375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

本田美奈子.POPS期の名曲集(2) 『I LOVE YOU』

2006年12月27日 | 本田美奈子


本田美奈子.『I LOVE YOU (2006年3月29日発売) MJCD-20054

収録曲 1. 風のうた 2. ナージャ!! 3. 愛の砂漠 4. 晴れた空お天気 5. 星空 6. Honey 7. shining eyes 8. etoile -星- 9. I LOVE YOU 10. impressions 11. 一瞬/永遠
---------------------------------------------------------------------
本田美奈子交響曲」の、知られざる第2楽章は、2005年5月の「LIFE」発売によって、ようやく、その一部が陽の目を見るようになった。しかしながら、まだこの時点では、多くの名曲が幻のままとなっていた。マーキュリー・レーベルから発表された2つのアルバム「ジャンクション」(1994年)と「晴れときどきくもり」(1995年)のあとは、2003年の「アヴェ・マリア」リリース時まで、ほぼ7年間、オリジナル・アルバムという形でのリリースがなく、単発的に発売されたシングルや、アニメの主題歌、ゲームソフトの音楽などは、すべて廃盤になっていたのである。本田美奈子の実力からすれば、信じられないほどの不遇な時代だった。

それらの廃盤中の曲が、「I LOVE YOU」というタイトルで、ようやく1枚のアルバムにまとめられて世に出たのは、彼女が旅立ってから4ヶ月余りが経過した、2006年3月29日のことだった。発売元のマーヴェラス・レーベルも、当初から、このような企画アルバムを考えていたわけではなかったが、ファンの声に押される形で、ようやく重い腰を上げたのである。

ここに収められた11曲は、いずれも、初めて耳にするものばかりだったので、自分にとっては、事実上、新作アルバムと言ってもいい。1996年から2003年にかけての長期間の録音を集めたものなので、普通なら、作品の完成度にバラつきがあるはずなのに、最初からオリジナル・アルバムを意図したような、不思議な統一感がある。これをもたらしたのは、まさに、本田美奈子の「一曲入魂」の精神だったのではなかろうか。たとえ、どのような用途で作られた曲であろうと、彼女にとって、すべての音楽は心を込めるべき対象なのだ。それが生きた音楽である以上、決して手を抜くことなく、歌手としての誇りを持って、一曲一曲を丹念に仕上げていったのである。

ここで、例によって個々の楽曲を見ていこう。(この部分は、以前別のブログに投稿した文章に、手を加えたものとなる。)

まずは、TVアニメ「HUNTERXHUNTER」のエンディング・テーマとなった、①「風のうた」。 このアニメは、もちろん見ていないので、ドラマの内容は想像するしかないのだが、これを見ていた子供たちは、なんと幸せな時を過ごしたことだろう、と思わずにはいられない。まさに、アニメ史上に残る名曲だ。

  聞いたのね 大地にそよぐ 風の声
  遠い記憶 呼びさます…

この最初のフレーズから、いきなり別世界に連れて行かれる。深い叡智に満ちた歌詞と、哀愁あふれるメロディ。一度聴いただけで、その幽玄な味わいに、魅了されてしまう。澄みきった歌声が、なんと奥深く心に響くことだろうか。まるで、本田美奈子自身が風の化身となって、歌っているよう感じである。

このアルバムには、同じアニメのカップリング・ソング、④「晴れた空お天気」も収録されている。歌詞の通り、「ドキドキワクワク」の青春応援歌。この曲を聴いて一日を出発すると、今日も何かいいことがありそうな気がしてくる。

②「ナージャ!!」は、TVアニメ「明日のナージャ」のオープニング・テーマ。このアニメも見たことはないが、この曲をTVで聴いた子供たちが、あまりの歌のうまさにびっくりした、という話も聞く。なにしろ、録音されたのが、2003年。すでにクラシックでのデビューが目前に迫っている時期であり、歌唱力に関しては、まさに絶頂に達しようとしていたのである。曲自体も素晴らしく、明るく力強いメッセージと、微妙な感情のゆれが絶妙にブレンドされた名作。子供たちだけではなく、世代を超えて、すべての大人たちに聴かせてあげたいと思う。

同じアニメのカップリング・ソング、⑧「etoile -星-」は、詩情にあふれた子守唄。古代エルサレムの郊外、ベツレヘムの星のもとで、生まれたばかりのキリストを抱く、聖母マリアの優しいイメージが、思い浮かぶ。

③「愛の砂漠」と⑤「星空」は、ゲームソフトで使われた実用音楽ということなので、歌そのものの芸術性は、本来、問われない。しかし、そのような音楽でも、入魂の歌唱を見せるところが、本田美奈子という芸術家の真骨頂であろう。 作品自体も、ほの暗いロマンをたたえて疾走する曲想が魅力的で、ゲームの音楽に終わらせておくのは、もったいないくらいだ。

⑦「shining eyes」と⑩「impressions」は、1996年にバンダイ・レーベルからリリースされたシングル。どちらの曲も、必殺のハイトーン・スキャットが聴きものだ。

⑥⑨⑪の3曲は、デビュー15周年を記念してリリースしたマキシ・シングルの収録曲だが、この中では、最後に収められた⑪「一瞬/永遠」(えいえんぶんのいっしゅん)が素晴らしい。このシングルが発売された2000年当時のJ-POPシーンでは、ちょうど宇多田ヒカルやMisiaなどのR&Bテイストの歌手がブレークしていたが、同じ時期に、本田美奈子も堂々たるR&Bの名曲を残していたのである。宣伝力さえあったならば、宇多田ヒカルの「Automatic」やMisiaの「Everything」に引けを取らない大ヒットになっていたかもしれない。 

  永遠分の一瞬を重ねて  
  2人の未来(あした)を描こう  
  一秒ごとに 見つめる瞳に私だけを映して…

歌詞・メロディともセンス満点と言えよう。

⑥「Honey」と、尾崎豊のカバー曲⑨「I LOVE YOU」は、第一印象としては、それほど目立たないが、繰り返し聴いていくうちに、独特の美奈子節が、心にしみ込んでくる。特に「I LOVE YOU」での乙女チックな語り口は、本家・尾崎の絶唱とは好対照の面白さがあると思う。