観劇帰りの地下鉄の中で・・・。
少し離れた席、斜め前に赤ちゃんがいた。
お母さんらしき人と、
おばあちゃんらしき人が並んですわっていて、
2人は盛んに話をしている。
おそらく生後10ヶ月前後とおぼしき女の子の赤ちゃんは、
おかあさんの膝の上にすわって、
私の方をじっと見ていた。
かわいい赤ちゃんだったので、
ちょっとお愛想つかってみようと思い、
ニッコリ笑ったり、
あれこれ表情を変えたり、
赤ちゃんが興味をひきそうなことを、
ひっそりとやってみた。
お母さんとおばあちゃんは、まったく気づいていない。
赤ちゃん自身の性格にもよるのだろうけど、
たいていの場合、
男の子だったら、ここでニパ~ッと笑い返してくれる。
でも、今日の彼女は手ごわかった。
それまで、じっと私の方を見ていたくせに、
私がアピールし始めると、
ふぃっ・・・と目を逸らすんです!!!
あやされていることに気づいていない風、
もしくは、
あんたになんか全然興味ない風、
あるいは、
そうそう、あの件はどうなったかしら風、
そんな目の逸らし方。
すっごく技巧的で女っぽい。
その後も、たま~にちらっとこちらを見るので、
その都度、あれこれがんばってやってみたのですが、
必ず「ふう、やれやれ」という、アンニュイな顔で、
目を逸らしてしまうのです。
まだ1歳にもなってないんでしょ。
そんなにカッコつけなくてもいいじゃない?
おばちゃんに笑った顔見せてよ。
ちょっと寂しかったけど、
とってもおもしろかったです。
うちの息子は、ニコニコ笑うタイプ。
娘は、ふぃっと目を逸らすタイプの赤ん坊でした。
劇団NLTの「殺人同盟」を観に行く。
大好きだった作品だ。
川端さんが、当時の八木光生さんの役、
有里さんが、当時の葦原邦子さんの役で出ている。
加納さん(元の叶年央さん)は、平松慎吾さんの役。
劇場も、装置も、演出も、役者も違う。
再演とはいえ、まったく別の作品だ。
でも台本が同じ。
こまかい台詞を覚えている。
有里さんの声で、
「青菜に塩かけて召し上がれ」
が聴こえてくる。
川端さんの声で、
「こちらベンハー、どうぞ」
が聴こえてくる。
鷲尾さんのドス声で、
「ブラヴォーーー!!」
が聴こえてくる。
これだけ年月が経過していると、
「鷲尾さん・・・・・」
とまではならずにすんだけれど、
それでも、やっぱり鷲尾さんはタダモノじゃない女優なのだと思う。
平成ネネットにどうこう不満があるわけではない。
ただ鷲尾さんがケタはずれなだけなんだ。
20代前半で、すでに鷲尾さんは今の鷲尾さんだったんだもの。
「でも私、暴行なんてされないわ」
「されたんだ・・・」
「されないわ、されないわ」
「されたんだ、されたんだ!!」
「でも、それなら私が気がつくはずよ!!!」
この一言で、紀伊國屋ホール中の観客が、
劇場が揺れるほど笑った。
次の芝居にうつるまでに、間が必要なほどに。
あんな凄い人の舞台を、間近で観て来られて、
本当にしあわせだった。
本当にタダモノじゃない人というのは、
ああいう人のことなのよ。
何十年もたってから、また実感させられる。
どれだけ光る才能の持ち主であるかを。
ちょっと落ち着こう。
加納さんは、すっかりいぶし銀。
しゅうちゃんとシンクロする何かを感じる。
川端さんは、いくつになっても、
ちゃかちゃかはじけるコメディアンのままだ。
阿知波悟美さんは、由起さんを凌ぐ迫力でさすがだった。
絶好調に脂がのっている感じ。
しかしまあ、何かにつけてガスのように、
「昔は・・・」と偲んでしまうのは、
歳をとった証拠なのでしょうね。
「殺人同盟」初演の時、私は今の娘と同い年だったのだ。
でも、自分でチケット取って、
好きな舞台をがんがん観に行っていた。
それにくらべて、うちの娘は過保護かもしれないぞ。
チケットぐらい自分で取れるようにしなきゃ。
何十年ぶりかで加納さんと会って、
川端さんにも会って来た。
加納さんは、旧姓を言わないと通じないほどのご無沙汰だ。
入院前のキリギリス計画の一部としては、
今日は大成功でしょう。
ああ、鷲尾さんの舞台も観に行きたい。
でももう、とてつもなく貧乏。