京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

 「観音の里めぐり」1

2015年04月23日 | 奥琵琶湖・湖北路を訪ねて
琵琶湖の北の地にある高月、木之本地域には国宝や重要文化財に指定されている仏像が特に多くあり(地元ガイド氏によれば300体はあると)、「観音の里」と呼ばれている。

京都御所の北に比叡山、その北方に位置する己高山(こだかみやま)は近江国の鬼門として古代から崇められ、古くは北陸十一面観音信仰、さらに比叡山天台勢力の影響を強く受けながら独自の仏教文化を構築してきたとされる。
「近江を制するものは…、」と言われたように交通の要所でもあった湖北地方は、姉川の合戦、小谷城の戦い、賎ヶ岳合戦など幾度も戦乱の舞台となり、社寺はことごとく焼かれてしまったという。川に沈め、土に埋め、さらには焼け傷んだ像の鞘仏まで造ってその胎内仏として納めるなどして護られた多くの仏さまたちが、静かに立たれたりお座りになっている“観音の里”。
「土地の習俗、信仰として秘仏を守っていくのではなくて、公開し観音さまが本来のお役目を果たされるようにすべきだ」と説かれたのが井上靖氏だった。

昨日、JR木ノ本駅10時30分集合で「観音の里めぐり」バスツアーに参加した。12名、夫婦が一組あっただけで、女性9名・男性1名が一人参加。東京からの日帰り参加者もいれば、神奈川や埼玉からは3泊の計画で高野山などを歩いてきたという人もいた。
現地のボランティアガイドさんのわかりやすい説明を得ながら、小型バスで各寺のすぐ近くまで運んでもらって、私にとっては有難迷惑とも言える楽さでの参拝だった。周囲の風景に目を馳せながら、風を感じ土地の空気を吸うといった大切な行程が完璧に省かれてしまったのは残念至極。車窓から眺める新緑の濃淡の美しさ、水を張った田んぼが初夏の装いだ。「風趣」、こんな言葉を使ってみたくもなるこの季節、そうした面での味気なさは残ったものの、参拝者があれば年中無休で村民が交代で鍵を開け応対して下さり、無住の寺を力を合わせ守り継ぐ姿の尊さには改めて心打たれた。




【赤後寺(しゃくごじ)】の千手観音立像と菩薩立像をぜひお厨子の中に拝観したいという思いがかなった。美術館でむき出しのまま観賞、拝観した時とは異なり、立派な安土桃山風のお厨子においでの2体は小さく見えた。渡岸寺の十一面観音像より50年ほど古いとされる。毎年3月2日の夜、堂内に幕を張り巡らせたあと、集まった一人一人の顔を確かめ、見慣れぬ顔があるとどこの誰かを確認。村外であれば親類縁者でさえ退出いただいたうえで初めてお厨子の扉は開けられてきたのだそうな。傷ましい姿を外部には隠したかったのだろうと。
【石道寺(しゃくどうじ)】の十一面観音立像はうすく紅をさし、右足の親指を立てた可愛い姿が印象深い。

【大円寺】の千手観音立像は手前の台にお顔が映る 
【冷水寺】の十一面観音像は胎内仏を納めた坐像。
【大井観音堂】の十一面観音像が今回特別公開。珍しい坐像の観音さまだった。

そして最後に【神照寺】を拝観し、長浜駅で解散。
4時前の播州赤穂行きに乗って、米原までは東京へ帰るという高齢の方と同行だった。菅浦神社を参拝した折の感動を聞いた。各人各様の関心で湖北周辺を回っているのを昼食時の会話から知ったが、それぞれに在るべきものを愛で、賞賛する心を持たれてることに魅かれた。だからこそ一木一草、一石にも仏心の宿り、そんなことを趣深く語れる人たちなのだろう。よい出会いもあった。
『星と祭』の再読もいいだろうな。そのためにちゃんと文庫本で購入してある。

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4 コメント

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湖北に秘められた観音の里 (崇徳院)
2015-04-24 21:40:48
早速にご朱印帳の出番がやってきましたね。
地元の人たちに手あつく守られ、訪れる人にも優しさで歓迎して頂ける観音の里。
かつては、人間同士の争いの中で大きな危機にさらされたこともあった数々の観世音菩薩。
それらに巡り合う旅、またひとつ心が洗われたのでしょうね。
新たないい出会いもあったような。素敵な観音めぐりになりましたね。
「星と祭」の文庫本、手を伸ばしてみたくなりました。
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地元の人たちに…、崇徳院さん (kei)
2015-04-24 22:32:39
ご朱印もいただきました。
新聞報道によれば昨年東京で開催された観音展には、3週間の会期中2万人が訪れたそうです。
そしてガイドさんのお話では、お断りしたいほど多くの方々が拝観に見えたとか。
人を引き付ける何かがあるのでしょうね。
周辺の様子も見ながらの参拝でしたら、印象は更に深まっただろうなと思います。

「井上靖さんが小説で…のように描かれた」と、必ずお話では触れられますし、
見事なラストシーンにぞくぞくっと~。一度是非!
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良い旅をなさいました (Rei)
2015-04-25 10:02:09
観音様とご対面なされてよいツアーでしたね。
琵琶湖は歴史の昔から今に至るも
いろいろな面でそこに住む人々に大きな影響を与えましたね。
多くの小説の舞台にもなりました。
「群青の湖」芝木好子著はKeiさんのご紹介で読みました(記憶違いではないですよね?)
とても印象に残っています。
『星と祭』古い発行ですから手に入らないかも?

私にとっては有難迷惑とも言える楽さでの参拝だった・・・>さすが健脚Keiさんの感想です。
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小説の舞台にも、Reiさん (kei)
2015-04-25 22:14:38
『星と祭 上・下』、ある日偶然書店で見つけました。角川文庫です。
知らずにいましたので図書館で借りて読んだのですが、即、購入しました。
この小説を読んだおかげで、いっそう関心を持ったわけです。
はい、「群青の湖」もご紹介させていただきました。
後日ブックオフで見つけましたので、これも買っておきました。いずれまた、読みそう…です。
自然に恵まれた地ですのに歩くことがなく、門前へ、石段下へときっちりバスをつけて下さるのです。
楽にお参りをという配慮かもしれませんね。
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