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★ワクチン接種後に2人の幼児が死亡したという報道について

2011年03月05日 | 予防接種
*この文章は厚労省による「ヒブと肺炎球菌ワクチンの一時見合わせ」命令が出る前に書いていたものですが、内容についての判断は現在も変わりませんのでそのまま掲載します。*

兵庫県で2日続けて予防接種の翌日に幼児が亡くなったということが報道されています。
親御さんの気持ちを察するに余りあります。ご冥福をお祈りしますとしか書くことができません。
現在、情報の収集と事態の推移を見守っている段階ですので、明らかなことは何も言えませんが、ワクチンに関して一般的なレベルの知識を持つ小児科医の判断として、現時点でのコメントをさせていただきます。
(多くの小児科医は同じように考えているはずだと思われます)
今後、新たな情報によって判断が異なってくる可能性があることをあらかじめおことわりしておきます。

<情報の簡単なまとめ>
1)宝塚市 2歳男児 ヒブ+肺炎球菌 翌日死亡 基礎疾患あり(心疾患) 因果関係不明 直接の死因については「容態が急変」としか報道されていません
2)西宮市 1歳女児 三種混合+肺炎球菌 翌日死亡 基礎疾患なし 死因不明(呼吸停止状態で発見:いわゆる突然死)

2例目については保健所からのプレスリリースがあります(抜粋)
3月1日 小児用肺炎球菌ワクチンとDPTワクチンを接種
     夜中に39℃の発熱
3月2日 午前9時過ぎ 接種医療機関を受診
     軽度の咽頭扁桃発赤のみで全身状態良好
     午後1時半頃家族が呼吸停止に気づく
     救急車到着時、心肺停止状態
     午後2時56分、死亡確認

この2例に共通する肺炎球菌ワクチン「プレベナー」のワクチン製造番号はいずれも「10G-03A」と伝えられています。
当院では「10G-03A」の接種例はなく、在庫もありません。

「厚生労働省医薬食品局安全対策課によると、ヒブワクチンをめぐっては、昨年11月に0歳の男児が接種後に死亡した例があるが、小児用肺炎球菌ワクチン接種後の死亡例はないという。」(報道より引用)

→このヒブワクチン後の死亡例については、厚労省の検討会でも「因果関係は不明」であり、今回公費助成が始まった子宮頸がん予防(HPV)、ヒブ、肺炎球菌の3ワクチンについて「安全性に重大な懸念はない」という判断が2月に出されたばかりでした。

<ワクチン接種との因果関係は?>

一般にワクチン接種と症状との間に因果関係があるかどうかの判断は、接種後30分以内のアナフィラキシーのような典型例を除くと非常に難しく、明確に判断できない場合が多いのが通常です。

2例目(西宮)は接種当日の発熱について関連の可能性はありますが、翌日朝の受診時に「全身状態良好」であったのに、その後2-3時間で突然死を起こしていることが、前日に接種したワクチンによるものだと「因果関係を断定」することはまずあり得ないと考えられます。

1例目(宝塚)は複数の基礎疾患があるようですので、原疾患、重症度、症状、経過など主治医でないと判断できないことが多いので、ここでは触れません。おそらく、基礎疾患が影響していたことは間違いないと思われますが、それに対してワクチン接種がどの程度関与していたかは、報道されているように「不明」としか言えません。

ただし、いずれの場合で「因果関係が断定」されなくても、「因果関係を否定」することはできず、ワクチン接種が死亡に関係していた可能性がある点については慎重に受け止めなければいけません。
医学的な原因究明は今後進められていくことになるはずですので、その結果を待ちたいと思います。

今回は複数のワクチンが接種されているため、必ずしも共通の肺炎球菌ワクチンが原因だと断定することも難しいかと思われます。

<紛れ込み事故とは>

以下は一般論としての「紛れ込み事故」についての解説です。
もし、今ここに100万人の大人がいたとしたら、そのうちの何人かが明日死亡したとしても不思議に思う人はいないでしょう。
現在、毎年ほぼ100万人の赤ちゃんが生まれており、毎年いくつもの予防接種を受けています。三種混合のように接種回数の多いものだと、年間のべで3~400万接種が実施されている計算になります。
(今回のヒブや肺炎球菌も同じ回数必要です)

もしワクチンを接種していなくても、基礎疾患のある子どもだけでなく、感染症の急性増悪(ウイルス性心筋炎など)や、まだ診断されていなかった先天的な疾患、そして原因がわかっていない乳幼児突然死症候群(SIDS;現在年間150~200人が死亡;タバコが最大のリスクファクター)、SIDSと診断されない突然死などにより、少ないとは言え毎日ある程度の数の子が亡くなっていることも事実です。

その中に、たまたまワクチンを接種してから数日以内に亡くなったような場合があれば、たとえ医学的に見て因果関係が低いと思われても、関連が否定できない場合には「疑わしきは救済」の原則にのっとって被害の認定をしています。ワクチン接種による副反応と認定された中には、本当の副反応と、ここに書いたような「紛れ込み事故」の両方が含まれていることになり、その両者を厳密に分けることはできません。

ですから、実はほとんどのワクチンで、百万~数百万接種に1人くらいの死亡を含む重篤な副反応が認定されているのですが、それくらいのレベルが、紛れ込み事故を含んでも接種していない場合と比べて安全性に問題がないと判断されるかどうかのラインとなるようです。

今回の個々の例について、紛れ込み事故であったのかそうでないのかは、専門家による判断にゆだねられますのでここでは触れません。

<今後のワクチン接種の継続は>

今回の共通のロット番号「10G-03A」のワクチンについては、この状況であれば回収されることになる見込みです。ここまでは間違いないでしょう。
(↑3/5追記:3・4例目は違ったロット番号のため、特定ロットだけの問題とは言えないかと思われますが、おそらく当該ロットは回収になるものと思われます)
ファイザー社の肺炎球菌ワクチン「プレベナー」は、日本だけでなく世界中の多くの国で接種されているワクチンであり、「10G-03A」以外のワクチンについて現時点で接種を見合わせる判断はできないと考えるのが普通です。
もし見合わせるのであれば、日本だけでなく世界中で接種を中止しなくてはいけない理屈になるからです。
以上については、今後の情報を待ちたいと思います。

<同時接種が悪いのか>

これまで世界各国で各種の同時接種が行われてきましたが、それによってリスクが高まるという報告はありません。それぞれのワクチンのリスクそのものだということであり、相乗的にリスクが高まるということは医学的にみて考えにくいことです。
これは、サイコロを何回振っても、たとえその前に「1」が何回続いたとしても、次のサイコロの目が「1」になる確率が1/6であることは変わらないということと同じです。

<接種した方が良いのか?>

ヒブワクチン(アクトヒブ)や肺炎球菌ワクチン(プレベナー)は輸入ワクチンで、世界各国で接種されてきて、細菌性髄膜炎を過去の病気と言えるほど劇的に減らしてきたワクチンであり、副反応についても上記のような「安全性」(=ゼロリスクではなく紛れ込み事故を含めて明らかなリスクの差がない)が認められてきたという経緯があります。

あらゆるワクチンは、リスクとベネフィット(有益性)を比較して、後者の方が圧倒的に大きい場合に接種が推奨されます。現在導入されているワクチンは、そのような判断で認められたものですので、現時点でその判断を根本から変えなければならないという根拠はありません。

通常認められる「紛れ込み事故を含めて百万~数百万例に1人」というレベルは、上記のサイコロで表すと「1」が8回連続して出る確率(167万9616分の1)に相当します。
該当の「10G-03A」のロットについて狭い地域で連続して死亡例が出るという事態は、紛れ込み事故を含めたとしてもこの確率を大きく超えることが予想されますが、これを他のロットを含めた肺炎球菌ワクチン全体、あるいはヒブワクチンも含めて、非常に危険なワクチンと感情的に断定することは避けるべきと思われます。

その点で、我が国の政府とマスコミは非常に脆弱で頼りにならないものだということはこれまでも何度も痛い目に遭わされてきてわかっていますので、今回も国民に冷静かつ科学的な情報の伝達が行われることはあまり期待できないのが実情です。

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2幼児死亡、ワクチン製造番号が同一 兵庫・宝塚と西宮 2011.3.4 11:23
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110304/crm11030411250016-n1.htm
 小児用肺炎球菌ワクチンなどの予防接種を受けた兵庫県の幼児2人が死亡した問題で、2児が接種した同ワクチンの製造番号がいずれも同じだったことが4日、分かった。厚生労働省は死亡と接種の因果関係について調査を始めた。
 同県宝塚市では、市内の男児(2)が2月28日に細菌性髄膜炎などの予防目的で小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンを接種し、翌日死亡。西宮市では、市内の女児(1)が今月1日、小児用肺炎球菌ワクチンと破傷風などを予防する三種混合ワクチンを接種、翌日死亡した。
 厚生労働省によると、小児用肺炎球菌ワクチンは東京の大手製薬会社から昨年2月に発売され、今年1月末までに約215万人が接種。死亡した2児が接種したワクチンは昨年10月に製造されたという。
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