天使の図書館ブログ

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動物たちの王国【第二部】-26-

2014-03-31 | 創作ノート


 NHKの新しい連ドラ、「花子とアン」がはじまりましたね♪(^^)

 実をいうとわたし、↑の村岡恵理さんの本はまだ読んでないんですけど……連ドラの番宣や今日の第一回目を見ていて、結構驚いたというか(^^;)

 村岡先生が訳された本は、赤毛のアンの他にも、モンゴメリの本であればそれ以外のものすべて、他に「少女パレアナ」や「あしながおじさん」、オルコットのものなど、色々読んだ記憶があります。

 そしてそうした本の最後のほうに、訳者紹介として、村岡先生の生涯について書かれていたことがあって――その部分を読んだ時に思ったんですよね。お嬢さま学校を卒業している良家の子女なのかな、といったように。

 なので、実際にはそうではなく家がとても貧しかったと聞いた時点で、すごくびっくりしたというか(^^;)

 もちろん、悪い意味でではなくいい意味でということなんですけど……今日の第一回目を見ただけでも、アンとの共感ポイントが多くてびっくりしました。

 確か氷室冴子先生が、「村岡先生の訳でなければ、アンを読んだという気がしない」とおっしゃっていたと思うんですけど、村岡先生自身、アンと重なることが多くての運命の名訳……そうしたことをあらためて感じました。

 もちろん、ドラマであるがゆえの、若干の脚色であるとか、そうした部分はあるのかなとは思っています。でも、これから生涯の友としての女性を、仲間由紀恵さんが演じると聞いただけでもファンとしてはわくわくだったり♪(^^)

 やっぱり村岡先生訳の<腹心の友>という言葉は、こうしたところから生まれたのかな……とか、そういうことがわかるとしたら、長年のアンファンとしては楽しみでなりません。

 英語の出来ないわたしがこんなことを言うのもなんなんですけど、言葉や訳っていうのは、一見精神的なもののように見えて、<肉体性>、<肉感性>のようなものが一番大切なんじゃないかなって、個人的には思っています。

 つまり、農家の苦労を肉体的に理解している人が訳した農業小説と、自分も同じ思いで畑を耕したことのない人の訳では、言葉が身に纏う「肉体性」に差が出るというか。

 もちろん、才能のある人が訳した場合はそもそもそういう問題じゃないとは思うんですけど(笑)、村岡先生のアンの訳って、そうした肉体性が日本人の感性にピタっと重なってるところがあると思います。

 たとえていうなら、オートクチュールの服がぴったり体に合うのと同じように、言葉がそれぞれ自分の身の丈に合った<訳>という服を身に纏っているような感じ。

 ここまでの重なり合いというか、共振性・共感性のようなものがあると、言葉の中に官能性に近いものさえ生まれてくるというか。

 村岡先生のアンが名訳と言われるのはそのことゆえだと勝手に思ってるのですが、たぶん同じようなことを内心思っているアン・ファンの方は多いはず!!と信じて疑わないわたしです(笑)

 なんにしても、これからは毎日朝起きるのが楽しみになりそうです♪

 時間的にちょっと、毎日見れるかどうかわからないんですけど……でも可能なかぎり逃さず毎日見ていきたいと思ってます(^^)

 オープニングのプリンスエドワード島の景色も素敵だし、これを見るだけでも自分的には朝からめちゃめちゃ癒される気がしたり(笑)

 それではまた~!!



       動物たちの王国【第二部】-26-

「なんだ、おまえ。そのだっせえ格好」

 翼がゆう子に自分の部屋の前で会うや否や、口にしたのがこの言葉である。実際にはゆう子は大抵の男が一瞬ドキリとするような、セクシーなファッションに身を包んでいたに違いない。だが翼はその総額を一瞬で計算した上、この中に果たして彼女が自分で買ったものがあるのかどうかと訝しんだのである。

「いいじゃない、べつに。人間見た目の格好なんてどうでもいいのよ。それより大事なのは中身でしょ、ナ・カ・ミ」

「まったく、脳みそスッカラカンな女の言う科白か、それが……あーっ、クソッ!!唯の奴、おまえのこと見て帰ったのか。つくづくしょうもねえろくてねえ女だな、おまえも。人の幸せ邪魔するようなことしやがって」

「ははーん。あの真面目そうなお堅い子、あんたの同僚かなんか?馬鹿ねえ。べつにあたしが相手じゃなくても、他の誰かで結局同じ目に合ってたわよ。こう言えば絶対ひとつかふたつ、お心当たりがおありでしょ?結城セ・ン・セ」

 横から肩を小突いてくるゆう子のことは放っておいて、翼はエコバッグを持ち上げるとまずはドアの鍵を開けた。その後ろからゆう子が待ちかねていたように入ってきても、特段注意はしない。

「あ~ら、先生。良いお住まいでございますわね。わたしこれからここに、永久就職したいでございますわ」

「俺にありえない未来語ってんじゃねえぞ。それよりおまえ、なんで俺の引っ越した先の住所がわかった?あれから二年も経ってるってのに、ストーカーかなんかじゃねえだろうな」

 ゆう子はミンクのコートをソファの背もたれにかけると、窓から見える見晴らしのいい景色を爪先立って一望している。ちなみに翼の話のほうは半分以上聞いていない。

「まあ、ちょっとお金を使えば調べてくださる素敵な機関が世の中にはあるってことよ。ぶっちゃけた話、この部屋の前にさっきのお堅そうな子が来た時点でわたし、「この男は外れだった~!」ってわかっちゃった。だからすぐ帰るけど、せっかく四時間ばかりも待ってたことだし、寒いのに馬鹿みたいだし、美味しいシャンパンでも一杯いただいてこうかしら、と思って」

「おまえに出すシャンパンは俺にはない……と言いたいところだがな、ドンぺリの一杯でおまえが帰るってんなら、安いもんだと思ってそうしたほうがいいんだろうな。まあ、座れよ。おまえみたいな女が四時間も待ってたってんなら、それなりになんか事情があんだろ」

「さっすが結城先生、相変わらず太っ腹でいらっしゃいますこと」

 翼はゆう子に「その気味の悪い丁寧語はよせ」と注意したのち、シャンパンを一本専用の棚から取りだしてきた。それから無造作に栓を抜き、二客のフルートグラスに要からもらったドンぺリをそれぞれ注ぐ。

「なんかこれに合った食い物……と思ったけどな、この買い物袋ん中には、ほとんど手料理の材料みたいなもんしか入ってねえわ。俺んちの冷蔵庫にもろくなもんはねえし、冷凍ピザでいいんならチンしてやってもいいぞ」

「本当なら、わたしが先生をチンして温める予定だったんだけど、まあいいわ。ピザ屋に頼んでも最速で三十分はかかるものね。それよりあたし、なんでもいいからがっつきたいくらい、お腹がすいてるの」

 ――そのようなわけで、翼はゆう子とダイニングテーブルでシャンパンを片手にピザを摘むということになった。そして翼はなんとなく不思議になる。以前までの自分なら、ここでシャンパンを飲み、ピザを半分も食べ終わらぬうちに、目の前のこのいい女にがっついていたろうと、そうわかっていたからである。

「そんで、実際のところおまえ、ここに何しに来た?金に困ってるってんなら、俺が昔やったダイヤを質にでも入れろ。あと、借金があるってんなら、自分の身をひさいででも稼げ。他に俺に聞きたいことがあれば速攻帰れっていうくらいしか、今の俺に言えることはないからな」

「わかってるわよーう」

 ゆう子は真っ赤な唇の奥にマルゲリータピザを押しこみながら言う。

「さっきここに来てた子、なんだかあんたの本命ぽかったものね。実際はよくわかんないけど。なんにしてもあたし、何年かにいっぺん、これまで関係を持った男の元を突撃お宅訪問してるの。なんでかっていうとね、その後しあわせそーに暮らしてるってんならそれでいいのよ?けど結構な高い確率で、嫁はわからずやだし、ガキどもは親父に敬意を払わねえし……みたいなさびしーい連中が多いわけ。で、そういうとこ行ってほんのちょっと慰めてあげると、「俺にはこんなことしかしてやれない」とか言って、お金とかいっぱいくださるの。ま、唯一あんただけは、契約結婚する気ないかなーと思って様子伺いに来たってのもあるけど」

「ふう~ん」

 翼はぺろりとピザのトマトソースをなめ、ゆう子の素直さに何故か感心した。(相変わらずそんなことばっかしてんのか)と呆れる気持ちより、もはや玄人肌の彼女に対し、ある一定の敬意すら感じてしまう。

「けどまあ、そういう意味じゃ確かに俺は外れだな。近いうちに俺、さっきおまえが会った女と結婚するつもりでいるから。けど、俺はおまえのことが嫌いじゃないし、むしろそういうことを素直にしゃべるの聞いてると、可愛いとすら思う。でもさっきみたいなことがもう一回あるとしたら、俺の人生はもう間違いなくジ・エンドなわけ。ようやく女にだらしないのから少しは救われそうだってのに、おまえみたいな誘惑の塊に部屋の前をうろつかれるのは困る」

「へえ。わたしの研究成果によると、あんたみたいな男の女のだらしなさっていうのは、一生治らない気がするけどね。でもまあいいわ。最上のドンぺリとお腹がすいてるせいで美味しい冷凍ピザに免じて、許してあげる。さーてっと、次の男は青森さ転勤になったんでねがったか」

 ゆう子は最後に青森弁でそう言い、ミンクのコートを再び着込むと、シャネルのバッグを振り回しながら部屋を出ていった。翼はこの時よほど、少しばかり金を包んだ封筒を彼女に渡そうかと思ったほどだったが――唯の姿を脳裏に思い浮かべ、それだけはどうにか思い留まる。

 無論、大抵の人間が一度関係を持っただけの売女に、何故そこまでするのかと訝るかもしれない。だが翼にはよくわかっている。結局のところ彼女と自分というのは、同じ穴のムジナのようなものなのだということが。それであればこそゆう子のほうでも、他の男には滅多に持ちかけない<契約結婚>などというものを自分に持ちかけたのだろう。

(そういや、おまえの友達のヴァイオリニストの可愛こちゃんはその後どうした?)と言いかけて、翼はやはりその言葉を飲み込んだ。そんな言葉を口にして、今さらゆう子を引き止めても仕方がない。それに、川原美音のコンサートへは、彼女がK市へやって来た時に、翼は要と一緒に見にいったことがあった。

 ゆう子が玄関のドアを閉めるのと同時、翼は携帯を手にして唯の番号を呼びだした。だが、そこでふと、二客のフルートグラスとだらしなく食い散らかしてあるピザののった皿が目に入って――意味もなく脱力すると、翼はソファの上へ寝転んでいた。

(事情を話せば、必ず唯の奴は許してくれる)……翼はそう確信しているものの、何故だかこちらのほうが自分らしいと、奇妙な感慨に耽っていた。もちろん一応自分は今、性的な誘惑を退けて結婚を前提としている女性に対し、操を立てたといって良いのだろう。

 だが翼は不思議と、あのまま自分がゆう子と寝てしまい、都合悪くそこへ唯がやって来て泣きながら飛びだしていく、そして幸福の青い鳥は逃げていった……そのほうがずっと自分らしいような、そんな気がしてならなかった。

(大体、電話してなんて言う?あの女はなんでもねーんだってってか?やれやれ、やましいことなんか一ミクロンもないってのに、なんだか面倒くさいな。第一俺、弁解する気力もないくらい、実際かなり疲れてるし。今はちょっと下手に出てしゃべる気力がねえっていうか……)

 そして翼はそのまま、ソファの上で深い眠りに落ちていった。もちろん翼にはよくわかっている。エコバッグの中身をちらと見ただけで、バレンタインデーということもあり、唯がいつもより豪勢な料理を作ろうとしていたこと、また自分が帰ってくるまでに手作りチョコケーキか何かを作ろうとしていたらしいということも……。

 だが、翼が次にハッとして目を覚ました時、あたりはすっかり深い闇に包まれていた。壁の時計を見ると、時刻はすでに夜中の二時半である。

「しっかし俺、よく寝たな。けどまあ、これですっかり魂の疲れみたいなもんが取れた気がする。今なら唯の奴にもぺラリンコ都合よくしゃべりまくって、うまくやれそうな気がするんだが……」

 そう言って翼はあくびし、それから両手を上げて大きく伸びをした。ストーヴのほうは微小をさして燃えており、部屋の中ではそこだけが唯一熱を放っている。

 翼はリモコンで電灯を点けると、まずは顔を洗い、それから唯の買ってきたものの中で、そのまま食べられそうなものを選んでがっついた。妙に頭が冴えてしまい、リビングのテーブルまでノートパソコンを持ってくると、論文の英訳したものに最終チェックを加えようと思い立つ。

 この英文のほとんどを訳したのは加瀬であり、臨床データのグラフ等を編纂したのは斎木だった。とはいえ、加瀬はネイティブに近い形で英会話が出来るだけに、むしろ逆に綴り間違いが非常に多いという男なのである。もちろんそこには本人のせっかちな性格も関係しているのだろうが、翼はあちこちにちょっとした間違いを発見するたび、おかしくて仕方なかった。もしこの英文をそのまま学会で発表する資料としていたら――おそらく翼は手術の腕は良くても、相当頭の悪い男と思われかねなかった。

 翼はこの夜、あまりに時刻が遅くなったことを踏まえ、唯に弁解の電話を入れなかったのだが、そのことがあとになって命取りな選択ミスとなって跳ね返ってくるということになる。何故といって唯のほうではいつ電話がかかってくるかとずっと待っていたのであり、時刻が夜中の一時を過ぎる頃には、翼があの女性とよろしくやっているのではないかとよからぬ妄想までが脳裏を掠め――「結城先生なんてもう知らない!!」と、そのままふて寝してしまったのである。



 >>続く。





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2 コメント

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お久しぶりです。 (千菊丸)
2014-03-31 20:50:36
わたしも、村岡花子さんのお孫さんが書かれた本は読んでおりませんが、「花子とアン」第一話は観ました。
山梨の貧しい農家の娘として生まれ、東京の女学校で英語を学んだ村岡さん・・彼女が幼少期を過ごした時代背景を考えると、女性が教育を男子と平等に与えられていなかった時代だったんですよねぇ。

小学校までが義務教育で、中学や女学校に行けるのは金持ちの子だけで、貧しい家の子は「おしん」のように女中奉公に行くか、芸者の置屋や遊郭に売られるかどちらかだったのです。

小学校に行けずに読み書きもできない子どもも沢山いたと思いますよ。
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Unknown (ルシア)
2014-03-31 21:45:15
 千菊丸さん、こんにちは~♪(^^)

 わたしのおばあちゃんは大正生まれではあるんですけど、確か尋常小学校しか出ていないんじゃなかったかな……と思います。

 村岡さんやわたしのおばあちゃんの時代はまあそれが「普通」だったというか、あとは結婚するとか工場勤めをするとか、お話を聞いてると何かそんな感じだったような気がします(^^;)

 そうそう!わたしも第一回目の放送見てて「なんだか<おしん>みたい」って思いました(笑)

 農家の家では特に、労働力として子供の手も必要っていう部分があったと思うんですけど……そんな中で本を読む楽しみや喜びを花子が覚え、それだけでなくやがて翻訳家になっていくって、本当にすごいことだなあ……なんて思います。

 でも、芸者の置屋や遊郭は流石につらいですよね

 この頃の時代に生きた方の苦労に比べたら、今の時代の人の苦労っていうのは<質>は違うにしても、やっぱり生ぬるくて甘えたもの、みたいに見えてしまうのかなあ……とぼんやり思ったりもします(^^;)

 千菊丸さん、コメント本当にありがとうございました

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