小さな日記

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ふと

2007年05月15日 | Weblog
雑用の帰り、ふと、いつも見ていて一度も入ったことのない「月の光」でコーヒーを飲んだ。http://www.tsukinohikari.net/

我が家から徒歩5分のこの店の店主は、以前は我が家を挟んで反対側に徒歩5分の古道具屋「ニコニコ堂」をやっていた。まだ結婚したばかりのころ、ここで中古の桐のタンスを買おうと思うと、府中の「バベル」というフリージャズのライブハウスのマスターに話したら「あいつ、友達なの。粗大ゴミから拾ってくるんだからやめときな」と言われて真に受けてやめた。「ニコニコ堂」の物たちは、本気で向き合わなければ、ただのガラクタ、ゴミになってしまう物ばかりで、粗雑なわたしにはふさわしくなかったので、横目で通り過ぎるばかりだった。

その後、彼はなにか文学賞を受けた作品のモデルであることで有名になり、また、息子さん(長嶋有氏)が芥川賞を受賞してまた有名になったようで、「月の光」はときおり、若いひとたちが集っているようだった。

激しい雨の後の眩しい青空からその店にはいると、古色蒼然の、けれど、清潔な薄闇が心地よく、コーヒーはどんな味かしら?と座ってみることにした。
やはり、ここの物たちは、わたしが持つには清らかすぎる。古く錆つき、用をなさなくなって、存在そのものに立ち返ったかのように、ひとつひとつひっそりそこにある。それでも、わたしが年を取ったからか、年月を経た物の色のくすみや洗いざらした柔らかさに、わたしがそこにいることの調和をしみじみ感じて、少しオイルのような香りの変わったコーヒーを、昭和初期のカップで飲んだ。

いい感じのジャズピアノトリオがいい音量で流れて、文庫本を読むにいい照明で。
突然、振り子時計が時を伝え、音楽を聴く耳になっていたので、初めて時計の音がどんなものだか知った気がした。と、店主が店の奥で、音楽と関係ない音をギターで奏で始めた。音楽をしているのか、ただ鳴らしているのかわからなかったが、それも音量のバランスがよいので、調和していた。むやみに自己主張しなければ、全てなんでもありかもしれない。

展示の銅版画も素敵でたった30分いただけだけれど、小旅行に行った気分。
帰って検索したら、店主の長嶋康郎氏。本も数冊出版なさっているのだった。