-Science Maniax #02-
皆さんこんにちはごきげんよう。
asayanことasami hiroakiでっす!(・ω・)ノ
連日熱戦が伝えられる第29回オリンピック、北京2008。日本選手は、柔道、競泳、そして体操で快進撃を続けております。
しかし、それにも増して凄まじいのは競泳のアメリカのエース、マイケル・フェルプス! 何なんスか! あの金メダルの数!
8月13日現在で、リレーを含む5冠! しかもその全てが世界新記録!
また、この段階で陸上のカール・ルイスらが持つ個人でのオリンピック合計メダル獲得数の世界記録、9個を超えて10個獲得の新記録を達成!
このままいけば、自身の持つオリンピック同一大会での最多金メダル獲得数の世界記録6個を抜いて7個。あるいは目標に掲げている8個も夢じゃない!
いや~、ココまでいくとまさに“異次元”ですわ。
ちなみに、フェルプスは前回お伝えしたLRユーザーです。
ところで、今回の北京2008でメダリスト達に授与される金、銀、銅の各メダル。皆さんはご覧になった事ありますか?
もちろん、授賞式のTV中継や新聞の報道写真などで見た事はあるでしょうが、表裏両面をしっかり見た事がある人は少ないかもしれません。
そこで、こんな画像を用意しました。
(月刊『ニュートン』2008年9月号より転載)
これが今回のメダルです。
上が裏、下が表になります。
表面には、ギリシャ語で“第29回オリンピック 北京2008”の文字が入り、5大陸を表すオリンピックの五輪マークがあしらわれています。
また、中央には“真実の女神オリンピア”がマントを翻す威風堂々たる姿が描かれています。(オリンピア、すなわちオリュンポスは、本来は古代オリンピックが開催されていたとされる都市の名前だが、IOC――国際オリンピック委員会――などの関係機関はこれを女神として神格化している)
注目してもらいたいのは、背景大きく描かれたスタジアム。これは、ギリシャにある『パナシナイコ・スタジアム(パナシナイコ競技場)』というスタジアムです。
これは、紀元前329年に建築され、紀元前250年に改築。さらに紀元前131年には大理石によって再建され、古代オリンピックなどの競技が行われたとされるスタジアムです。
現在のスタジアムとは根本的に異なり、楕円形ではなく馬蹄形のトラック――いわゆる3、4コーナーがない――になっており、1周は330メートル程度。(現在は1周400メートル) レーンの数も6レーンしかありません。(現在は8+1レーン)
1895年に修復され、翌1896年には、フランス貴族のクーベルタン男爵の提唱により開催が決定した第1回近代オリンピックのメインスタジアムに使用されました。
近年では、1997年に開催された世界陸上アテネ大会と、2004年に108年ぶりにアテネに帰ってきた21世紀最初のオリンピック、アテネ2004においてマラソン競技のゴールに使用されています。
ちなみに、このスタジアムはアテネ市内にありますが、マラソン発祥の地とされる“マラトンの丘”が近くにあり、アテネオリンピックでは、選手たちはこの丘を駆け抜けるマラソンコースを走りました。(選手たちはさぞや気持ち良かった事でしょうね!)
また、スタジアムの奥にはパルテノン神殿も見え、オリンピック発祥の地ギリシャを全面にフィーチャーしたデザインですね。
裏側には、中央に今大会のシンボルロゴが描かれ、それを取り囲むようにドーナッツ状の“翡翠”が埋め込まれています。
中国では、古来より貴重品としてヒスイが珍重されており、現在でもアクセサリーに使われる宝石として人気があります。
このあたりが中国らしいですね。
オリンピックや世界陸上などのメダルデザインは、どれもお国柄や時代が感じられるモノばかりで素晴らしいです。
余談ですが、今回の金メダルは純金ではなく銀に6グラムの金メッキを施したモノらしいです。授賞式でメダルを噛んでる選手もいましたが、中の人は銀なので歯形は付きませんよ?(笑)
雑誌からの転載になるのでホントはマズいんですが、4年に1度の事なので思い切って載せちゃいました。(笑)
ニュートン編集部の皆さん、本当にゴメンなさい。(謝)
さて、今回は上記でも話題に上ったオリンピック日程後半の注目競技、マラソンのスポーツ科学解説。オリンピック関連ネタ第2弾です。
オリンピックに限らず、マラソン競技では多くの国際大会において日本人選手は常に中心的存在として注目され、常に世界を相手に優勝を争ってきました。
オリンピックに関して言えば、前々回のシドニー2000ではQちゃんこと高橋尚子が。前回のアテネ2004で野口みずきが共に金メダルを獲得し、日本選手は2大会連続で金メダルを獲得。今大会は、3大会連続金メダルの期待がかかる重要なレースとなります。
陸上競技は、日本は世界の厚い壁に阻まれ、あまりメダルとは縁のない競技ですが、マラソンだけは別。
日本のお家芸とまで言われるマラソン。しかし、そもそもマラソンとはどういった競技なのか? そして、マラソンで勝つには一体何が必要なのかを徹底解析!
スポーツは、裏側を知れば100倍面白くなる!
これを読んで、皆さんがオリンピックをより楽しく観る事ができれば幸いです。
それでは早速参りませう。
マラソンは、42.195kmという陸上競技の中でも2番目に長い距離を走る、スタジアム外の公道を使用して行われる長距離種目の一つである。
陸上の長距離種目には、これ以外に20kmと50kmの競歩がある。
また、陸上の国際大会――グランプリシリーズ、ゴールデンリーグ、世界室内など――では、世界陸上やオリンピックを除き、マラソン競技が行われない事が多く、代わりに各国の都市で国際都市マラソンが毎年開催されている。
ちなみに、トラック競技では100m~800mまでのスターティングブロックを使用し、セパレートレーンのみの種目を短距離。1500m~10000mのスターティングブロックを使用せず、オープンレーンがある種目を中距離と呼ぶ。
・歴史と起源
知ってる人も多いかもしれないが、マラソンの起源は紀元前450年――紀元前490年という説もある――の『マラトンの戦い』の故事に由来する。
ペルシャ軍は、アテナイ――現在のアテナ――侵攻のためにマラトンに上陸した。これを迎撃するためにアテナイの名将ミルティアデスは奇策を以って見事これを撃退。この吉報をアテナイに伝えるため、フェイディピデス――エウクレスとも呼ばれる――という兵士は、伝令としてマラトンの丘からアテナイまでの長い距離を走った。そして、アテナイの城門で勝利の吉報を告げた直後、力尽きて息を引き取ったという。
1896年の第1回近代オリンピックにおいて、言語学者のミシェル・ブレアルの提案により、この故事に基くマラトンからアテナ競技場――前出のパナシナイコ競技場――までの長距離走が競技に加えられ、これが世界初のマラソンレースとなった。
ちなみに、1982年からはこれにちなんで『アテネクラシックマラソン』というレースが開催されるようになり、マラトンの丘からパナシナイコ競技場までの42.195kmを走るコースが使用されている。またこのコースは、アテネ2004でも使用された。
ところで、マラソンのレースディスタンスである42.195kmという距離。これも有名な話だが、最初からこの距離だったワケではない。
第1回オリンピックを始め、最初は“約40km”という曖昧な規定だったため、距離が一定しなかった。
しかし、1908年の第4回のロンドン大会において、ウィンザー城からシェファードブッシュ競技場までの約40kmのコースが使用される予定だったが、時のイギリス王妃、アレクサンドラ王妃が、「スタート地点を宮殿の庭に。ゴール地点は競技場のボックス席の前にせよ。」とワガママを言い出した要請したため、40km以上の中途半端な距離になってしまった。この距離が、42.195kmだった。
その後も、大会毎に距離は一定しなかったが、1924年の第8回のパリ大会において、ロンドン大会と同じ42.195kmのコースが使用され、以後マラソン競技はこの距離――市街地コース42km+200m弱の競技場のトラック――が定着した。
現在では、一般向けのスポーツ大会などでこれよりも距離の短い『ハーフマラソン(21.0975km)』や『クォーターマラソン(10.54875km)』も頻繁に開催され、これに対して42.195kmのマラソンを『フルマラソン』と呼ぶ。
ちなみに、マラソン競技にはこれよりも長い100km(!)を走る『ウルトラマラソン』や、さらに長い150km~200km(!?)を走る『スパルタスロン』という競技もある。
ところで、今でこそマラソンは男女ともに行われているが、元々は「女性には困難」という理由で女子マラソンは行われないのが普通で、オリンピックでも男子マラソンのみが行われていた。
しかし、歴史的には第1回のアテネ大会の時、既に非公認だがメルポメネという女性が男子に混ざって勝手に同じコースを走り、世界初のマラソンレースで世界初の女性ランナーが走っているという、何とも奇妙な記録が残っている。
1966年のボストンマラソン――現在も続いている国際都市マラソンの一つ。オリンピックではない――において、主催者に隠れて非公認ながらレースに参加する女性が出現。その後も、非公認で勝手に出場する女性ランナーが続出したため、同大会では1972年から女性の参加が公式に認められ、これが正式な最初の女子マラソンとなった。
その傾向はオリンピックにも影響を与え、1984年のロサンゼルス大会から女子マラソンが正式種目に加わり、その後多くの名女性ランナーが活躍するようになったのは、皆さんも記憶に新しいところだろう。
現在日本では、低迷が続く男子マラソンよりも、まさに黄金期を迎えつつある女子マラソンの方が人気が高いほどである。
・規定と記録
現在、マラソンは42km程度の市街地コースと、195m程度のトラックコースが組み合わされて42.195kmのレースディスタンスになっているが、この市街地コースにはIAAF――国際陸上競技連盟――が定めるコース規定がある。
主な規定は以下の4つ。
1.コースの長さは競技距離より短くてはならず、かつ誤差は競技距離の1000分の1以下でなければならない。(マラソンでは42m以下)
2.上記の条件を満たすため、距離の測定では1001mを1000m=1kmとする。
3.スタート地点からゴール地点までの標高の高低差は競技距離の1000分の1以下でなければならない。(マラソンでは42m以下)
4.スタート地点とゴール地点は、直線距離で競技距離の2分の1以下でなければならない。(マラソンでは21.0975km以下)
主にこの4つの規定を満たしていれば、IAAF公認のマラソンコースとして認定され、そのコースを使用したレースはIAAF公認レースとして公式記録に残る。
逆に言えば、この条件を満たしていればコースレイアウトは何でも構わない。そのため、世界陸上やオリンピックでも、数キロ程度の短いコースを何周か走る周回コースが使用されることも少なくない。
マラソンではないが、昨年の世界陸上、大阪2007では、競歩で大阪万博記念公園内にあるジョギングコースの一部を使い、2キロのコースを回る周回コースが使用された。(注:競歩では周回コースが使用される事が多い。そのため、これによるトラブルも多い。詳細は次回)
だがこれは、同時に他の陸上競技とは異なり、コースによってレース条件が大会によって異なる事を示している。そのため、かつてはマラソンのタイムは計測はされていたが、いわゆる『世界記録』としては認定されておらず、飽くまでも『世界最高記録』と呼ばれていた。
しかし、2004年のオリンピックアテネ大会を機に、IAAFはマラソン競技におけるコース規定を含む記録公認条件を整備し、マラソンや競歩など、公道を使用するロードレースの計測タイムも公認記録として認定出来るようになり、現在は『世界記録』が存在する。
ちなみに、この条件を満たす過去のレースの記録も公認記録として認定されており、歴代記録ランキングの中には2004年以前の記録もランキングされている。
2008年8月13日現在の世界記録は、男子は2007年のベルリンマラソンでエチオピアのハイレ・ゲブレセラシェがマークした2:04:26が歴代トップ。日本記録は、2002年のシカゴマラソンで高岡寿成が記録した2:06:16で、これは世界歴代9位の記録である。
女子は2003年のロンドンマラソンで、地元イギリスのポーラ・ラドクリフがマークした2:15:25が世界記録。日本記録は、2005年のベルリンマラソンで野口みずきが記録した2:19:12。世界歴代3位の記録である。
ちなみ、歴代ランキングトップ10では、男子は高岡。女子は野口を始め、渋井陽子、高橋尚子の3人がランクされている。
ところで、認定記録ではないが、マラソンには『世界最“長”記録』なるモノがあるのをご存知だろうか?
これは、距離ではなく完走した時間の事で、その記録保持者はなんと日本人である。
時は1912年。オリンピック第5回大会のストックホルム大会に出場した日本の金栗四三は、レース中に体調を崩し棄権した。これだけなら、過酷なマラソンレースではよくある事だが、体調を崩した金栗は、棄権後その場で倒れてしまい、近所の農家の住民に助けられる。意識を回復したのは、レースの翌日のことだった。
金栗はそのまま帰国したが、金栗の途中棄権が主催者側に上手く伝わっておらず、この時の記録は、完走でも棄権でもなく『競技中に失踪、行方不明』として公式に記録された。
時は流れ1967年。ストックホルム市がストックホルムオリンピック開催55周年を記念する式典を開催する事になり、式典主催者が当時の記録を調べていたところ、金栗の『行方不明』の記録を発見した。
そこで主催者側は、金栗をこの式典に招待し、式典の中で当時のコース――実際には、競技場内の100メートルのコース。残りの距離は特例として消化した扱い――を走って見事完走! この瞬間、マラソンの世界最長記録、54年8ヶ月6日5時間32分20秒30が記録された。
金栗は、ゴール後のスピーチで、
「長い道のりでした。この間に孫が5人できました。」
と語ったとか。
ちなみに、日本マラソン会では金栗はこれ以外でも有名で、短距離の三島弥彦と共にこのストックホルム大会出場で日本人初のオリンピック出場選手となった人物で、1920年から毎年数多くの名勝負を繰り広げている箱根駅伝の第1回開催に尽力した人物でもある。
そのため、2004年からは箱根駅伝の最優秀選手賞として『金栗四三杯』が贈呈されている。
また、件のストックホルム大会のマラソン競技は、摂氏30度という――当時としては――記録的な猛暑の中行われ、出場68名中のおよそ半分が途中棄権。内一人は翌日死亡するという稀に見るサバイバルレースだった。
・スプリントマラソン(?)
近年のマラソンは、ハイペース化、ハイスピード化が目覚しく、先に記した歴代ランキングトップ10では、男女ともにそのほとんどが今世紀に入ってから記録された、比較的新しい記録ばかりである。
それまで、マラソンはレース中の選手同士の“駆け引き”が重要視されていた。
スタミナを温存し、レース終盤でスパートをかけて一気に抜き去る。というレース展開が多く見られ、集団の中にいる他の選手より先に仕掛けるか? それとも後に仕掛けるか? 残りの距離を意識して仕掛けるタイミングを測る。
もちろん、現在でも基本的なスタンスに変化はないが、スピードよりもこの駆け引きの方が重要視される傾向があり、男子でも優勝タイムが2時間半近くになる事も稀ではなかった。
対して現在は、駆け引きもさる事ながら、レース全体が高速化され、トップ選手のハイペースに付いて行けず、レース序盤で他の選手が脱落し、比較的早い段階で単独トップになるという展開も珍しくなくなった。
こうした傾向に拍車をかけたのが、エチオピアやケニアといった高地国の選手の台頭である。
ファティマ・ロバ、キャサリン・ヌデレバ、エバンス・ルト、そしてハイレ・ゲブレセラシェ。
空気の薄い高地国で生まれ育ち、先天的に高い心肺機能を有するこれらの選手が、国際大会で常にトップ争いに加わり、マラソンではないが、中距離の3000mや5000m、10000m、3000m障害などでは金、銀、銅を独占する事も珍しくない。
これに対抗するため、日本はもちろん、欧米でもオリンピックや世界陸上といった大きな国際大会に備えて高地での直前合宿を行う例も、もはや珍しくなくなった。
特に、日本の女子マラソンでは、代表選手が全員揃って中国の昆明で直前合宿を行うのが通例となっているほどである。
ちなみに、近年のマラソンがどれだけ速いかというと、……ちょっと計算してみよう。
2006年に文部科学省が行った『体力・運動能力調査』によると、18歳女子の50m走の平均タイムは、9秒62だそうだ。
小学校で算数の時間に習った公式、“速度=距離÷時間”を使って計算すると、18歳女子の足の速さは、秒速5.4m/sになる。(100分の1以下四捨五入)
これを時速に直すと、19.44km/h(5.4×60×60÷1000)。……うん、悪くない数字だ。
では、比較として男子マラソンの世界記録、ハイレ・ゲブレセラシェのタイムから、彼の世界記録達成時の平均時速を割り出してみよう。
まず、タイム(2:04:26)を秒表記に直すと7466秒になる。距離も同様にメートル表記に直し、42195mとして計算すると、ゲブレセラシェの秒速は5.7m/sとなる。これを時速に直すと、20.52km/hという数字になる。
なんと、男子マラソンは日本の平均的な18歳の女子高生が全力疾走した速度よりも1.08km/hも速いスピードで42.195kmを走っているのである。
ちなみに、これは平均的な自転車の走行速度とほぼ同じか、ややもすると速いぐらいのスピードである。
また、この速度で走っている車に轢かれると、間違いなく大怪我。打ち所が悪ければ死に至る大事故になる。
なんということでしょう! マラソン選手に轢かれると死んでしまうのだ。(笑)
それはともかく、この様なハイスピードで展開するレースなので、これに勝つには並大抵の事ではないのがお分かり頂けるだろう。
最早マラソンは、持久力重視の耐久レースではなく、スピード重視のスプリントレースの様相を呈してきているのである。
ならば問題は、このハイスピードレースに勝つ方法、すなわち必勝法はあるのだろうか?
ここからは、スポーツ科学の観点から、この難題を考察してみよう。
・走法と位置取り
マラソン中継をご覧になった事がある人なら、『ピッチ走法』と『ストライド走法』という言葉をお聞きになった事があるだろう。
これは、どちらもマラソンにおける走り方、すなわちマラソン走法の事で、現在は大きくこの2種類の走法に分けられる。
ピッチ走法とは、短い歩幅で足を速く回転させる走法の事で、メリットとしては、足にかかる衝撃が小さくて済み、足の筋肉や骨格に負担がかかりにくい。また、体格的に欧米人に劣るモンゴロイド系民族――日本や中国、韓国などの東アジア民族――でも速い速度で走る事ができるといったメリットがあり、日本人や中国人に適した走法と言える。
そのため、日本や中国など、小柄な選手はこの走法を採用している事が多いが、足を速く回転させる必要があるため、必然的に足の運動量は多くなり、スタミナ消費が激しく、また心肺機能にも負担がかかるため、筋力トレーニングはもちろんの事、心肺機能の強化を目的としたトレーニング――高地トレーニングなど。このトレーニングにより、高橋尚子の脈拍数は平均的な成人の半分しかない、いわゆる『スポーツ心臓』になったという――を取り入れたり、普段からの食事にも気をつけなければならないなどのデメリットもある。
対してストライド走法とは、歩幅を大きくし、1歩あたりの走行距離を長くする事で、足の運動量を減らし、スタミナ消費や心肺機能への負担を低減するというメリットがある走法である。
そのため、長身の欧米人に適しており、アメリカやヨーロッパの選手は、ほとんどがこの走法である。
ただし、足にかかる衝撃が大きく、筋肉や骨格に負担がかかりやすいため、練習のし過ぎで疲労骨折や肉離れを起こし易いというデメリットがある。
どちらにも一長一短があり、どちらが優れているのかは一概には言えないが、理想を言えば、少しでもストライド――歩幅――の大きなピッチ走法が可能ならば、より速く走る事ができるだろうが、体格的にストライドを伸ばしにくいアジア人には不向きで、先天的に心肺機能が劣る欧米人にも不向きだが、これに近い走法を可能にしているのが、先に記したエチオピアやケニアといった高地国出身のアフリカ系民族の選手である。
先天的に優れた心肺機能と、欧米人並の恵まれた体格により、ストライド走法に近いピッチ走法、あるいはピッチ走法に近いストライド走法を可能にしているのである。
だから彼らは速いワケだが、マラソンは、複数の選手が同時に走る“レース”である。同じ陸上でも、オープンレーンがある中距離はともかく、セパレートレーンのみの短距離とは全く異なるレースになる。そこで必要になってくるのが、走る場所、すなわち『位置取り』である。
短距離の場合、セパレートレーンで走るため、前や横を気にする事なく、とにかく誰よりも速くゴールラインに飛び込む事が重要であり、位置取りとか駆け引きなんて考えていられない。(てゆーか考えてるヒマもない。考えている間にレースが終わる)
しかし、オープンレーンがある中距離やマラソンともなると、位置取りが重要になる。(注:中距離とマラソンでは位置取りの意味合いが異なる。ここでは、マラソンの位置取りについてのみ考察する)
マラソン中継を見ていると、レースが進むにつれ、次第に選手が数人から10人程度の集団に分かれて走る展開になるのに気付く。
これは、何も走行スピードが似通った選手が固まっているのではなく、それぞれの選手がペースを一定に保ち、スタミナの消費を抑えながら仕掛けるタイミングを測って意図的に集団になっているためである。
その意味においては、集団に加わっていればいいワケで、『位置取り』は必要ない。が、これがスポーツ科学的見地から見ると、『位置取り』に無視できないほど重要な“ある要素”が存在している事が見えてくる。
それが、『空気抵抗』である。
流体力学を用いた模型を使った実験によると、ランナーが単独で走行する場合を基準とし、複数のランナーが集団で走る場合とを比較すると、前に一人のランナーがいる場合で24.7%。前に3人、後ろに1人のランナーがいる場合では、実に41.2%もの空気抵抗の低減が見られた。
この事から、少なくとも集団の中で“風除け”になるランナーの後ろを走る事で、自分にかかる空気抵抗を低減し、より少ない力で走る事が可能になるのである。
モータースポーツの必須テクニック、『スリップストリーム』である。
これによって、終盤で余力を残しておいて、ラストで一気にスパート! という戦略が可能になる。選手同士の力量が拮抗していればするほど、これは無視できない重要な要素となり、そのための『位置取り』が重要になってくるのである。
とは言え、そのラストスパートに残せるほどの余力が、スパート前になくなってしまってはどうしようもない。
では、“余力”を残しておくには、どうすればよいのだろうか?
・ガス欠防止策
そもそも、運動によって消費される、いわゆる“スタミナ”の正体とは、一体何なのだろうか?
スタミナとは、筋肉が伸縮する時に消費されるエネルギーの事で、ATP――アデノシン3リン酸――という物質が、その正体である。
ATPは、運動によって消費されるとADP――アデノシン2リン酸――とリン酸に分解されるのだが、ATPは筋肉中に極わずかしか存在しないため、分解されたADPとリン酸を化学反応によって再結合し、再びATPとして利用する事になる。
筋肉中のATPの量を増やす事は不可能だが、この再結合の効率を上げることは可能だ。
ATPに再結合させる経路は、大きく分けて3通りある。
一つ目は、筋肉中に蓄えられたクレアチンリン酸とADTを化学反応させる経路で、短時間に大量の再結合を行えるため、短距離走などのいわゆる無酸素運動で主に使われる経路である。
ただし、ATPと同じくクレアチンリン酸の貯蔵量にも限界があるため、極めて短時間――大体40秒~42秒程度。世界記録が43秒18(マイケル・ジョンソン/USA)と、クレアチンリン酸による再結合の限界時間を越える競技である400m走が、『究極の無酸素運動』と呼ばれるのはこのため――のため、すぐに枯渇してしまう。そのため、無酸素運動の限界を超える運動が必要な場合に利用される経路が、グリコーゲンを使う再結合である。
グリコーゲンも、ATPやクレアチンリン酸と同じく筋肉中や肝臓に蓄えられており、その貯蔵量はクレアチンリン酸よりも多く、より長く継続して再結合ができる。ただし、単位時間当たりの運動量、すなわち“出力”が落ちる上、グリコーゲンが消費されて分解する過程で乳酸ができ、これが次の分解を阻害するため、いずれ再結合もできなくなる。いわゆる“老廃物”である。
そこで、酸素と脂肪を一緒に燃焼し、再結合をうながす経路が使われる。
この経路だと、出力は極端に劣るものの、脂肪は筋肉中はもちろん、血中や皮下組織など、人体のあらゆる場所にほぼ無尽蔵に貯蔵できるため、マラソンや遠泳による運動に利用される。いわゆる“有酸素運動”である。
しかし、脂肪によるATP再結合は、単位時間当たりの結合量が少なく、出力が劣るため、現在の“スプリントマラソン”ではほとんど意味を持っていない。出力が小さ過ぎるため、レースに勝つために必要なスピードが得られないからだ。
かと言って、クレアチンリン酸を使う経路だと、スピードは出るが持久力が皆無に等しいため、マラソンのようなロングディスタンスではその真価を発揮できない。
そこで、現在のスポーツ科学では、マラソンで主に利用されるのはグリコーゲンによるATP再結合だと言われている。
平均的な成人――飽くまでも年齢的なモノ。トレーニング量などは関係ない――のグリコーゲンの貯蔵量は、筋肉中に1500キロカロリー。肝臓に300キロカロリー程度が蓄えられており、運動によって消費される。
しかし、マラソンに必要なエネルギーは、平均的な体格――体重60キログラム程度で算出――で2530キロカロリーと言われている。
つまり、グリコーゲンの貯蔵量は、マラソンでは730キロカロリー足りないという計算になる。
マラソン中継を見ていると、レース序盤から中盤で好位置につけていた選手が終盤失速し、ズルズルと後退していくのは、何も疲労によるモノではない。貯蔵していたグリコーゲンが消費され、“ガス欠”したからである。
これが起こるのが、距離にして大体30km~35km地点。よく、「マラソンは30km地点が山場」と言われるのはこのためである。
と、するならば、最初に記した“余力を残す”とは、レース序盤から中盤にかけて消費されるグリコーゲンの消費を抑え、終盤の30km以降まで残しておく事。という事になり、そのために、戦略としての走法の選択と位置取りが重要になるワケだ。
また、マラソンなどの長距離競技では、レース中に水分補給が行える。(国際大会では、大会公式スポンサーから提供されるスポーツドリンクで全ての選手が水分補給できるようになっている。これは、脱水症状防止などの医学的見地からも重要な事である)
また、各選手のサポートスタッフが各自で用意したグルコースなどの糖分やアミノ酸を配合した、いわゆるスペシャルドリンクを利用する事も認められており、これを確実に摂取する事で、消費したグリコーゲンを補うのも、今や必須と言える戦略である。
ちなみに、給水所はコース上5km毎に設置されている。
さらに言うなら、万が一グリコーゲンが枯渇した時に備え、酸素と脂肪による再結合の効率を上げるトレーニングも重要である。
この効率を上げるため、グリコーゲンが消費された状態――ある程度走った状態――でさらに長距離を走り込むトレーニングを取り入れたり、普段から栄養バランスを考えた食事を取り、レーススタート時にグリコーゲンをフルタンク状態にしておく事や、筋肉量とバランスの取れた脂肪量を維持――すなわちダイエット――する事など、栄養学的な要素を考慮したトレーニングを行う事が必要なのである。
・気候とレーススパン
以上のように、マラソン競技は複数の要素が複雑に絡み合い、見た目とは裏腹にエキサイティングなレースが展開される競技であるが、上記の要素は、全て選手側がトレーニングなどを通じて行える要素である。
しかし、マラソンにはもう一つ、選手にはどうしようもできない極めて重要な要素がある。
それが、レースが開催される土地の気候や天候といった気象状態である。
そもそも、マラソンは夏に行う競技ではない。
オリンピックや世界陸上の選考レースとして重要視されている日本国内の国際都市レース――東京国際や大阪国際、名古屋国際や福岡国際など――は、全て冬に開催される。
大学駅伝の最高峰として、毎年数々のドラマを生んでいる箱根駅伝も、新年2日と3日という冬に開催される。
日本国内以外の国際都市マラソン――ベルリンやロンドン、ロッテルダムやシカゴなど――も、秋や春に開催される。
常夏の島ハワイで毎年開催される、世界最大の一般参加マラソンであるホノルルマラソンも、開催されるのはやはり冬である。
こうしてマラソンが冬に開催される事が多いワケだが、その理由はいたって単純。
夏だと暑過ぎるから。
ただそれだけ。
気温の低い冬季ならば、マラソンのようなロングディスタンスのレースでも、発汗量を低く抑える事ができるため、脱水症状などを防止する意味でも、夏にマラソンを走るのは過酷過ぎるのだ。
前回大会のアテネ2004では、優勝候補の大本命と見られていたイギリスのポーラ・ラドクリフが、レース中盤でなんと嘔吐。途中棄権するという大波乱が起きた。
1997年の世界陸上アテネ大会では、前年のアトランタオリンピックの覇者、ファティマ・ロバが、ギリシャ特有の地中海性気候の猛暑――ギリシャの夏は平均40度と言われるほど暑いが、湿度が低いので日本のようなジメジメした暑さではない――に勝てず、やはり途中棄権している。
オリンピックのマラソン競技の最大の敵は、実は“夏”という季節なのだ。
では、今大会が行われている北京の気候はどうか?
北京は、中国国内でも比較的北に位置し、冬は寒過ぎるぐらいに寒い。冬の平均気温は氷点下。ややもすると、最高気温がプラスになる事がないと言われるほどであるのだが、降雪量は少ないそうだ。
対して、夏は比較的高温多湿。日本の夏とほぼ同じで、夏の平均気温は摂氏20~22度。最高気温の平均は、摂氏29~30度程度となるが、雨は日本ほどは降らないそうだ。
ちなみに、春は乾燥した強い風が吹き、黄砂によって視界深度が1メートル程度になる日も少なくないそうだ。
日本に似た気候という事は、日本人には有利と考える人もいるかもしれないが、決してそんな事はない。先にも記したように、そもそも夏にマラソンを行う事自体にムリがあるので、気候的なマイナス要素は全ての出場選手に対してイーブンと考える方が妥当である。
歴代の世界記録ランキングにランクされている記録が、全て冬に開催される国際都市マラソンでレコードされた記録なのはそのためで、オリンピックでは記録は全く期待できない。
それと同時に、各選手のレーススパンも重要である。
マラソン選手は、何も年がら年中マラソンで走っているワケではない。
野口みずきや土佐礼子、尾方剛といった今大会の代表選手のマラソン出場歴を見てみると、全ての選手が年間1レース、多くても2レースしか走っていない。
もちろん、トレーニングでは50kmとか、時には100kmもの走り込みを行う事があるが、走るペースは桁違いに遅く、ほとんどジョギング程度のペースである。
フルマラソンをレースペースで走ると言うのは、肉体的疲労が大きく、年間1~2レース程度しかできないほどなのだ。
日本では、オリンピックや世界陸上の選考レースの中でも最終選考レースと位置付けられている名古屋国際は、毎年3月に開催されているが、本番に当たるオリンピックや世界陸上が開催されるのは8月なので、その間は5ヶ月“しか”ない。
そのため、名古屋国際で代表権を獲得した選手は、疲労が回復できずに本番で好成績を残せない場合が多い。
今大会では、今年の名古屋国際で優勝し、今回が大きな国際レース初参戦となる中村友梨香がこれに当たる。(オリンピック、世界陸上を通して、中村は今回が初代表だが、実は名古屋国際が初マラソン。初マラソンでいきなり優勝と言うと、シドニーの金メダリスト高橋尚子と同じ。なので、個人的に中村は注目している選手である)
しかし、中村以外の選手は、昨年の段階で既に代表権を獲得しており、年明けからオリンピックに照準を合わせてトレーニングを重ねてきた。
男子代表は尾方剛、大崎悟史、佐藤敦之。
女子代表は野口みずき、土佐礼子、中村友梨香。(注:野口は、直前合宿のスイス合宿で痛めた左足太ももの肉離れが完治せず、8月13日の時点で欠場を決定している。アテネ2004の金メダリストだけに非常に残念)
シドニー2000の高橋尚子、アテナ2004の野口みずきに続く、日本勢の3大会連続金メダルの期待がかかるマラソンin北京2008。
女子は8月17日、男子は8月24日、それぞれ日本時間午前8時ごろスタート!
世界66億分の1誕生の瞬間を目撃せよ!!
がんばれ! ニッポン!!
といったトコロで、今週はココまで。
楽しんで頂けましたか?
ご意見ご感想、ご質問等があればコメにどうぞ。
さて来週は、オリンピック関連ネタ第3弾、asami流スポーツ観戦の仕方を解説するフリートークをお届けします。お楽しみに!
それでは皆さんまた来週。
お相手は、asayanことasami hiroakiでした。
SeeYa!(・ω・)ノシ
きょーのはちゅねさん♪
はちゅねさんは北京オリンピック日本代表選手団を応援しています。
Thanks for youre reading,
See you next week!
-参考資料-
※今回の記事では、以下の活字メディア、及びウェブサイトの記事を適宜参照しました。
・月刊誌『ニュートン』2008年9月号/ニュートンプレス
・雑誌『NHKウィークリー ステラ臨時増刊9/1号 北京オリンピック放送をぜんぶみる!』/NHKサービスセンター
・NHKオンライン特設ページ『NHK北京オリンピックオンライン』
・フリーウェブ百科事典『Wikipedia日本語版』
検索ワード:マラソン/オリンピック/世界陸上/北京