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急性白血病や鼻血・下痢と福島原発事故 脱原発を望む人は考えて発言するようにしないと 一小児科医の私見

2011年09月01日 | 東日本大震災・原発事故
原発作業員が急性白血病で死亡したニュースで、twitterで何の根拠もなく東電や医師を批判している人たちは、もっと冷静に考えて議論するようにしないと、疑似科学批判派(←私もEM菌やレメディなどについて批判してきましたが<この人たち>とは一緒にしないでほしい)につけ入られるだけです。

「あの人たちは科学的に考えて判断することができない人たちだから」と十把一絡げにされ、脱原発=科学リテラシーのない人たちによる“感情的な集団ヒステリー”的な扱いを受けて、全体の脚を引っ張ることになりかねません。
(それにしても香山リカ説はひどすぎるが…)

白血病と鼻血の話は同じストーリーではないので、後の方で個別に書きます。
(以下、前置きが長くなりますので飛ばしても構いません)

まず誤解のないように立場を明らかにしておきますが、
私は医師の中でも初期の段階から福島原発事故による健康被害の危険性を訴えてきた、かなりの少数派に属すると考えています。
もう10年近く原発・核燃サイクル反対運動に(形だけですが)関わってきたし、最初に「原発ジプシー」を読んでからだと30年近く経つのかも。

今度こそ原発を終わりにしなくてはいけないと意を決していますが、最近の流れには危機感を抱いています。チェルノブイリ後に運動がジリ貧になった二の舞になりかねない(当時の事情は関わっていないので知りませんが)。

これも初期にこのブログに書いたはずですが、
もし放射線被曝との関連が疑われる病気になったり死亡したりしても、被曝が原因かどうかは全く区別できず、個別のケースについて因果関係が認定されることは期待できません。

(そもそも病気の発生が一つの原因によると因果関係が断定できることはなく、グレイの中でシロに近いかクロに近いか、限りなくクロに近いか、そういった議論しかできないのが前提で、個別のケースで一つの原因に特定することは不可能。)

それは、過去の原爆病、水俣病、タバコ病等の裁判で繰り返されてきて、ある程度特有の症状や疫学的な蓋然性が高い場合でも、裁判に訴えても相当数の人たちが救済されなかったという何十年にも渡る歴史が証明しています。
(原発問題でも司法が全く機能しなかったこともやっと明らかにされましたが)
まして、今回のような状況では最初から救済されることはないと考えて行動すべき。

たとえ因果関係が認められたとしても、その頃には今の責任者はみんな死んでるし、病気になれば元には戻せません。(甲状腺がんは予後が悪くないから罹っても大丈夫と言っている○○もいるようですが医師免許を取り上げるべき。)

ですから、国による避難の指示や補助などは期待せずに(当然なされるべきなのですが残念ながら今後も実現の可能性は非常に小さい)、可能な限り避難して自分と家族の身を守るしかない。
特に小さい子や妊婦、放射線量の比較的高い地域ほど。 ※
と訴えてきたつもりです。

※私見ですが目安として0.3μSv/hで広範囲に除染、0.6では除染よりも前に子どもは自主避難、1.0以上では子どもはすぐ避難、避難権利区域に指定して費用補償。個別には線引きできないので各自判断して下さい。

避難によるストレスを強調する人がいますが、放射能の害そのものと、放射能の心配や親としての悔恨というストレスから解放されることを十分に考えるべきです。
そもそも、避難のストレスは事故で生じたのだから政府や東電が責任を持つべき問題なのに、行政の側のアドバイザーが、避難は難しいから放射能と一緒に暮らせなどと言うことは言語道断です。

私自身も(別のentryに書きましたが)放射線量の少し高い地域に子どもや家族が暮らしていて一時避難させた経緯もあり、子どもへの被曝の影響を心配される親御さんの気持ちはある程度わかるつもりです。

福島県内の小児科医のブログが各所で引用されています。書かれている気持ちは理解できなくもないのですが、子どもを守るべき立場にあるはずの小児科医として、その医師が最終的にとっている態度にはとても賛同できません。
(小児科医のコミュニティではその医師の意見が認められて議論は終了し、福島の危険性を外から言ってはいけない雰囲気になっているようですが。)

本題に戻ります。

<鼻血・下痢等の症状について>

これは、今まで習ってきた医学の常識や、日常的に子どもを診察している経験から普通に判断すれば、因果関係は否定的ということになってしまいます。
(多くの専門家はここで議論を打ち切っている)

もし「低線量被曝による鼻血」という仮説を立証しようとすると膨大な症例が必要になりますが、そもそも正常コントロールを調べようがないし、今後も立証不可能だろうと思います。
メカニズムは想像できないけど、疫学的に「否定する」こともできそうにない。
つまり、わからない。

遠隔地に避難したら鼻血が出なくなったというケースについても、
単に時間的関係で後になったら自然に良くなった可能性や、
よく言われるような「ストレスによるもの」だった可能性、
頻度的に特に問題視しなくてもいい範囲内だった可能性なども否定できません。
もちろん、放射能の影響も可能性の一つには残しておく。
その中で、どれが正しかったかも判断できないでしょう。

まずは親身になって受け止めてくれる小児科のかかりつけ医に相談することは良いことだと思います。
(時間的に対応できない可能性もありますが)
少なくとも、全身状態や所見などを診察してチェックしてもらえます。
ほとんどの場合は一般的な検査では何もわからないだろうと想像します。
カルテの記録が後々何かの役に立つとも思えませんが。

ただし、臨床医学には可能性を100%否定したり肯定したりすることは出来ません。

医学そのものが、よくわからない症状、所見、経過などを観察することから発展してきたものであり、未知の事態に対して過去の知見だけで否定することは科学的態度とは言えないはずです。

特に、これまで広島・長崎、核実験場、チェルノブイリ、イラクやボスニアなどで観察されてきた説明のつかない症状、原爆ぶらぶら病や湾岸戦争症候群、チェルノブイリでの「甲状腺がん以外の」様々な病気や症状、子どもの奇形の多発などが相当明らかな形で報告されてきたにも関わらず、各国政府だけでなく医学界もその存在すら認めてこなかったという事実は重大視しないといけません。

「チェルノブイリのかけはし」のように、多数の子どもが避難後に症状が軽快しているのであれば、その事実に向き合う必要はあると思うし、それがフクシマにどの程度あてはまるのかはわかりませんが、多数のお母さん方の心配を笑い飛ばして大丈夫という気にはとてもなれません。

この文章での暫定的な結論は、従来の医学の常識では考えにくいが、未知の症状が生じている可能性は否定できない。その判断は長期的にもできそうにない。現在の原発からの放出状況も安心できない。よって、症状の有無に関わらず避難を検討した方が良い。 

30年後に心配が杞憂であったとわかればいいが、その結果には誰も責任を持てない。
だから予防原則で考えるしかない。

何も手助けできませんが、誰かの目に留まって判断の一助にでもなれば。

<急性白血病について>

発表になった死亡した作業員については限られた情報しかありませんので、以下の記述には推測が多分に含まれています。

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男性 年齢不明
8月上旬に約1週間、休憩所でドアの開閉や放射線管理に携わった
体調を崩して医師の診察を受け急性白血病と診断され入院先で死亡
医者は発電所の作業と因果関係はないと診断
東電は16日に元請け企業から報告を受けた
発表は8月30日
事前の健康診断で白血球数は異常なし
過去に原発の作業歴はない
被曝放射線量は累計で0.5ミリシーベルト、内部被曝はゼロ
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一般論としては、
白血病と言ってもタイプによって経過や予後が大きく異なる。
原因は放射線被曝だけではない。
何らかの原因があったとしても、そこから発病して、さらに症状が出るまでにはある程度の年月がかかるのが普通で、数週間で発症して死亡するような病気ではない。
多くの急性白血病は治療の進歩によって寛解・治癒が見込める。悪性新生物(固形癌と血液の悪性腫瘍)の中では治る可能性の高いものである。
もちろん診断時に進行して合併症を起こしていたりして、治療に反応せず死亡するような場合もないわけではないが、この場合どうだったか判断の材料がない。

などを考え合わせると、担当医の判断はごく常識的な範囲内と想像します。
通常は「因果関係がない」という表現ではなく「因果関係は否定的」というのが普通ですが、この経過だと「因果関係がない」と断定して間違いなさそうです。

作業前の血液検査で異常がなかったことが、その時点で白血病が発症していなかったことを証明するものでもありません。
(1週間という時間からすると発症していたと考えるのが普通)
白血球数だけの検査で顕微鏡で見る血液像まで検査していない可能性の方が高い。

以上を合わせて判断すると、この作業員のケースについて、これ以上議論する意味はないし、追及しても何も出てきません。
もし、過去に原発の作業歴の有無や今回の被曝管理などに問題があるのであれば、労災認定や裁判などはあり得ると思いますが、それはご遺族の側の話。

作業員が亡くなったという事実は重大だとしても、針小棒大に騒ぎ立てても誰にとってもメリットはない。

こう書いたのは、これまでに多くの作業員が原発作業で受けた被曝によって、今後深刻な健康生涯が生ずる可能性を否定する意味ではありません。
それは多かれ少なかれ現実のものとなることは間違いないでしょう。

そのような感覚を持って戦場に臨まないと、相手を利するばかりです。

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