精神世界(アセンションについて)

このブログの内容は、色々なところから集めたもので、わたくしのメモであって、何度も読み返して見る為のものです。

『風になった少年』 その1

2008年02月19日 | Weblog
『風になった少年』 その1 ミクシィ「まこりん」さんの日記より

一年くらい前、小学生高学年向けに、こんな物語を書いてみました。

よかったら、親子で、そしてみなさんに読んでいただけたら嬉しいです。


風になった少年
 

転校生

「キリーツ! レイ! おはようございまーす!」
「おはようございます」
 俊一の号令により、いつものように、元気な朝のあいさつが交わされました。

「新しいお友だちを紹介します」
 山野先生はニコニコ笑いながら、教室の入り口のほうを見ました。
 みんなはびっくりしたような顔をして、いっせいにその子を見ました。

 転校生だって? 今ごろ? 勇太も隆志も舞も不思議そうな顔しています。
 そうです。こんな小さな村の小さな小学校に、転校生などめったにありません。それもゴールデンウィークが明けた、こんな時期に…。

 理香も賢治も良介も好奇心いっぱいです。
クラスのみんなは青白く痩せたその子に視線を向けたままでした。
 手足がヒョロッとして、何だか生気のない顔。髪はくせっ毛でウェーブしています。目は茶色く透明がかって見えました。
薄いブルーのポロシャツにベージュのコットンパンツ。
別に変わったところはないのですが、何となく都会的な雰囲気が漂っています。
 
 先生に促されて、その子はペコリと頭を下げました。
「遊川哲(ゆうかわさとる)です。よろしくお願いします」
 大人っぽい口調のあいさつ。
「それでは」やっぱり先生はニコニコ笑いながら、「あそこの席に座ってください」と一番後ろの窓側の席を指しました。
 淳平の斜め後ろの席です。
 
 哲はゆっくりと席に着きました。動作が緩慢で、子どもらしくないように感じられました。
 席に座った哲は淳平の顔を見てホッとした様子。
 そうなんです。哲にとって、ここでは淳平だけが頼りなのでした。
 

 哲はゴールデンウィークが始まる少し前にこの村に引っ越して来ました。
 それまでは東京で暮らしていました。
 
 淳平ちの隣の柿田さんちは哲のお母さんの実家。
 毎年夏休みになると哲とお母さんは里帰りしてきます。
 同い年ということもあって、淳平は自然に哲と仲良く遊ぶようになりました。
 二人はなぜだかとても気が合いました。
 
 そんなわけで、今年も淳平は夏休みが来るのをとても楽しみにしていたのです。
 その哲が、まさか、引っ越して来るなんて…。夢にも思いませんでした。
 淳平はびっくりしました。
 でも理由はどうあれ、嬉しくて仕方ありません。
「これからは毎日遊べるな」
「うん」
「あれ? 哲くん、痩せた?」
「ううん。……いや、やっぱりちょっと痩せたかな(?)」
 哲ははにかみながら答えました。
「淳平くん。これからも哲のこと、よろしくね」 
 哲のお母さんは微笑みながら言いました。気のせいか、淳平には、その声がどことなく弱々しく、元気がないように聞こえたのでした。


「キリーツ! レイ! さようなら!」
 俊一の勇ましい声につられて、みんなは元気よく終わりのあいさつをしました。
 
 クラスのみんなは哲に興味津々です。
 早速、俊一が尋ねます。
「どこから来たん?」
「東京」
「へえ? すごい! 都会っ子なんや。哲君って」
「……」
 哲は何と答えたらいいか戸惑いました。
「わあ、ええなあ。東京って何でもあるんやろ。でっかいビルやら遊園地やら…」
 俊一は少し興奮しています。
「なんで引っ越して来たん?」理香がききました。
「…………」
「そんなことより、あんまり遅くまで教室に残ってたら、せんせに叱られるから、帰りながら話そうや」
 淳平はかばんを肩にかけて、みんなに言いました。

 
 校門のところで、勇太と健と良介が待ち構えていました。
「や~い、やせっぽっち!」
「青びょうたん!」
「都会もんは違うなあ。何すましてんだよう」
 口々にはやしたてています。
 みんなはめいめい顔を見合わせました。まるで腫れ物にでも触るような顔つきをしています。そして知らん顔をして、さっさと通り過ぎて行ってしまいました。
 
 淳平はカッとして、何か言いかえそうとしました。が、その時、哲が淳平の腕をそうっとつかみました。
「いいんだ」という顔をして淳平をじっと見つめています。
「あいつら……」
 淳平は腹が立ってたまりません。
「哲のこと、なんも知らんくせに…。それに俊一たちも知らん顔して、なんやねん」

「ねえ、淳平」
 哲は何事もなかったような顔をして言いました。
「君のおじいさんの田んぼに寄って帰ろうよ」
 五月晴れの心地よい風を切りながら、二人は山のほうに向かって走りました。
 
 淳平は走るのが得意です。いい気になって土手を思いっきり駆けました。
 振り返ると、後ろのほうで、哲が苦しそうにフーフー言っています。
「ごめんごめん。だいじょうぶ?」
「だ、だいじょうぶ。淳平は相変わらず風のように速いなあ。うらやましいよ」
 哲は真っ赤な顔をして、息をきらしています。

「お帰り。どこ行くんや?」
 見ると、畑で淳平のおじいさんが手を振っています。
「じいちゃんの田んぼに寄って、ついでに山で遊ぶんや」
「田んぼはもう水張ったから、入られへんで。来週は田植えやからな」
 おじいさんは、山のほうを見ながら孫に言いました。
麦わら帽子をかぶり、首にタオルを巻いています。
 浅黒く日焼けした顔。人なつっこそうな目。優しく微笑んでいます。
「淳平はおじいさん似なんだ。笑った顔がそっくり」
 哲は、淳平がおじいさんになったときのことを想像して、思わず苦笑していました。
 きゅうりやトマトの苗がすくすく伸びています。おじいさんは竹で添え木をしたり、雑草をぬいたり忙しそうです。

「ちょっと一服するか」たばこに火をつけて、「淳平、哲くんも、まあ座らんかい」と言って、草の上に腰をおろしました。 
おいしそうにたばこを吸っています。

「そや、にぎり飯が2個残っとる」
 おじいさんは、おにぎりを包みから取り出しました。
梅干の入った素朴なおにぎりです。水筒にはお茶もたっぷり入っていました。
「おいしい!」
 哲は口いっぱい頬張りながら、つぶやきました。そうなんです。
 淳平のおじいさんの作ったお米は本当においしいんです。
「うまいか? そりゃそうやろ。わしが心を込めて一生懸命作った米やからな」
 自信たっぷりです。目じりにしわを寄せて満足そうに笑っています。

「ここいらはまだまだ水もきれいし、自然に恵まれとるから、ええ米がとれる」
「それに、有機農法で栽培してるから、おいしいんですね」
 哲は米粒を一粒ずつ噛みしめながら、大人っぽい口調で相づちを打ちました。
「ほう。哲くんはむつかしいことを知っとるんやな」
 おじいさんは半ば呆れた顔をして、哲の顔を見つめました。
「哲は何でも知っとるんよ。いろんなこと詳しいで」
 淳平は自分のことのように鼻高々です。

「そんなことないよ。ただ…」
 哲はてれくさそうに言いながら、言葉をつまらせました。
「ただ? 何なん?」
 淳平は尋ねました。
「ただ、農家の人に教えてもらったから…それで知ってるだけ。
 じつは去年、総合学習で田植えの行事があったんだ」
「えっ? 田植え?!」
 おじいさんも淳平も、同時にすっとんきょうな声をあげました。
「東京に田んぼなんかあるんか?」
「バスで2時間くらい行ったとこだけど…」
「そうか。そこで有機農法をやっとるっちゅうわけやな」
 おじいさんは、さもありなんという顔をして、嬉しそうに笑っています。

「もしかして、哲も田んぼに入ったんか?」
 淳平は泥の感触を思い出したように、くすぐったそうな顔をしてききました。
「いや、風邪をひいて参加できなかった」
 哲はちょっぴり沈んだ声で答えました。
「でも秋の稲刈りには行けたよ。とっても楽しかった」
 哲はそのときのことを思い出してニコッと笑いました。
「都会から田舎に移った人たちが、有機農法を学びながら農業をやっているって聞きました。農薬を使わずにお米を作るって、ものすごく大変らしいけど、みんなニコニコ楽しそうでした。それに、田植えのあと、田んぼに鴨を放すらしいんです。ちょっとびっくりしました」
 哲は一生懸命おじいさんに説明しています。
「合鴨農法か…。それにしても、哲くんはすばらしい体験をしたんやな」
 おじいさんはニッコリ笑って頷きました。

 
 太陽はすっかり西のほうに移動しています。空は水色からオレンジ色に変わりかけていました。
「田んぼはこんどにする?」
 淳平は水筒のお茶をゴクリとおいしそうに飲み干しながらききました。
「うん。……」
 哲はもじもじしながら、おじいさんのほうを見ています。
 おじいさんはせっせと雑草を鎌で刈っていました。
「おいしく育つんやで。今年も哲くんに食べてもらおうな」
 きゅうりやトマトに話しかけています。

「あのう…」
「なんや?」
「僕も手伝います」
 哲は雑草を引き抜きました。
「無理に根っこまで抜かんでもええよ。根っこには根っこの役割があるさかい」
「はい」
 哲は不思議に思いましたが、おじいさんの言うとおりにしました。
 いつの間にか、淳平もそばに来て、慣れた手つきで手伝っています。

「あのう」哲は恥ずかしそうに、「来週、田植え手伝ってもいいですか?」と思いきって言いました。
「エッ? ああ、ええよ。……せやけど、きついで」
「そうやで。田植えはそばで見てるより、はるかに重労働なんや。哲には無理やと思う」
 淳平は心配そうに哲の体を見ました。
「だいじょうぶだよ」
「そうやな。裸足で田んぼに入るだけでもええか」
 淳平の言葉に哲は少しムッとした様子です。
「いや、ちゃんと苗を植える!」
 意外な返事に淳平は驚きました。いつもの穏やかな哲にしては、めずらしく強い口調だったからです。

「わしが、うまく植えるコツを教えたる。だいじょうぶや、哲くんにもできる」
「ホント?! ホントにいいんですか?」
 突然、哲の顔に赤みが差して、パッと輝いて見えました。何だか淳平も嬉しくなってきました。
 今年は哲が一緒だと思うと、何だか楽しくてワクワクしてきました。

『風になった少年』 その2

2008年02月19日 | Weblog
『風になった少年』 その2 ミクシィ「まこりん」さんの日記より
 

哲が転校してきて一週間が経ちました。
 相変わらず、勇太たちはいじわるを仕掛けます。勇太は、都会的で頭のいい哲をどうも気に食わないようです。
 
 淳平がそうじ当番の日のこと。哲は一人運動場で待っていました。
「やあい! もやしっ子。風に吹かれて倒れるやんけ~」
「かばん重そうだから、持ってやる!」
 そう言うや、健は哲のかばんをひったくって、良介に投げました。
「やーい! くやしかったら、取りに来い」
 哲が良介のところに駆け寄ると、良介は勇太に投げました。
 勇太は勝ち誇ったようにかばんを両手で空高く掲げています。
「返してほしかったら、ここまでおいで。オニさんこちら♪」
 勇太たちは校門のほうに、どんどん走っていきました。

 振り返ると、てっきり追いかけてくるはずの哲が見当たりません。
 おや、と思って戻ると、運動場のはしっこの草むらで、哲が寝っころがっているではありませんか。
 勇太たちは、空振りを食らって間が抜けた様子です。
 
 三人はそうっと草むらに近寄りました。
 哲は涼しい目をして、空の雲を追いかけています。
「なんや、こいつ。けったいなやつやなあ」
「かばん、いらんのんか?」
 哲はさっきのことなど露知らず、という顔。

「きれいな空だなあ! この村に来てよかった…」
 ひとり言のようにつぶやいています。
「ねえ、みんなも見てごらんよ。雲が楽しそうに追いかけっこしているように見えない?」
 拍子抜けした勇太は、かばんを哲のそばに落としました。
「アホらし。帰ろ、帰ろ」
「こんな変なやつの相手しとられへんわ」
「カラスが鳴くから、か~えろ」
 口々にそう言って、走って行ってしまいました。
 
 そうじをしている間じゅう、淳平は哲のことが気になって仕方ありませんでした。
「だいじょうぶか? あいつら…」
 淳平は、小さくなった三人の後姿をにらみつけながら、哲に近寄って来ました。
「うん。平気」
「そうか、それやったらええけど…。それにしても、なんか様子が変やったな」
 哲が平然と落ち着いているのを見て、淳平はとりあえず安心しました。

「明日もあさっても、天気だって! よかったな」
 空を見ながら、淳平は嬉しそうに言いました。
「うん。楽しみだね」
 二人は仲良く並んで帰りました。
 

「ええ天気でよかったなあ」
「じいちゃんの日ごろの行いがええせいや」
「わあ、自分で言ってらあ」
 楽しそうな会話が田んぼに響きわたっています。 

 おじいさんの田んぼでは、耕運機はもちろん田植え機も使いません。
 “不耕起栽培”と言って、畑を耕さずに栽培する方法でやっているからです。
 この栽培を続けることによって、土は機械で耕すよりも軟らかで、崩れにくい理想的な状態になるそうです。
 結果的に、病害虫に強い作物を作ることができます。何でも、根圏生物、根圏微生物とやらの助けを借りることができ、必然的に無農薬になるからなのだそうです。
 
 ちょっと難しい話になりましたが、要するに、環境に優しく、健全な作物を生産することができる“科学的な農業”だと理解すればいいようです。

「昔は、効率だけを考えて、機械や農薬に頼っていたんやが。
いろいろあってなあ。いまじゃこのやり方がわしの性分に一番おうとる」
 十年くらい前までは、おじいさんの田んぼでも、耕運機や田植え機を使っていました。
 田植えも二~三人で、まる一日もかからないくらい簡単にできたそうです。
それに、農薬や除草剤を使い、面倒な雑草や害虫とも無縁でした。
 
 ところが、あるとき、おじいさんとおばあさんはすっかり体調をくずしてしまったのです。
 頭はボーッとするし、目はかすむ。何もやる気がしない、といった状態です。
病院に行っても原因はわかりませんでした。
 おじいさんはいろいろ考えた挙句、ようやく気づきました。
「どうも農薬散布のあと、特に調子が悪くなるようや」と。
 
 そのころ、村では都会から戻って、農業を始めた青年たちがいました。
機械も薬も使わずにです。
 村のみんなはそんな青年たちのことをバカにしていましたが、おじいさんは思うところあって、彼らのところに話を聞きにいきました。
 
 そして、不耕起栽培のことを知りました。
 もともと素直な性格のおじいさんのこと。
 早速彼らから学び、自分も実行することにしました。
 それからは、すっかり健康を取り戻し、おまけに以前より増して、おいしいお米や野菜が獲れるようになりました。
 おじいさんの影響は大きく、今では村の三分の一の農家がこの方法でやるほどまでになりました。


「冷やっこくて気持ちええなあ!」
 淳平のはしゃぐ声。
「へえ~、淳平。田植えが嫌いやったんやなかったんか?」
 淳平の兄、雄一郎がからかいます。
 雄一郎は高校三年生。町の高校へは家から通うのが大変なので、寮に入っています。野球部に入っていて、休日も練習に忙しいのですが、農繁期の時期の土日は必ず帰って来ます。
 
 淳平のおじいさん、おばあさん。お父さん、お母さん。淳平のおじさん、おばさん、いとこの二人。雄一郎、淳平、それに哲。総勢十一人。子どもも貴重な働き手です。
 広い広い田んぼの田植えが始まりました。
 
 みんなは苗を片手に、もう片手に鎌を持っています。
不耕起の田んぼは少し堅めなので、植えるところを鎌で穴をあけるためです。
 長靴で入ってもいいと言われたのですが、哲は淳平と同じように裸足になりました。五本の指が自由に動き、大地をしっかりつかみます。
汗ばんだ額に五月の風が心地よく感じられます。

 哲は夢中になって植えました。
「ああ、ぼくは自然の一部なんだ!」田んぼと一体になったような錯覚を起こしました。
 淡々と手を動かしながら、想像しています。見事に実った黄金の稲穂。その上を吹き渡る風。そんな風になった自分を。

「なにニヤニヤしてんのん?」
 淳平は哲の働きぶりに感心しながら尋ねました。
「ねえ、淳平。人間の手って不思議だね。ホラ! もうこんなにたくさんの苗が…」
 哲は背をのばして、おじいさんのように腰をトントンたたきました。
 哲につられて、あっちでもこっちでも腰をトントンやっています。

「順調、順調! このへんで昼飯にしようや」
 淳平のお父さんが、みんなに声をかけました。
「やあ、ずいぶん植わったなあ。気分爽快!」
 雄一郎は田んぼを眺めてひとり悦に入っています。


「哲くん。疲れたやろ?」
 そう言って、淳平のお母さんが冷たいお茶とおにぎりをすすめてくれました。
「おいしい!」
 やっぱり、おじいさんのお米は最高!
「うまいなあ」
 淳平のいとこの実も口をモゴモゴさせて、妹の由紀と頷きあっています。
 彼らは今朝早く隣町から車でやってきたのでした。

「ここの漬けもんは、いつ食べても、うまいなあ」
 淳平のおじさんが、白い歯を見せてニコニコ笑っています。
「ホント。心がほっこりしますね。この味は…」
 淳平のおばさんは相づちをうちながら、言葉を続けました。
「初めのころは、田植えなんて…。正直言って、イヤだなあと思っていたんです。でも、このお漬物につられて…(笑)。それにみんなと働くのは、ほんとに楽しいんですよね。この子たちも今では毎年、田植えを楽しみにしているほどです」

「私もよ」淳平のお母さんも、つい本音を出します。「この家に嫁いでくるまでは、農業とは、からきし縁がなかったでしょ。とっても不安だったの…」
「まさか良子さんも農家に嫁つぐことになるとは思わんかったやろ? 兄ちゃんらは熱烈な大恋愛やったから、しょうがないなあ。」
 おじさんは、楽しそうに二人をからかっています。

「いやあ、良子さんには助かってんのよ」おばあさんが横から口をはさみました。
「こんな田舎に嫁にきてもらうだけでも、じゅうぶん有難いことやのに、ほんまにようやってくれる」
 実際、彼女たちの関係はうまくいっているようでした。
 豊かな自然に囲まれて、ゆったりと過ごすこと。
 案外、それが秘訣かもしれません。
 
 なごやかな雰囲気の中で、ゆっくり昼食をとり、午前中の疲れはすっかりとれたみたいです。
 午後からは暑くて汗ばむほどでしたが、さわやかな五月の風が訪れては励ましてくれました。
 みんなの手によって、苗はていねいに植えられていきました。

 
 次の日も快晴に恵まれて、田植えはいたって順調に完了しました。
「みんなのおかげで、今年も無事に田植えがでけた。ありがとう! 
 さあ、大したもんはないけど、たんと召し上がってくれや」
 ちらし寿司、てんぷら、ゆで豚、焼き魚、おひたし、サラダ、餅、果物…、おいしそうなごちそうがズラリと並んでいます。

 最近ではすっかり見かけなくなりましたが、“さなぶり”といって、田植えが終わったあと、農家では、みんなにごちそうを振舞います。
 この日は朝から家で、淳平のお母さんとおばあさんが、ごちそうを作っていました。哲のお母さんも手伝っていたようです。
 
 まず、おじいさんが、田んぼの畦に、お供え物をしました。
 そして、田の神様に感謝と祈りを捧げています。
 みんなも一緒に手を合わせました。
 もちろん、哲も祈りました。
 
 田んぼの横でみんなは円形になって、ごちそうをつつきました。
 大人はうまそうにお酒を飲んでいます。
「父さんの米は日本一うまい!」
 おじさんは日焼けとお酒で、顔を真っ赤にして言いました。
「あったりまえや! わしの米には“ビタミンI”がいっぱい含んどるからな」
 おじいさんも顔を真っ赤にして、得意げです。
「ビタミンI?」
 子どもたちはキョトンとして顔を見合わせました。
 おじいさんはニンマリしています。
「ビタミン“愛”――ラブのことだよ」
 雄一郎が解説。
「なあ~だ!」子どもたちは声を揃えて、また顔を見合わせました。
 そうなんです。おじいさんの農作物にはビタミンIが豊富。
 だからおいしいのです。食べた人は幸せな気持ちになります。
 
 おじいさんは子どもたちにこんなことを話しました。
「これから、この田んぼには、いろんな生き物が生まれるぞ。
 おたまじゃくし、貝エビ、豊年エビ、ミジンコ、赤虫、モノアラガイ…。
 それに、農薬を撒かんかったら、クモやハチ、カエルにヘビ、鳥たちが害虫を食べに来てくれる。実に、自然はうまくできとる」
 食物連鎖の話に、哲はちょっぴり胸が痛みました。しかし、それが大自然の厳しさなんだ、と思い直しました。

「ねえ、淳平。これからもちょくちょく田んぼに来て、生き物を観察しない?」
「賛成」
 淳平にとって、今さら田んぼの虫など何も珍しくなかったのですが、哲と一緒なら、やってみてもいいと思いました。
 
 あたりはすっかり夕焼け色に染まっていました。
 お酒を飲んだ大人たちに負けないくらい、子どもたちも赤い顔をしています。
 楽しそうに騒ぐ声が山にこだまして、その日の夕暮れはいつまでもにぎやかでした。

『風になった少年』 その3

2008年02月19日 | Weblog
『風になった少年』 その3 ミクシィ「まこりん」さんの日記より


秘密

 
 次の朝、淳平はいつもより寝坊してしまいました。
 結構田植えがこたえたみたいです。
「哲だいじょうぶやろか…」
 
 案の定、哲はまだ寝ていました。
「哲は熱があるので、今日は休むことにしたの」
 哲のお母さんは、さみしそうに微笑みました。
「やっぱり、哲に田植えは無理やったんや」
 淳平の心臓がドキリと音を立てました。心配していたことが起きた! 
ぼくが止めれば、こんなことにならなかったのに…。
 後悔の念が淳平を襲い、目にはうっすら涙さえ浮かびました。
「心配しないで。田植えのせいやないのよ。哲はときどき熱が出るの。
二~三日もすればまたすぐ良くなるわ」
 哲のお母さんは、淳平の気持ちを察して、優しく言いました。

「淳平?」
 奥から哲の声がしました。
「あがってもいいですか?」
 そう言って、淳平は哲の部屋に一目散に駆け込みました。
「哲! だいじょうぶ?」
「うん、へっちゃら。 ちょっと熱が出ただけ。でも…ちょっとがんばりすぎたかな?」哲は「ヘヘヘ」と照れ笑いをしました。
「よかった!」
 哲の笑顔につられて、淳平も思わず笑ってしまいました。

 
 二~三日経っても哲は登校しませんでした。
 大きな町の病院に一週間ほど入院していたからです。
 淳平も、淳平の家族も哲のことが心配で心配でたまりませんでした。
 でも、おじいさんだけは別でした。
「だいじょうぶや、すぐ戻ってくる。この自然の中で暮らすことが、哲くんにとって、何よりだいじなことなんやから…。あの子が一番よく知っとる」
 
 おじいさんの言うとおり、しばらくして哲は村に戻ってきました。
「ごめんね、心配かけて」
「ううん。もう、だいじょうぶ?」
 哲はまた少し痩せたようでした。
「明日から、また学校に行けるよ」
 そんなことがあってから、ますます二人は一緒にいることが多くなりました。

「おまえら、きもいぞ~」
「や~い、やせっぽち~」
「うらなりびょうたん、青びょうたん♪」
 勇太たちは相変わらずでした。
 でも、いじわるをされればされるほど、二人の友情の絆はますます強く結ばれていきました。


「淳平。ありがとう、田植えとっても楽しかった」
 ある日、学校の帰り、哲が唐突に言いました。
「どうしたの? 急に」
「うん。ぼくがここにやって来たのはね…」
 ちょっと口ごもりながら、哲は続けました。
「東京からここに引っ越してくるのは、ぼくの夢だったんだ。
どうしても来たかった。それで思いきって両親に頼んだ」
 淳平には哲の口調が妙に大人びて聞こえました。

「お母さんの田舎で暮らしたいって…。二人は少し戸惑っていたけど、あっさり承知してくれた。お父さんは仕事で、東京を離れられないけど、お母さんと二人で行ってもいいって…」
「ふうん。でも、どうして?」
「うん。ぼくはすごく自然に憧れていた。毎年、夏休みになるのがとっても楽しみで…。ここにいると心からホッとするんだ。淳平とも遊べるし…」
「そんなもんかなあ? ぼくは東京に憧れるけど…」
「ホラ! 空気がこんなにおいしい」 
哲は大きく深呼吸しています。
淳平も大きく深呼吸しました。どう考えても、いつもと変わらない味です。
「それに、空も山もとってもきれい」
 空には渡り鳥が列をなして飛んでいました。たぶん、シギでしょう。
 淳平は不思議に思いました。いつも見慣れた風景に、哲がこんなに感激しているなんて…。

「そや、哲。あさっての休み、探検行こか?」
「探検?」
 淳平はニヤッと笑って「ぼくにまかしといて」と、胸をドンとたたきました。
 哲にもっともっときれいな自然に触れさせてあげたい、淳平は心の底からそう思うのでした。

 
 その日がやって来ました。
「山で遊ぶ」と言って出かけました。
おじいさんの田んぼを通り過ぎて、山のほうへ向かいました。
淳平はさりげなく哲を気づかいながら、歩調をぴったり合わせています。

 二人は、思いつくままに、歌を口ずさみました。
「♪やだねったら やだね~♪」
「♪人生はワンツーパンチ 汗かきベソかき歩こうよ~♪」
「♪ナンバーワンにならなくてもいい~ ・・・・・オンリーワン♪」
 脈絡もなく、いろんな歌が飛び出しました。

「昨日の夜は、なかなか寝つかれなかった…」
 歌がとぎれると、哲が話し出しました。
「何で?」
「ぼく、探検なんて生まれて初めて。いっぺんでいいから、したいと思っていた」
「よかった! ほんとは夏休みに誘うつもりやったんやけど…。なんか、待ちきれんで…」
 
 山の中に入っていくと、木陰の風がひんやり涼しさを運んでくれました。
木漏れ日がチラチラ葉っぱの上でダンスをしています。
 コナラやヤマモモ、エゴノキの足元に、ウラジロやモウセンゴケ。
ところどころに青いちいさな花が咲いていました。
「ツピッ」首に黒いネクタイをしたシジュウカラが鳴きました。
「ツツピン、ツツピン」楽しそうにさえずっています。
「ピーヒョロ、ピーヒョロ」
他の小鳥たちも鳴いています。何の話をしているのでしょうか。
 二人はニッコリ顔を見合わせて笑いました。

 
 夏の気配が消えたみたいに、空気がひんやりしてきました。
植物の放つ匂いも濃厚になってきました。
 足もとの傾斜はずっと急になり、茂みや下草が地面を覆っています。
淳平は拾った木の枝で下草を払いながら進みました。
哲を気づかっているようです。

 しばらく進むと、今度は、岩がごろごろした崖が続きました。
「ファイト! いっぱつ!」
 テレビのコマーシャルのように大きな声を出して、淳平は哲に手を差し出しました。
「リポビタンデー!」
 哲は淳平の手をしっかり握ってよじ登ります。
「アハハハハハハ…」
 汗が心地よく流れます。少し息がきれました。
 でも、楽しくてワクワクします。

「ちょっと休もうや」
「うん。喉かわいたね」
 お茶の冷たさが喉に染み渡ります。
「ずいぶん遠くまで来たね。まだまだ?」
「そうやな、まだ半分くらいかな?」
 大きな木に囲まれて、空が小さく見えました。
 あたりはしんと静まりかえっています。
白い星のような花をつけた木。ヤマボウシかな? 優しい花を咲かせたエゴノキ。まぶしく輝やく黄金色の山吹。他にも哲の知らない木がたくさんありました。
でも、どの木も太陽の光を受けて、葉裏の緑がとっても美しく見えます。

「チチチチチチチチ…」
「ピピピピピピピ…」
「チピー、チピー」
「ヒィヒィクルルル、ポッピリリ」
「チヨチヨ、チヨチヨ」
「ヂッ、ズッ。ヂッ、ズッ」
鳥たちの声がシャワーのように勢いよく降り注いできました。
「フフ、かわいいね。鳥にもいろんな鳴き声があるんだね」
 哲は目を細めて、自然の音楽に聴き入っています。
「ほんま! 楽しそうやなあ」
 淳平もとっても幸せそうな顔をしています。

 
 二人の頭の上を、白い蝶が横切っていきました。
「ほんなら、行こか?」
 哲がすっかり元気になったように見えたので、淳平はピョンと飛び起きました。
「うん、行こう!」
 
 あたりはすっかり大きな木ばかりになってきました。
空がどんどん遠く小さく見えます。木陰はひっそり薄暗く感じます。
「カア」遠くでカラスの鳴き声。「ザワザワ」風に揺れる葉っぱの音。少し不気味な気がしてきました。
目に見えない何ものかが、山のあちこちに潜んでいるような感じがしました。
 
 淳平は急に叫びたくなりました。
「やっほ~!」
「ヤッホ~」
 木霊は忠実に応答してくれます。
「さとる~!」
「サトル~」
「これからも仲良くしよう~!」
「…ナカヨクシヨウ~」
「じゅんぺ~!」
「ジュンペ~」 
「もちろんだよ~!」
「モチロンダヨ~」
 二人は顔を見合わせてクスクス笑いました。
 
 少し行くと、すぐそばに小さな川が流れていました。
「わあ!  気持ち良さそう」
 哲がすばやく崖を降りていこうとします。
「ま、待ってや! すべるから気いつけて」
「だいじょうぶだよ」
 俊敏に動く哲を見て、淳平は何だかとても嬉しくなりました。

「淳平! 早く早く!」
 哲はすでにくつを脱いで、川の中に入ろうとしています。淳平もあわてて裸足になりました。
「ヒェ~! 冷たい!」
「冷たくて気持ちいい~!」
「行くぞ!」
 哲は淳平めがけて水をかけました。
「やったな! お返しや!」
 水しぶきが虹色にキラキラ光っています。

「そうだ! 哲。素手で魚つかまえたことあるか?」
「エッ? 素手で?」
「そうや」淳平は少し興奮気味で、「最高や! あの感触は」と目を輝かせて言いました。
「へえ? ぼくにできるかな?」
「できるできる。まかしとき!」
 そう言うと、淳平はせっせと川の中の石を動かし始めました。
哲も淳平の指示に従って、石を集めました。
「よっしゃ! こんなもんでええやろ」

 淳平は足をジャブジャブさせて、少し川上に移動しました。
「よっしゃ! 哲! 行くよ。そこで待ち構えて」
「オッケー!」
 淳平は前かがみになると、両手と両足を大きく広げ、それらをジャブジャブさせながら、哲に向かって来ました。
小さな魚や中くらいの魚が石で囲まれた水の中に逃げて来ます。

「ヤッター! 淳平、見て、見て!」
 哲の興奮した声があたりいっぱい響きました。
十五センチくらいあるでしょうか。鱒が哲の手につかまれて、ピチピチはねています。水しぶきを顔に受けながら、哲は満足そうに笑っています。
「淳平の言ったとおり、この手ごたえ、たまらないね」
「これは立派なもんや。やったね! 哲」
 哲は淳平と顔を見合わせて、鱒を川に逃がしてやりました。
「じゃ、交代。今度はぼくが追い込むよ」
 淳平も元気にはねる鱒をつかんで大満足。
 しばらく二人は魚獲りに夢中でした。

 二人はすっかり幼いころに戻っていました。
庭のホースで水をかけあったことや、近くの川で遊んだ思い出が蘇ってきました。二人の記憶の貯蔵庫に、今日もまた、いくつか大切な宝ものが付け加えられました。
「アハハハハハ…」
「ア~、おもしろ~」


「ねえ、淳平。お腹すいたね」
「うん、もう腹ぺこぺこや。飯にしようぜ!」
 ナップサックから、包みを出しながら、「今日のは超うまいよ」淳平が得意そうに言いました。
「ぼくが作ったんや。玉子焼きも…」
「淳平が? スゴイ!」
「こんなの簡単、簡単。ご飯だって炊けるし、味噌汁だって作れるよ」
「へえ~、淳平って器用なんだね」
「母さんもばあちゃんも、畑仕事で忙しいときは、ぼくがやるんや」
「えらいんだね、淳平は」
「へへ~、そんな褒められるほどのことでもないわ。さあ、食べよ、食べよ」
「いただきま~す!」
「いただきま~す!」 
 
 ちょっといびつな形のおにぎり。
でも、淳平の心がこもっているせいか、とってもおいしいんです。
塩としそだけで漬けた梅干のあっさりした酸っぱさが、さらに食欲を呼びます。
「この玉子焼き、おいしい!」
「ばあちゃんの漬もんもうまいぞ」
 食べ盛りの男の子のこと。見る見る間に弁当は空になってしまいました。
川遊びのあとの弁当は特にうまいようです。


「ねえ、淳平」
「なんや?」
「転校してきてから、ズーッと気になってたんだけど…」
 哲は小石を川に投げました。
「ポチャン!」
「ポチャン!」
 淳平も同じところをめがけて投げました。
「どうして健くんと遊ばないの?」
「べつに…」
 淳平はちょっぴり悲しそうな顔をして、また、「ポチャン!」「ポチャン!」と続けて石をなげました。
 
 健は淳平と大の仲良しでした。
去年の夏休み、哲も何度か一緒に遊んだことがあります。健は勉強がよくできました。健のお母さんは教育熱心でした。いわゆる教育ママのようです。
「健のやつ、ぼくが先生にほめられたのが気にくわないんや」
 淳平はムッとした顔つきをして言いました。
 心配そうに見つめる哲を見て、ポツリポツリ話し出しました。

 
 去年の秋のことです。
 淳平はめずらしく国語も算数も満点をとりました。
 それだけでなく、他の科目もめきめき成績が良くなってきたのです。
 それまでは、ごく普通の成績で、クラスでも目立たない存在でした。
 でも、夏休みに哲と一緒に宿題をしたり、本を読んだりして過ごすうちに、自分でも知らないうちに勉強に興味を持つようになっていたのです。 
哲に感化されたようです。

 いろんなことに対して、「何でやろ?」という興味をもつようになり、「知る」ためには、勉強するのが一番手っ取り早いと思うようになったのです。
そう思うと学校の勉強も楽しくなってきました。
そして、知らず知らずのうちに成績も上がっていったというわけです。

「淳平くんは塾も行ってないのにすごい! みんなも淳平くんを見習って、がんばってください」
 先生はみんなの前で、たいそう淳平をほめちぎりました。
 一方、健は塾に通い、毎日お母さんにワイワイ言われながら、一生懸命勉強しています。それなのに、塾も行かない淳平に負けるなんて…。
 
 ある日、帰り道、突然、健は投げつけるように、しかも聞こえるか聞こえないかわからないくらいの声で言いました。
「何や、……のくせに…」
 まさか、健の口から、そんな言葉が出るなんて、淳平には信じられませんでした。でも、たしかに聞こえたのです。
「……のくせに…」
 淳平は呆然としました。
 親友の口からそんな言葉が出てくるとは、夢にも思わなかったからです。
 
 淳平の住む村では、今ではすっかり差別はなくなっているように見えました。
 ですから、淳平も自分がみんなとは違うなんて、小さいときから全く意識したこ とはありません。
 ときどき兄の雄一郎が「差別されたら、兄ちゃんにゆうんやで! そんな卑怯なヤツ、オレがやっつけたる!」と言って、弟を気づかっていましたが…。
 健は淳平をいじめるつもりで言ったのではありませんでした。あまり勉強もしていなかった淳平が、必死に勉強している自分を、いとも簡単に追い抜いてしまったのが、我慢ならないのでした。
くやしさと嫉妬が、健の溜まりに溜まっていたストレスを爆発させたのかもしれません。


「でも、ぼく、兄ちゃんにはゆわんかった」
「うん……。わかる。ぼくだって、そうするだろうな」
「でも、じいちゃんに聞いたんだ」
「エッ! 何て?」
「どうして差別があるん? どうして人は差別するんや、って」
「それで?」
「うん、じいちゃんは空を見上げながら、悲しそうにゆうた。
『人間ちゅうもんは、悲しい生きもんや。自分さえよかったらええという欲が、差別を生み、戦争をひき起こす。ええか? 淳平。
人の痛みがわかるように、神様がいろんな試練を与えてくれたんやで。
その試練っちゅうのは、人によって形が違うんや。病気やったり、貧乏やったり…』」

「ふうん、神様が与えた試練か…? わかるような気がするな」
「それから、こんなこともゆうとった。『なんで差別が生まれたんか、わしに聞くより、自分で勉強してみい。まず、知ることが大事や。それに健くんもほんまのこと知ったら、自分のゆうたことが、きっと恥ずかしくなるやろ』」
 
 それから、淳平は差別に関する本を、図書館で何冊か借りて読みました。
「なんや、江戸時代の支配者が、自分の権力を守るために、根も葉もない身分制度を作ったんか。自分らより、まだ身分の低い貧しい奴らがいる。
そう思わせて、民衆の目を政治に向けさせないように利用したんや」
 差別のことを理解した淳平は、すごく腹が立ちました。気持ちは複雑でした。
そんな矛盾に、人は、なぜいつまでもこだわるんだろう。
なぜいつまでも差別がなくならないのか、不思議でなりませんでした。
 
 しばらくたって、健は悪びれたようすで、淳平に謝りました。
 淳平は「ええよ、気にしてない」と言って許しました。が、もとのように仲良く遊ぶことはなくなりました。淳平の心の傷はそう簡単には癒されなかったのです。信じていたものに裏切られたという、理屈ではわりきれない妙なしこりのようなものができてしまっていたからです。
 それから、健はいつのまにか勇太たちの仲間に加わるようになりました。
でも、なぜかそのときから、勇太も健も淳平をいじめることはなくなりました。


「淳平もいろいろあったんだ」
 哲は慰めるように言いました。
「哲に話して、なんかスーッとしたわ」
 悩みを打ち明けて、淳平はほっこりしました。哲を見てニッコリ微笑みました。哲も淳平に微笑み返しました。でも、少し様子が変です。
「哲、顔色がようないで。しんどいんとちがう?」
「ちょっと、がんばりすぎたかな? 少し休んだら楽になると思う」
「そうやな、ぼくも疲れた。あの木陰で昼寝しょうや」
 淳平は、まだまだ疲れてなんかいませんでした。が、哲に気を使わせてはいけないと思い、そう言いました。
 
 二人はほどよい木の枝を選んで、枕にしました。木陰に並んで寝転びました。
やっぱり葉裏が美しくそよいでいます。雲が気持ち良さそうに流れています。
あの雲に乗れば、遠い遠いかなたまで二人を運んで行ってくれそうな気がしました。
そのうち、猛烈な眠気が二人を襲いました。

『風になった少年』 その4

2008年02月19日 | Weblog
『風になった少年』 その4 ミクシィ「まこりん」さんの日記より


「淳平、起きて!」
「どうしたの?」
 淳平は眠い目をこすりながら、しぶしぶ起きました。
 見ると、哲はさっきとは打って変わったように、溌剌としています。頬にはうっすら赤みが差して、別人のように元気そうでした。
 あたりを見回すと少しもやがかかって、ぼんやりしています。


「しまった! 霧が出てきた!」
 あんなに晴れていたのに、淳平は信じられません。
「早く、山を降りんと…」
「だいじょうぶだよ、淳平」哲は平然とした顔をして、「ここからはぼくにまかしといて!」きっぱりと答えました。
「エエ? 哲が?」
「うん、ぼくが案内するよ」
 哲はさっさと歩き出しました。

 淳平はキョトンとしています。でも、自信たっぷりの哲の背中を見て、とにかくついて行こう、と思いました。
 進むにつれて、あたりはますます霧が濃くなってきます。
 哲は顔色ひとつ変えず、ずんずん歩いて行きます。不思議です。険しかった山道が嘘のように、フワフワした雲の上を歩くように、滑らかなのです。
 まるで夢の中のできごとのようだ。淳平はそう思いました。でも、哲が元気に歩くのを見て、夢でもいい、ついて行こう。そう決心したのでした。
 

 どのくらい歩いたころでしょうか。脇のほうから、どんよりした霞の中で、ざわざわした声が聞こえてきます。
 淳平が目をこらしてよく見ると、穴ぐらのようなところに人がいます。
その穴ぐらはズーッと地下深くまで続いているように見えました。
ジメジメしていて、いかにもうっとうしい雰囲気です。
 
 指を舐めてはお金を数えている人が見えました。ずっとおんなじ繰り返しをしています。札束を積み上げ、わき見も振らず、何度も何度もお金を数えています。
でも、よくよく見ると、それらはただの紙きれにしか見えません。
 
 また、ひたすら食べてばかりの人がいました。次から次へと食べものをつかんでは、口の中に放り込んでいます。すでにお腹ははちきれそうなくらい膨らんで見えます。それなのに、食べても食べても満たされないのか、貪るように口を動かし続けています。
 
 そして、その隣では、口から泡を飛ばしながら、大声で話す男がいました。
演説をしているようです。
口ではさももっともらしいことばかり言っていますが、済ました顔とは別に、胸のあたりに、ぺロッと舌を出す顔が透けて見えています。
 
 何だ、あれは? 彼らはみんな、延々と同じ繰り返しを続けているのです。
それに、みんな、ちっとも幸せそうに見えません。
淳平には、彼らが、人間ではないような気がしてきました。
「ここはね、自分さえよかったら、人のことはどうでもいいと思っている、欲張りな人ばっかり集まっているんだ」
  
 そう言えば、去年死んだ村の権三じいさんも見かけました。
欲が深くて、自分勝手で、みんなから「業つくじじい」と呼ばれていたくらいです。
家族にも見舞われず、哀れな死に様だったと、村の人たちが噂していました。
 その権三じいさんも、さっきのお金を数える人の隣で、やっぱり、ひたすらお金を数えていました。何かにとり憑かれたような顔をしていました。

「さあ、行こう! こんなところにグズグズしていたら、こっちまでおかしくなっちゃうよ」
 哲は淳平の腕を引っ張って、またずんずん進んで行きました。
 まるで空を翔るように、二人は雲の中を行きました。
 
 
 今度はきれいな花に囲まれた町が見えてきました。
そこに住む人たちは、みんなとても幸せそうな顔をしています。
 すすんで公園を掃除している人たち。
楽しそうに赤ん坊やお年寄りのお世話をしている人たち。
真心込めてお料理をしたり、服を縫ったりしている人たちもいます。
怒ったり、悲しそうにしている人は一人もいないように見えます。
 
 庭で美しい花を育て、道行く人々の目を楽しませているおばあさんがいました。優しそうな顔をしています。
「あれ? 見たことあるわ。あのばあちゃん」
 淳平は思わずつぶやきました。
「知ってる人?」
「うん、うちのばあちゃんの幼なじみや」
『仏の多恵さん』といわれていた、そのおばあさんは、誰に対しても、親切で優しくて、村でも有名だったそうです。こんなエピソードがあります。
 
 それは、ある夜のこと、一人暮らしのおばあさんのところに、泥棒が入ったのです。ところが、おばあさんは驚くこともなく、「これだけしかないけど、持っていったらええよ」とあり金はたいて持たしたそうな。それから、「ちょっと待ってや、これも持って行きなはれ」と言って、おひつに残っているご飯を、おにぎりにして、手渡しました。
 
 驚いたのは泥棒のほうで、「すんまへん! このお金はしばらく貸してもらいます。きっと返しに来ます」そう言って、涙をこぼしながら、帰ったというのです。そして、すっかり忘れたころ、ひょっこり、その泥棒がおばあさんを尋ねてきました。

「約束どおり、借りていたお金を返しにきました。
あのときはお金に困って、どうかしていました。
でも、ほんとに助かりました。このお金は盗んだものではありません。
まっとうに働いて稼いだお金です。
貯めるのに今までかかりました。遅くなってすみません」
 おばあさんはニコニコして、「また困ったときは、いつでもおいでなはれ。
このお金はちゃんと置いときますから」と言って、受け取ったそうです。
 
 その多恵ばあさんが、相も変わらず、ニコニコと暮らしていました。
花に囲まれて、それはそれはとっても幸せそうに見えました。
 この町では、すべてのものが調和と平穏の中に息づいているように感じられました。
 二人は美しい町をあとにしました。


「さあ、着いたよ」
 哲は嬉しそうに微笑んでいます。
「ここは?」
「子どもの楽園ってとこかな」
「子どもの楽園?」
「そう、きっと思い出すよ。淳平も」
 淳平はあたりをキョロキョロ見回しました。
「なんだか、なつかしい気がするなあ」
 淳平の心臓がドキドキワクワク波打ってきました。
 
 見ると、あちこちで子どもたちが楽しそうに遊んでいます。
花の中で妖精と戯れる子、小鳥と一緒に木々の間を飛んでいる子。
美しい女性のまわりを囲んで話を聞いている子どもたち。
虹色に輝く本を読む子どもたち。 
みんな何と幸せそうなんでしょう。
 淳平はかつて美術館で見た、天使たちの姿を描いた絵を思い出しました。
 そうです。あのとき観た絵とまったく同じ光景が目の前に広がっているのです。

「夢を見ているのかな?」
 淳平は思わず目をこすりました。
「淳平! こっち、こっちへおいでよ」
 いつの間にか哲は、宮殿のように美しい建物の前にいます。

「入ろう!」
 哲がそう言うと、重厚な門扉がスッと開きました。
 大きな図書館のようです。正面の庭には美しい噴水が見えます。
キラキラ輝く水しぶきは、まるで宝石のようにまぶしく光っています。
そのまわりで腰かけて、熱心に本を読む子どもたちがいました。
 仲良く微笑み合いながら、会話を楽しむ子どもたち。
でも、淳平にはその声が聞こえません。
耳を澄ましても、美しい音楽が聴こえるだけなのです。

 その音楽は、今まで聴いたこともないような、美しい音色をしていました。
それに不思議なことに、音楽に合わせて、光がいろんな色に輝き、まるでダンスをしているように見えるのです。
 哲は微笑んだまま、淳平をさらに建物の奥に案内しました。


「すごいなあ!」
 円形の図書館は球場のように見えました。淳平は何年か前に連れて行ってもらった甲子園球場を思い出していました。それくらい、とてつもなく広く見えました。
「信じられへん! 哲、ここほんまに図書館?」
 淳平が大きな声を出しても、他の子どもたちは気づかないふうです。
みんな真剣に本を読んだり、パソコンの画面のような前で、一生懸命勉強しています。

「来てごらん」
 哲が三列ほど下の本棚のところに、降りていきました。
 一冊の本を手にしています。
「見てごらんよ」
 すぐそばのテーブルの上で、おもむろにページをめくります。
「あれ? 見たことある風景。じいちゃんの田んぼ?」
「そうだよ。稲が実って黄金色に畝っている」
「きれいやなあ!」
「ほんとに、きれいね」
「せやけど、なんでこんな本に、じいちゃんの田んぼが…?」
 淳平には解せません。

「ここには、どんな風景もあるんだよ。見たいと思うものすべてが収まっている。地球以外の星も…。何億年前の宇宙だって…」
 哲はずいぶん大人っぽい口調で答えました。
「へ~!?」
 淳平は目をパチクリさせて、しばらく口もきけません。

 やっとのことで、尋ねました。
「なんで、この風景を?」
「うん。ぼくの植えた苗がどうなったか気になったからさ」
「じゃ、これって、半年先の…?」
「そうだよ。嬉しいなあ! こんなに豊かに実って」
 哲は自分の植えたあたりを指さしながら言いました。
たしかにそこは二人が並んで植えた場所にまちがいありません。
「ぼくの植えたお米、おいしいかなあ? 誰が食べてくれるんだろ…」
「決まってるやん。哲が食べるんや!」
 淳平はなぜか少し怒った口調で言いました。
「そうだね…」
 
 気のせいか、哲は弱々しく笑ったように見えました。
でも、すぐにニッコリして言いました。
「去年、総合学習で、田植えができなくて、とっても残念だったんだけど、これで心残りがないよ」
「変なことゆわんといて! また来年もあるやんか」
「うん、そうだね」
 淳平は気になっていたことを尋ねることにしました。
「なんで、田植えにこだわるのん?」
「そうだなあ。大自然の恵みに感動したからかなあ」
「大自然の? 恵み?」

「ぼくは、ちょっと前まで、宇宙飛行士や飛行機のパイロットに憧れていたけど…」
 それは淳平も知っていました。哲は科学図鑑を広げてはため息をついて、そう言っていたからです。淳平もその影響を受けて、宇宙のことに興味をひかれていたぐらいですから。
「ぼくだって…」

「最近、地球のことを知れば知るほど、自然は何と偉大なんだろうってことに気がついたんだ」しみじみとした口調です。
「大人はそんなことすっかり忘れてしまって、自分さえ豊かになれば、他のことはどうでもいいと思う人が増えた。
そんな人たちが、環境破壊や戦争など起こしてる…」
 哲は急に大人のような口ぶりで、淡々と話します。

「ぼくも偉そうなことは言えないけどね。去年までは…、ジコチューだった」
 そう言えば、たしかに去年の夏休みから、哲の性格がずいぶん穏やかになったなあと、淳平は内心驚いていました。
その前の年までは、わがままなところがあったからです。

「でも、いろいろあってさ」ますます大人びて見えます。
「人間は地球を愛し、人を愛するために生まれてきたということを知ったんだ。
それに、人にはそれぞれに与えられた役割というものがあるということも…」
「役割?」
「うん。役割だよ」哲は図書館の中をグルリと見渡しました。
「ホラ! みんなそのために一生懸命勉強しているんだ」
「エッ? みんな役割について勉強しとるん?」
「そう、自分がどれだけ地球や人のために役に立てるか。
そのためにどうしたらいいか。真剣そのものだろ」
 
 淳平は近くでパソコンの画面に見入っている子を観察しました。
 その子は熱心に画面を見つめ、カーソルを小気味よく動かしています。
「ああやって、何度も何度もシュミレーションするんだ。わからないときは、すぐに先生が来て、親切に指導してくれる」
 そう言えば、前のほうで大きな図鑑のような本を広げて、先生に質問している子もいます。みんな自主的に学んでいます。
嫌々学習している子は一人も見かけないようです。


「話を戻そう。ぼくがなぜ農業に興味を持ったかってこと…」
「うん」淳平はゴクリとつばを飲み込みました。
「いろんなことがあった…。これはまた別の機会に話すよ」
 淳平には、哲がさわやかな青年に成長したように見えてきました。

「結論を言うとね。みんなが自然の恵みに感謝して、欲張ることをやめれば、戦争もなくなるし、環境だって汚染されないってことに気づいたんだ」
「ふうん」
 当たり前と言えば、当たり前のことのような気がします。
「そんな当たり前のことに気づくのに、人類はまだそこまで進化していない。
いや、下手をすると、地球を破壊しかねない勢いだ」
『ノストラダムスの大予言』や『日本列島沈没』などと言った言葉が、淳平の頭を横切りました。

「また、脱線しちゃったかな? ところで、淳平のおじいさんの農業に対する姿勢はすばらしいね。尊敬しちゃうよ。世界のみんなが、心を込めて食べものや生活に必要なものを作る。そして、食べる人、使う人は作った人に感謝する。 
 それぞれの国の環境に応じて、必要なものを必要なだけ作って…。
人々は、楽しみながら働き、働きながら楽しむ。もちろん、健全な文化を育み、芸術、スポーツを楽しむ。
 競うことではなく、協力し合うことを教える教育が、子どもたちを幸せに育てる。そんなことが実現する日はきっと来る。
 欲張る人間がいなくなると、きっと地球は平和になるだろう。
宇宙の中でも最も美しく輝く模範的な星に」
 白い歯を見せて、哲は清清しく笑っています。

「ぼくは、そんな地球の未来を考えて、地球と人間に優しい農業を実践することを夢にみるようになった。でも…」
 哲は一瞬黙りこくってしまいました。
 淳平はなぜか、急に悲しい気持ちになりました。
「実を言うと、あまり時間がない。だから、是非、体験したかったんだ」
 哲はその情景を思い出したように、目を細めました。
「あの冷やっこい足の感触。汗ばんだ体を優しく包んでくれた風…。
きっと永遠に忘れない」
「そんな大げさな…」と言いかけて、淳平はハッと口をつぐみました。
 哲の目にキラリと光るものを見たからです。

 
 哲は何かのきっかけで、農業にすごく関心を持ち、どうしても田植えをしたかったのだ。ということがわかって淳平はホッとするのでした。
なぜなら、田植えのあと、哲が体の調子を崩したので、自分を責めていたからです。

「淳平に感謝してる」
 淳平の考えていることが、手に取るようにわかったようです。
「ぼくのほうこそ…。哲に感謝しとる。なんか、今までボーッと生きてきたのが、もったいない気がしてきたわ。哲のように勉強して、世の中に役に立つ人間にならんといかんって、心底思うようになっってきたわ」
「淳平、思い出さないかい? 昔ここで一緒に勉強したこと…」
 哲はそう言って、向こうのほうで、本を広げて、仲良く見入っている二人の子どものほうを指さしました。
 
 その子らは、熱心に本やコンピューターの画面を見ながら、話し合っています。そして真剣な顔をして頷きあっていました。
「ぼくらも、あんなふうだった」
 哲はなつかしそうに微笑みながら、淳平のほうを振り返りました。
「そうゆうたら、そんなことがあったような気もするなあ」
 何だか淳平もなつかしい気がして、彼らと自分たちの姿を重ね合わせるのでした。
 
「健も勇太も、この図書館で一緒にいたような気がするなあ。何でやろ?」
「そうだよ。一緒だったよ。みんなすっかり忘れてしまっているだけさ」
「みんな、ここで勉強していたのか…」
 ということは…。急に淳平の中で疑問がムクムク湧いてきました。
「哲、さっき見た暗い穴ぐらは、もしかして地獄なんか? 花畑のように美しいところは天国やったんか? そうなんや、きっと、そうなんや」
 
 哲は苦笑しながら答えました。
「まあ、そんなに簡単に決めつけないで。そんな単純なものではないんだよ。それぞれの人間の心の状態が、それぞれの環境に導かれるということなんだ。宇宙の波動の原理っていうものらしい」
「へえ~? 宇宙の波動?」
 淳平にはよく理解できません。
「これから勉強したらいい。最近は量子力学がずいぶん進んでいるようだし…。
そのうち誰にでもわかるようになるよ」
 やっぱり哲はすごい。尊敬しちゃう。淳平はますます哲のことが好きになりました。

「ところで、さっきの穴ぐらの人たちは、この図書館で勉強せえへんかったん?」
 淳平は権三じいさんたちのことが、気になって仕方ありませんでした。
「いや、みんな、ここで一生懸命学習して行ったんだよ。でも、地球に着いた途端、すべて忘れてしまったんだ。テストの答えがわかっていたら、勉強なんかしないだろ? だから、忘れるように神様が仕掛けた」
「神様?」
「神様なんて言うと、ピンとこないかな? じゃ、言い換えよう。全宇宙を作った創造エネルギーだ」
 淳平はクラクラしてきました。頭の中を銀河が渦巻いています。
星があちこちでチカチカしています。

「だいじょうぶ? 淳平」
「うん。なんとか…」
「そうそう、彼らはね。ある人はお金持ちになって、恵まれない人たちを救おうと、計画して行ったんだけど…。そんなことすっかり忘れてしまって、お金に執着することに夢中になってしまったんだ。
 お腹がはちきれそうになっても、いつまでも食べ続ける人たちがいたよね。
彼らは、物質の虜になってしまった人たち。いくら食べても、いくら物を持っても、いつまでも満足することができなくなったんだ。
 大きな声で演説していた人たちがいたろ? あの人たちは、ここでリーダーシップというものを、熱心に学んで行った人たちなんだけどね。
どこかで、間違って、その特技を自分の欲のためにだけ使った人たちなんだ」

「じゃ、あの人らはいつまでもあそこに、あんなことしておるの?」
「いや、永遠にいるわけではない。地球の時間にして、何百年、何千年とかかって、やっと目覚めるらしい」
「何百年? 何千年?」
 淳平は気が遠くなりました。
「うん、だから、この地球でどう生きるかってことは、ものすごく大切なことなんだ」
 
 自分は、あんな暗い穴ぐらには絶対に行きたくない。
そう思った淳平は目の前の本をめくろうとしました。
「淳平はだいじょうぶ。ぼくが保証する」そう言いながら、哲はそっとその本を閉じました。
「答えがわかっている問題を解いても面白くないだろ? 一生懸命知恵をしぼって努力することに意味があるんだよ。それが人生ってもんだ」
 哲はすっかり哲学者のような顔をしています。

「ここに来るまでに、すでにたくさんのヒントが与えられた。そう思わない?」
「うん。何となく…」
「自信持って進めばいいよ」
「うん」
「悲しいときや苦しいとき、今日のことを思い出して…。きっと勇気が湧いてくる」
 哲は本を棚に戻して、「さあ、急ごう! 向こうでは、もう日が暮れる」
 

 二人は大きな図書館をあとにして、また雲のようにフワフワした道を歩き始めました。歩くというより飛んでいるような感覚です。
「哲! 向こうのほうに見えるのは何や?」淳平は興奮して叫びました。「ホラ、まぶしい光に包まれて、いろんな色に輝いとる。
あんなきれいな光、見たことないわ」
「ああ、あれはね。この世界でもズーッと上の位の人たちが住んでいるところだよ。人というより『光』というほうが正しいかな?」
「光?」
「まったく肉体を必要としなくなった天使たち。
たとえば、地球や他の星で、偉大な宗教家や芸術家、科学者、思想家たちだった天使たちさ。あそこは、それはそれは美しいところだそうだよ。
とても口では表現できないくらい…」
 キリストや釈迦、レオナルド・ダ・ヴィンチのことが、淳平の頭をかすめました。

「ぼくらは行かれへんのん?」
「う~ん。難しいこときくんだね」
 哲は少し考え込んでいます。
「ぼくが聞いたところによると…。何千回、何万回と生まれ変わって、魂が透明になるほど美しく進化したら、あそこに行けるそうだ」
「進化?」
「そう、あの美しい光がそうだ。彼らは、慈悲深い愛そのものなんだ」
 淳平はまた、頭がクラクラしてきました。
これ以上質問することはやめました。
 
 少し行くと、雲の間から、下界のようなものが見えてきました。
「いいかい? 淳平。ここからは、目をつぶって飛び降りるよ。
ぼくの手をしっかり握って、離さないで!」
「うん」
「行くよ! 一、二、の、三!!」

 
 二人は山のふもとで眠っていました。手をしっかり握り合っています。
「まるで死んだみたいに、よう眠っとるなあ」
「淳平! 起きんか!」
「哲、起きて」
「だいじょうぶか?」
淳平の耳に、知ってる声が聞こえてきました。

「うう~ん、ここは…」
「アッ! 淳平がしゃべったぞ」
「淳平!? じいちゃんや。わかるか?」
「じいちゃん!? どうしたの? あれ、父ちゃんも…」
「あほ! お前らが暗うなっても帰って来んから、みんな心配して探しに来たんやないか」
「さ、哲は?」
 淳平は目で哲を探しました。
哲は答えるかわりに弱々しく手を握り返しました。  

「哲…。良かった。目が覚めたのね」
 哲のお母さんは、目を真っ赤にはらして、心配そうに見つめているのでした。

『風になった少年』 最終回

2008年02月19日 | Weblog
『風になった少年』 最終回 ミクシィ「まこりん」さんの日記より

つながる心

 
 七月になりました。
 
 ある夜のこと。夕食を済ました淳平は、そのまま茶の間でゴロンとひっくり返って、うとうと眠ってしまいました。
 
 どのくらいたったころでしょうか。お母さんの声が聞こえてきました。
「かわいそうにねえ。あんないい子が…、こんな病気にかかるなんて…。
哲くんのお母さんの気持ちを思うと…」
 お母さんは、声をつまらせて、少し涙ぐんでいるようでした。
「白血病か…。去年まではあんなに元気にしとったのに、今年は、えろう痩せて、どこか具合でも悪いんかと、気にはしとったんやが…」
 おじいさんも、どこか悲しそうです。
 
 エッ?! 白血病! うそや! そんなんうそに決まっとる!
 淳平は寝たふりをしながら、心の中で叫んでいました。今にも胸がはりさけそうです、
 哲が…、白血病やなんて! 
 でも、もしかしたら…? 淳平はいても立ってもいられなくなりました。

「ああ、よう寝てしもた。今、何時ごろ?」
 淳平はわざと寝ぼけたふりをしてききました。
 お母さんたちは何事もなかったような顔をしました。
「よう寝とったね。もう、八時やで。宿題したんか? まだやったら、はよしいや」
「うん、今からする」
 そう言って、淳平はそそくさと自分の部屋にひきあげました。
 
 部屋のドアを閉めた途端、淳平の目から涙があふれました。ふいてもふいても涙はとまりません。仕方がないので、流れるままにしておきました。

 哲…。なんでやねん。なんで病気になんかなったんや。もしかしたら、もう帰ってきいひんのんか?
 哲との思い出が、淳平の脳裏をかけめぐりました。

「いやや! そんなん絶対にいやや!」
 淳平は手を合わせて祈りました。生まれて初めて、本気で神様にお願いをしました。
「哲が元気になりますように。早く戻ってきますように…」

 
 翌日のことです。
 淳平が学校から帰ると、哲が町の病院から戻ってきていました。
家の前でニコニコ笑って、淳平を待っています。
「哲! 帰ってきたんか?! でも、どうしたん?」
 淳平は哲の腰かけている車椅子を、しげしげ眺めました。
「まさか!? 歩けんようになったんとちがうやろな」
「その、まさか…になっちゃった」
 意外に、明るい表情で哲は答えるのでした。

「………」
 淳平はしばらく口がきけませんでした。
「へっちゃらだよ。ホラ! うまいもんだろ?」
 小さな子どもがはしゃぐように、哲は車椅子を動かしてみせました。
 淳平は涙がこぼれそうになるのをグッと押さえました。
そして、精一杯笑顔をつくって哲を励ましました。
「ほんま、うまいもんや」淳平は哲の後ろにまわって、「ぼくが押してやるわ。
これから、どこ行くんも一緒や」そう言って、ゆっくりと車椅子を押しました。
 
 空には白い雲が気持ち良さそうに流れています。
 二人はこの間の探検のことを思い出していました。

「あれは夢やったんかなあ。それにしても、不思議な夢やったなあ」
「いや、夢ではないよ」
 哲はニッコリ微笑んでいます。
「エッ?! あれはほんまやったん?」
「ホ・ン・マ」哲は淳平の口調を真似て「ほんまやで、あれは…」と言って、含み笑いをしています。
「淳平が探検に連れていってくれた『お返し』だよ。ふたりだけの秘密だ」
「秘密?!」
「ぼくたちだけの『秘密』。永遠に忘れないよ」
 
 淳平はあの日のことを思い出していました。
小鳥たちの楽しそうな合唱の声。川で魚を獲った手の感触が蘇ります。 哲が疲れたように見えたので、木陰で昼寝もしました。
でも、その先の記憶がどうもあやふやなのです。
気がついたときは、山のふもとで、お父さんやおじいさん、哲のお母さんに囲まれていました。そして、翌日から、哲はまた、町の病院に行ってしまったのです。

「権三じいさんと多恵ばあちゃんを見かけたで」
 淳平はおじいさんに、そっと耳打ちしました。
 おじいさんは一瞬驚いた様子でした。でも、目じりにしわを寄せて笑っていいました。
「夢でもみたんやろ。あんまり、人にはゆわんほうがええ」
 そう言って淳平をたしなめました。
 
 あのとき、気がつく前はぐっすり眠っていたそうだ。哲とは、そのあと話すこともできなかった。ぼくらは長い白昼夢をみたんだ。淳平はそう思うことにしていました。

「ねえ、淳平」
 哲は車椅子をクルリと回転させて、淳平と向き合いました。
「これからも悩んだり、迷ったりすることがいっぱいあると思う。くじけそうになったときは、『秘密の探検』を思い出して! きっと勇気が湧いてくるよ」
 哲の目は美しく澄んで見えます。青い空が映ってキラキラ輝いていました。

 
 翌朝、二人はいつもより早めに家を出ました。
 まさか、哲が登校できるなんて思っていなかったので、淳平は嬉しくてたまりませんでした。

「これからは、毎日ぼくが車椅子を押して通います」
 哲のお母さんに、そう約束をして、淳平は意気揚々です。
 車があまり通らない農道を、遠回りすることにしました。
ゆっくり道端の景色を楽しみながら。
 
 ふだん何気なく見落としている、小さな名もない花。今朝はとても新鮮に見えます。向こうの山が青々と美しく輝いています。
てっぺんのほうに少し雲がかかっていました。二人が登った山です。

「あれ?」
 五十メートル先の木の陰に、勇太らしき人影をみつけました。
 やばい! いやなやつに出くわした。
淳平は心の中でそうつぶやきました。
 
 やっぱり勇太です。スタスタとこちらに駆け寄ってきます。
 淳平は車椅子のハンドルをしっかり握りなおし、身構えました。
でも、哲は涼しそうな顔をしたまま、平気な様子です。

「おい! 淳平! 車椅子、オレによこせ」
「あ、あかん! ぼくが押すんや」
「そんなことゆわんと、お願いや」
 そういうやいなや、勇太は哲の前にひざまづいたのです。
「哲。ごめん! 今までのこと許してや。これから、オレも手伝う。いや、手伝わせてえや」
 こんなしおらしい勇太を見るのは初めてでした。
 
 勇太もしばらく学校を休んでいた哲が気になって仕方なかったようです。
「哲が病気やなんて知らんかったから、つい…」
「いいんだよ。勇太くん」哲は勇太を見つめながら、「ぼくだって、かばんを取り返しに、追っかけたり逃げたりして遊びたかったんだけどね」とてれくさそうに笑いました。
「ほんまに、ごめん!」
 勇太は素直に謝りました。そして、車椅子を力強く押しました。
 

 教室に入ると、みんながいっせいに哲を取り囲みました。
「哲くん、だいじょうぶ?」
「大変やったなあ」
「困ったことがあったら、何でもゆうて。手伝うから」
「ぼくも」
「わたしも」
 ひさしぶりに登校した友だちに、みんなはワイワイ話しかけました。
 
 健と良介が後ろのほうで、もじもじしています。
「こっちに来いや」勇太が二人を哲の前に突き出しました。
「哲くん、ごめんな」
「ごめん…」
 二人は恥ずかしそうにうつむいています。
「いいんだよ。ぼくが元気だったら、一緒に走り回って遊べたのにね」
「ぼくも、これから車椅子押したげる」
「ぼくも…」
 二人ははにかみながら顔を見合わせました。
 哲はニコニコ嬉しそうにしています。
 
 そうです。実際、みんなの助けがなければ、哲は学校に通うこともできません。まず、二階の教室に来るまでには、階段をクリアーしなくてはなりません。
 今日は先生と勇太に肩を貸してもらって上りました。
車椅子は淳平と、近くにいた友だちと二人で持って上がりました。
 
 俊一はあることを提案しました。
 その日の放課後『緊急クラス会』を開くことになりました。
「哲くんに協力したい人、手を上げてください」
「は~い!」みんないっせいに手をあげました。
 先生はそんな様子をニコニコ見守っています。

「それでは、まず、どんなことが手伝えるか、考えてみてください」俊一が音頭をとります。
 みんなは哲のほうを振り返りながら、考え込んでいます。
 
 理香がさっそうと手を上げました。
「私はかばんを持ってあげます」
「音楽室に行くとき、一緒に行きます。そうや、トイレに行くときも」他の子が言いました。
「せやけど、階段はどないしよう」前のほうに座っている子が心配そうに言います。
「まかしとき! オレと健が肩車するよ。なあ、健」勇太が言いました。
 健は、にっこり笑って頷いています。

「あのう…」淳平が手を上げました。
「みんなであまり構うと、哲くんも落ち着かないと思います。哲くんの意思を尊重して、何を手伝ったらいいか本人に聞いてみたらどうでしょうか」
 そう言って、淳平は哲のほうをチラッと見ました。

「哲くんはどう思いますか?」
 俊一はなるほどと思ったようです。
「みんな、ありがとう」そう前書きをして哲は話し出しました。
「できるかぎり自分のことは自分でやるつもりです。でも、階段の上り下りを手伝ってもらったり、かばんをもってもらえると、すごく助かります」

「そうねえ」先生がおもむろに、「哲くんがいつでも気軽に声をかけられる雰囲気が、大切なんじゃないかしら」と言いました。
「そうや! 遠慮せずに、いつでもゆうて」
「誰でも近くにいる人に、声かけてくれたらええんや」
「そうや、そうや」
 みんな、いっせいに哲のほうを見て言いました。

「ただ…」勇太が淳平のほうを見て合図を送りました。
「オレは体力には自信がある。階段と学校の行き帰りはまかしといて!」
 みんなは、勇太を見直していました。こんな優しい面があったんか、と。
 
 
 相変わらず、勇太や健はやんちゃを繰り返しています。でも、以前のように、誰かをいじめたりするようなことはなくなりました。
 他のみんなも、特別何かが変わったということはありません。俊一や理香はクラスのことに熱心だし、おとなしい子はおとなしいなりに自分を表現しています。
 
 でも、何かが違う。それは何でしょうか? 
 そうです。それは『思いやり』です。思いやりという心の栄養がみんなの心をいきいきさせているのです。
「人に親切にすると何て気持ちがいいのだろう」誰もがそう感じていました。

 哲に対する思いやりが、どんどん発展していって、子どもたちはみんな、他の誰に対しても優しくできるようになりました。もちろん、子どもたちの性格は変わりません。ときには激しくぶつかり合うことも…。
でも、最近では、いじめなどもすっかり見当たらなくなってしまいました。
それに、何だかみんなの心が一つにつながったように感じられました。
 
 
 待ちに待っていた夏休みが来ました。
 朝から晩まで、ずっと一緒に哲と遊べる。淳平ははりきっていました。
 田んぼの虫を観察しよう。山も途中までは登れるだろう。川遊びはできないけど…。勇太や健も誘って行けば何とかなるかもしれない。
 淳平は、次々と夏休みの計画を思い巡らしています。

「いろいろお世話になりました」
 哲のお母さんが、淳平ちにやってきて、神妙にあいさつをしています。
 隣で哲もていねいに頭を下げました。
「エツ!? どこ行くんや」
「東京に戻るの。大きな病院に入院することにしたの…」
 お母さんは、哲の代わりに答えました。とても悲しそうな顔をしています。
「お大事にね…。哲くん、はやく元気になってね」
 淳平のお母さんも、つらそうです。
 淳平は何も言わずに、哲と見つめ合っていました。
 あまり時間がないんだ…。秘密の探検で…哲はたしかにそう言った。それは…?

「淳平、楽しかったよ。ぼくは必ず戻る。これからも、ズーッと一緒だ」
 哲は淳平に目で伝えているようでした。体はすっかり痩せこけていますが、とても穏やかな顔をしています。瞳には、青い青い空が反射していました。
 

 収穫の秋がやってきました。
 今年も、おじいさんの田んぼの稲は見事に実りました。黄金の稲穂が重そうに風に揺られています。
 
 哲は二度と帰って来ませんでした。
 哲の死は、たぶん、淳平の人生における最大の謎になったかもしれません。
残された淳平は、その謎を一生かけて解いていくことでしょう。
 でも、すでに淳平は知っていました。目に見えるものだけが本当のものだとは限らないということを。
そして、心の中に哲がいつも一緒にいるということを。
 

「さとる~! また会おうな~」
 淳平は山に向かって叫びました。
「サワサワ、サワサワ…」気持ちの良い風が頬をなでつけていきました。

 耳を澄ますと…。たしかに聞こえたのです。
「ジュンペ~! モチロンダヨ~」という哲の声が。
   
                             終

宇宙(そら)の約束

2008年02月19日 | Weblog
宇宙(そら)の約束 
               

                 (「般若心経」山元加津子心訳)

  

  自分の身体のその奥に
  確かに確かに座っている
  大きな宇宙の約束が
  いつもいつもささやいている
   
  いつかいい日の明日のために
  いつもいつもささやいている

  忘れないでね
  大切なのは
  心の目と心の耳をすますこと
  そして自分を信じること

  むかしむかしのことでした
  心の目と心の耳をすましたある人が
  宇宙の約束とつながって
  本当のことに気がついた
  すべてのものは どれもみんな その約束からできている

  約束は 目にも見えず 重さもなくて
  あるのかないのか わからないけど
  でも 宇宙の何もかもが この約束からできている

  「いいことに気がついちゃった」とその人は
  苦しまなくてもいいんだなあ
  悩まなくてもいいんだなあと
  とてもうれしくなりました

  宇宙にたくさん散らばっている
  たくさんのつぶつぶは
  約束のもとに集まって
  海を作り 山を作り 花を作り
  人を作る
  約束は目にも見えず 重さも持っていないけど
  風をそよがせ 雨を降らせ ときには星を輝かせる

  誰かと誰かを出会わせて 誰かと何かを出会わせて
  涙や笑顔を作り出す

  私とあなた あなたとお花 お花と石ころ
  みんな同じ
  同じものでできている
  違うのは
  だれもが持ってる約束の
  私が私である場所(とこ)や
  花が花である場所(とこ)に
  光があたっただけのこと
  スイッチが入っただけのこと

  あなたは
  私だったかもしれないし
  私はもしかしたら
  庭に咲くたんぽぽや
  降る雪だったかもしれないね

  約束は私を作り
  私の中に 宇宙の約束が座っている
  すべてのものが 約束の中にあり
  約束は すべてのものの中にある

  でもね
  忘れちゃいけないの

  約束には無駄がなく
  必要なものだけを
  いつもちゃんと作っている

  花がそこに咲くことは
  それが大切だという証
  私がここにあることは
  それが必要だという証

  宇宙の約束とつながって
  過去と今
  今と未来
  すべてのことを
  見渡すことができたとき
  きっときっとわかること

  すべてのことは
  いつもいつも
  いつかいい日のためにある

  うれしいことも悲しいことも
  きれいなことも 汚れたことも
  増えることも 減ることも
  その約束の現れだけど
  現れているすべてのことが
  いつかいい日のためにある

  だから思うの

  生きていると
  いろんなことが あるけれど

  楽しいことも 苦しいことも
  悲しいことも うれしいことも
  雨や 雪や 月の光が
  空から降ってくるように
  手をひろげて受けとめていけばいいんだね

  怖がらなくてもいいんだよ
  悲しまなくてもいいんだよ
  だってすべてがだいじょうぶ
  すべてがみんなだいじょうぶ

  揺れる、歌う、踊る、祈る……
  跳ねる、描く、回る、思う……
  約束とつながっていく方法は
  いつも私の中にある
  揺れて踊って、飛んで思って
  心の目と 心の耳が開いてく
  そして本当のことを知る

  さあ明日へ歩きだそう
  大切なのは
  心の目と心の耳をすますこと
  そして自分を信じること

  花が咲くように 雪が舞うように
  月が照るように あなたといたい

  鳥が飛ぶように 風が吹くように
  海が歌うように あなたといたい

  広い宇宙の中で 長い時間の中で
  あなたと出会えたこと
  きっときっと宝物

  星があるように 山があるように
  空があるように あなたといたい


      『宇宙の約束
            ――私はあなただったかも』
     
                     山元加津子著

2008年 新しいもの・本当のものへと…

2008年02月19日 | Weblog
ミクシィ コミュニティ Arrived Energy On Earth より

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=26892128&comm_id=1730147


新しいもの・本当のものへと…

2008年という大規模な飛躍の年にようこそ!2008年こそ、私たちが待ち焦がれてきた年です。
すべてが可能な、ものすごくパワフルで刺激的な年です。
今年は非常に深い記念的なシフトの年となります。

私たちは今年中ずっと内的変化・外的変化をして、人生の意味深い変更を経験することになるでしょう。
年末までには、今現在私たちがいるところとは非常に異なった状況にいることに気づくことになるはずです。
私たちは、創造力を具体化した~新しい場所で・新しい職業に就き・新しい人々といるでしょう。
私たちの大半は、まったく新しいプライオリティの置き方をする~とても拡大された認識を得ているでしょう。

2008年は“幻想の終わり”~その始まりを意味し、多数のチャレンジをもたらすでしょう。
こうしたチャレンジは、まだ新しいレベルに足を踏み出すことなく=“真のコアたる存在”となっていない人々にとっては、測り知れないほど大きなものになるかもしれません。

こうしたチャレンジのいくらかは、真の自分自身が表面に現れ出てくるよう高まることを躊躇わせてきたものや、自分の内側にある期限切れになったあらゆる要素すべてを最終的にリリースするための~個人的なチャレンジとなります。
なぜなら、もはや私たちは自分の内側に真実でないものは何であれ持つことができないからです。

今年中ずっと、私たちは絶えず“真のコアたる存在”として自分の人生を生きるよう、要求されます。
そうすれば、最も切望してきた夢を成し遂げるための“高速車線”を進んでいくことができます。

2008年、私たちは、これまでに地球で経験されていなかった周波数で“蓮の花の愛”の高められたエネルギーの流入を受けます。
これはもう既に始まっています。
“蓮の花の愛”とは、“蓮の花の世界”として知られている~より深い・目に見えない領域に源を発するものです。
そして“蓮の花の愛”は、私には“ウルトラ級に素晴らしいリアリティ”としか言いようのない~まったく新しいレベルの認識をもたらします。
そしてまた、あらゆるものすべてのコアレベルへ絶対的に影響を及ぼす“純粋な真の愛”の共鳴をもたらします。

私たちは、できるだけ早く、これらのエネルギーに完全に同調することが不可欠です。
“蓮の花の愛”のパワフルな流入における副作用として、すべての幻想が壊されます。
このため外側の世界に大変動が起こりえます。
外側の世界で恐れが高められ・混沌した時間があるかもしれません。
金融関係は特にその影響を受けやすくなります。
国際通貨・金融市場・金融システムにいくらかの崩壊があるかもしれません。
私たちは“完成の時”にいるため、古いものの崩壊は十分予想されることです。

そのため、私たちは常に“蓮の花のハート”にセンタリングしたままでいること…そして真実で本物のじぶんでい続けること…これが更に重要になります。
これができていれば、すべてはうまくいきます。
ちゃんとできていれば、そのとき私たちは、本当の豊かさがある“ウルトラ級に素晴らしいリアリティ”にいるでしょう。
そこでの私たちは、大きな経済的チャレンジをすることなく、すべきことは何でもすることができるでしょう。
私たちは、新しい人生の全レベルで完全にサポートされるからです。

今年中ずっと私たちは“青信号の灯った状態”、絶好の機会、“巨大な交差点”、記念的なシフト、クォンタム・ブレークスルー…こうしたものの安定した形で次から次へと遭遇するはずです。
こうしたものは私たちにはまだ想像し得ないレベルで起きますが、結局のところ、以前と同じものは何ひとつなくなるでしょう。