375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●歌姫たちの名盤(8) 奥村チヨ 『ナイトクラブの奥村チヨ』

2013年02月24日 | 歌姫② 60-80S 歌謡POPS系


奥村チヨ 『ナイトクラブの奥村チヨ
(2006年9月6日発売) TOCT-11137

収録曲 01.オープニング〔恋の奴隷〕 02.恋狂い 03.女の意地 04.夢は夜ひらく 05.ルック・オブ・ラブ 06.ラブ・ミー・トゥナイト 07.木遣りくずし 08.お座敷小唄 09. くやしいけれど幸せよ 10.嘘でもいいから 11.恋泥棒 12.恋の奴隷


奥村チヨが18歳の若さで「あなたがいなくても」という曲でデビューしたのは東京五輪の翌年、1965年3月のことだった。この時のB面曲「私を愛して」がシルヴィ・バルタンのカバーだったこともあって「和製シルヴィ・バルタン」として売り出されることになった。その翌年の1966年には4枚目のシングル「ごめんね・・・ジロー」がヒット、さらに翌年の1967年にはベンチャーズ歌謡の先駆となった「北国の青い空」が大ヒットとなり、同じ時期に19歳でデビューした黛ジュン(「恋のハレルヤ」)、小川知子(「ゆうべの秘密」)とともに東芝3人娘として活躍するようになる。

当初から小悪魔的ともいわれる独特のルックスが注目されていたが、人気に輪をかけて大ブレークするきっかけとなったのが、「あなた好みのぉ 女になりたい~」というフレーズが流行語となった傑作歌謡「恋の奴隷」(1969年)と、それに続く「恋泥棒」、「恋狂い」(1970年)の”恋3部作”だった。世の男性はすっかり、官能美を極めた奥村チヨの虜となってしまい、ファンによるストーカー騒ぎまで勃発する事態になったのである。

現代でもセクシー歌手といわれるシンガーはいるが、「小悪魔的」あるいは「コケティッシュ(coquettish)」というフランス語の形容詞(日本語でいえば「蠱惑的(こわくてき)」あたりのニュアンス)がこれほどぴったりくる歌手は思い当たらない。往年の海外女優でいえばブリジット・バルドーというところだろうか。単にセクシーでお色気があるだけではなく、知性の裏づけがあり、男心をそそるしとやかな気品が備わっているのである。

もちろん、そのあたりの奥深い魅力は当時まだ小学生だった筆者にわかろうはずもない。 当時は東芝3人娘のように10代でデビューしても、決して学芸会ご用達のアイドルではなく、れっきとした大人の歌手と見なされていた。歌謡曲は基本的に大人向けの娯楽という認識があり、22~23歳の奥村チヨが歌っていた”恋3部作”も、明らかに大人でなければ理解できない内容を持っていた。それだけに、それ相応の年輪を重ねた今、あらためて当時の男たちを惑わせた官能美を味わいたくなってくるのである。

そんな奥村チヨの魅力を伝える貴重な一枚として、昭和45年(1970年) 7月16日から18日にかけて「京都ベラミ」という名門ナイトクラブで録音された『ナイトクラブの奥村チヨ』というアルバムが残されているのはありがたい。ナイトクラブというのは昭和時代に流行した大人の社交場で、酒を飲みながら歌を聴くこともできるので、当然のことながら酔っ払いのオヤジもたくさんいる。そういう人たちのお相手をしながらショウを行なうことになるので、歌手のほうも適当に遊びを混ぜながらゲストを楽しませるという接客術が必要になってくる。

オープニングは最大のヒット曲「恋の奴隷」 のワン・コーラスで幕を開ける。続いて濃厚なフェロモン歌唱が炸裂する「恋狂い」。笑えるほどに大袈裟な表情をつけるのもライブならではの味であろう。これが終わると絶妙な「ためいき」を交えた奥村チヨの何とも色っぽい挨拶と、演奏を担当する北野タダオとアロージャズ・オーケストラの紹介がある。

続いて、苦しいばかりの女心を歌った「女の意地」 と、ジャズ・テイストの演奏が秀逸な「夢は夜ひらく」。この邦楽カバー2曲も彼女のオリジナル曲同様、ほとんどワン・フレーズごとに濃厚な味付けがされており、独自の悩殺ムード歌謡になっているところが興味深い。

前半のメインは洋楽カバー2曲。007シリーズの映画「カジノ・ロワイヤル」の主題歌となった「ルック・オブ・ラブ」(バート・バカラック作曲)と、ラテン・テイストの名曲でトム・ジョーンズが歌った「ラブ・ミー・トゥナイト」。それぞれ傾向の違う英語の曲を豊かな声量で歌いこなし、本格派シンガーとしての素養も垣間見せる。

オリジナルLPでB面となる後半部は、小唄調の節回しが冴える「木遣りくずし」と「お座敷小唄」で始まり、最新のオリジナル曲「くやしいけれど幸せよ」 、「嘘でもいいから」(ともに筒美京平作曲)と続く。この2曲のオリジナル曲は、どちらも奥村チヨの妖艶な魅力を最大限に引き出そうとした曲作りをしており、彼女も期待に応えて、まさに究極ともいえるフェロモンを発揮している。純粋に「声のみ」でこれほどの色気を感じさせる歌手というのは、空前にして絶後であろう。

曲の合間にあちこちで「チヨちゃん!」という掛け声も飛ぶ。性的快楽を求める男性客がほとんどかと思いきや、意外に女性のファンも多い。奥村チヨは時代の先端を行くファッション・リーダーでもあったので、女性にとっても憧れの存在だったのだ。

ラストはお馴染みの「恋泥棒」 、そしてアンコールの「恋の奴隷」で締めくくる。曲の途中で酔った男性客にマイクを向けたりするので「あなた好みの あなた好みの」のところがすごいことになっているが、これはまぁナイトクラブならではのお遊びということで許してあげてもいいだろう。

とにかく一人の男性としては、「この人の歌は何が何でも全部聴かなければならない」 というのが結論である。

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