(はじめに)
佐宗邦威 著「じぶん時間を生きる」2023.6 あさま社
「タイム イズ マネー」の教条に疑問を感じ、
「効率を上げ続けなければならない」という呪縛から逃れ、
自分の人生を取り戻すための本。
限られた時間で最大の成果を出すためには
仕事の「生産性」を上げる必要がある。
生産性が上がれば余白の時間ができて、
豊かな人生が送れる、はずでした..
しかし実際には、
時間を効率的に使おうとすればするほど
逆に仕事は増えていく。
このやりかたでは限界があるのでは?
働けど働けど、一向に時間の余裕は生まれません。
まるでエンデが書いた童話「モモ」にでてくる
時間泥棒に時間を盗まれているようです。
著者はコロナ禍の在宅勤務を経て
生活観、仕事観、人生観を揺さぶられ、
時間感覚のシフトが起こりました。
本の感想をお伝えします。
(トランジション理論)
この本では心理変化の過程を解説するため、
ブリッジスが考案した心理変化過程の理論を紹介。
古い自分から新しい自分に生まれ変わる場合、
まずこれまでの考え方ややり方を終える段階があります。
次に何物でもないニュートラルな心理状態となり、
その時期を経て新しい自分が始まります。
<多田コメント>
トランジション理論については、私は修士研究で読みました。
ブリッジズの原書「トランジション」の和訳よりも、
金井壽宏「働く人のためのキャリア・デザイン」PHP研究所
を読んだ方が理解しやすいです。
通常は左側の円周上の安定期を過ごしています。
転機が訪れた場合の移行期の拡大図が右側の図。
第1段階はこれまでのやり方を終える時期、
第2段階はあいまいなふわふわした状態。
昆虫のサナギのような状態。
第3段階は新しい自分の始まり。
著者の佐宗さんは、ニュートラルゾーンの時期には
興味のあることはとりあえず何でもやってみることと、
共通のゴールを持つ人同士のコミュニティに
飛び込んでみることを薦めています。
これまでの自分の価値観や考え方を大きく変える時には
このような心理的三段階があるということを知っておくと
過剰に不安を抱えないで済むと思います。
特に過去と未来の中間のニュートラルゾーン期は、
まだ頼るものが無いので不安な時期ですが、
生まれ変わるために必要な段階なんだと、
理解しておけば気持ちが落ち着くと思います。
(感じることから始める)
自分の内的な変容が進むと、
だんだんとワクワクすることに出会ったり、
ワクワクすることに時間を使えるようになる。
そんな時は自分のビジョンを具体化するチャンス。
ビジョンは新しく何かをひねり出すのではなく、
自分の潜在意識の中にあるモノを開放する作業に近い。
それ故、考えるのではなく「感じる」ことから始める。
<多田コメント>
自分は何がしたいのか、何が好きなのかは
自分との深い対話の中からしか見つけられないのですね。
(他人時間からじぶん時間へ)
これまでの他人と自分を比較して生きることから、
自分の尺度で生きるように変わる。
他人との関係から生まれる「To do」をこなす生き方から
自分の内的な感情を頼りに、やりたいことに集中し、
それ以外を捨てる生き方。
<多田コメント>
ブログ「還暦を迎えて」で書いたのと同じですね。
やるべきことはしつつも、
不要なことや不快なことにはできるだけ捨てる。
(クロノス時間とカイロス時間)
ギリシャ時代には時間は2通りあるとされていました。
クロノス時間とは、時計により定量的に計れる時間。
過去から現在、未来へと直線的に流れる。
カイロス時間とは、身体で感じる主観的な時間。
「今、ここ」に意識を向けた時間意識。
瞑想などマインド・フルネスは今ここに意識を向けます。
スマホは麻薬のように僕らの注意を引く。
次なる刺激を求めてスクロールしタップする。
しかしこれらはすべて他人発の情報。
このような生活には自分の体が何を感じているのか
自分の心が何を感じているのか
じっくり意識を向ける「余白」はない。
そこには「じぶん時間」は存在しない。
<多田コメント>
スマホ中毒になっていないか、自覚が必要。
例えば、掃除・洗濯などの家事をしているときも、
「いやだな、めんどうだな」と思い続けていると
時間が長く感じます。
逆に、「今、ここ」に気持ちをきちんと合わせられれば
時間は意外と早くたつように感じます。
(タイム イズ マネーは本当か?)
時間をいかに効率的に使うかという本はたくさん出ている。
しかし生産性を上げるゲームを続けていると
心身が耐えられなくなる。
適度に休息する方がアイディアがひらめきます。
生産性を突き詰めすぎると想像力が枯渇します。
森の中を散歩する
朝、仕事を始める前に、一杯のコーヒーを飲み、瞑想する
今、過ごしている時間を感じる
そして、体が発している声を聞く
自分に何かが降りてくるのを待つ
意識の向け方でその時間は豊かな時間になる
見田宗介「現代社会はどこへ向かうか」から、
21世紀に持っていくべき3つの考え方
1 ポジティブ
2 多様性
3 コンサーマトリー
コンサーマトリーとは、現在を楽しむという意味。
現在行っていることは、未来のための「手段」ではなく
「行為」そのものを楽しむ姿勢。
今行っていることが効率的かどうかを考えてしまうのは
20世紀に優勢だった価値観の遺物。
「今、ここ」を楽しむことの蓄積で、
結果的に未来が生まれるという考え方。
これが「自分時間を生きる」。
<多田コメント>
資本主義・カネもうけ第一主義の弊害は
際限のない効率性の追求。
その結果、自分の心まで食われます。
こんなにいそがしいのに、いつもイライラしている。
いったいなんのために自分は生きているのか?
たくさんの仕事を「効率的」にこなせばこなすほど、
空いた時間にはもっと別の仕事が入ってくる。
例えるなら、大量にある家の荷物を
たくさんの棚を作って全て収納しようとするようなもの。
二度と使わないものや、持っていることを忘れたものなど
不要なものを全部抱えてさらに増やしつつ一生を送るのか?
この問題は「収納術」では解決しません。
「コンマリ」さんが言うように、まずは不要なものを
思い切って処分し、身軽になることから始めましょう。
自分にとって本当に大切なものや、したいことが見えてきます。
そして空いたスペースやできた時間には、
あら不思議、つぎつぎと幸運が舞い込んできます。
詳しくは「人生がときめく 片づけの魔法」をお読みください。
(参考ブログ)
・多田ブログ名作劇場その10(人生) 人生について考えるブログ3本