天使の図書館ブログ

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動物たちの王国【第一部】-24-

2014-02-17 | 創作ノート
【プロヴァンスの積み藁】フィンセント・ファン・ゴッホ


 今回もまたこの書き方で正しいかにゃ~と思いつつ、次で第一部は終わりなので、まあいいか、なんていう感じかもしれません(だからもう少し何か調べろって

 ん~と、そういうことを抜いたとすると、今回も特に書くこと何もないんですけど、翼が太った患者さんに対してデブデブ☆敏感に言うのはたぶん、主に健康的なことが理由なんじゃないかと思ってます(^^;)

 あと、ハゲた意識不明の患者さんに「ハゲた男には精力絶倫が多いって聞くけど、△△さんもちょっとそれっぽいよな。目が覚めたらそんな話でも聞かせてくれや」とか、そんなことをしゃべってるんじゃないかと(笑)

 前回、ヤクザ者の黒田さんを看護師さんが差別(?)して看護してるように書いたんですけど、実際のところ特に面白いと思える患者さんや共感しやすい患者さんがいる一方で、仕事である以上に親身になれない患者さんもいる……そういうのは確かにあるんじゃないかなって思ったりします。

 昔ICUで看護師さんが患者さんの口の中を拭いてた時(割箸の先に綿を括りつけたものを水に浸して、歯磨きする感じ)、「うっわ、○○さん口臭すごいな。あーあ、ほんと参っちゃう☆」って言ってたことがあるんですけど、この看護師さんは普段めっちゃいい人でした

 つまり、普段それだけいい人でも患者さんが意識不明だったりすると、うっかりそんなことを口走ったりすることはあるというか(^^;)

 まあ仮に藤森看護師と三枝看護師とがふたりで「オラオラァ!!」とか「ドゥラララララァッ!!」と、何やら別の意味でリズミカルに黒田さんの背中をタッピングしていたとしても、実際にはそれほど悪気と実害はないっていうんですかね(笑)

 そんなところに翼が通りかかったとすれば「おまえら患者で遊んでんじゃねーぞ」くらいのことは言うのかもしれませんが、看護師さんにもそんな息抜き(?)が時には必要っていうか、このくらいならまだ全然許容範囲内のことだと思うので(^^;)

 そういえば前々回、背が高くて横幅のある患者さんのことを書いたんですけど、ナースの休憩室で小柄な看護師さんが「もっと背が欲しかった」みたいに言ってた時、別の看護師さんがこう言ってたことがありましたっけ。

「△△ちゃん、歳をとったら背なんかぜーったい低いほうがいいって。うちの病棟見ててもわかるでしょ☆」みたいに。

 そうなんですよね……歳をとって寝たきりになってしまった場合、小柄な患者さんというのは何故か好かれる傾向にあります。

 もちろん、痩せてても性格に難のあるおじいさんだと微妙なんですけど(笑)、同じような意識不明状態で寝たきりだったとしたら、小柄な人のほうが絶対的に好かれるというか(^^;)

 というのも、患者さんが痩せてて小柄な場合、ひとりでも軽々体位交換が出来たりするし、シーツ交換するにも病衣交換するにしても、検査でベッドから移すにしても、周囲の人にあまり負担がかからないというか。

 ところが前々回の前文で書いた縦にも横にも幅のある患者さんの場合、見た瞬間に「具合悪い☆」と看護師さん同士が目と目で会話してたりします(わたしの錯覚じゃなければ・笑)

 んで、わたしが見たことのある患者さんの中でひとり、ほとんど神がかって誰からも好かれるというおばあちゃんがいました。

 寝たきりではなかったんですけど、小柄でいつもニコニコしてるおばあちゃんで……でも何故いつもニコニコしてるかといえば、それだけ痴呆の症状が進んでるからっていうことだったんですけど(^^;)

 でもこのおばあちゃんの場合、マーゲンチューブを引っこ抜いてもスマイリー、点滴を引っこ抜いて血だらけでもスマイリーという感じだったので、本当に誰からも好かれてました。

「やれやれ。その顔で笑われちゃ、○○さんのことは誰も憎めないな」と看護師さんも言ってたんですけど、○○さんの笑顔はほんと、普通の笑顔じゃなくてほとんど神がかっていたと思います。

 ただ笑ってるっていうだけだったら、時によっては「こっちの苦労も知らないで☆」ってなりますけど、○○さんの笑顔はほんと、見てるだけで見てる人が何故か幸せになれるという、本当になんとも言えない不思議な笑顔でした。

 まあわたしが○○さんのことで覚えてるのは、点滴の管を引っこ抜いて血だらけだった時に、どういう管の抜き方をしたらこうも血だらけになるんだろうってことと、↑の看護師さんたちの話の続きだったかもしれません。

「歳とったらさ、○○さんみたいに小柄でさ、呆けててもニコニコして、誰からも好かれるっていう老後を過ごしたいわよねえ~」(溜息☆)っていう。。。

 でも現実には、あまりそういう方は見当たらず、右にちょっと腰をずらしても左にちょっと腰をずらしても「イタイイタイ」と訴えるおばあちゃんや(=彼女の痛みをそのまま受け止めていたら、たぶんオムツ交換は永遠にできない)、「すみません、すみませんと言いさえすれば、おまえらはわしに何をしてもいいと思ってるのかぁッ!!」と怒る気難しいおじいさんがいる……っていうことのほうが、より現実に近いとは思うんですけど(^^;)

 それではまた~!!



       動物たちの王国【第一部】-24-

 そろそろ梅雨が明けようかという時節になっても、綾瀬真治は以前として出勤してこなかった。そこで翼はあらためて、及川パンダ部長にこう申し入れることにしたのである。

「あいつがもしまたやって来たとしても、受け入れを拒否してください。俺はもう七月の上旬にはここにいないんですから……自分のいないあとにあんな奴がまた救急部に戻ってくるなんて、絶対に容認できません。つーか、マジな話耐え難いんで」

「わかってるさ」と、パンダは部長室で書類仕事に追われながら、もう次期いなくなる優秀な部下の話を聞いていた。「というより、綾瀬の親父さんにはもうその方向で話を通してあるからな。なんでも知り合いの病院に放り込んで、みっちり仕込んでもらうとかなんとか……もしかしたらヤブ医者っていうのは、こんなふうにして誕生するのかもしれんがな」

「いや、俺は自分のいた場所の聖域さえ守れればそれでいいんです。あとはあいつが一人前の医者になろうがなれなかろうが、知ったことじゃなし」

「残念だな」

 及川は自分の決裁が必要な書類に目を通すと、印を押して机の脇に重ねていく。

「綾瀬がいなくなって救急部も大分風通しが良くなかったし、やはりこれでもおまえの気持ちは変わらんか?」

「…………………」

 翼は即答できなかった。正直なところ、こうなってみると未練が残っている気持ちのほうが大きくもある。だが、男に二言はないというのか、やはり翼には羽生唯のことが心にかかっていた。

「まあ、今から『やっぱり続投するわ、俺』って言っても、何も恥かしいことはないし、むしろみんな泣いて喜ぶくらいだろう。どうだ?パンダとシャアがふたり並んで頭を下げても駄目か?」

「そんな想像すると面白いこと、今更言わないでくださいよ」

 翼は勝手知ったるなんとやらで、部長室のソファに腰かけつつ、テーブルの上の茶菓子に手を伸ばした。そこには三枝が面白がって持ってきた、クマ笹茶もある。

「クマ笹茶って、血液をサラサラにしてくれたり、がん予防なんかにいいらしいですよ。三枝の奴、パンダの体調をそれとなく気づかってるんじゃないですかね」

「三枝が体調を気遣いたいのはむしろ、俺じゃなくておまえのほうだろう。この五年、彼女はおまえのことしか見ていなかった。気づいてなかったとは言わせないぞ」

 翼は部長室の茶色いドアのほうを指差し、(聞こえますって)と声には出さずに言った。部長室はナースステーションのすぐそばにあるため、こうした話は聞こえる可能性が大であった。

「なんですか。俺が失恋したから別の女を探して救急の仕事に集中しろって話ですか。でも俺、今回結構珍しく本気なんで、普段浮ついた生活を送ってるだけにダメージが大きかったんすよね」

「俺が言いたいのはそんなことじゃないさ。自分が彼女に好きだと言えば、研修医を含めた部下どもの関係は滅茶苦茶になるし、女同士の友情にもヒビが入る――らしくもなく、おまえがそんなことを気にしてるのかと思ってな」

(やれやれ。まったく、普段は眼瞼下垂どころじゃなく細い目をしてるくせに、よく見てやがるぜ、このパンダは)と、翼は恐れ入った。

「もしそんなことが理由だったら、むしろ逆に問題なんか何もないですよ。何しろ俺はここを去る身なんですから、あいつのことを横からかっさらえば済むってだけの話……けどまあ、パンダの細い目をもってしても見通せない細々したことがあるんすよ。あーあ、なんにしてもパンダとシャアがひとりと一匹で俺に頭を下げる必要はないです。じゃあまあ、そういうことで」

 そう言って翼は、きな衣の餅をクマ笹茶で飲み込むと、救急外来のほうへ向かった。ナースステーションには珍しく誰もおらず、廊下には点滴を積んだカートを押す夜勤看護師の姿があり、あとは日勤の看護師たちが休憩室で帰り仕度する姿が見えるのみであった。

 この日翼は、蛇が体をくねらせるが如く、患者が待合室にひしめく姿を眺め、診療室2の部屋に入ったのだが(ちなみに1には葛城健輔が、3には境悟が入っている。そして4と5には研修医)、自分に付いた看護師が三枝美穂子であるのに気づくと、意味もなく溜息を着きたくなった。

(そうだよな。もし俺が三枝のことを好きだってんなら、何も問題なんかねえんだよな)

 翼としても、及川パンダ部長の言うことを真に受けているわけではない。だが、美人でよく気が利いて患者にも親切であり、看護師としての腕もいい彼女のことを、何故自分はそうした対象として見ることが出来ないのか、今更ながら不思議だったのである。

(まあ三枝の場合、ようするに看護師としてあまりにプロフェッショナルなんだよな。一部の隙もなく仕事が出来る感じだから、むしろ研修医なんかは知識と経験が豊富な彼女に対してビビっちまうんだろう。こんな美人の前で恥をかきたくないみたいに思うんだろうな。その点、唯の奴の場合はまだまだ隙があるっつーか……)

 翼は机の引き出しから出した孫の手で肩を叩くと(ちなみに元は茅野の所有物である)、机の上のカレンダーを眺め、少しばかり複雑な気持ちになった。某製薬会社の名前が入ったカレンダーには、七月の里山ののんびりとした美しい情景が写っている。田植えの済んだ田んぼには青々とした稲がすくすくと育ち、翼が十月くらいまでカレンダーを捲ってみると、そこには黄金の収穫期を迎えた稲の穂が、燃える太陽を背にして風にたなびいていた。

 この時翼は何故だか、自分がもう次期この場からいなくなるのだと思うと、なんとなく信じられないような気持ちになった。

『いてっ、茅野さん。俺、今晩は当直なんて絶対無理っす。サルモネラ菌とピロリ菌が、俺の腸内で覇権争いをしてて……善玉菌は死滅しました。だから今晩は休ませてください』

『アホ。ピロリ菌がいるのは胃だろうが。とにかく、ヤクルトでも一本飲んで、腸内の除菌が済んだら診療室の4に入れ。わかったな!?』

『へーい。でも茅野さん、知ってます?ヤクルトって腸に届く前に胃で大抵の成分が死んじまうって噂ですよ。乳酸菌のシロタの奴、生きて腸に届くってことですけど、嘘じゃねえのみたいな……あーあ、なんにしても今日は仕事したくねえなあ。つーか、なんか全然やる気が出ねえ』

『馬鹿。おまえは普段からちょっと声がでかすぎだぞ。待合室の患者にヤブ医者のぼやきが聞こえる前に、さっさと持ち場につけ』


「どうしたんですか、結城先生?」

 ここで三枝に話しかけられ、翼はハッとして過去の時間から現在に戻った。

「いや、なんかヤクルトが飲みてえなあと思って……」

「わたし、買ってきましょうか?すぐそばの自販にヤクルトがあるんですよ。ジョアとかミルミルとか色んなのを売ってるって、先生知ってました?」

「そっか。そいつは知らなかったなあ。ま、とりあえずいいわ」

 翼が孫の手を元の場所へしまいこみ、外来用の電子カルテに見入っていると、三枝がこう声をかけてくる。

「結城先生。わたし、わかってますよ。今先生が茅野先生のことを思いだしてたって……」

「ああ。そういや俺とおまえと藤森の奴は、救急部で同期だもんな。なんか、もうすぐここ辞めると思ったら、最近ふとした瞬間に色んなことを思いだしちまってな。茅野さんもよく、あんなどうしようもねえ俺のことを面倒見てくれたなあと思って。まあそれは、及川部長にしてもそうなんだけどさ」

「わたしも、最初に結城先生に会った時はびっくりしました。髪の毛なんて今以上に茶色いし、この人ほんとにお医者さんかしらと思って……」

 三枝はくすくす笑って言った。もう五分もすれば診察開始時間となるが、一通りの準備と点検についてはすべて終わっている。

「ははは。ほんと、藤森なんかすぐ俺のことを「ヤンキードクター」みたいに呼んでたからなあ。おまえも俺のことをあからさまにうさんくさい顔をして見てたよな。今みたいに外来で俺につくことになると、「なんて今日はアンラッキーな日なのかしら」って顔しててさ」

「ええ、それは自分でも認めます。でも、今はいつもこう思ってますよ。『あ、今日は結城先生付きだ。なんてラッキーなんだろう』って。当たり前ですけど、研修医の先生につくと患者さんの流れが悪くて……『本当にこれで良かったかなあ』なんて、看護師のあたしに聞かれてもって話ですよね」

「まあ、三枝は俺と一緒で、仕事の出来ない奴には存外冷たいもんな。患者には優しいけどさ」

 さて、そろそろ患者の名前が呼ばれる頃だということになり、翼と美穂子の間では、会話が自然と途切れた。ところが隣の診療室1では、鈴村と葛城の笑い声がまだ聞こえている。

「リンリンちゃん、僕の唯一の恋愛武勇伝聞きたい?」

「ええ、是非」

「結構前のことになるんだけどねえ。世話好きの厄介な親戚に勧められて、僕お見合いすることになったんだよ。で、初めてデートしたのが映画館でね。そのあとハンバーガーを食べにいくことになって……マックにある隅っこのほうの席でさ、僕、彼女に言ったんだよ。『ドナルドの物真似してあげようか』って」

「自殺行為ですよ、葛城先生」

「いやあ、まったくねえ。『♪ランランルー』って三回くらいやったら、彼女どん引きしてたよ。で、次の日から電話が全然繋がらなくなっちゃって……」

「先生、唯一なんて言いながら、一体いくつその種の話を隠し持ってらっしゃるんですか」

 隣から聞こえてくるそんな会話に対し、翼と美穂子は互いに微笑みあった。思えば、葛城医師は翼が救急処置室で唯のことを目の仇にしていた頃――よく自分に対してこう呟いていたものだった。「セクシャルハラスメントNo,1」と……。

 翼はその夜、深夜までかかって次から次に患者をさばいていったが、いつも通り<救急>というほどでもない患者のことは冷たく短時間であしらったため、おそらくその中の「風邪」程度の患者は全員こう思ったに違いない。「こんなに長く待たせておいて、ろくにこっちの話を聞きもしないで」、「これだから若い医者は駄目なんだ」といったように。

 だが翼はそのかわり、急を要する患者に対しては実に頼れる医者でもあった。胸痛を訴えているが、バイタルも心電図も問題ない患者のことを急性冠症候群と見抜き、心臓血管外科の当直医を呼んで診てもらったり、また逆に徐脈・不整脈があるのに胸痛のない患者に心筋梗塞の疑いがあると見抜いたり、くも膜下出血の前兆候の訴えが見られる患者の頭部CTを見て、すぐ入院してもらい、緊急手術してもらうということにもなった。

 他に腹膜炎の患者、喘息の患者、潰瘍性大腸炎の患者などなど、翼は診察に当たっている間、三枝のことをほとんどロボットか何かのように扱ったが、当然彼は知る由もなかった。そういう時にこそ彼女が翼のことをじっと観察し、(そばで見ているだけで幸せだったのに)と、切ない気持ちを時折募らせていたことなどは……。



 >>続く。





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