( 8½ )(37)VR奥儀皆伝 TP-VR Attract. 謎解き・テーマパークVR Web版

2021-09-17 | バーチャルリアリティ解説
Number37 / パーク VRアトラクションを実作します 〈後編 ③-8〉
                          【( 8½ )総目次 】
 「桃山 / 江戸 / 日本人」そして「博士の勘違い」⑧ VR之極意:③
 
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 『 VR奥儀皆伝( 8½ )』の 俯瞰図 +「月やあらぬ」(「伊勢」)

 最初に( 8½ )の俯瞰図を載せました。現在、私たちはⅤ.『VR起雲閣』を研究している意味」にいますが、VR作品の実製作を学んでいる学生・社会人学生として『BODY WARS』の建屋と機構を再利用した『VR 伊勢』に 今回 挑戦します。

 Ⅰ.『バーチャルリアリティ学』(コロナ社)の 7.2.4. +(1)CYBERSPACE (2)VRの定義 (11)も参照して下さい。)

 Ⅱ. 優れた作品開発のための VR開発のヒント:
(3)~(11) (15)~(17)(27)(28)(29)からリンクが有り〼。)

 Ⅲ. テーマパークとは何か? の謎を解きました:
(11)(16)
   そして、
 Ⅳ.
『BODY WARS』の機構と建屋を使った『VR 飛雲閣』の実作:
(23)(26)
   さらに、
 Ⅴ.『VR 飛雲閣』を研究している意味
(30)~(37) へと続いています。

 ※ なお、Ⅰ の(2)「VRの定義」に書いた VRの三要素「大画面の没入感」「多感覚」「インタラクティブ」は、それぞれの要素を感覚提示する機械装置「ただ単に組み合わせても」何の意味も持ちません。それで、今から VR作品の製作を始める方は、(11)の冒頭にあるように、

   「有機体論・化生論・機械論」
   (作品のテーマは何か)
   (プレイヤーは自発的に何をどう操作しようと試みるのか)
   (運営時の故障を避けるには どんな実績の協力会社にハード製作を依頼すれば良いのか)

などについて、作品設計の際に考えてみて下さい。

 〇 「月やあらぬ」の現代語訳(『伊勢物語』)

   ここでは、『伊勢物語』の一番有名な和歌を VRで解釈します。

   月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは もとの身にして

 ※ Contes d'Ise『伊勢物語』は、谷崎の『細雪』と同じ訳者 ガストン・ルノンドー氏(フランス陸軍砲兵大将)が淀みないフランス語に翻訳しました。フランスでも、日本文学の古典として非常に有名です。同時に、その和歌を紫式部が高く評価して『源氏物語』を書く参考にしたことも、フランスの多くが知っています。
 ※ 『伊勢物語』平安中期 西暦900年前後? → 『源氏物語』1008年頃。
 ※ (参考) 西欧の第一回十字軍 1096 - 99年 紫式部は、その100年前、業平は200年前の歌人です。


 伊勢物語絵巻四段西の対

   ※ 「通い婚」の時代ですから、良い子は真似をしないように。

   昔、東の京の五条に、皇太后の宮がおいでになった。

   その(皇太后の)御殿の 西の対に、住んでいる人があった。その人を、「本意にはあらで」
   深く思っていたがいて、通っていたのだったが、
   (その女性と会うことはトラブルを生むだけだから、会ってはならない、と心に決めながら
   も、在原業平はその人を思う気持ちが抑えきれないほどに深く、たびたび訪れていたの
   だったが、)
   女性は 2月10日頃に、他の住まい(宮中)に転居してしまった。

 このとき彼女と、急に会えなくなってしまったことで、業平は「宮中から 二条后 にじょうのきさき 盗みだす」という思い切った行動に出たのです(30)けれど、それに失敗したので、旅に出て「かきつばた」などの歌を詠みました。しかしそれは、まだ少し先の話です。「月やあらぬ」の歌は、彼女がいなくなった西の対の、その翌年の梅の盛りの頃の話でした。

   翌年の正月、再び の花盛りの頃に、
   男は(業平は)去年を懐かしんで 西の対を訪れ、
   立っては見、座っては見渡したが、去年の様子に似るべくもない。

   男(業平)は泣きながら、がらんどうの板敷に月が傾くまで横になって、
   去年を思い出しながら歌を詠んだ。

   
月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは もとの身にして

   そこにある月は 去年と同じではないだろうか (太陰暦ですから)、
   春も 去年と同じ春ではないだろうか (唐文化の影響で まだ 春は梅でした)、
   春も月も 
あなたと一緒に眺めた 去年のままで、そこにあるというのに、

   わが身だけが もとのままだ というのはどういう訳だろう

 俵万智さんの源氏解説によれば、「男女が肩を寄せ合って月を眺める」のは「夜明けのコーヒーを一緒に飲む」のと同じです。もしも、この「月やあらぬ」に「去年、あなたと肩を寄せ合って見た あの月」の意味が もしあったら、業平が、ぼおっと思い出していたのは、月と梅だけでは なかった のです。そもそも「天皇の后」になる高貴な女性なので、業平とは 不適切な関係でした。(在原業平の父は平城天皇の第一皇子・阿保親王、母は桓武天皇の皇女・伊都内親王ですが、臣籍降下し、業平の冠位は従四位上でした。)

   月や       あらぬ
      春や昔の 春ならぬ
                わが身ひとつは もとの身にして


   男は(業平は)歌を詠み、夜がほのぼのと明ける頃に 泣く泣く帰って行った。

   ※ 『伊勢物語』の読者は、業平と彼女の「西の対」での いけない関係を想像できました

 業平がどうして1000年以上も変わらぬ人気のプレイボーイなのかというと、彼が歌の名手だったからで、彼に歌を贈られれば どんな女性も いちころで彼を大好きになってしまうからでした。
 そうして彼の流した涙は「愛する 二条后を盗みだす」という行動になって、彼の愛の深さを彼女に示しました。

 さて、『VR 西の対』ですが、フィードバックの(つまらない)演出もできます。

   ① 去年、男女二人が「西の対」で肩寄せ合って、月を眺めています。
   ② 今年、男一人が「西の対」で、梅の花と月を眺めて泣いています。
   ③ 「月やあらぬ」の和歌が、字幕に出ます。


 ん⁉ ・・・ それで? それだけですと、面白くもなんともありません。それでは、

 ちょっと卑怯な方法ですが、フィードフォワードによるVR 西の対です。

   観客がカップルの場合には、彼女の写真を撮らせて貰います。
   男性のグループなら、各人の彼女か奥様
の写真を拝借します。
   キューラインでは、業平と二条后の密会中の姿 ①
を見て貰います。

 自分の彼女に、平安の衣装が良く似合っています。そして、

 去年の彼女が、今年は 横にいない、という場面で、上の ② を男性に見せます。

 『BODY WARS』の建屋を再利用するのでしたら、スクリーンには「西の対」を映し、シースルーのメガネで「彼女」が傍にいたり、消えたり、するところを見て貰います。
 ともあれ、
   今年は、業平一人が「西の対」で、② 梅の木と月を眺めて泣いています
   彼女の 衣服の手触りも消えました。   
   男性と女性の鑑賞室が 分かれていたら、出口での 彼女との再会が印象的です。

 フィードフォワードの『VR 西の対』では、彼女や奥様が自分を置いて消え失せた状態を、衣服の手触りと視覚で演出しました。「月やあらぬ」の和歌は、プレショーの「ミニ和歌鑑賞教室」で解説します。ここでは、触覚「大切な人がもし、いなくなったら」という不安感で VR作品の背景の設定を作りました。
 有名な「月やあらぬ」の和歌を活用した、フィードフォワードの設定です。

 ※ 『VR 西の対』を使うことで、観客は「VR実験の被験者」という余計な意識なく、新しい衣服のための 触覚の VR再現実験などに参加できます。余計な意識があると、比較する対象が「前回の触覚実験」になり、リアルな織物では なくなります。実験の感触と比較しても、VRでは ありません。

 ※ 『源氏物語』「若菜」TANIZAKIの少将滋幹(しげもと)の母 の VR化は、次回以降に。


 ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは (右)斎王まつり(三重県明和町)

 ※ 『伊勢物語』の最初の成立時(時期不明)には、二条后 藤原高子(ふじわら の たかいこ、実在の人物)が入内 じゅだい 前に「誰かと駆け落ち」しようとして連れ戻された噂や、第32伊勢斎宮、恬子(やすこ)内親王(実在の人物、男性と関係できない人)が(斎宮頭の)高階峯緒の 子を身ごもったので高階家が出入り禁止になった不祥事などを、全部、業平一人がやった、ということにして作品が書かれました。

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 ◇ 一番上に示した 俯瞰図を解説します。まず、

 Ⅰ.『バーチャルリアリティ学』(コロナ社、2011年)の 7.2.4. +(1)CYBERSPACE (2)VRの定義 (11)も参照して下さい。)

 (8½)のシリーズを書き始めた時、私の既発表の文章で一番読んで頂きやすいものが『バーチャルリアリティ学』(コロナ社、2011年)の 7.2.4.でした。それで( 8½ )の (1)(2)の二つは、同書 7.2.4.「エンタテインメント」(pp.269 - 274)と 一緒に読むと、より理解が深まる内容になっています。
   (1) ウイリアム・ギブスンが創造した CYBERSPACE
   
(2) VR(バーチャルリアリティ)の定義 (併せて(11)の冒頭も参照)

 そして、(11)「有機体論・化生論・機械論」に書いた説明は、プリントアウトしたものを持って東京ディズニーランドなどに遊びに行くと、アトラクションを設計する実地勉強になるかも知れません。

   続いて、
 Ⅱ. 優れた作品開発を目指す学生のための VR開発のヒント: (3)(11) (15)(17)  
(27)(28)(29)(解説付き使い方)からリンクが有り〼。)

   ※ 優れた IVRC作品を開発する学生には、参考になることが書かれています。

 実は(29)までを書いている時には、VR = ルネサンス科学の「魔法」という説明で、解説を通そうと考えていました。ところが、19世紀に、例えばアニメ『鋼の錬金術師』に描かれたような魔法のイメージのインフレが(大衆向け新聞などの影響で)あって、ルネサンス科学の地味な「魔法」と 19世紀の派手な印象が、かなり変化しました。しかも、薔薇十字団が「地下にもぐった」ことで、その影響関係の説明が一気に難しくなりました。
 それでも、シェークスピアの『テンペスト』(9)(『あらし』、1611年の初演)や  (27)のコルネイユの『舞台は夢』1635年の初演)などの戯曲を読めば、ルネサンスの「魔法」が、映画や マルチメディア(スケッチパッドや CADなど)、VRなどに描かれた「バーチャル世界の感覚提示」と同じものだと分かります。この方向からの解説は、今後もあきらめずに続けます。

 ※ ルネサンス科学の「化生論」(魔術)から →『鉄腕アトム』『サイボーグ009』への進化には、皆さんも異論は無いでしょう。


   『
サイボーグ009』/『サイボーグ009』誕生から50年 

 Ⅲ. テーマパークとは何か? の謎を解きました:(11)(16)

 (11)(16)の中で「テーマパークとは何か?(12)(13)(14)を、解き明かしました。
 (その謎は 「入場口・地獄・天国」「入場料・飲食・物販」「説得する Art」でした。)

   それに引き続いて、体感劇場(23)についての解説を書きました。

 Ⅳ.『BODY WARS』の機構と建屋を使った『VR 飛雲閣』の実作:
(23)(26)

 そして、『BODY WARS』の運休中の機構と建屋が、現在でも再活用できそうでしたので、『飛雲閣』の慶讃茶席(24)を VR(体感劇場)で再現してみよう。と考えてみました。
 ところが、
 『VR 飛雲閣』について書き始めた(25)(26)途端に、面白いことが、いくつか分かりました。その流れの上で、
 Ⅴ.『VR起雲閣』を研究している意味(30)~(37) へと話が続いています。

 面白いことというのは、例えば、Made in Japan」(ジパング製品)としての最初の輸出品(1585年)は、信長の『安土城図屏風』(30)だったことや、『安土城図屏風』は、おそらく『鏡の間』製作のヒントになり、その意匠がベル・エポックで再現(33)されたことなどです。
 そして、パリ万国博や ウィーン万国博では、六尺の有田焼、絹製品、和紙、日本庭園などが大歓迎(18)(31)されました。つまり、ジパングからの渡来品として西欧で歓迎されたのは、そうした展示物。そして、1980年代の 日本車と家電でした。


 万国博の日本館で外国人に歓迎された作品と、(右端 参考)中尊寺金色堂
 1900年パリ万国博の
芸妓16人 横山美術館 中尊寺金色堂(1124年)
 従って「GAFAMを真似た AIや VR研究」を万国博の日本館に並べても、それを見た外国人は不思議がるばかりです。

   《 鋳型化ここまで 》
   フェロー武田 「伊勢」の「月や あらぬ」(VR奥儀皆伝(8½)(37)
   Blog TP-VR Attract.のトリビア 2021.9.xx 

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