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アニメ及び周辺文化に関する雑感

涼宮ハルヒの撲殺 雛見沢村連続怪死事件(後編)

2006年06月03日 | 雑記
 それはただの始まりに過ぎなかった。
 翌朝、俺が目を覚ました時には同じ部屋で寝ていたはずの古泉の姿が無かった。この時は特に何も考えなかったのだが、ハルヒに声を掛けて警察を呼ぶために近所に電話を探しに向かった俺は、道端で探し当てた公衆電話ボックスの中で古泉が首を掻き毟って死んでいたのを発見した。
 俺は気が動転しながらも、そこにある電話で警察を呼ぼうとしたのだけど、電話は不通状態だった。やむなく近所の家の電話を借りに向かったが、どの家もまるで不在のように閉まりきっていて電話を借りることは出来なかった。
 長門が言ってたように、この村が変なのは確かだ。でも、これがハルヒの意思で改変された世界だとは俺には思えない。とりあえず古泉のことをハルヒに伝えないと……
 俺は急いで前原屋敷に戻ろうとしたが、途中で女の子に声を掛けられた。名前は知らないが、野球をしていた子供たちの1人だ。
「そのバット、無くさないでね」
 バット? 俺はそんなもの持ってないぞ……と思いながらふと視線をおろすと、俺の手にはグリップに悟史と書かれた例の金属バットが握られていた。このバット、確かハルヒが持ってたはずじゃ……
 怪訝に思いながら俺が顔を上げると女の子はどこかに消えてしまってそこにはいなかった。そして、バットには大量の血痕が付着していた。

 前原屋敷に戻った俺を待ち受けていたのはさらに衝撃的な出来事だった。ハルヒはどこかに出かけたのか不在で、そこには撲殺死体となった長門の姿があった。俺が呆然と立ち尽くしていると、そこにハルヒが帰ってきた。
「キョン、あんたいったい何やってるのよ!」
 ハルヒの目には脅えるような非難の色があった。そして、なぜか俺を避けようとしている。
「近寄らないでよ、人殺し!」
 大声で叫ぶハルヒに、俺が長門を殺したと誤解されてることを知った。違う、違うんだ。俺は必死でハルヒの誤解を解こうとしたが、俺の手に握られてる血痕の付いたバットはハルヒを恐怖させるに十分だった。
「あたしはキョンが殺人鬼だなんて知らなかったわ。みくるちゃんを殺したのもあなたね。夕べ、キョンが立ち止まった場所の近くで、みくるちゃんは殺されてたわ……」
 ハルヒは涙を浮かべた怒り顔を俺に向けた。俺は懸命に弁解したが、ハルヒの疑いは収まらなかった。
「キョンが犯人じゃないというなら、そのバット、私に寄越しなさい!」
 俺は言われるままにハルヒにバットを渡した。無論、怒り狂ったハルヒがそのバットで俺を殴ってくる可能性もあったが、それは怖くはなかった。朝比奈さん、長門、古泉の3人が殺されてるという現実、その方がよっぽど受け入れがたく、そんなことを認めるぐらいなら死んでしまいたかったからだ。
 ハルヒと俺は黙り込んだ。明らかにハルヒは俺を警戒していたが、そうかと言って俺から離れて一人にはなりたくない様子だった。時間だけが刻々と過ぎていった。

「こんにちわ~~。お客さん、いますか?」
 沈黙を破ったのは玄関から聞こえた声だった。やがて足音とともに緑髪の少女の姿が現れた。俺たちにこの前原屋敷を紹介してくれた魅音である。
「困りますね、お客さん。最後は2人で殺し合ってくれないと……」
 魅音の顔はたちまち狂気に変じた。ハルヒの背後に立った魅音はポシェットから注射器を取り出すと、それをハルヒの首筋に突き刺した。
「な、なによ、これ!?」
 抗う暇も無いままに注射を打たれたハルヒの様子が明らかに変わってきた。
「フフフ……」
 狂気に変じるハルヒの顔。
 ゆっくりと立ち上がりバットを振り上げたハルヒは……魅音を一撃で撲殺した。
「キャーっ!」
 その後で別の悲鳴が聞こえた。そこには斧を持ったレナが突っ立っていた。ハルヒは即座に突進し、そして瞬時にレナも沈黙した。
「キョン、帰るわよ」
 バットを持ったままハルヒは俺に近付いてくる。
「あたし、気付いたの。この雛見沢村のことを……」
 そう言いながら一歩一歩間合いを詰めて来るハルヒ。
「よ、寄るな! 近付かないでくれ!」
 さっきまではハルヒに殺されたってかまわないと思っていた俺だが、急に恐怖心に襲われ、死にたくないという心が頭を支配した。
「何を恐れてるの。3人を殺した悪魔は退治したのよ。安心しなさい」
 血の滴るバットを引きずってハルヒはどんどん近付いてくる。
「いやだ、俺は死にたくない!」
 いや、確かに3人を殺したのはあの魅音とレナという少女たちかも知れない。しかし、その2人をハルヒが何の躊躇も無くあっさり殴り殺す光景を目の当たりにした俺は、次に殺されるという恐怖心を払うことが出来なかった。それに、さっき魅音に打たれた注射は何だったんだ? ハルヒの様子がおかしいのはあれからだ。
「あのね、オヤシロ様のタタリって本当にあったのよ」
 狂気の笑みを浮かべるハルヒはもう俺のそばまで迫っていた。バットを振り下ろせば届きそうな距離だ。俺はとっさにハルヒをかわし、その場から逃げ出した。
「お願い、キョン。あたしから逃げないで……」
 一度振り返った俺は狂気に笑うハルヒの目から涙が流れたように見えたが、けっして立ち止まろうとは思わなかった。

 それから俺は走り続けた。奇妙なことに、村には誰一人、住人の姿が見えなかった。昨日、子供たちがいた分校にも、巫女さんを見掛けた古手神社にも。それどころか、それらの建物はもう長い間人が使っていないかのように朽ち掛けていた。
 バス停の標識もすっかり錆付いていて、しかも時刻表に記されていた最新のダイヤ改正日は昭和58年4月1日になっていた。バス停の待合所にもうボロボロになった古新聞が置かれていて、それの日付も昭和58年6月23日のものだった。そして、辛うじて判読できる見出しには「雛見沢村全滅!未曾有の大災害」「奇跡の生存者は少年1人」と書かれていた。
 その新聞の脇に1冊だけ真新しい本が置かれていた。どこかで見たような……と思ったら、それは来る時に長門が読んでいた本だった。挟まれた栞を手に取ると、そこにはこう書かれていた。
「この世界はニセモノ。出口はどこかにあるはず」
 それは長門が俺に残したメッセージだった。
 そうだ、外の本当の世界に出られたらハルヒだって元に戻るかも知れない。それにはハルヒも一緒に連れ出さないと……
 俺は再び前原屋敷に駆け戻った。しかし、家の中にはハルヒの姿は無かった。俺は長門の遺体に礼を言い、まだ近くにいるであろうハルヒを探しに飛び出した。
「!」
 俺は玄関の前に人影を見て、慌てて立ち止まった。それはハルヒだった。
「あたしを1人にしないで……」
 ハルヒの目はもう完全に虚ろだった。ハルヒの頭には斧が深く刺さっていて、大量の血液とは別に白い液体が噴出していた。俺は息が止まって、目の前の光景を唖然と見つめるしかなかった。
「2人でどこか別の世界に行きましょ、キョン」
 フラフラとしながらバットを構えたハルヒは、それを俺に向かって振り下ろした。俺はただ自分の意識がだんだんと薄れていくのを感じていた……

      ☆ ☆ ☆

「こら、早く起きなさいっ! キョン!」
 俺はハルヒに起こされる声を聞いて目が覚めた。
「2人だけの世界なんだからもう少し寝かせてくれ、ハルヒ」
 そう言ってそのまま眠り続けようとした俺だったが、ハルヒに蹴飛ばされて目が覚めずにいられなかった。
「何であたしがキョンと2人だけの世界にいなきゃいけないのよ! ボケてないで、さっさと帰るわよっ!」
 ハルヒはそういうと大きな荷物を俺に押し付けた。ハルヒの他にも、殺されたはずのSOS団の3人の姿もそこにあった。
「ここはどこだ?」
 周囲を見渡せば見たことも無い光景が広がっている。そして目の前には大きな湖があった。
「ここは雛見沢湖ですよ」
「雛見沢湖? 村は……雛見沢村はどこにいったんだ?」
 古泉は下を指差した。
「かつての雛見沢村は、今はダムの底です」
 ダムの水はそれほど澄んでなかったので湖底の状況など伺えなかったが、浅瀬になってる部分に鳥居らしきものの一部が見えた。古手神社があった場所かもしれない。
「ネットのガセネタに踊らされるとは、このあたしも不覚だったわ」
 珍しくハルヒの声が落ち込んだように聞こえたのは気のせいだろうか。どうやら俺たちはネットで話題になっていた雛見沢村連続怪死事件の解決のためにハルヒに連れられてやってきたのだが、肝心の雛見沢村はすでにダムの底だったと話らしい。それどころか、昭和50年代に起こったという連続怪死事件そのものがデマだったと話なのだ。
「昭和54年頃にダム建設をめぐって雛見沢村の住民たちが反対運動を起こしていたことは確かなようですが、その後、多額の補償金によって反対派は次々に取り崩されていって、昭和58年にはほとんどの住民が村を出て行ったため、ネットで騒がれてるような怪死事件は起こる余地なんか無かったというのが実情なんです」
 古泉は雛見沢村の顛末を語った。最後まで村に残っていた一部の徹底抗戦派の村民たちも昭和58年6月22日の夜に起こったガス災害事件により全滅。一部の元住民がオヤシロ様のタタリだと騒ぎ出したものの、反対にダム建設は進行し、昭和60年には村は水没したという話だった。
 ダムの一角に雛見沢村ガス災害の犠牲者が祀られていたが、その中には俺の記憶に残る少女たちの遺影もあった。園崎魅音、竜宮レナ……
 いったいあれは何だったんだろうか? ミステリーを欲したハルヒの作り出した世界なのか、それとも今いるこの世界こそが惨殺事件の末にハルヒが作り直した世界なのか? もっとも、あっちでは死んだはずの3人はもとより、ハルヒ自身も何事も無かったような態度だった。もちろん、すべては俺が夢で見た幻だったという可能性が高い。
「夕方も近いし、こんなところにいつまでもぐずぐずしてられないわ。さぁ、さっさと帰るわよっ!」
 そう言って帰り道を指し示すハルヒの手には、例の悟史と名前が書かれた古ぼけた金属バットが握られていた……

(了)

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