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アニメ及び周辺文化に関する雑感

涼宮ハルヒの撲殺 雛見沢村連続怪死事件(前編)

2006年06月03日 | 雑記
「SOS団ミステリーツアー第2弾は、この雛見沢村よっ!」
 俺たちを山奥の辺鄙な村に連れ出してきたハルヒは、視界に開けた民家の点在する村を指してそう言った。
「この村は昭和50年代に謎の連続怪死事件が起きて、それがいまなお解決していないって話よ。SOS団の存在を世間に思い知らしめるには絶好の材料ね」
 いつものようなハイテンションでハルヒはそういうと俺たちを見回した。昭和50年代といえば、今から20数年も昔の話である。そろそろ時効になっててもいい頃だ。事件直後の記憶の生々しい時でさえ迷宮入りしたような難事件が、今頃のこのこやってきた高校生たちに解決できるわけは無いだろ。
 案の定、ハルヒの言葉に朝比奈さんも古泉も困っているようだった。
「どうせまた、おまえが裏で何か仕掛けてるんじゃないのか?」
 俺は前回のミステリーツアーを企画した古泉にそう言って何か情報を掴もうとしたのだが……
「とんでもない。今回は僕も知りませんでしたよ。涼宮さんは目的地すら教えてくれませんでしたからね」
 どうやら今回は完全にハルヒの気まぐれでやってきたらしい。そうなるとハルヒの期待しているようなミステリー的なイベントが起こる確率は現実的にいってかなり低くなるのだか、そうなれば逆にハルヒの意思によってそういうイベントが引き起こされてしまう可能性が高いということである。そっちの方がずっと危険だと古泉は言った。

 永遠に繰り返すかと思った夏休みの最後を抜けて新学期が始まってしばたくたった9月の3連休、いきなりハルヒに召集をかけられた我がSOS団は、目的を告げずに先導するハルヒに引っ張られて、この雛見沢村にやってきたというわけだ。
 麓の興宮町のファミレスで遅めの昼食を取って、日に何本も無いバスに乗って村に着いたのは午後の4時過ぎ。9月と言ってもまだ傾きかけた日差しは強く、森の中からヒグラシの鳴き声が盛んに聞こえていた。
「しかし、何も無い村ね」
 村の中を歩きながら一望したハルヒは退屈そうにそう言った。
「毎年6月に行われる綿流しという祭りが唯一の大きなイベントだそうですから、それ以外の季節だとただの過疎の村ってことになりますね」
 いつの間にそんなこと調べたのか、相変わらずハルヒの機嫌を取るように古泉は話をあわせている。そういえば、麓のファミレスで携帯電話でいろいろ調べ物をしてたようだったな。しかし、その携帯電話もこの雛見沢村では圏外で使えない。もう組織の手助けも借りられないはずだ。
「じゃ、まずどこから調べようかしら?」
 ハルヒはもうすっかり探偵モードである。例によって集合に一番遅くやってきたという理由で荷物持ちをさせられている俺の苦労をよそに、どこか勝手な方向にどんどん進んでいく。
「それじゃ、古手神社はどうですか?」
 用意良く答える古泉。
「綿流しの祭りの中心となる神社だそうですし、連続殺人事件もなぜか綿流しの晩に起ってたということですから、手掛かりが得られる最も有力な場所でしょう」
 こいつが調子よくハルヒに合わせるからどんどんハルヒのペースで進んでいってるような気がするのだが、俺としては調査の前に休憩したいところである。
「大丈夫ですよ。神社というからには木陰があって休める場所があるはずですから」
 古泉はそう言って爽やかな笑顔を俺に向けた。

 古手神社は村の高台にあった。当然、荷物持ちの俺の疲労は加速度的に増大することになり、神社に着いたときはもうへとへとだった。これでしばらく休めるのかと思ったのだが、鬼のようなハルヒは情け容赦が無い。
「ちょっとキョン、あたしたちに休んでる暇なんて無いのよ」
 そのまま神社周辺の調査に連れ出されることになってしまった。
 1時間ばかりあちこち調べまわってた俺たちだったが、いきなりやってきたばかりの余所者に20数年前の事件に関する手掛かりなど見付けられるはずもなく、また神社の人にでも当時のことを聞こうとしたのだが、あいにくと神社にいたのはここの娘さんらしいかわいらしい巫女さんただひとりだった。
「そろそろ日が暮れてくる頃ですし、村の中心に戻りましょうか」
 古泉の提案でハルヒは古手神社周辺の調査を諦めて戻ることになった。いや、村の中心に戻るのは良いけど、今晩の宿はどうするつもりなんだ?
「こんな辺鄙な村なんだから、旅館の1軒ぐらいあるでしょ」
 ハルヒは楽観的だったが、そう都合よく出来てないことを俺たちはすぐに思い知ったのだった。
 俺たちは古い小さな木造校舎の、村の分校らしきところで子供たちがキャッチボールをしてるところを通り掛った。
「君たち、この村に泊まれる旅館あるかな?」
 ハルヒは子供たちに尋ねていた。
「麓の興宮まで降りないと、この村に旅館は無いよ」
 子供たちのリーダーらしき、年長の緑髪の少女が言った。
「仕方がありませんね。麓まで降りますか……」
 古泉がそうハルヒに提案しかけたのだが、それを遮るように少女は言った。
「お姉さんたち、車で来たの?」
 首を振るハルヒ。
「それは困ったわね。今日はもう町に行くバスは無いよ。今から歩いて降りても、途中で真っ暗になって危険だし……」
 なんかとてもまずい状況らしい。
「仕方が無いわね。神社の境内で野宿でもしましょ。ちゃんと人数分の食糧も用意してきたし……」
 やけに重い荷物だと思ったら、そんなものが入ってたのか。
「それはまずいわ。綿流しの夜以外によその人が暗くなってから神社の神域に入ったらオヤシロ様のタタリがあるわ……」
 急に少女の表情が深刻そうに変わった。
「オヤシロ様だかなんだか知らないけど、SOS団がそんな非科学的な原因で神社での野宿を諦めたら名折れよ!」
 ますますやる気を出してる神をも恐れぬ罰当たりなハルヒに、少女がきつくにらみつけた。一瞬、ハルヒがひるんだ。
「そういえば、例の連続怪死事件、この村ではオヤシロ様のタタリだということになってるようですね」
 タタリで連続殺人事件?……なんだかハルヒが望むミステリー的な状況になってきたんじゃないかと俺は感じ始めた。しかし、この時すでに後戻りできない状況になっていたとはSOS団の誰もが気付いてなかったのだ。
「かぁいい!」
 突然、緑髪の少女の背後から別の少女の声がした。
「お姉さんのメイド姿、かぁいい!」
 少女は朝比奈さんのメイド姿に見とれてるようだった。
「魅音ちゃん、あたし、このお姉さん、お持ち帰りするね!」
 少女はそう言って朝比奈さんのメイド服のすそを引っ張る。朝比奈さんはどんな対応をしたらいいか戸惑ってるようすだ。
「あ、そうだ。前原屋敷なら泊まれるよ。ね、レナ」
 魅音とか呼ばれた緑髪の少女はもう1人の少女を見てそう言った。
「でも、その前に……泊めてあげるには条件があるの」
 魅音が出した条件は野球の練習を手伝ってほしいってことだった。ハルヒが二つ返事で引き受けたことは言うまでも無い。

 前原屋敷と呼ばれた建物は村の中心から少し外れた場所に立っていた。築20年以上って感じで、それでも村の中では新しい建物だった。以前、ある事件で所有者の息子が死んでしまい、両親もすぐによそに引っ越して行って建物だけが残ってるという話だったのだが……
「その事件って、連続怪死事件の最後に記されてる、少年による少女2名撲殺後自殺事件のことじゃないですかねぇ」
 仮の宿にたどり着くなり古泉はハルヒの用意してきた連続怪死事件の資料を調べてそう言った。無論、当時のことだから少年による凶悪犯罪も実名報道はされておらず、すべては推測なのだが……
「すると、この家で少女2名の撲殺が行われたって話ね」
 殺人事件が行われた場所だと聞いて朝比奈さんなんかは完全に震え上がって脅えているのだが、ハルヒは逆である。ますます意欲に湧いてきた様子だった。
「この家に泊まることになったのも何かの奇遇よ。天はあたしたちが事件を解決することに手助けしてるのよ。与えられたチャンスは最大限に生かすしか無いわ!」
 ハルヒは手にした金属バットを前に突き出した。おいおい、そのバット、さっきの子供たちのバットじゃないのか? グリップの先に悟史って名前が書いてあるし……
「握り心地が良いから持ってきてしまったみたいね。ま、明日にでも返しに行けば問題ないでしょ」
 ハルヒは悪びれも無くそう言った。
「それより、キョン。交霊術出来る?」
 いきなり何を訊いて来るのかと思ったが、もちろん俺にそんなことが出来るわけは無い。
「残念ね。この家に漂ってる犠牲者2人の霊と話すことが出来たら事件の解決に役立つかと思ったのに」
 そんな20数年前の殺人事件の犠牲者の霊なんて、とっくに成仏してるだろ……というか、成仏してくれてないと困るぞ。
「ま、続きは食事の後にしましょ」
 霊なんて聞いて余計に怖がってる朝比奈さんを有無を言わさず引っ張って、ハルヒは俺の運んできた食材で夕食の準備を始めた。
 とりあえず夕食を終えた後、俺は長門に連れ出された。
「この村、何かおかしい」
 長門はポツリと言った。どうやら長門の生みの親である情報思念体との連絡が、村に入ったとたんにばったり途絶えてしまったというのだ。
「涼宮ハルヒによる世界の変革が始まってしまったのかも……」
 いくらなんでも、まだこの状況でそれは無いだろと俺は思った。この雛見沢村に来たのだっていつものハルヒの気まぐれでやってきた場所にしか過ぎないのだし……
「でも、気まぐれで世界を変えられるのが、涼宮ハルヒ」
 その長門の指摘に、俺は背筋が寒くなってきた。

 激しい物音で目が覚めたのは夜中過ぎのことだった。
「いやぁ! やめて……やめてくださいっ!」
 遠く、恐らくこの前原屋敷の近くで女性の声が……いや、これは朝比奈さんだ。俺は慌てて飛び起きると屋敷から飛び出し、声のする方向に走り出した。すぐ後からハルヒと古泉も追ってきた。
 しかし、俺が懸命に走っても朝比奈さんの声に追い付けない。やがて声が途切れて、追いかける手掛かりは失われた。
「いったいどうしたというのよ?」
 ハルヒは俺をにらみつけるように言った。
「あんたが夜中に突然ドタバタと飛び出していくから付いてきたんだけど、説明しなさい!」
 どうやらハルヒも古泉も朝比奈さんの悲鳴は聞こえなかったみたいだ。俺は朝比奈さんが何者かにさらわれた様子があることを伝えた。
「そういえば、みくるちゃんの姿が見えなかったわね」
 俺たちはこれからどうしようか考えた。このまま知らない土地で夜中を探し回るより、朝になってから警察を呼んだ方が良いだろうということになったのだけど……
 俺たちが前原屋敷に戻ろうとし始めたとき、朝比奈さんの声が消えた方向から1人の人影が歩いてきた。もしかしてと期待はしたのだが、残念ながら朝比奈さんではなかった。夕方、分校で見たレナとかいう少女だった。
「それはオヤシロ様のタタリですよ」
 レナの顔には狂気に似た笑いがあり、その手には血のような液体の滴る斧が握られていた。レナはそのまま通り過ぎていったが、俺たちは背筋が凍り付く思いで何も声に出せなかった。
 まさか、朝比奈さん……俺は最悪の可能性を考えずにいられなかった。

(続く)

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