えて言えば、ピンボケのアナログ写真が、突如として解像度の高いデジタル写真としてよみがえったような感動とでも言おうか、すぐ目の前で生のコンサートを観ているような臨場感に圧倒される。こういうことが起きるから、クラシック音楽のCD集めはやめられない。

第1楽章「夢、情熱」。冒頭からただならぬ熱気が漂う。主部に入ってからは、恋人の女優ハリエット・スミスソンへの狂おしい愛が炸裂。抑えきれないパトスが嵐のように襲いかかり、猛烈な加速に次ぐ加速、金管楽器とティンパニの強奏強打が尋常ならざる感情のほとばしりを高めていく。
第2楽章「舞踏会」も、優雅なワルツという次元ではない。生々しいオーケストラの咆哮が津波のように押し寄せ、身も心も情熱の奔流に巻き込まれてしまいそうだ。
第3楽章「野の風景」。夏の夕べ、田園地帯で2人の羊飼いが角笛を吹き合う。のどかで牧歌的な風景に、突如忍び寄る不吉な影。曲の終わりでは、もはやもう一人の羊飼いは答えず、遠く雷鳴がとどろくのみ。その不気味さをこれ以上恐ろしく表現した演奏はないだろう。
第4楽章「断頭台への行進」。夢の中でついに恋人を殺してしまい、死刑を言い渡され、断頭台に引かれていく。地獄の底から響いてくる巨人のようなティンパニのとどろき。恋人の幻影が一瞬現われたところで振り落とされるギロチンの切れ味も尋常のものではない。
そして第5楽章「サバト(魔女の饗宴)の夜の夢」。同時代のベートーヴェンから100年先を行くような前衛的な音楽。亡霊、魔法使い、あらゆる種類の妖怪変化が死んだ主人公の葬式を行なうために集まってくる。グロテスクに変身した恋人を表現する変ホ長クラリネット。異様なほどに明るい弔いの鐘が地獄の恐ろしさを倍加させる。曲は進むにつれて異常さを増し、この世の終わりのような阿鼻叫喚の馬鹿騒ぎの中で狂乱のうちに幕を閉じる。

ミュンシュとパリ管弦楽団の演奏は、この「狂気の大傑作」をあるがままに表現した最強の演奏であることは間違いない。それもただ狂っているのではなく、高い次元での洞察に裏付けられた前衛芸術として、不滅の光を放つものだ。長い指揮棒を風車のように振り回す独特の指揮姿。まさにベルリオーズの化身のような情熱の指揮者ミュンシュが、生涯をかけて到達した「狂乱の美学」がここにある。

この『幻想交響曲』に先立って演奏されたドビュッシーの『海』も恐るべき名演。これはスタジオ録音されていないので、今回のCDが文字通り初のお目見えとなるが、常識的な『海』のイメージを遙かに超えている。まるで得体の知れない海獣が暴れまわっているような壮絶な迫力は、一聴の価値があるだろう。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ますます楽しみ (内之助)
2010-01-08 13:45:40
ついに歴史的名演に進出ですね。初回がミュンシュのライブ「幻想」とは渋い。一読後すぐに是非聴いてみたくなりました。「幻想」は僕の大好きな曲の一つで、ミュンシュ+パリ管のスタジオ録音は、クレンペラーのEMI盤とともに愛聴盤の一つです。スタジオ盤も凄い演奏ですが、それを凌ぐとは!
ますます音楽玉手箱の更新が楽しみになります。
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ライヴ録音の名盤。 (ミナコヴィッチ)
2010-01-09 02:23:17
>内之助さん
最近は現役指揮者の新録音よりも「往年の巨匠」のライヴ録音発掘を注目するようになりました。ミュンシュ+パリ管であれば「幻想」と同じく名盤といわれているブラ1のライヴ録音がどこかに眠っているかも。今後も渋いところを狙って掘り出し物を紹介していこうと思いますので、よろしくお願いします。
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