
話の要旨と感想を報告します。
日本学術会議シンポジウム
「新たな統治機構改革 道州制をめぐって」
期日 平成25年11月23日(土)
場所 日本学術会議講堂(港区六本木)
(開会挨拶)
猪口邦子 日本学術会議政治学委員長・参議院議員
・橋本行革以来、官僚による統治から、
政治主導による統治へ変える流れ。
・首相は各省庁を直接指揮できない。
権力を内閣に集めたいというのが目的。
(基調講演1)
「道州制と大都市のあり方」佐々木信夫中央大学教授
・政令市は20、これに中核市と特例市を足すと100。
・日本人の半分以上はいまや大都市の住民。
・中央集権は垂直型統治システム、道州制は横型の水平統治システム。
・県が作られた時就業人口の95%が農業。徒歩や馬で行く範囲が県の区域。
・現在の住民の生活や経済活動は都道府県を越えた活動になっている。
・現在の県の大きさは、有効に機能しているというよりも、非効率。
・道州制は国の解体でもある。新たな日本の形をつくる。
・大都市は州都をにらみ道州制に賛成している。
(佐々木氏への多田感想)
・広域自治体の効率性を冷静に分析されています。
いくら今の広域地方自治体(都道府県)に愛着があったとしても、
そのままいつまでも存続させることが社会福祉の「目的」ではなく、
都道府県は社会福祉を実現するための「手段」にすぎません。
より次代に合った形へ変えていく事が必要です。
(基調講演Ⅱ)
「道州制と日本経済の今後」土井丈朗 慶応大学教授
・行政の便益が及ぶ範囲と課税権の及ぶ範囲を一致させる。
・ナショナルミニマムの視点も大事。警察、消防、教育、生保など。
・現在は幅広い補助金+交付税だが、交付税をなくし、支援は集中させる。
・現在市町村のみに課税権がある固定資産税を道州政府にも付与。
・地方法人税は応益課税でないので廃止。均等割りは残す。
・地域間の所得格差は問題にしない。郷土愛があればよい。
・現行の地方交付税制度では、自治体の財政努力が報われない。
◎地方交付税依存が「貧困の罠」になっている。衰退するほど依存する循環。
※第18回地方分権改革推進委員会資料
(土井氏への多田感想)
・東京都といなかの州が同じ経済力にはなりません。
ナショナルミニマムは確保しつつも地域間の所得格差は問題にしないとは
大胆な提言だと思います。
土井氏は「郷土愛」があれば良い、と述べていますが、
私は所得の多寡に代わる価値観を見つける必要があると考えています。
・経済学で言う「貧困の罠」が、日本の地方交付税制度にも
当てはまるという指摘は新鮮でした。

(基調講演Ⅲ)
「東日本大震災と道州制」村井嘉浩 宮城県知事
・大震災後は地方自治体の力だけでは不足、国の対応遅い。
・国の抱える業務が多すぎて小回りがきかない。
・3割自治の現状、財源不足。課税権なし。
・地方交付税は地方の努力が生きない。
・補助金のあるなしで、優先順位の低い事業を実施。
・道州制は縦の改革(権限・財源)と横の改革(区域)が必要。
・東北6県の人口はスエェーデンなみ、経済はデンマーク並み。
・現在の東北は各県に空港があり、港や研究機関も多数ありムダ。
・道州の経済力に差があるので、何らかの調整が必要。
・道州制により国が外交、防衛等に専念できる。
・道州間で競争原理が働く、効率化、世界と直接取引。
・今後の課題として、1000兆円の借金を誰が引き継ぐか。
・道州制推進知事・指定都市市長連合のロードマップ:
道州制基本法の制定(25年度)→第三者機関による答申(立法後3年以内)→
法整備(答申後2年以内)→道州制へ移行(基本法制定後6~8年)
(村井氏への多田感想)
・県の立場からの具体的な問題提起。日本の道州の経済力は世界の国に匹敵。
・知事・市長連合のロードマップでは早ければ8年後には
道州制とのことなので、遅れをとらないように準備したい。

(パネルディスカッション)
青山彰久 読売新聞編集委員、村井嘉浩 宮城県知事
土井丈朗 慶応大学教授、佐々木信夫 中央大学教授
コーディネーター 大杉覚 首都大学東京教授
青山氏の疑問
・道州とは自治体なのか?
・都道府県の廃止は国が一方的に決めてよいのか?
(住民が同意したところからやるとまだらになる)
・小規模自治体の存在意義は?
・道州政府の政治政党は?
・都市対農村の対立にするのか、協調するのか。
・国に監督権を残して事務が来るとかつての機関委任事務化しないか。
・東日本大震災では、役場があったところは機能したが、
合併して支所になったところはだめだった。道州制は市町村合併を促さないか。
(青山氏への多田感想)
・道州は自治体。憲法を改正しなければ連邦国家にはできません。
・基礎的自治体は住民や議会の意思が重要だが、広域自治体は別。
今の都道府県でさえ、国が一方的に決めたものなので、道州制への移行は
国が一方的に一斉に行って良いと考えます。根拠は地方自治法6条。
(第六条 都道府県の廃置分合又は境界変更をしようとするときは、
法律でこれを定める。)
・青山氏は現在の都道府県に強い愛着を持っているように感じました。
市町村という基礎的自治体は住民の意思が強く反映されなければなりません。
しかし、そもそも広域自治体を設置した目的は、基礎的自治体の能力を超える
行政課題に対し、効率的に対応するためであると考えられるので、
経済活動の範囲や、通信移動手段やスピードなどが、今の大きさに
合わなくなったのであれば、適切なサイズに変えているべきと考えます。
高校野球などの地域区分としては現在の都道府県の名称などは
残しても良いと思います。
・道州制移行にあたっては、激変緩和措置として移行期間を設け、
その間は現在の都道府県庁を、昔の「郡役所」のように
残す手法も有望と考えます。
小さな町村の行政処理能力が不足する場合、道州の中に残した県庁が
一部事務組合的に支援すると良いと考えます。
小さい自治体の自立支援と同時に、
県庁職員の再就職支援の期間が確保できます。
住民の心理的不安も和らぐと思います。
村井知事
・国の借金は膨らみ続け、国民の金融総資産額に近づいている。
・国は仕事を減らし、もっと地方に責任を持たせるべき。
・生まれてくる子どもたちに、塗炭の苦しみを味あわせることになる。
・市町村は、道州への事務委託、相互補完、合併など考える。
・地方交付税は支えるシステム。だれが首長でもできてしまう。
・道州制推進知事・地長連合はアクションを起こす。
政府へ要請、国民へ広報、民間企業との連携、案の作成
土井
・道州内の税収格差はある程度是正し、あとは競争。
・国の省庁の予算や組織が膨らむのは、全国の出先機関のせいではないか。
・キャリア官僚は本来の国の仕事に専念すればよい。
・受け皿づくりと、国の権限をはがす二正面作戦はだめ。
佐々木
・道州の圏域ごとの自立を考える。
・一番小さい四国州でも、世界の国の中で34位。
・地方公共「団体」から、地方「政府」に変えていく。
・広域自治体の大きさが時代に合わなくなっている。
・内閣官房に道州制国民会議を置くと失敗する。国会におくべき。
(多田質問)
・静岡県庁は県の権限を積極的に市町村へ委譲しているが、
そのことについてどう評価しているか?
(村井)宮城県も権限委譲を進めている。
(補足説明)
・パネリストのみなさんは、まだ下記の事項を御存じないようでした。
県の事務委譲の範囲が最大限な上に、市域の地方税を全て
特別市が賦課徴収するというのは県が財源を手放すことであり
画期的なことです。
(情報)10月21日に、川勝平太・静岡県知事と鈴木康友・浜松市長、
田辺信宏・静岡市長の3者が、「しずおか型特別自治市」の
制度骨子について合意。
内容は、道州制への移行を踏まえて、浜松、静岡の両市域で
静岡県が受け持つ事務のうち、警察等の広域事務以外は
両市に移譲するとともに、市域内の全ての地方税を
特別自治市が賦課徴収して「基礎自治体の自立モデルを確立する」。
これは先の地方制度調査会答申をいち早く具体化するのと同時に、
政令市と県が連名で移譲方針を明文化したのは全国でも初めて。
日本学術会議シンポジウム
「新たな統治機構改革 道州制をめぐって」
期日 平成25年11月23日(土)
場所 日本学術会議講堂(港区六本木)
(開会挨拶)
猪口邦子 日本学術会議政治学委員長・参議院議員
・橋本行革以来、官僚による統治から、
政治主導による統治へ変える流れ。
・首相は各省庁を直接指揮できない。
権力を内閣に集めたいというのが目的。
(基調講演1)
「道州制と大都市のあり方」佐々木信夫中央大学教授
・政令市は20、これに中核市と特例市を足すと100。
・日本人の半分以上はいまや大都市の住民。
・中央集権は垂直型統治システム、道州制は横型の水平統治システム。
・県が作られた時就業人口の95%が農業。徒歩や馬で行く範囲が県の区域。
・現在の住民の生活や経済活動は都道府県を越えた活動になっている。
・現在の県の大きさは、有効に機能しているというよりも、非効率。
・道州制は国の解体でもある。新たな日本の形をつくる。
・大都市は州都をにらみ道州制に賛成している。
(佐々木氏への多田感想)
・広域自治体の効率性を冷静に分析されています。
いくら今の広域地方自治体(都道府県)に愛着があったとしても、
そのままいつまでも存続させることが社会福祉の「目的」ではなく、
都道府県は社会福祉を実現するための「手段」にすぎません。
より次代に合った形へ変えていく事が必要です。
(基調講演Ⅱ)
「道州制と日本経済の今後」土井丈朗 慶応大学教授
・行政の便益が及ぶ範囲と課税権の及ぶ範囲を一致させる。
・ナショナルミニマムの視点も大事。警察、消防、教育、生保など。
・現在は幅広い補助金+交付税だが、交付税をなくし、支援は集中させる。
・現在市町村のみに課税権がある固定資産税を道州政府にも付与。
・地方法人税は応益課税でないので廃止。均等割りは残す。
・地域間の所得格差は問題にしない。郷土愛があればよい。
・現行の地方交付税制度では、自治体の財政努力が報われない。
◎地方交付税依存が「貧困の罠」になっている。衰退するほど依存する循環。
※第18回地方分権改革推進委員会資料
(土井氏への多田感想)
・東京都といなかの州が同じ経済力にはなりません。
ナショナルミニマムは確保しつつも地域間の所得格差は問題にしないとは
大胆な提言だと思います。
土井氏は「郷土愛」があれば良い、と述べていますが、
私は所得の多寡に代わる価値観を見つける必要があると考えています。
・経済学で言う「貧困の罠」が、日本の地方交付税制度にも
当てはまるという指摘は新鮮でした。

(基調講演Ⅲ)
「東日本大震災と道州制」村井嘉浩 宮城県知事
・大震災後は地方自治体の力だけでは不足、国の対応遅い。
・国の抱える業務が多すぎて小回りがきかない。
・3割自治の現状、財源不足。課税権なし。
・地方交付税は地方の努力が生きない。
・補助金のあるなしで、優先順位の低い事業を実施。
・道州制は縦の改革(権限・財源)と横の改革(区域)が必要。
・東北6県の人口はスエェーデンなみ、経済はデンマーク並み。
・現在の東北は各県に空港があり、港や研究機関も多数ありムダ。
・道州の経済力に差があるので、何らかの調整が必要。
・道州制により国が外交、防衛等に専念できる。
・道州間で競争原理が働く、効率化、世界と直接取引。
・今後の課題として、1000兆円の借金を誰が引き継ぐか。
・道州制推進知事・指定都市市長連合のロードマップ:
道州制基本法の制定(25年度)→第三者機関による答申(立法後3年以内)→
法整備(答申後2年以内)→道州制へ移行(基本法制定後6~8年)
(村井氏への多田感想)
・県の立場からの具体的な問題提起。日本の道州の経済力は世界の国に匹敵。
・知事・市長連合のロードマップでは早ければ8年後には
道州制とのことなので、遅れをとらないように準備したい。

(パネルディスカッション)
青山彰久 読売新聞編集委員、村井嘉浩 宮城県知事
土井丈朗 慶応大学教授、佐々木信夫 中央大学教授
コーディネーター 大杉覚 首都大学東京教授
青山氏の疑問
・道州とは自治体なのか?
・都道府県の廃止は国が一方的に決めてよいのか?
(住民が同意したところからやるとまだらになる)
・小規模自治体の存在意義は?
・道州政府の政治政党は?
・都市対農村の対立にするのか、協調するのか。
・国に監督権を残して事務が来るとかつての機関委任事務化しないか。
・東日本大震災では、役場があったところは機能したが、
合併して支所になったところはだめだった。道州制は市町村合併を促さないか。
(青山氏への多田感想)
・道州は自治体。憲法を改正しなければ連邦国家にはできません。
・基礎的自治体は住民や議会の意思が重要だが、広域自治体は別。
今の都道府県でさえ、国が一方的に決めたものなので、道州制への移行は
国が一方的に一斉に行って良いと考えます。根拠は地方自治法6条。
(第六条 都道府県の廃置分合又は境界変更をしようとするときは、
法律でこれを定める。)
・青山氏は現在の都道府県に強い愛着を持っているように感じました。
市町村という基礎的自治体は住民の意思が強く反映されなければなりません。
しかし、そもそも広域自治体を設置した目的は、基礎的自治体の能力を超える
行政課題に対し、効率的に対応するためであると考えられるので、
経済活動の範囲や、通信移動手段やスピードなどが、今の大きさに
合わなくなったのであれば、適切なサイズに変えているべきと考えます。
高校野球などの地域区分としては現在の都道府県の名称などは
残しても良いと思います。
・道州制移行にあたっては、激変緩和措置として移行期間を設け、
その間は現在の都道府県庁を、昔の「郡役所」のように
残す手法も有望と考えます。
小さな町村の行政処理能力が不足する場合、道州の中に残した県庁が
一部事務組合的に支援すると良いと考えます。
小さい自治体の自立支援と同時に、
県庁職員の再就職支援の期間が確保できます。
住民の心理的不安も和らぐと思います。
村井知事
・国の借金は膨らみ続け、国民の金融総資産額に近づいている。
・国は仕事を減らし、もっと地方に責任を持たせるべき。
・生まれてくる子どもたちに、塗炭の苦しみを味あわせることになる。
・市町村は、道州への事務委託、相互補完、合併など考える。
・地方交付税は支えるシステム。だれが首長でもできてしまう。
・道州制推進知事・地長連合はアクションを起こす。
政府へ要請、国民へ広報、民間企業との連携、案の作成
土井
・道州内の税収格差はある程度是正し、あとは競争。
・国の省庁の予算や組織が膨らむのは、全国の出先機関のせいではないか。
・キャリア官僚は本来の国の仕事に専念すればよい。
・受け皿づくりと、国の権限をはがす二正面作戦はだめ。
佐々木
・道州の圏域ごとの自立を考える。
・一番小さい四国州でも、世界の国の中で34位。
・地方公共「団体」から、地方「政府」に変えていく。
・広域自治体の大きさが時代に合わなくなっている。
・内閣官房に道州制国民会議を置くと失敗する。国会におくべき。
(多田質問)
・静岡県庁は県の権限を積極的に市町村へ委譲しているが、
そのことについてどう評価しているか?
(村井)宮城県も権限委譲を進めている。
(補足説明)
・パネリストのみなさんは、まだ下記の事項を御存じないようでした。
県の事務委譲の範囲が最大限な上に、市域の地方税を全て
特別市が賦課徴収するというのは県が財源を手放すことであり
画期的なことです。
(情報)10月21日に、川勝平太・静岡県知事と鈴木康友・浜松市長、
田辺信宏・静岡市長の3者が、「しずおか型特別自治市」の
制度骨子について合意。
内容は、道州制への移行を踏まえて、浜松、静岡の両市域で
静岡県が受け持つ事務のうち、警察等の広域事務以外は
両市に移譲するとともに、市域内の全ての地方税を
特別自治市が賦課徴収して「基礎自治体の自立モデルを確立する」。
これは先の地方制度調査会答申をいち早く具体化するのと同時に、
政令市と県が連名で移譲方針を明文化したのは全国でも初めて。