ペプチドで創薬、副作用抑え価格も安く 抗体薬代替へ19/10/12
ペプチドはアミノ酸が2~100個程度つながった、比較的小さな中分子化合物である。鍵と鍵穴の関係のよう に、標的とする生体内にあるたんぱく質にうまく結合する(たんぱく質断片)特色がある。
中心的な医薬品に育ってきた抗体医薬と同じ仕組みだが、抗体は遺伝子を組み換えた動物の細胞で培養するなど製造コストが高くなり、巨大な分子で点滴で投与しなければいけないなど課題も多い。
山本尚(ひさし)教授らは7月に「ルイス酸」と呼ぶ触媒を使って不純物が出るのを防ぎ、1回の合成のたびにペプチドの長さを2倍ずつ増やす手法を開発した。64個のアミノ酸がつながったペプチドを作るのに従来は63回もの反応を繰り返さなければいけなかったが、新手法なら6回で済む。国内の製薬企業と協力して新手法を広めていく考えだ。「抗体医薬の次に来るのはペプチドの時代だ」と力を込める。
東京大学発のバイオベンチャー、ペプチドリームと米製薬大手のブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)は、免疫の働きを改善してがん細胞を攻撃する抗体医薬として話題の「オプジーボ」をペプチドで置き換えようと共同研究中だ。オプジーボは点滴薬なので患者は通院する必要がある。ペプチドリームの金城聖文副社長は「ペプチドなら飲み薬になり、患者が家で治療できる」と話す。
がん細胞の表面にあるたんぱく質「PD-L1」が標的だ。ペプチドリームが開発した候補薬は抗体の数百分の1の大きさで、腸で吸収されがん細胞に届く。注射薬として第1相の臨床試験(治験)をすでに終え安全性などを確認済みだ。BMSが今後、注射薬と飲み薬のどちらで開発を進めるかを決める。
またオプジーボは重い肝機能障害や肺炎などの副作用が報告されている。ペプチドは体内で比較的短時間で分解される。「標的以外のたんぱく質には作用しにくく副作用を抑えられる」(金城副社長)点も魅力になるとみている。
膵臓(すいぞう)がん治療用のペプチドを目指すのは、新潟大学の近藤英作教授らとエーザイの米国子会社だ。膵臓がんの細胞の表面に多い受容体に付いて細胞内に入るペプチドに抗がん剤を付ける戦略を立てる。「他のがん細胞に比べ膵臓がんには10~20倍もよく集まる」(近藤教授)作用を確認できた。
膵臓がんの10年生存率はわずか5%と、がん全体の56%を大きく下回る。治療成績を改善できると考えている。
感染症対策にペプチドを使おうとする試みもある。東大の井上将行教授と伊藤寛晃助教らは、耐性菌の出現が問題になっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に強く効くペプチドを3種類作った。既存のペプチド抗生物質よりもMRSAを殺す能力がいずれも4倍高い。「低分子薬が多い従来の抗生物質に比べ細菌を効率よくたたける」(井上教授)
日本の製薬企業は得意の化学合成を生かし1990年ごろまで優れた低分子薬を市場に送り出してきた。2000年代に入ると欧米大手が相次いで投入した抗体医薬が市場を席巻し、医薬品と医療機器の分野の日本の貿易赤字は今や年3兆円に達する。
新薬開発の難易度は増し、1千億円単位の費用と10年前後の期間がかかり、成功率は約3万分の1とされる。低分子薬や抗体医薬に続く第3の医薬品としてペプチド(タンパク質断片)にかかる期待は大きく、日本の製薬が復活するチャンスになる可能性がある。
ペプチド=タンパク質の機能は全体の数%のアミノ酸配列で決まる。(触媒化学)
人間は20種のアミノ酸しか使用していない。
ペプチドはアミノ酸が2~100個程度つながった、比較的小さな中分子化合物である。鍵と鍵穴の関係のよう に、標的とする生体内にあるたんぱく質にうまく結合する(たんぱく質断片)特色がある。
中心的な医薬品に育ってきた抗体医薬と同じ仕組みだが、抗体は遺伝子を組み換えた動物の細胞で培養するなど製造コストが高くなり、巨大な分子で点滴で投与しなければいけないなど課題も多い。
山本尚(ひさし)教授らは7月に「ルイス酸」と呼ぶ触媒を使って不純物が出るのを防ぎ、1回の合成のたびにペプチドの長さを2倍ずつ増やす手法を開発した。64個のアミノ酸がつながったペプチドを作るのに従来は63回もの反応を繰り返さなければいけなかったが、新手法なら6回で済む。国内の製薬企業と協力して新手法を広めていく考えだ。「抗体医薬の次に来るのはペプチドの時代だ」と力を込める。
東京大学発のバイオベンチャー、ペプチドリームと米製薬大手のブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)は、免疫の働きを改善してがん細胞を攻撃する抗体医薬として話題の「オプジーボ」をペプチドで置き換えようと共同研究中だ。オプジーボは点滴薬なので患者は通院する必要がある。ペプチドリームの金城聖文副社長は「ペプチドなら飲み薬になり、患者が家で治療できる」と話す。
がん細胞の表面にあるたんぱく質「PD-L1」が標的だ。ペプチドリームが開発した候補薬は抗体の数百分の1の大きさで、腸で吸収されがん細胞に届く。注射薬として第1相の臨床試験(治験)をすでに終え安全性などを確認済みだ。BMSが今後、注射薬と飲み薬のどちらで開発を進めるかを決める。
またオプジーボは重い肝機能障害や肺炎などの副作用が報告されている。ペプチドは体内で比較的短時間で分解される。「標的以外のたんぱく質には作用しにくく副作用を抑えられる」(金城副社長)点も魅力になるとみている。
膵臓(すいぞう)がん治療用のペプチドを目指すのは、新潟大学の近藤英作教授らとエーザイの米国子会社だ。膵臓がんの細胞の表面に多い受容体に付いて細胞内に入るペプチドに抗がん剤を付ける戦略を立てる。「他のがん細胞に比べ膵臓がんには10~20倍もよく集まる」(近藤教授)作用を確認できた。
膵臓がんの10年生存率はわずか5%と、がん全体の56%を大きく下回る。治療成績を改善できると考えている。
感染症対策にペプチドを使おうとする試みもある。東大の井上将行教授と伊藤寛晃助教らは、耐性菌の出現が問題になっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に強く効くペプチドを3種類作った。既存のペプチド抗生物質よりもMRSAを殺す能力がいずれも4倍高い。「低分子薬が多い従来の抗生物質に比べ細菌を効率よくたたける」(井上教授)
日本の製薬企業は得意の化学合成を生かし1990年ごろまで優れた低分子薬を市場に送り出してきた。2000年代に入ると欧米大手が相次いで投入した抗体医薬が市場を席巻し、医薬品と医療機器の分野の日本の貿易赤字は今や年3兆円に達する。
新薬開発の難易度は増し、1千億円単位の費用と10年前後の期間がかかり、成功率は約3万分の1とされる。低分子薬や抗体医薬に続く第3の医薬品としてペプチド(タンパク質断片)にかかる期待は大きく、日本の製薬が復活するチャンスになる可能性がある。
ペプチド=タンパク質の機能は全体の数%のアミノ酸配列で決まる。(触媒化学)
人間は20種のアミノ酸しか使用していない。