天使の図書館ブログ

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動物たちの王国【第一部】-14-

2014-02-01 | 創作ノート
(今回の参考図書(というかDVD☆)といってもわたし、中見たわけじゃないですけどね。単に壇蜜さんがあんまり美しかったので・笑)


 前回が短めだったかわり、今回はちょっと長めかなって思います(^^;)

 なので、前文のほうは短めに……と思うんですけど、脳死のことに関連して少し書きたいことがあるものの、それ書くと長くなってしまうので、とりあえずこれから前文に書こうと思ってることについて。

 え~と、お話の中で結構「植物状態」とか「植物人間」という表現を使ってるかなと思うんですけど、正しくは「遷延性意識障害」としたほうがいいのかなとは思っています。

 そして一口にこうした一般に「意識がない」といったように言われる患者さんでも――患者さんよって置かれた状態や病状などが、それこそ多種多様だと思うんですよね。

 なのでまあ、わたしが以前書いたことがすべての<遷延性意識障害>の方に当てはまるわけではない、というか。

 わたしが書きたいのはこのことと、あとは頚椎損傷の方のお話、またこのふたつのことに関連して、再び脳死ということについて……といったところでしょうか。

 本当は第一部が終わった時にでも、第二部がはじまる前にあとがき的記事としてそうしたことを書こうと思ってたんですけど、なんか↓の話のほうがさっぱり進んでなくてですね(汗)、ここからようやく少しは恋愛小説ぽくなってきたかなって思うんですけど、前文で書くこと特にないなー☆という部分もあり、先に少しずつ書いていってみようかな、なんて(^^;)

 いえ、コスメ関係のこととか、最近Hulu見まくってるとか、くだらないネタならいくらでもあるものの……そういうこと書いちゃうと、「こいつこんなだから表現がいい加減なんだな☆」とか思われそーだなというのがあり。。。

 なんにしても、そこまで書いても前文で書くことがなくなったら、「このコスメは良かった」とか「ゴシップガール」のこととか、色々書くやもしれませぬ(笑)

 それではまた~!!



       動物たちの王国【第一部】-14-

(やれやれ。まったく馬鹿だなあ、あいつも)

 翼は病棟を一通り見て歩き、全体として落ち着いていることを確認すると、医師の仮眠室兼休憩室となっている場所で、ソファにごろりと横になった。

 兵士宿舎は二部屋あって、そのどちらにも二段ベッドが左右にふたつずつあるのだが、片方の部屋には机や本棚などが置かれ、もう一方にはソファと小さなキッチンが付属になっている。

 翼は今、ソファベッドにもなるソファに足を伸ばしながら、売店で売れ残ったサンドイッチと焼きそばパンを頬張り、保温されているコーヒーをがぶ飲みしたばかりだった。

 堀田師長の整理整頓・清掃の魔の手はここ、男の園であるはずの兵士宿舎にも及んでおり、本棚や机上のものはきっちり整理され、二段ベッドのほうは寝具類が交換された上、消毒薬がスプレーしてあった。

 もっとも翼自身がその現場を目撃したというわけではないのだが(その日翼は非番だった)、大河内や堺、松本らの話によると、堀田師長はおとついの午前中にふたつの兵士宿舎に突撃して来、男どもの腐臭漂う室内を清掃員に命じ徹底的に掃除させたという。

 その結果として、本棚の医学書の後ろに某アイドルの写真集やエロ本がしまいこまれているのを発見して、「まあなんていやらしい!」と目を背けたのち、それらをすべて没収・焚書の刑に処したとのことだった。

「結城先輩、こんなひどい話ってありますか!?」と、その翌日に翼は大河内に泣きつかれた。

「水沢ゆきなちゃんの写真集、あれレアものでもう二度とそこらの書店じゃ手に入らないものなんですよ!!ネットのオークションでも馬鹿高い値がついてるし」

 あうあうと、大河内が声にならない呻き声すら洩らすのを聞き、翼は彼が心底気の毒になった。

「僕のエロ本コレクションが……みんなで回し読みしてヨレヨレだったけど、それが全部燃やされてしまうなんて……」

 堺悟からは、これでもう救急部はおしまいだといったような、悲壮感まで漂っている。

「結城先輩っ。あのゴキブリみたいな女を早くどうにかしてくださいよっ!!その時俺、二段ベッドのいつもの場所で寝てたんですけど、布団を引っくり返したら『女医とナース禁断のエロス』とかいう変な本が出てきて……俺のじゃありませんって何度言っても、あの師長は「男の人ですものね」なんて軽蔑した目でこっちを見たんだあっ」

 ――そしてその結果として今、翼の目の前のテーブルには『愛欲の天使』だの『淫乱女医』だのいうエロ小説やエロ漫画が何冊も積み重なっていた。これは何も翼が堀田師長と交渉して取り返してきたものではない。それらは無残にも大学病院の焼却炉に捨てられてしまったらしいので、翼にも今さらどうかすることは出来なかった。

 だが、研修医を含めた若手医師が何故、兵士宿舎のテーブルの目立つところにエロ本を積み重ねておいたのか、その理由は翼にもよくわかっている。彼らはほんのささやかばかりのレジスタンスとして、またあの師長が「まあいやらしい!!」などと言い、これらの本を処分すればいいと思っているのだろう。そして堀田師長が何度そんなことをしようとも、その翌日にはまた別のエロ本を積み重ねておくつもりに違いない。

「やれやれ。あいつらにも困ったもんだ」

 翼はそんなふうに思いながら、てっぺんにある『愛欲の天使』なるエロ小説をぱらぱらめくって読んだ。表紙にはブラジャーやパンティをチラ見せしている看護師が載っており、オビのところには『わたしを先生のオモチャにして』などというベタな売り文句が書かれている。


 ――医師の牧田は診察時間の過ぎた診療室で亜由美とふたりきりになると、まずは聴診器で彼女の胸のまわりにそれを当てた。看護師の制服を脱いだ亜由美は、その上から見ていた時以上にふくよかな乳房をしている。
「あ、そんな……先生……」
 きっと感じやすい質なのだろう。亜由美は牧田が聴診器で肌を探ると、時々ビクッと震えていた。
「下のほうも自分で脱ぎなさい。出来るね?」
「はい……」
 白いパンティを脱いだ亜由美が、診察台に横たわる。
 牧田は彼女の体をじっくりと丹念に調べはじめた。そしてこう聞く。
「君はこれまで、何人の男を知っているのかね?」
「三人です、先生」
 ふうむ、と牧田は唸った。初心そうに見えて、もう三人も男を知っているのかと思ったのである。だがそれならばそれで、別の楽しみ方があるというものだ……。


「あ、結城先輩。人の本を随分熱心に読んでますね」

 堺がカップラーメンを片手に部屋に入ってきても、翼は行を追うのをやめなかった。エロ心をくすぐられたからというよりも、この中年医師と若い看護師が体の関係だけを持って終わるのか、それともハッピーエンドが最後に待っているのか、その部分が気になったのである。

「このくだらねえ本はおまえのだったのか、堺」

「まあ、かなり昔に買った本ですけどね。でも結城先生もそうだと思いますけど、こんな本を読んでるからって、僕は看護師たちをこういうやらしい目で常時見てるとか、そういうことは一切ありませんから。こんなの、ただの一時的な現実逃避っていうか、男のファンタジーみたいなもんじゃないですか」

「確かにな。けど、おまえはあのお嬢ちゃんのことが好きなんだろ」

 途中で文章を読むのが面倒になった翼は、『愛欲の天使』というエロ小説を閉じることにした。もう次期夜の外来診察がはじまる時間なので、翼もまた非常食として置いてあるカップヌードルにお湯を入れる。たぶんこれで待合室にぎゅうぎゅう詰めの患者を診終わるまで、どうにか腹のほうは持つだろう。

「そ、それはそうですけどっ。でもだからって僕は羽生さんのことを診察台の上に押し倒したいとか、そんなことを勤務中に考えたりはしないですよ」

「いや、俺が一応一言いっておきたかったのは、実は結構真面目な話でな。堺があのお嬢ちゃんのことを診察台に押し倒そうがどうしようが俺にはどうでもいいわけ。けどおまえ、誰かにあいつのことが好きとかなんとか、さり気なく言ったりしたんじゃねえか?」

「えっと、この話をしたのは先輩と大河内先生くらいかな。あと、看護師の高見沢さんに『先生、羽生さんのこと好きなんじゃないですか?』って言い当てられて、ドキッとするあまり『どうしてわかるんですか』ってつい言っちゃったんですよね。そしたら彼女、『羽生さんの彼氏って写真で見る限りパッとしない感じだし、堺先生が本気でアタックすればどうにかなるんじゃないか』なんて……」

「あー、わかった!!間違いなくそれだな、それ」

 翼は冷蔵庫の中から「ゆうき専用」とマジックで書き殴ってあるお茶のボトルを取りだす。その横には「シャア専用」と書かれたドクターペッパーのジュースが並んでいるが、それは葛城主任のものだった。

「あのお嬢ちゃん、一部の看護師から研修医に色目を使ってるなんて言われてるらしいぞ」

「えっ!?なんで僕が羽生さんのことを好きなことが、そんな話になるんですか!?」

 堺医師のチキンラーメンはとっくに三分すぎていたが、彼はショックを受けるあまり、それを伸びるまま放置していた。一方、翼のほうは割箸をパキリと割り、カップヌードルをズルズルすすりはじめる。

「あの高見沢さんって、確か結婚して子供もいたと思うけど……そういう中年のおばさんでも、仮に自分の夫婦生活がうまくいってなかったりすると――いや、家族関係がすごくうまいってる場合でもな、他人のキャピキャピした恋愛事に無責任に首突っこみたくなるもんなんだよ。今救急部の看護師の間じゃ、堀田師長の陰口を休憩室で叩くことが流行になってる。にも関わらずあのお嬢ちゃんときたら、アホなことにはその師長の肩を持つようなことばっかしてんだからな。いいか、境。おまえ、もしあのお嬢ちゃんのことが本気で好きだってんなら、変な色気のオーラを出したりしないようにしろよ。じゃないと、唯の奴はちょっと困ったことになるかもしれないからな」

「困ったことって……それに先輩、その話の文脈でいくともしかして……」

 堺はチキンラーメンの上の紙を剥がしたものの、伸びきった麺を食べる気がしなくなった。

「ああ、そうだ。おまえがあのお嬢ちゃんを好きだって話は、まるで癌細胞が血液にのって散らばるみたいに、あっちの臓器にもこっちの臓器にも転移しまくってるだろうな。けどあのお嬢ちゃんに彼氏がいるってこともみんな知ってるわけだ。困ったことになったな、境」

「…………………」

 翼はカップヌードルを食べ終わると、「ごっそーさん!!」と言い置いて、外来診察室へ向かった。そこには鈴村がいて、他に外来担当に当たった看護師たちと何かくっちゃべっている様子だった。

「ふうん。堺先生が羽生さんをねえ……で、研修医の三井くんと岡田くんも羽生さんのことを「ちょっといい」とか思ってるわけ。へええ。若いっていいわね、楽しそうで」
 
 鈴村の横には高見沢由紀と彼女と仲のいい看護師がふたりいた。おそらく高見沢にしてみれば、噂好きの鈴村のこと、この種の話が大好物だろうと踏んでいたに違いない。

「リンリンさん。悪いんだけど、ちょっといい?」

 翼は人気のない検査室のほうへ鈴村のことを連れだすことにした。夜間帯の外来がはじまるまでに、まだ十分ほど時間がある。

「どうしたのよ、珍しくあらたまっちゃって」

 翼が薄暗い検査室の電灯をつけると、左右に三つずつ、計六つの診察台がカーテンに仕切られて並んでいる。そしてその奥のほうには超音波検査の機器類が置いてあった。

「その、唯の奴のことなんだけどさ……」

「あっら、モテモテなのね、羽生さん。まさかあんたの口からまで、あの子の名前が出るなんてね。それも下のほうの呼び名で」

 鈴村はわざと意地悪そうに言ったが、実際には翼が何かを口にする以前に、彼の言いたいことはわかっていた。

「どうせあれでしょ。あの子が整理魔の気違い師長の肩を持つようなことしてるから――そこに加えて研修医に色目を使ってるなんて噂が流れたら、また救急部で村八部になるんじゃないかとか、くだらない心配してるんでしょ。あんたも随分変な奴ね。自分がいじめて村八部にするのはいいのに、他の連中が同じことするのは嫌だなんて」

「だからさ、俺の場合はそれだからこそ、逆に良心が痛むって話。大体あいつも馬鹿なんだよな。みんなと適当に話合わせてあの眼鏡ババアの悪口言ってりゃそれで済むってのに……下手すりゃリンリンさんのことまで敵に回しかねないだろ、このままいったら」

「人を見くびるのもよして欲しいもんだわね」

 鈴村は着替えの籠の乱れたタオルを直しながら言った。

「あたしが高見沢さんの話を聞いて、『そうか。あの子は大人しそうに見えて結構男とうまくやるタイプなのね。じゃ、以前と同じくちょっと突き離していじめてやろうかしら』とでも思うと思ったの?馬鹿馬鹿しい。徳川さんがいた頃はね、わたしが何もしなくても彼女が羽生さんの面倒見てたからそれで良かったのよ。けど、あの師長じゃまるでお話にならないから、わたしにだって自分がどうすればいいかくらいわかってるわ。高見沢さんは単に、主任であるあたしのご機嫌取りも兼ねて、さっきみたいな噂話をしただけだってこともわかってる。ま、あんたが気を揉むほどのことは何もないわよ。あのクリスマスツリーだって、『倉庫にあるのを誰か飾ってくんないかしら』ってわたしが気まぐれに言ったら、羽生さんがいつの間にか飾ってくれたってことにしてあるんだから」

「さっすがリンリンさん」

 翼はほっとして、白衣の袖をまくると時計の秒針を見た。あと五分しか時間がない。

「まあ、そういうことよ。あの子はね、ようするに看護師のタイプとしてはレンガ積み立てタイプなの。一個ずつレンガをのっけてはセメントつけてっていう、少しずつだけど着実に伸びていくタイプ。そういう意味では、ここに来た時以上に随分強くなったんじゃない?最初の頃はびくびく人の顔色ばっかり窺ってたけど、今じゃ自分の頭で考えてあの師長の味方してんのよ。それも、人から胡麻すってるって思われるかもしれないって最初からわかっててね。なんか最近じゃ、あの師長も少し考えが変わってきたみたい。結局羽生さんが自分の言ったことを率先してやるのを見ても、あんまり面白くないのよね。それより、あたしや峰岸が歯ぎしりして「お~の~れ~、堀田師長めえ~」とか呪いの言葉を吐くところが見たいんじゃないの?」

「女ってのはつくづく怖えな」

「そうよ、怖いのよ。だからあんたも気をつけなさいね。いつ何時、あんたが昔泣かせた女が急患で運ばれてくるかわかんないだから」

「だから、俺はそういうつきあい方はしてないんだって。つーかもう時間ねえ。この話はまた今度な、リンリンさん」

 ――この日、外来で翼の診察室についたのは鈴村ではなく高見沢由紀だった。翼は彼女に対して仕事の指示以外では一切口を聞かず、冷たくあしらうような態度を取ることにした。

 救急部の看護師はパートを含め五十名ほどが在籍しているが、そのすべてと翼は親しいわけではない。鈴村や峰岸、あるいは藤森奈々枝など、かなり突っ込んだ話まで出来る相手はほんの数名だった。あとは仕事のこと以外ではさほど口を聞かなかったりということも、珍しくはない。

 翼は夜間の救急外来の患者がはけると、兵士宿舎へ戻って短い時間ではあるが一応睡眠を取った。明日(というか、すでに今日だが)はまた朝のカンファランスがはじまる前に起き、それが済んだら回診をしなければならない。

(ま、あいつのアホさ加減も、意外に無駄じゃなかったってことか)

 眠りに落ちる寸前、翼は羽生唯がモミの木のツリーを飾る姿を思いだし、そして微かに笑った。それから短い夢を見た。夢の中では翼が、唯がモミの木のてっぺんに飾った大きな金星を「こんなもの、こんなもの!!」と言って、一生懸命踏み潰していた。目が覚めた時翼は、夢の意味がさっぱりわからなかったのだが――随分あとになってから、それがわかった気がしていた。

 何故といって翼は、クリスマスにサンタクロースから一番欲しいものを与えてもらえない運命にあったのだから……。



 >>続く。





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