天使の図書館ブログ

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動物たちの王国【第二部】-29-

2014-04-03 | 創作ノート


 今回も特に書くことないので、「赤毛のアンの一体どこがいい?」ということについて、少し書いてみようかな~と思います。

 わたしもどっちかっていうとたぶん、アンについては最初アンチだった気がするんですけど(笑)、にも関わらず何故今ではこんなにファンなのかといえば、それは一も二もなくアニメの影響なんですよね(^^;)

 確か第47話の「死と呼ばれる刈入れ人」だったと思うんですけど、大号泣しました

 高校生くらいの頃だったんですけど、アニメを見てあんなに泣いたのは生まれて初めてのことだったと思います。

 そんで、アニメって結構中途半端(?)なところで終わるじゃないですか(笑)

 そのあとわたし、アンとギルバートがどうなったのかが気になって気になって仕方なくなり……今度は原作のほうを読んだんですよね

 まあ、アンとギルバートのその後が気になるっていうことなら、第3巻の「アンの愛情」くらいまで読めば大体満足する感じかもしれません。

 でもでも、お話の中ではふたりの結婚後のことや、子供の物語についてまで語られていて――いやいや、10巻の「アンの娘リラ」まで読み終わるのは、わたしの中でかなり速かったですよ(笑)

 そして今度はアンシリーズ以外のモンゴメリのお話を読むようになり……エミリーシリーズやパットお嬢さんなど、村岡先生の訳があるのは村岡先生訳のものを、ないものについては他の訳者さんの方のものを……という感じで、大体のところほとんど読んでいると思います。

 さらにその後、NHKでやってた「アボンリーへの道」というドラマを見てすっかりファンになり、こちらも原作のほうはすべて図書館から借りてきて読みました。

 他にも、アンとかモンゴメリという名のつくものは、とりあえず目につけば買ってみたりなんだりで、アンやモンゴメリに関する本については割と読んでるほうだと思います(^^;)

 アンの何がこんなにファンを熱狂させるのか――それは正直なところ、「わかる」人にはわかるけど、「わからない」人にとっては永遠にわからない謎みたいなものかもしれないなあ……という気がしたり。

 なんにしても、NHKで花子とアンが放映されることで、また別の形で「アン・ブーム」が起きるとしたら、自分としてはとても嬉しい限りです♪(^^)

 今日の第4話は何やら、一部「進撃の巨人」っぽかったですが(笑)、花子のかわりにまさか、兄やんが奉公へ行くことになるとは……ここも、「男の子と間違えられて女の子がもらわれてきた」という、アンのエピソードに重なるところですよね。

 さてさて、明日の第5話ではどんなことになるのでしょうか。

 ごきげんよう、さようなら(美輪さんの真似・笑)。

 それではまた~!!



       動物たちの王国【第二部】-29-

 色々なすったもんだがあったあとの、翌週の月曜日、唯が少しばかり気恥かしい思いで警備室の前を通りかかると、吉川は唯が挨拶するなりニカッと笑っていた。そしてカラカラと窓を開け、手招きしてこう言う。

「あんたはいい人だよ。だから、そんないい人には飴ちゃんをあげようね」

 吉川はそう言って、唯の手のひらに二粒のニッキ飴を渡して寄こした。そしてまた吉川が二カッと笑うと、彼の歯と歯の間には、茶色い飴が挟まっているのが見える。おそらく、同じように勤務中にでもこっそりなめろと言いたいのだろう。

「おはようございます」と、彼が他の病院職員に挨拶するのを見ながら、唯はこの時温かい思いで下駄箱の口を開けていた。

 こういう時、本当に唯はつくづくと感じる。(人間って、いいものだな)と……。

          

 ――その後、やはり唯は夏目雅より謝罪を受けるということはなかった。

 だがそれは、彼女が辞職することで謝罪の代わりとしたから、ということではなく、夏目雅は今も十三階の特別病棟にいる。もっとも、夏目としてはすっかり病院を退職するつもりでいたらしいのだが、今里がそんな彼女に対し、こう一喝したらしい。

「あんた、なんで羽生さんが柄にもなくあんなことを言ったと思ってるの!?全部、あんたのためじゃない。羽生さんはあのまま、「なんて可哀想な被害者のわたし」って顔して、結城先生に肩を抱いてもらって帰ることも出来たのよ。それでもどうしても辞めるっていうんならね、最低でも二か月後にしてちょうだい。次の人間が来て、きちんと引継ぎしてから辞めるっていうのが、責任感ある社会人のすることでしょうよ」

 結局、二か月後などと言われてしまえば、その頃には最初に感じた気まずさもすっかり薄らいでしまうだろうと、そう夏目は思った。第一、他の総合病院の病棟に比べれば、K病院の特別病棟のほうが夜勤を含め勤務自体が相当楽なのである。

 そこで夏目は、今里に頼んで特別病棟のカンファレンスルームで唯と一度だけ話をするということにした。そして夏目は唯がそこにやって来る前までは、確かに彼女に対し謝罪しようと心に決めていたのである。

「あら、夏目さん。随分遅くなったけど、ようやく金券の用意ができたみたいね」

 ――その瞬間、夏目にはわかった。唯のほうでは謝罪の言葉などもはや必要なく、まるであてつけるように退職するでもなく、今もK病院に自分が留まっていることのほうが彼女には大切なのだということが。

「べ、べつに。あたしはあんたにやる金券なんて持ち合わせがありませんからね。ただ一言、親切心から馬鹿なあんたに忠告してやろうと思っただけのことよ」

「ふうん。それで仕事のほうはちゃんとやってるの?」

「……やってるわよ」と、誰もいないカンファレンスルームで、夏目はぶすっとして言った。「大体あんた生意気よ。年だってあたしよりひとつ下のくせして」

「看護に年はあまり関係ありません。ベテランでもね、うまく手を抜くコツを知ってる人と、ただ惰性でだらしなく仕事する人に違いがあるようなものよ。それで?夏目さんが老婆心からわたしに忠告したいことって?」

「老婆心じゃなくて、親切心!!」

 ホワイトボードの前に並んで腰掛けながら、夏目と唯は大声で笑った。日除けのブラインドの向こうからは、冬の澄んだ日差しが斜めに差している。

「んーとね、その……例の避妊具のことなんだけど……」

「はいはい、コンドーさんのことね。よく考えたらあれ、まとめ買いか何か?あれだけ注文するっていうのも、結構恥かしい気がするけど」

「うるさいわねっ!!ネットで注文すれば恥かしいも何もないわよ。それより、あれと医療ゴミをあんたの下駄箱に詰めたのは確かにあたしだけど……警備員のおっさんが話してたネズミに心当たりはないわ。ね、わかるでしょ?話としては、ネズミ、コンドーム、針いっぱいの医療ゴミときたら、自分がやってないって言い張りたいのは絶対コンドームよ。でもあたし、ネズミにはまったく心当たりがないの。ということはよ、あんた、わたし以外にも絶対誰かの逆恨みを買ってるってことよ」

「ふうん。夏目さんが自分から逆恨みって認めるなんてね。明日はメロンが降ってきそう」

 唯はそう言ってポケットからメロン味のキャンディを取りだすと、夏目に手渡した。夏目のほうではとらやの最中をポケットから出し、トレードするように渡している。

「あら、キャンディ一個が最中になったわ。なんだかわらしべ長者みたい」

「わらしべ長者って、あんたねえ……」と、夏目はキャンディを口の中に放りこんで言った。「何のんきなこと言ってんのよ。まあ、その最中の中には針も毒も入ってないから、安心して食べるといいわ。にも関わらずあんたが食中毒起こしたら、それは7号室の敦賀さんのせいだと思って。安藤さんのあとに入ってきたあのバアさん、元は老舗旅館の女将さんだったんだって。なんかやたら腰の低い人で、トイレ介助を一回するごとにお饅頭やらジュースやら、色んなものをくれるの。実際は結構迷惑なのよね。自分の気を済ませたいがためだけに色々くれるのは有難いけど、結局その度に押し問答になるじゃない。「病院の規則でこういうものはもらっちゃいけないことに」、「いやいや、黙っときなさい、黙っときなさい。したらわかんないっしょ」……なーんか、むしろ無駄に疲れるのよね。わたし、もともと和菓子とかあんまり好きじゃないし、どうせならアップルパイみたいな洋菓子系のものをくれるといいんだけど」

「べつにいいじゃない」と、唯も笑って最中を食べた。「部屋に入っていくたびに、「おまえの顔なんか見たくない」ってお饅頭投げられるよりは。あと、わたしが看護実習に行った時、チクリ魔で有名なおばあさんがいたっけ。その時は「ありがとう、ありがとう」って言ってくれるんだけど、あとから家族経由で職員に苦情が行くっていう。なんでかっていったら、そのおばあさん元は看護師で大きな病院の師長もやってたことがあったらしいの。だからやたらと「あれが出来てない」、「これも出来てない」って目に付いて仕方ないってことだったみたい」

「そうよねえ。看護師とか、医療者が看護される側になると、結構不幸よね。だって、大抵のナースには裏表があるじゃない。患者の前ではニコニコ顔でも、休憩室では煙草スパーッと吹かして患者の悪口言いまくるとかね。そういうのを一度知っちゃうと、病院なんか二度と来たくもないって思っちゃう」

 夏目がそう言って溜息を着くのを見て、唯は初めて、彼女も色々あったのかなと思う。今にして思えば、自分はある意味運が良かったのだろうと唯は思っていた。そうでなければ今ごろ、人間関係で看護現場に幻滅した仲村哲史のようになっていたかもしれないし、いくら仕事を頑張ったところで虚しいと、そんなふうに感じるようになっていたかもしれない。

 ほんのちょっと縦の糸と横の糸が狂ってしまっただけで――「こんなはずじゃないかったのに」という絵が、人生では簡単に浮き上がってしまうものなのだろうから……。

「ああ、そうそう。そんなことよりもあんた、下駄箱に細工した犯人が見つかって良かっただなんて、これで安心したりしちゃ駄目だって話をあたしはしたかったのよ。何しろ入ってたのはネズミの死骸よ?あんたにしてみりゃ、それをわたしが言うなって感じでしょうけど、ちょっと陰湿よねえ。神経疑っちゃうわ。自分の家にネズミホイホイを仕掛けておいて、それに捕まった哀れなネズ公を病院まで持ってきたのかしら」

「ネズミホイホイって……」

 夏目があんまり真剣な顔をして言うので、唯はどうにか笑わずに済ませようとしたが、やはり堪え切れず爆笑してしまった。

「何よっ!!そりゃ羽生さんにしてみれば、コンドームも針だらけの医療ゴミもどっこいどっこいでしょうけど、ネズミの死骸だって実際結構なもんよ。わたしのおばあちゃん、かなりのど田舎に住んでるんだけどね、そこの家には時々ネズミが出るの。で、大抵は飼ってる猫がうまいこと始末してくれるんだけど、ネズミ算って言葉にあるとおり、あいつらってどんどん増えてくじゃない。だからあんまり大量発生すると、屋根裏あたりでネズミホイホイに引っかかる馬鹿なのがたまにいるのよ。あ、でもそんなこと言ったらわたしも似たようなもんか。隠しカメラが仕掛けられてるとも知らず、のこのこ同じことをまた繰り返すなんて」

「そのことは、悪かったわ。実際、夏目さんも陰湿かもしれないけど、そんなことまでしたらわたしだって似たようなもんだものね。このことは夏目さんだから話すんだけど……ノロケてるとか、そういうことじゃなく、結城先生とつきあうのって、実際結構大変なのよ。外から見たらあんな格好いい人とつきあってって思われるかもしれないけど、逆にいったらたったそれだけのことのために同僚に嫌われたりとか、意地悪されたり……なんか面倒くさいの。それに、結城先生にそんなこと言っても、「女っていうのはこれだから」みたいに言うだけで、実際はいまいちよくわかってないのよね。着てる服がダサいとか、思ったことはすぐ口に出して言うし、それでこっちが傷ついてるとか想像しないし、「もしかしてこの人、実は自分のことしか頭にないのかしら」って時々思うくらい。もちろんそんなことはないんだけど……あんまりずっとそばにいると、そういう距離感がだんだんわからなくなってくるの。でもこんなこと、結局誰にも相談できないじゃない?そんなこと言ってみたところで<あの>結城先生とつきあってるんだから、そのくらい当然でしょって思われそうだし……」

「ふうん。あんたも結構大変なのね」と、夏目は親しみをこめて笑った。自分とはまるで感じ方の違う唯のことが面白かったのである。「まあ、心配しないでよ。わたしの結城先生に対する気持ちっていうのは、アイドルに憧れる乙女と同じようなもんだから。ただね、アイドルっていうのは遠いところにいる存在で、いつまでも永遠に自分の王子さまだったりするじゃない?ところがその存在がよ、自分の職場の大っ嫌いな芋女とくっついたりしたら……そりゃあんた、ちょっとはどうにかしてやろうと思うのが人情よ。テレビで記者会見して、超綺麗なモデルか女優とでもくっついたっていうんなら話はわかる。けど、こう言っちゃ悪いけど、あんたとあたしで一体何がどう違うのって最初は思ったの。つまり、あたしにも何かちょっとうまいこと出来るきっかけかチャンスがあれば、今結城先生の隣にいるのはあたしだったって、そう思ったわけ」

<大っ嫌いな芋女>と言われ、流石に唯も少しばかり傷つく。

「あー、もうそんな顔しなさんなって。結城先生があんたに「だっせえ格好しやがって」って言ったとしても、そんなの、実際大したこっちゃないのよ、たぶん。あたし、あんたに特別病棟の看護師が結城先生とつきあってるのを自慢したいんだろうみたいに言ったって言ったけど、あれも実際大したことじゃないわけ。っていうか、あの時あたしが言ったのとはニュアンスが違うっていうか……みんな、あんたがいなくなって以来「あんなに熱心な人がいなくなって残念だ」ってあたしに当てこするみたいに言うもんだから、それでちょっと悪意のこもった言い方になったわけよ。でもね、今はもちろんわかってる。結城先生は頭のいい人だから、あんたがいい子ちゃんぶってる姿が偽だったり偽善だったりしたら、当然すぐわかっただろうし……そういうアピールなら、腐るほどされてきたでしょうからね。でも、誰かに対して嫌な気持ちを抱くと、大抵まわりが見えなくなって視野狭窄になるわけよ。で、そのうちなんでもかんでも悪いほうに悪いほうに考えるっていうか。それで最終的にあたしの中であんたは、最初はそれほどでもなかったのにどんどん嫌な女に思えてきて、あんたとは全然別の人間として憎むようにすらなったわけ」

 ここで今里がドアをノックし、「悪いんだけどもうそろそろ仕事してくれないかしら」と厳しい顔で言ったため、夏目はその場から立ち上がることになる。

「あー、なんかまだちょっと話したりないから、羽生さん、あとであたし、あんたに電話するわ。番号教えてくれる?」

 唯は特に何か警戒するでもなく、ポケットからメモ帳を取り出すとそこにさらさらと番号を書いた。

「え?あんたまだスマホじゃないの?参ったわねえ。長話したら結構料金かかっちゃうじゃないの。あー、いいのいいの。あたしもあれだけのことしたんだから、あんたに電話料金まで負担させようなんて思わないし。じゃ、あとでね」

 どこかすっかり吹っ切れたというような顔をして、夏目はカンファレンスルームから出ていこうとしたが――最後にくるりと振り返ると、どこか不適な顔をしてこうつけ加えた。

「結城先生にさ、あんなに惨めに泣かせて悪かったと思うんなら、誰かいい男でも紹介してって言っておいて。それじゃあね」

 唯は白いホワイトボードに会議用の白い机、それに白いブラインドに白い壁――と、全体に白を基調とした部屋にひとりぽつんと残されて、何故だかとても不思議な気持ちになっていた。

(あんな形で犯人のわかったことが、果たしていいことだったのか)と最初はそう思っていたけれど、今では被害者の自分より、加害者である夏目のほうがよほど生き生きとした顔をしているのである。

 そのことに唯は一瞬唖然として、それから少しおかしくなった。確かに、夏目が嫉妬に狂った気持ちが今では唯にもわかる。何故といって夏目雅は美人だし、それだけじゃなく、こうして本音をぶつけて話しあってみると、性格が翼にどこかよく似ているのだ。

(ぽんぽん歯切れよく物を言うところとか、自分が言ったことに責任を持たないですぐ忘れちゃうところとか……夏目さんが結城先生とつきあってたら、もしかしたらそれはそれで馬が合ったのかも)

 そう考えて、唯は少しだけ寂しい気持ちになる。夏目雅のように自分を憎んでいる人間が、誰かもうひとりいる――そして夏目は「そんなの大したこっちゃないのよ」という言い方をしたが、彼女が自分の立場ならばおそらくそうだっただろう。結局のところ、相手が何をどうしようが現実問題として結城先生とつきあっているのは自分なのだし、愛されているのも自分のほうなのだから、と……。

(そうなのよね。わたしも結城先生に対して自信を持ってそう言えたら……)

『俺はいつでも、誰か別の女とつきあうことも出来れば、結婚することも出来る』などと、翼が口に出して言ったことは一度もないにしても、そう言われているも同然であることを思うと、唯は心が暗くなった。これからも常に勝つのは一方的に彼のほうで、何がしかの犠牲や代償を支払わなければならないのは自分のほうだということになるだろう。

 もちろん、そうした犠牲や代償を補ってあまりあるものを翼が与えてくれるとはいえ、「いい男」とつきあうということは、それに見合うだけのものを要求されることが前提なのだと、唯はこのごろ気づくことが多かった。

(わたし、英語も全然しゃべれないし、スポーツのほうも運動神経があまり良くないし……)

 唯はブラインドの隙間から、雪の残っている病院の中庭を見下ろし、以前翼にスキーへ連れていってもらったことを思いだしていた。家が貧乏だったから……というのはただの言い訳にしか過ぎないにしても、唯がスキー靴などというものを履いたのはその時が初めてだった。

「それにしてもおまえ、ひでえ運動神経だな」

 あまりにも唯がすぐすっ転ぶため、翼も最後にはすっかり呆れるほどだったが、唯の中で何より問題だったのはこの時、そのせいで彼がせっかくの休日を全然楽しめていないということだった。

 夜には、そのスキー場に付属している山小屋風のコテージで、暖炉の火を見つめながらロマンティックに過ごしたとはいうものの――おそらく翼にとってはそれが「普段割を食わせていることへの礼」ということなのだろう。

 また、こんなこともあった。翼が通っている会員制の高級スポーツクラブには、屋上に温水プールがあって、高校の時水泳部だったという彼は、時々そこへ気晴らしをしにいくという。

「なんだ唯、おまえ。それ、スクール水着かなんかか」

 唯はそれ一枚しか水着などというものは持っていなかったのだが――「よし、今度俺が適当なのを買ってやる」などと言われても、唯は全然嬉しくなかった。何故といって周囲の女性たちの視線が彼の体に集中していることがわかっていたし、実際更衣室では「あんなに格好いいわりに、隣に連れてる女は大したことなかったわね」という声も聞いた。

 唯はその時にもまったく思ったものである。おそらく結城医師は、自分がちょっと引っ掛けようと思えばいくらでも女性を選べる立場の男性であり、そんなふうに女性をとっかえひっかえしながら人生を送るのがベストであって……今は確かに自分とつきあっているにしても、暫くすれば浮気の虫が騒ぎだし、「なんで俺こいつと一緒にいるんだっけ?」という眼差しで隣の女を見はじめるのではないかと。

 そんなことを思って唯はこの時、胸の奥から苦しい溜息を洩らしたが、結局のところそれでいて同時にわかっていた。こんなにも彼に心も体も支配されてしまった今では、自分の意志で翼から離れるということなど、到底できないということを……。



 >>続く。





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2 コメント

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同志発見~! (千菊丸)
2014-04-04 12:50:46
わたしも、中学のときに「アボンリーへの道」の原作本を学校の図書室で全巻読んだ事がありますし、ドラマもリアルタイムで観ていました。

朝ドラ、面白くてつい観てしまいます。
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Unknown (ルシア)
2014-04-04 16:50:51
 千菊丸さん、こんにちは~♪(^^)

 わたし、実をいうと「アボンリーへの道」は再放送というか、たぶん再々々放送くらいのを見てファンになりました(笑)

 アニメのほうもリアルタイムじゃなくて、再放送だったんですけど、どちらもアニメ・ドラマとして物凄く質が高いので、これから十年後に見ても二十年後に見ても、同じように感動するだろうなと思っています

 実をいうと、「アボンリーへの道」は最初、読むのに少し抵抗があって(笑)なんでかっていうと、モンゴメリ本人が書いてるわけじゃないし、モンゴメリの小説の枠を借りたオリジナル……という部分で、ちょっと読もうかどうしようか迷ったという(^^;)

 でも、偶然ドラマ見たら物凄く面白くって、「なんだこれは!なんだこれは!!」という感じで、あっという間に全巻読破してました(笑)

 だから朝ドラも、もうほんと、毎日見るのが楽しみです♪(^^)

 つい先日、某本屋さんで「アンのゆりかご」が平積みになってたんですけど……買おうかどうしようか凄く迷いました

 でもこれ読んじゃうと、ドラマの先がわかっちゃいそうだから、もうちょっと我慢してみようかな、なんて(笑)

 わたしも他に同志の方がいて、とても嬉しいです~

 千菊丸さん、コメントありがとうございました

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