天使の図書館ブログ

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動物たちの王国【第一部】-12-

2014-01-30 | 創作ノート


 今回の前文は、前回の前文の続きということでよろしくお願いしますm(_ _)m

 たぶんMRSAよりも恐い感染症として一般に認識されてるのが、今はノロウイルスなんじゃないかなって思うんですけど……老人福祉施設などでは予防策として、ベッド柵やドアの取っ手を職員さんが消毒したりとか、徹底してやってるところはやってらっしゃるのかなって思います。

 でもですね、この患者さんのベッド周りや床頭台を消毒して歩くっていうのは、やってみると意外に結構大変だったりします(^^;)

 まあ、命じた師長さんのほうはいいですよね。自分で体動かすわけじゃないし、「患者さんのベッド周りを消毒して歩くくらい、大したことじゃないでしょ☆」としか思ってないかもしれません。

 でもやっぱり、命じた以上は「もっとも効果的なやり方」について、検討するくらいのことは絶対しなくちゃ駄目だと思うんですよね

 なんていうか、老人福祉施設とか、平日にそうしょっちゅう患者さんが検査に呼ばれるでもなく、手術の準備があったりするわけでもないっていう環境なら、なんとか出来るかもしれません。でも普通の総合病院みたいなところだったら、そんな余計な時間作るだけでもまず無理な気がするというか

 普通はまあ、ベッド回りや床頭台を拭くくらい、一体何よ?と思うとは思います。でも、一言でベッドを拭くって言っても、ベッド柵だけ拭けばいいのかとか、ベッドのヘッドボードの部分もすべて拭くのか、出入り口のドアの取っ手も拭くのかどうかとか、どうするのが一番時間がかからず早く済むかなど、「人によって手抜きする人は手を抜く」みたいな感じだと、効果は半減すると思います。

 それと、今までなかった仕事が今までの仕事にプラスで追加されるわけだから、「それじゃなくてもこっちは豚の手も借りたいくらい忙しいんだっつーの」と職員さんたちが思ってた場合……そこから出る不満っていうのは、半端ないものがあると思います(^^;)

 じゃあ、どうしたらそうした不満を沈めて、「でもノロが出たら大変でしょ!!」と職員さんたちを納得させられるかというと、↑のガワンデ先生の本の中に、そのヒントが書いてありました


 >>ヨコエとマリノ、私の三人で病院内巡りをしていたとき、見慣れた病棟の前を通りかかった。そのとき、ようやく、ヨコエやマリノと同じ視点から、病棟を見ることができるようになった。病室を出入りする理学療法士や看護助手、看護師、栄養士、レジデント、そして学生。手洗いを真面目にする者がいれば、怠る者もいる。八つある病室のうち、三つの病室のドアに目立つ黄色で警告サインが掲げられているのを、ヨコエが教えてくれた。病室内の患者がMRSAかVREに感染しているのである。そのとき、初めて、この病棟に私が自分が主治医をしている患者を入院させていることに気づいた。そして、その患者が入っている病室のドアには黄色のサインがあった。
 患者は男性、六十二歳、入院してほぼ三週間になる。前に入院していた病院での手術が失敗し、ショック状態でこの病院に搬送されてきたのだ。私が担当し、緊急手術で脾臓摘出を行ったが、出血が止まらず、再手術になった。患者はなんとか持ちこたえた。入院から三日目、ゆっくりだが患者は快方に向かっていた。入院時の培養検査では、耐性菌はゼロだった。しかし、入院から十日目、検査でMRSAとVREの両方が見つかった。それから二、三日後、三十九度まで発熱した。血圧が下がりはじめ、脈拍が上がりはじめた。敗血症を起こしたのである。中心静脈カテーテル、経口摂取できない患者にとってのライフラインが感染を起こしていて、われわれは抜去せざるを得なかった。
 患者の病室のドアにかけられたサインを見たその瞬間、ふとある考えが私の心のなかに沸いた。今まで思いもよらなかったことだ。私が菌を移したのかもしれない。いや、事実そうなのだろう。私でなくてもスタッフの誰かが移したのだ。 

 ようするに、簡単に言ったとすれば、職員の全員に「当事者意識を持ってもらう」っていうことですよね。

 もし仮にノロウイルスじゃなくても、MRSAなどが出た場合――誰もがまず思うのが「自分以外の誰かが移したのだろう」ということであり、「自分が移したかもしれない」と考える人は少ないだろうということ(^^;)

 でもその、「自分がそうしたかもしれない」という当事者意識を持たないことには、院内感染についての問題解決はありえない……つまりはそういうことなんだろうなって、ガワンデさんの本を読んでいて思いました。

 んで、↓の本文で堀田師長がMRSA対策として患者さんのベッド回りを消毒液で拭くという提案をしてるんですけど、実際にやるとしたらまあ、押しつけられるのは看護助手ってことになるんだろうなとは思います(苦笑)

 でも、その場合でもやっぱり、ひとりはとにかく全病室のドアの取っ手だけを消毒する、別のひとりはベッド柵だけを拭く、もうひとりはヘッドボードだけ、他のひとりは床頭台まわりを……みたいに手分けして、△時~□時をその時間に当てるとか、そういう形ででも決めてもらわないことには、みんな絶対ブーブー言うのは間違いないというか

 あと、↑のガワンデさんの本の中では、みんなでどうしたら院内感染をなくせるかを話しあう場をもうけて、その実践法を取り決める……ということがとても大切だといったふうに書かれていたと思います。つまり、みんなで話しあって決めたことなら、「当然しなければならないこと」として認識し、実行しやすいというんでしょうか。

 これはお医者さんや看護師さんが危機意識を持ってるのは当然である以上に――患者さんと接する機会のある職員全員に周知しないと、本当の意味で効果を発揮できないことでもあると思うんですよね。

 もちろん、赤字経営じゃない、財政にゆとりのある病院とかだったら、清掃員の方やリネン交換の方などに頼むという方法もあるのかもしれません。でもその場合でもやっぱり、病院の清潔・不潔の概念からはじめて、当然説明が必要になってきますよね。というか、院内の掃除に当たってる清掃員の方もまたすごく忙しく、汗だくになって働いてるので――そんな雑菌だらけの雑巾で拭くんだったら、むしろ拭かないほうがいいかもよ??というようなことが、実際あるというか

 そんなわけで(どんなわけだか☆)、清潔好きの堀田師長の敵がそうした院内の病原菌or雑菌であるとした場合、この戦いは彼女の敗色の色が非常に濃厚な気がします(笑)←いや、ほんとは笑いごとじゃないし(^^;)

 なんだか、特に書くことないし、MRSAのことでも書いてみようかなと思ったら、以外に話が長くなってしまいました

 それではまた~!!



       動物たちの王国【第一部】-12-

「なんだ、おまえ。もう就業時間過ぎてるだろ。とっとと帰んねえと、こんな時にタイミングよく急患なんぞやって来た日には、猫の手も借りたいってことで、まんま猫の手にされちまうぞ」

 詰所の片隅であくまでも目立たぬように、唯としてはその作業を隠れて行っているつもりだった。その作業というのはようするに、テプラで医療器具の名前を打ちこみ、そのラベルをそれぞれの棚に貼っていくという作業であった。

「あ~あ、テプラか。真田さんと阿部ちゃんがブツブツ言いながらやってた奴だな。前の奴の文字が薄くなってるから、ついでに全部打ち直して張り替えろとかいう。馬鹿だなあ、おまえ。あのババアの言うことなんかいちいちまともに聞いてたら、神経症になっちまうぞ」

 ――まったくその通りだった。今朝もまた、堀田師長は主張していることは正しいが、そんなことをしている余裕と暇は誰にもないという新たな仕事を増やしていた。先ごろ行われた感染症対策委員会で、脳外科病棟でMRSAの患者が出たということが議題に上がったという。そこで救急部でもそのような事態を未然に防ぐため、これから毎日ベッドを消毒薬で拭くことにするべしと、堀田師長は満面の笑顔とともに述べていた。

「ほら、こんなもんどうでもいいから、とっとと帰れ。おまえの気持ちは多少わからなくもないがな、あの女は間違いなく病気だ。それも人に嫌がらせをすることに喜びを感じるってタイプのな。ああいうヒステリック系の局ババアは、男に棒でも突っ込んでもらって定期的にかき混ぜてもらったほうが、少しは神経がまともになるってもんだ」

 翼は何気なくそう言ってのけ、唯の手からテプラを取り上げようとした。だが唯はなんとかそれを奪い返そうとする。

「いいんです、べつにっ!!わたしが好きでやってることなんですから……あと、結城先生の言ってることはただのセクハラです。いくら堀田師長に対してでも、失礼だと思います」

「ふうん、そうかよ。だったら勝手にしろ。けど、夜勤の人間に間違われてあれこれ用事を言われても、一切無視しろよ。金なんかどうせ一銭も出やしねえんだから」

 結城医師が親切で自分に忠告していることがわかるだけに、唯としても胸が痛くなった。そこでなるべく手早く仕事を終え、地下のロッカー室へ向かうことにする。そしてそこで唯は、耳を疑うようなことを聞いてしまった。

「羽生さんって、研修医の何人かに色目を使ってるらしいわよ」

「えっ!?でもあの子、つきあってる人いるって言わなかったっけ?」

「さあねえ。わたしも携帯の写真見せてもらったけど、この彼氏っていうのがあんまりパッとしない系の男なのよ。職業はトラックの運転手って言ったかな。だったら堺先生あたりに乗り換えるのも手だと思ってたりしてね」

「意外に大人しそうに見えてやるわねえ、羽生さんも」

 看護師や助手、その他女性職員のロッカー室はとても広い。また、救急部ならば救急部、内科なら内科といったように、一塊になっているわけでもないので――唯はその声が聞こえた場所を避けるようにして自分のロッカーへ向かい、震える手で制服のファスナーを下ろすと、のろのろした動作で着替えを済ませた。そして救急部の同僚である先輩看護師が三人、姿を消すのを見計らってから、外の廊下に出る。

(まだ泣いちゃダメだ。泣くのは病院の外に出てから……)

 そう思いながらも、唯はやはり病院の玄関口に到達したあたりで涙を流した。結城医師の言ったとおり、やはり自分のしたことは無駄なことだったと思った。勤務終了後、すぐに地下のロッカーへ行って帰りさえすれば、あんな陰口を聞くこともなかっただろうに。

「わたしって、ほんとに馬鹿だな」

 帰り道の途中で唯は思わず声にだしてそう呟いた。声色で誰が自分に対してあんなことを言ったのかは唯にはわかっている。普段それほど仲が良くもなければ悪くもない、仕事以上のつきあいはあまりない看護師たちだった。けれど唯は、確かに傷つきがっかりもしたけれど、意外に自分がしっかりしているということもわかっていた。

(わたしも、強くなったなあ。これもたぶん、結城先生や鈴村主任のお陰だ)と、唯はそう思った。おそらく、半年前の自分ならば、この時点で心が折れていただろう。自分はこんなに善意で頑張っているだけなのにと、打ちひしがれていたに違いない。

 けれど今、これが現実というものなのだと、唯にはわかっている。救急部の看護師たちは結束力があって仲が良く、まとまりがあることは確かだ。それでも人間として時に誰かが誰かを気に入らなかったり、それほど相手のことを嫌いでなかったとしても、噂話を立てたりというのはままあることだった。

 そして、唯にとってはここがもっとも肝要なことなのだが――実はそうしたことをいちいち心に留めるのは無駄なことなのである。言っている当人たちは軽い気持ちでそうしたことを口にしている場合が多く、自分たちがした噂話についても、次の瞬間には忘れているくらいのものなのだから。

 この日唯は、自分のアパートに辿り着くと、すぐに彼氏である湊慎之介に電話した。

「ああ、慎ちゃん?ううん、特にこれといって何もないけど、急に声が聞きたくなって……」

 唯は慎之介と少し話をすると、心がほっこりと温かくなるものを感じ、次の休日には彼の自宅で手作りハンバーグを作るという約束をした。前に一度お弁当を作ったところ、それと玉子焼きが一番美味しかったと言われていたからだった。

 恋人と話をして気分が少し落ち着くと、唯はICU看護の勉強をはじめ――そして眠る前にこう心に誓った。人に悪口を言われる悲しみがわかった以上、自分はもう堀田師長のことを何か言うのはよそう、と。それと、やはり彼女に協力的な態度を取ることが、救急部が丸く収まるのに大切なことではないかと思う気持ちに変わりはなかった。



 >>続く。





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