天使の図書館ブログ

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動物たちの王国【第二部】-28-

2014-04-02 | 創作ノート


「花子とアン」、今日で第3話目となりました。

 ここまででも、花子とアンの間の共通ポイントがたくさんあって、モンゴメリファンやアンファンには興味津々といったところかもしれません♪(^^)

 たとえば、花子の名前は本当は花ですが、第1週のタイトル「花子と呼んでくりょう!」とあるとおり、これは赤毛のアンのアンが、Annではなく、最後にeのつくAnneと呼んで欲しいと言ってるのに当たるのだと思います(笑)

 それと、言うまでもなく朝市くんは「赤毛のアン」におけるギルバートであり、口数の少ない働き者のおじいさんはマシュウ、松本明子さん演じるおしゃべりおばさんはミセス・リンド……といったように、赤毛のアンファンとしては、時々「ふふっ」というか、「ぶふっ☆」となったりする設定だと思います。

 果たして、仲間由紀恵さんの演じる女性が、アンにとってのダイアナにも似た女性なのかどうか、自分的にはその点がすごく気になったり(^^)

 もしかしたら、花子を演じるのが吉高由里子さんということで、長年の筋金入りアンファンにはブーイングがあるかもしれませんが(笑)、女優としての吉高さんのキャラ的なことと、演じられるキャラクターとしての村岡花子像というのは、自分的に切り離して見てる感じかもしれません。

 2チャ○ネルなどはチェックしてないので、そのあたりの具体的なブーイング内容についてはわからないんですけど……自分的に思ったのはまあ、吉高さんって「赤毛のアン」を面白いと思って読みそうにないっていうことだったでしょうか(^^;)

 ここらへんも、吉高さんのインタビュー記事などを一切見てないので、実際はどうなのかわからないんですけど、正直わたしも「赤毛のアン」の良さって最初はさっぱりわかりませんでしたよ(笑)

 どっちかっていうと、鏡に自分を投影して彼女たちに名前をつけてるくだりを読んだだけでも――結構「うえっ☆」てなるタイプでした。たぶん、吉高さんもそっちのタイプっぽい気がするのですが、役になりきる、物語に入りこむためには、そうしたことも理解していかなくてはならない……自分にはよく理解できないものを理解し、その上で演じていくって逆にすごいことなんじゃないかなって思ったりもします。

 なんていうか、そういう<距離感>って実は意外に大切なものだったりして……と思わなくもないというか(^^;)

 やっぱり、最初から「アン大好き」、「子供の頃からの愛読書です」っていう女優さんが演じてたとしたら、ちょっとまた(悪い意味で☆)違ってたかもしれないな……と思ったりもしました。

 村岡先生は、実際にはプリンスエドワード島へ行かれることなくお亡くなりになったそうですが、それもまた凄いことだな~と思ったり。

 というのも、それこそが本当に<想像力>の賜物という気がするからなんですよね(^^;)

 自分の外側に実在するプリンスエドワード島と、心の中に存在するプリンスエドワード島……そのどちらがより素晴らしいのかは、ある種の魂の豊かさを持つ人にとっては問題にならないことなのかもしれません。

 なんにしても、吉高さんがもし「アンは昔から大好きな本です」とかおっしゃってたとしたら、そのギャップはギャップで面白いと思ったりします(笑)

 それではまた~!!



       動物たちの王国【第二部】-28-

「なんだ、唯?もしかしてまだ怒ってんのか。ほーんと、おまえが思ってるようなことは何もないんだって。俺とあいつは同じ穴のムジナって奴で、お互いろくてねえってことがわかってるから、そのろくてねえ部分で連帯感があるっていう、それだけっつーか」

「でもあの人……わたしに、『あたしの翼になんか用?』って」

(あいつ、そんなこと言いやがったのか)

 翼はこの場にいないゆう子に腹を立てつつも、唯のほうに自分に対する愛情が貯水池のタンク並みに残っていると感じ、ほっとした。

「だからさ、なんつーか、その……俺は相当ろくてねえけど、唯にはそういうろくてねえ要素がほとんどないだろ?だからたぶん、俺はおまえのことが好きなんだと思う。前にもこの話、おまえにしなかったっけ?一度おまえのことを諦めた時にさ、俺は自分がそういう人間で、おまえに相応しくないから結局手も出すことが出来ずに終わったんじゃないか、みたいな話」

 唯と翼はそのあと、無言のままエレベーターを降りていったのだが、珍しくこういう場所で彼女のほうから腕を絡めてきたため、翼はこの時にはもう指輪を買うことを考えていたかもしれない。

 そして沈黙のうちにも連帯した感情を共有したまま、翼と唯が玄関口で靴を履き替えていると、ふたりが廊下を通りすぎるのを見た警備員が、しきりと手を振っていた。「先生方、こっちこっち」というように。

「まさか、犯人が捕まったってんじゃねえだろうな」

 唯は隠しカメラのことは翼にも瑞島にも聞いていなかったので、警備室の窓の向こうの座敷に、看護師がふたりいると気づいてからも――特段何も思うところはなかった。

 だが、翼に手を引かれて警備室の畳に上がってみると、そこでは自分の知っている看護師が、ひとりは憤怒の形相で、もうひとりは両手で顔を押さえて号泣しているところだったのである。

「あの、今里主任……」

(お久しぶりです)というのも、何か奇妙な気がして、唯はためらいがちにそう言った。

「あーあ、もうなんでこんなところにふたり揃ってやってくるのっ!!先生、申し訳ないんですけど、先に帰るか何かしてくださいません?」

「いや、そういうわけにもいかねえんだ。唯は隠しカメラを付けたなんてこと、全然知らないもんでな。そっか。次はその医療ゴミを下駄箱に詰め放題ってつもりだったのか。まあ、それならまだ可愛いほうだな。俺はさ、ネズミ、コンドームと来て、次はもっと危険な薬品が……とか、そんなことを心配してたってだけだから」

「わたし、ネズミなんて下駄箱に入れてませんっ!!」

 犯人と思しき看護師――夏目雅が初めて顔を上げてそう叫んだ。ちょうど警備員の吉川が日勤だったため、ネズミをゴミ処理員に託した彼としては、(今さら白々しい)といったようにしか思えない。

 この日、吉川はすでに退勤時刻を過ぎており、窓口には神奈川が夜勤警備員として就いていたのだが――彼はいかにも興味津々といった顔をして、衝立ての向こうから耳を澄ませている。

「あ~、あのさ、一応最初から説明してくれる?お宅らも仕事で疲れきっててさっさと帰りたいだろうし、それは俺も唯も同じなわけ。べつに、その針だらけの医療ゴミが唯の下駄箱に詰まってたんだとしても、そのことをしつこく吊るし上げて断罪したりもしない。ただ一言……あんた、夏目ちゃんって言ったっけ?こいつにあやまってくれりゃそれでいいわけ」

 ここまで来てようやく、唯にも話が見えてきた。隠しカメラ云々ということは、そんなものがいつの間にか仕掛けられていて、それで彼女が――夏目雅が下駄箱に悪戯した犯人だとわかった。そして吉川が現行犯逮捕したのだろうが、夏目がただ泣いてばかりでどうしようもない。そこで今里主任が呼ばれた……なんとなく漠然と、そんなふうに点が線で繋がる。

「部下に対するわたしの、監督不行き届きです……なんていうのも、おかしいわよね。ほら、夏目ちゃん。ネズミと避妊具のことはともかく、羽生さんの下駄箱にゴミを入れようとしたのは事実でしょ?せめてそのことだけでも、羽生さんにあやまりなさい」

「あ、あの……べつにもういいです。夏目さんも反省してると思うし、こういうことが二度となくなってくれれば、わたしはそれだけで……」

「そういうわけにもいかないでしょ」と、溜息を着いて今里。「ほら、夏目ちゃん。あなたが社会人としてきちんと一言あやまってくれないと、わたしもここにいる人たちもみんな、帰れないままなのよ」

 夏目はそれでもまだ暫くの間、ひっくひっくとしゃくりあげていたが、ようやく意を決したのか、顔を両手で覆ったまま、ぽつりぽつりとこう言った。

「べつにわたし、羽生さんに対して全然悪いと思ってません。だからあやまりたくありません」

「夏目ちゃんっ!!」

 今里は外の寒い廊下と違い、熱気のこもっている警備室で顔を赤くしていたのだが――そこにますます朱が差したような顔色になる。

「あなたねえ……」

「だって、主任だって言ってたじゃないですか。オペ室に異動になったのに、どうしてたまに十三階に来るのかしらって。他のみんなも言ってましたよ。結城先生とおつきあいしてるのを見せびらかしたいんだろうって」

 今度は唯の顔が赤くなる番だった。月に一度くらいではあるのだが、翼が澤龍一郎の相手をしに特別病棟へ行くことがあり、唯はそういう時に12号室の昆飛鳥、13号室の大林智子、15号室の大野翔平らの様子をちらと見たり、話をしたりすることがあった。

「ち、違うのよ、羽生さん。わたしが言ったのはね、オペ室の仕事で忙しいだろうにっていう意味で……」

 ここで夏目は、まるでようやく本性を表したというように、「あはははっ」と笑った。血走った目に、涙だけはまだ浮かべたままで。

「あんたのいい子ちゃんの演技には、ほとほと腹が立つのよ。ついでだから教えてあげようか?あんたがうちの特別病棟に来た時から、あたしはあんたが大っ嫌いだったのよ。結城先生がどうこういう以前の問題としてね。『翔平くん、経管栄養のお食事おいしい?』ですって?あんた、馬鹿じゃないの。相手は植物人間なのよ。それなのに、あなたもこのくらいのことはすべきだっていう感じで、わたしの前で理想の完璧看護みたいのを見せつけてくれちゃって……でも、そこまでなら別にどうってこともなく良かったわよ。あんたはすぐオペ室に異動になって、目障りなゴミがいなくなってああせいせいしたって、あたしもそう思っただけだから。だけど、なんでまた十三階にのこのこやって来るわけ?それも、エレベーターの前で結城先生といちゃいちゃしたりして……あんた、特別病棟にいた時にみんなが話してるのを聞いて知ってたでしょ?あたしが結城先生のこと好きだって、知ってたわよね、ねえ!?」

 夏目はそこまで一気にまくしたてると、両手で顔を覆ってわっと泣きだした。流石に自分の部下が不憫になったのか、今里が彼女の肩にそっと手をかけて慰める。

「結城先生、それと羽生さんも……今日のところはとりあえず帰ってもらえますか?彼女のことはわたしがなんとかしますから……」

「ああ。なんか悪いな、今里主任。唯、おまえもほら、こっち来い」

 翼がそう言って、隣の唯の腕を引こうとしたが、彼女はその手を突っぱねていた。

「あはははっ!!そうよ、夏目さん、あなたも随分馬鹿なのね。わたし、あなたが結城先生のこと好きだって知ってたわ。だからオペ室に異動になったあと、うまいこと結城先生とくっついたのを見せつけるために、特別病棟に何回もいったの。その度に「ざまあみろ、結城先生はわたしのものよ」と思って、内心ほくそえんでたわ。大体あなた、普段の勤務態度からしてなってないのよ。いかに楽をしようかさぼろうかって、そんなのが見え見えの勤務姿勢なんですもの。だからあんまり腹が立って、もっと仕事しろって意味もこめて、色々見せつけるようにあたしは一生懸命働いたのよ!!」

 唯のこの発言には、一同が唖然とした顔になった。もちろん、翼にも今里にも、これが唯の本音でないとわかってはいる。だが、唯の本当の性格を知らない人間がただ通りすがりに聞いたとすれば、これが彼女の腐った性根なのだろうと思われかねなかった。また、そのくらいの凄まじい剣幕でもあったのである。

「せっかくあたしは可哀想な純度百パーセントの被害者だったのに、あんたが素直にすぐあやまらないせいで、こんなことになっちゃったじゃないの!!夏目さん、悪いけどもう謝罪の言葉だけじゃ足りないわね。そのうち金券でも持って、あらためてきちんと償ってちょうだい。いいわね!?」

 唯は畳から立ち上がり際、そう夏目に言い残して警備室から立ち去っていた。その後ろ姿を翼が慌てたように追いかける。

「わたし、男の人なんて嫌いっ!!」

 職員玄関から外に出たあとも、唯はそんなふうに叫ぶのをやめなかった。

「みんなから仲間外れにされるし、ごはん作っても当たり前みたいな顔して後片付けもしないし、よくわかんない女の人が部屋の前に立ってるし……結城先生なんて、結城先生なんて……」

「うん、ほら。俺もどうしようもねえけどさ、これからは茶碗洗いくらいするから許せって」

 堰を切ったように泣きはじめる唯のことを抱きしめて、翼は病院の駐車場で、こんなふうに続けた。

「さっきおまえ、よく言ったよ。あれでもしあのまま……あの子の言ういい子ちゃんの演技を唯が続けてたら、あの夏目って子も立つ瀬がなかったろうからな。そういうの、今里さんにもあの子にもちゃんと伝わったと思うし、俺もこんなことして悪かったよ」

 翼の言う「こんなこと」というのは、唯になんの相談もせず、隠しカメラを設置したことではない。単に、翼にはこの瞬間初めてわかった気がしたのだ。唯が何故暫く口も聞いてくれないくらい怒ったのかということが……当然、オペ室で力を持っている辰巳や今川らが唯に聞こえよがしのあてこすりを言うらしいとは翼も知っていた。けれど、問題の本質というのだろうか、そういうものに自分がまったく気づいていなかったと初めて気づいていた。

 唯が自分とつきあうことで、どのくらいの無意味な代償を払っているか、また当の翼はといえばそんなことも自覚せず、毎日上げ膳据え膳が当たり前の生活を送り、また時には見知らぬ女性が部屋の前に立っていても看過せよと強要される――そんなことは自分が逆の立場だったとすれば、とっくにブチ切れていて当然だとも思った。

「でもまあ俺、料理は出来ねえからな。かわりに今日はさ、なんか美味いもんでも奢ってやるから、それでいいだろ?」

 レディファーストとばかり、翼は助手席側のドアを開け、そこに唯のことをまるでお姫様を扱うように恭しい態度で座らせる。

「べつに、ごはんはわたしが作るからいいの。後片付けもどうでもいい。でも、結城先生は肉ばっかりじゃなく、もっと野菜やお魚も食べないと……あと、煙草はやめるか、本数を減らして。それとビールやワインも一日の摂取量を少なくするの」

 唯がまるで、精神病患者が独り言を呟く時のようにブツブツ言ったため、翼もまた特に異論を唱えるでもなく「うんうん、わかったよ」と素直に応じた。

 惚れ直したという言い方はおかしいのだが、翼としては何やらこの時そんな気持ちだった。もっともこの時偶然警備室を通りかかり、唯が怒鳴っている声と、その後ふたりが駐車場で抱きあう姿を物陰で見ていた辰巳笙子は――そんな翼のことを「なんてだらしない男」と思ったようである。

 辰巳笙子は結城医師に対し、外科医としてある一定の敬意を持っていた。というのも、彼が他の外科系医師以上に、「仕事が出来る」ということについては、辰巳らオペ室の局ナースにプロフェッショナルとして高い評価を与えていたからである。ところがその彼が、ちょっと若くて可愛らしいだけのナースを「可愛こちゃん」などと呼び、デレデレしながら休憩室へやってくる……辰巳はそのことについて、深く失望していた。

 といっても、辰巳の場合は夏目雅の場合と違い、結城医師に仄かな恋心を抱いていたわけではまるでない(一見ホストのように見える男など、彼女の趣味ではまったくなかった)。ただ、職場に色のついた感情を持ちこむつもりなら、それ相応の代償を支払えと言いたかっただけである。

 だがこの日、辰巳は翼と唯の関係性が自分が想像していたのとはまるで違うらしいと感じて、おかしな話、溜飲を下げていた。そしてこの日以降、辰巳と今川と幸谷らは、唯に対し当てこすりを言うのをやめるようになっていく。代わりに「滅菌洗浄室の白ブタは、一体いつになったら元気になるのかしらね?」と、休憩室ではおもにそんなことが話されるようになった。



 >>続く。





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