「家宝」とはまた随分大きく出たが、いかにも父らしい。おまけに「禁持出」としてある。
何にでもこう書き添える癖があった。
実家に伝わる大切なものが、いつから、どうして私の手元にあるのか、不思議なことにそのいきさつにはまったく記憶がない。物持ちがよい娘、と単純に私を信用していた父だ。紛失の可能性も一番薄いと思ったかもしれない。
私の知る限り、すでに縦半分に割れていたが、これは「蛇頂石」といって、人造石らしい。
まだ幼かった弟が蜂に刺された時があった。その傷口に、濡らしたこの石を割れた左右をきちんと合わせて当て、絆創膏で止めていたと思う。虫刺されでひどく地腫れしたときなども父はこの石を当ててくれた。
蛇頂石が、毒を吸ってくれるようだ。
どのくらいの経過を見てだったか…、石をはずして水の入った湯飲み茶碗に沈める。石からは面白いようにプクプクと泡が出てくるのだが、それを家族6人が興味深げに頭をそろえて覗き込んでいた。笑いを誘われる懐かしい少女時代、あ~、もう大昔の話。
我家のばあ様が、ムカデに刺された!と言って大騒ぎになった日、あの時、出し惜しみしたわけではあるまいな…、と今思い出している。多分まだ石は手元にはなかったのだ。隠しておいたわけではない。あっても蛇頂石では手に負えなかっただろう。病院へ飛んで行った。
しかし、この石も宝の持ち腐れもいいところで、効果を試す機会も失われてしまったまま、出番がない。せっかくだから、夏のアウトドアーには携行したほうがいいのかもしれない。
今は製造法も定かではなく、手に入らない珍しいものではあるようだ…。
ひょっとしたら、日々の生活の中から毒を吸い取って幸せに暮らせるよう、嫁ぐ娘のお守りにと願ったお父さんの、家宝に託す熱い想いが秘められているのかもしれませんよ。
keiさんに気付かれないようそれとなく、そーっと嫁入り道具の奥の方に忍ばせていたのかも。
親父って、そういった何か切なさにも似た想いを秘めて遠くから眺める習性の生き物みたいですよ。
夏のアウトドアーに・・・??
特効薬ではないのですから、やはり大切にしまっておくのがいいな~・・・と。
大切な父親の思い入れ。「禁 持出」ですよ。
虫刺されなどアウトドアー用品は、そんじょそこらどこにでも安価で売ってるでしょうに・・・
大きなお世話?かな? いや真実かも・・・
とても興味深く読ませていただきました。
父上様の直筆、思いのこもった蛇頂石、確かに家宝です。
初めて聞きましたが、又一つ物識りになれました。
「北信州」と聞いただけでとても涼しげなのですが…。
つい数日前、京都新聞で「心のふるさと飯山」が紹介されました。
阿弥陀堂も。おばあさんの声が聞こえるようです。
暑いです、くれぐれもご自愛下さい。
小さな体の絢音ちゃんが見えるようです。お大事になさってあげて下さい。
最近まで、特別詳しく調べようともしなかった蛇頂石でしたが、まず、鳩居堂でビックリしました。
な~るほどです。うまいこと言われますね。
「それとなくそーっと」、と考えたほうが父の優しさを感じることになりそうです。
自分が持っていることはちゃんとわかっていて…、いつからあるのか??
石と同様、ようわからんのです。
子供の頃は何度もプクプクと泡を見た記憶があります。
今では手に入らない珍しいものだということを知ったのはごく最近です。
鳩居堂で販売されたものであるのを知って驚きました。
このようなページをご紹介下さいましてありがとうございます。
“よくわからない商品”とありますね。
効力はやはりある、不思議な石です。
手元にあるのが細身の楕円になっているのは、使ったからでしょうか…。
江戸時代から続く、父が13代目になる実家でした。山のような古文書を次代にわかるように整理しながら楽しみに過ごす日々、その半ばで倒れました。
もっと聞いておけばよかったと思うことばかりです。
もっと聞いておけばよかったと思います。