伊勢崎市議会議員 多田稔(ただ みのる)の明日へのブログ

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限界集落と国家百年の計

2008-08-20 20:39:35 | 山村・地域 振興
オリジナル小論文を掲載します。

「限界集落と国家百年の計」
  高崎経済大学大学院卒 地域政策学修士 多田稔

平成18年度の国土交通省の調査(1)よれば、
過疎地域における62,273集落のうち、2,638集落(3.9%)が
いずれ消滅するおそれがあるとされている。
また8,859集落(15%)では、集落機能の維持が低下、又は困難である。

近年、過疎や僻地といわれる地域で集落が消滅し始めた。
現存する集落でも、後継者のいない、俗に言う限界集落が増えている。

「限界集落」とは、大野晃(長野大学教授)が提唱した概念(2)で、
およそ65歳以上の高齢者が集落人口の50%を超え、
社会的共同生活の維持が困難になった集落を指す言葉だが、
行政上の用語ではない。

これまでの過疎地の集落に対する調査や分析は、
ミクロな視点が多かった。
空間的には特定の集落における個々の世帯の家族構成や年齢、職業を調べ、
時間的には、わずか50~60年ほどの人口の増減を問題にしてきた。

社会背景としてこれまで日本では、毎年人口は増え続け、経済も成長していた。
しかしその前提は崩れ、2006年から日本の総人口が減り始め、
今後100年以上減り続けると予測されている。

人口が減るのは過疎地だけの問題ではなく、
日本全体の構造的な問題なのである。
集落の消滅のみに注目すべきではなく、
これからの日本を国家としてどのように経営していくのか、
そしてその中で過疎地域をどのように位置づけていくのかを
考えなければならない。

猪瀬直樹(東京都副知事)は、限界集落について次のように指摘する。
「この現象は、高度成長時代から今日につづく時代が生み出した、一つの結果だ。
人口減少社会、高齢化社会においては、いかんともし難いものと言っていいだろう。
限界集落は消滅して行かざるを得ない。
これからは、消滅させない方法ではなく、
消滅後のソフトランディングを考えないといけない」。(3)

猪瀬は限界集落を切り捨てろと主張しているわけではない。
ソフトランディングの必要性を指摘しているのだ。
住民が減り、共助機能も衰えた限界集落の住民にとっては、行政は頼みの綱だ。
行政には、周辺部に位置する高齢化集落も「見守る、見捨てない!」姿勢と
その実践が必要であると守友裕一(宇都宮大学教授)は、指摘している。(4)

限界集落における個々の世帯は、
昨日今日、現在の家族構成になったわけではない。
小田切徳美(明治大学教授)が指摘(5)するように、
すでに数十年前に後継者世代が進学や就職などの機会に集落を離れ、
親世代はそのまま集落に残った結果が、
タイムラグを伴って今、発現しつつあるのだ。

国立社会保障・人口問題研究所の予測(6)では、
20年後には3分の1の自治体が人口5千人未満となる。
2025年からは、9割以上の自治体で人口減少が始まり、
2030年には、老年(65歳)人口割合40%以上の自治体が3割を超える。

仮に出生率が今後20年間低下しなくとも、
現在の若年層の人口は、現在子供を産んでいる団塊ジュニア世代より
40%も少ないので、世代交代の間に3割以上出生者数が減ることは
不可避であると藻谷浩介(日本政策投資銀行)は指摘(7)している。

マクロの目で見た場合、
これほど急激に人口の減少と高齢化が進むならば、
その地域で人の営みが継続できるかどうかという課題は、
もはや「限界集落」レベルの問題ではなく、
過疎地域の「自治体」自身にとって、生き残れるかどうかという
差し迫った課題だと言えるのではないだろうか。
自治体はこれからの22年を、漫然と過ごすわけにはいかない。

大野は
「準限界集落へ何らかの手だてをし、
存続可能集落へ再生していく具体策を講ずることが
山村再生の大きな課題」(8)と主張する。

例え過疎地でも、今後人口が増える集落もあるかもしれない。
しかし、日本の総人口の急激な減少が始まった中で、
生活や就業上、条件不利地域と呼ばれる地域にある大多数の集落の人口が、
現在より増えたり、あるいは維持されていくことは、
現実にはかなり難しいだろう。

赤川学(東京大学准教授)は、
少子化は不可避であり、人口減少、高齢化、
経済活動の縮小を前提とした社会を構想していくべきだと主張(9)している。
戦後日本のこれまで社会や価値観の前提となっていた
人口増加と経済成長は、これからの日本には無いのだ。

川の上流である山間部には、農林産物の生産のほか、
水源の涵養や、二酸化炭素の吸収と酸素の生産、
保健休養、自然生態系の保全など、多様な機能がある。

下流の住民も恩恵を受けることから、
山村だけでなく、下流も含めた流域全体で山林を維持すべきだと意見もある(10)

しかし、例えば四万十川のように
川の中流・下流域に頼りになる大都市が存在しない河川も存在する。
もっと大きな視点で考える必要があるのではないだろうか。

今年4月から京都議定書の第一約束期間がスタートし、
国ごとに割り振られたCO2排出量をクリアしなければならなくなった。
新宿区では長野県伊那市の森林整備費を負担する代わりに、
増加分のCO2吸収量と同区の排出量を相殺する
カーボンオフセットの取組を始めている。

過疎地域では市町村合併は進んだものの、
逆に1つの自治体内に複数の郵便局や農協支所を抱える形となり、
人口減少が進む中でそれらの廃止や撤退が懸念されている。
これらは山村地域の住民にとっては貴重な金融機関でもある。

また、人が生活するには行政が提供する教育などのサービスのほか、
食料品や日用品を買うための商店や医療機関なども必須だ。
しかし、民間事業者は一定数以上の顧客がいなければ営業は継続できない。

もし山村地域を市場原理の名のもとに放置し、
人口減少とともに食料品店までも失ってしまえば、
そこに人が住み続けることはかなり困難となるだろう。

都道府県別高齢化率日本一の島根県の例では、
平成19年の人口は前年比でマイナス0.75%減少(11)だが、
一方、生活上重要と考えられる飲食料品小売業者の数は
3年間でマイナス12.6%(12)となっている。
高齢化の陰で人口に比べ実に5.6倍(/年)という
驚くべき早さで商店は減少しているのだ。

広島県安芸高田市の川根地区では、
住民が自治組織を作り日用品の販売を始めた。
また、鳥取県江府町では、ローソンが高齢化集落にコンビニ食品を届けるため、
巡回販売を始めている。
しかし、これらは例外的なケースであり、
全国の過疎集落では交通手段を持たない高齢者は不便を強いられている。

地方分権を推進していくためには、
地方ごとに経済圏を確立し、地方の自立を図っていく必要がある。
日本では今後100年以上人口が減り続ける中で、
今ある全ての集落や自治体を存続させることは
残念ながら不可能であろう。

だからといって成り行き任せで地域を消滅させては、
国家経営にならない。
国家戦略として、山村などの持つ歴史や、文化を評価し、
国土保全、保健休養、交通あるいは食料生産などの多様な価値を評価し、
残すべき地域を選定すべきである。

そして残すべき地域を決めたなら、
地元自治体を超える大きな枠組みで、
その地域を支援し続ける必要がある。

具体的には、
商店や金融機関、医療・福祉サービスなどの基本的な生活基盤は、
市場経済任せでなく、公的に確保することが最低限必要であろう。

神野直彦(東京大学大学院教授)は、
「子供を生み育て老いていくための包括的機能が備えられていなければ、
人口は流出していってしまう。」(13)と指摘している。
人も金もない過疎の自治体を、市場原理に任せたままでは、
山村地域は立ちゆかない。

岡山県西粟倉村長、道上正寿は
過疎と高齢化の進む山村の現状について次のように語っている。
「ここにいたっての方法論は限られます。
日本の100年先のグランドデザインを語り、
議論して国と地方の役割を明確にして、社会保障全般をどうするか、
食料、資源の自給をどうするか、国家としての将来像を明確にすることです」。(14)

今後も市町村合併は続くであろう。
それ故、自治体単位で人の住む場所が存続するか否かを議論しても、
その枠組み自体が変化するので適当ではない。
むしろ自治体の名称はどう変わろうと、
人が集まって住んでいる場所である『集落』単位で
存続について議論することが有益であろう。
(ただし、ここで言う『集落』とは「限界集落」のことではない。
 過疎地域における自治体そのもの存続が脅かされつつある以上、
 市町村合併の可能性を考慮するなら、
 現在の過疎地域の役場所在地など過疎地域の中でも
 比較的住みやすい人口集積地を想定して、ここでは『集落』と呼ぶ。)

1万年の期間で考えるなら、日本における人口の減少期は何回かあった。
人口の変動は環境や社会の変化と強く関係しており、
過去の人口停滞は当時の文明システムの行き詰まりに伴う現象であった。
その状況を打開して狩猟生活から農耕生活へ転換した「農業革命」や、
大量生産・大量消費の「産業革命」などの大変革が起こったのだ。(15)

今後100年以上人口が減り続けると認めることは、
これまでの社会システムやライフスタイルとの決別を意味し、痛みを伴う。
しかし、山村部の持つ多様な価値をいかに評価し、
社会的費用を負担してまでも、どの地域に集落を残していくべきなのか、
「国家百年の計」を描くことが、今日本に求められている。

<参考文献>
(1)「国土形成計画策定のための集落の状況に関する現況把握調査」
  国土交通省(18年度)
(2)「山村環境社会学序説」大野晃(2005)
(3)「猪瀬直樹の『目からウロコ』」猪瀬直樹(2008)
(4)「高齢化集落における集落機能の実態等に関する調査報告書」
  日光市・宇都宮大学(2008)
(5)「中山間地域の共生農業システム」小田切徳美ほか(2006)
(6)「日本の市区町村別将来推計人口(平成15年12月推計)の概要」
  国立社会保障・人口問題研究所http://www.ipss.go.jp/
(7)「ニッポンの地域力」藻谷浩介(2007)
(8)「山村環境社会学序説」大野晃(2005)
(9)「opinion(朝日新聞2008.5.10)」赤川学
(10)「山村環境社会学序説」大野晃(2005)
(11)島根県の人口(総務省:平成19年10月1日現在人口推計)
(12)島根県の食品事業所数(経済産業省:平成19年商業統計)
(13)「地域再生の経済学」神野直彦(2002)
(14)「100年の森づくり、森のめぐみ」道上正寿(2008)
(15)「人口から読む日本の歴史」鬼頭宏(2000年
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