精神世界(アセンションについて)

このブログの内容は、色々なところから集めたもので、わたくしのメモであって、何度も読み返して見る為のものです。

『風になった少年』 その4

2008年02月19日 | Weblog
『風になった少年』 その4 ミクシィ「まこりん」さんの日記より


「淳平、起きて!」
「どうしたの?」
 淳平は眠い目をこすりながら、しぶしぶ起きました。
 見ると、哲はさっきとは打って変わったように、溌剌としています。頬にはうっすら赤みが差して、別人のように元気そうでした。
 あたりを見回すと少しもやがかかって、ぼんやりしています。


「しまった! 霧が出てきた!」
 あんなに晴れていたのに、淳平は信じられません。
「早く、山を降りんと…」
「だいじょうぶだよ、淳平」哲は平然とした顔をして、「ここからはぼくにまかしといて!」きっぱりと答えました。
「エエ? 哲が?」
「うん、ぼくが案内するよ」
 哲はさっさと歩き出しました。

 淳平はキョトンとしています。でも、自信たっぷりの哲の背中を見て、とにかくついて行こう、と思いました。
 進むにつれて、あたりはますます霧が濃くなってきます。
 哲は顔色ひとつ変えず、ずんずん歩いて行きます。不思議です。険しかった山道が嘘のように、フワフワした雲の上を歩くように、滑らかなのです。
 まるで夢の中のできごとのようだ。淳平はそう思いました。でも、哲が元気に歩くのを見て、夢でもいい、ついて行こう。そう決心したのでした。
 

 どのくらい歩いたころでしょうか。脇のほうから、どんよりした霞の中で、ざわざわした声が聞こえてきます。
 淳平が目をこらしてよく見ると、穴ぐらのようなところに人がいます。
その穴ぐらはズーッと地下深くまで続いているように見えました。
ジメジメしていて、いかにもうっとうしい雰囲気です。
 
 指を舐めてはお金を数えている人が見えました。ずっとおんなじ繰り返しをしています。札束を積み上げ、わき見も振らず、何度も何度もお金を数えています。
でも、よくよく見ると、それらはただの紙きれにしか見えません。
 
 また、ひたすら食べてばかりの人がいました。次から次へと食べものをつかんでは、口の中に放り込んでいます。すでにお腹ははちきれそうなくらい膨らんで見えます。それなのに、食べても食べても満たされないのか、貪るように口を動かし続けています。
 
 そして、その隣では、口から泡を飛ばしながら、大声で話す男がいました。
演説をしているようです。
口ではさももっともらしいことばかり言っていますが、済ました顔とは別に、胸のあたりに、ぺロッと舌を出す顔が透けて見えています。
 
 何だ、あれは? 彼らはみんな、延々と同じ繰り返しを続けているのです。
それに、みんな、ちっとも幸せそうに見えません。
淳平には、彼らが、人間ではないような気がしてきました。
「ここはね、自分さえよかったら、人のことはどうでもいいと思っている、欲張りな人ばっかり集まっているんだ」
  
 そう言えば、去年死んだ村の権三じいさんも見かけました。
欲が深くて、自分勝手で、みんなから「業つくじじい」と呼ばれていたくらいです。
家族にも見舞われず、哀れな死に様だったと、村の人たちが噂していました。
 その権三じいさんも、さっきのお金を数える人の隣で、やっぱり、ひたすらお金を数えていました。何かにとり憑かれたような顔をしていました。

「さあ、行こう! こんなところにグズグズしていたら、こっちまでおかしくなっちゃうよ」
 哲は淳平の腕を引っ張って、またずんずん進んで行きました。
 まるで空を翔るように、二人は雲の中を行きました。
 
 
 今度はきれいな花に囲まれた町が見えてきました。
そこに住む人たちは、みんなとても幸せそうな顔をしています。
 すすんで公園を掃除している人たち。
楽しそうに赤ん坊やお年寄りのお世話をしている人たち。
真心込めてお料理をしたり、服を縫ったりしている人たちもいます。
怒ったり、悲しそうにしている人は一人もいないように見えます。
 
 庭で美しい花を育て、道行く人々の目を楽しませているおばあさんがいました。優しそうな顔をしています。
「あれ? 見たことあるわ。あのばあちゃん」
 淳平は思わずつぶやきました。
「知ってる人?」
「うん、うちのばあちゃんの幼なじみや」
『仏の多恵さん』といわれていた、そのおばあさんは、誰に対しても、親切で優しくて、村でも有名だったそうです。こんなエピソードがあります。
 
 それは、ある夜のこと、一人暮らしのおばあさんのところに、泥棒が入ったのです。ところが、おばあさんは驚くこともなく、「これだけしかないけど、持っていったらええよ」とあり金はたいて持たしたそうな。それから、「ちょっと待ってや、これも持って行きなはれ」と言って、おひつに残っているご飯を、おにぎりにして、手渡しました。
 
 驚いたのは泥棒のほうで、「すんまへん! このお金はしばらく貸してもらいます。きっと返しに来ます」そう言って、涙をこぼしながら、帰ったというのです。そして、すっかり忘れたころ、ひょっこり、その泥棒がおばあさんを尋ねてきました。

「約束どおり、借りていたお金を返しにきました。
あのときはお金に困って、どうかしていました。
でも、ほんとに助かりました。このお金は盗んだものではありません。
まっとうに働いて稼いだお金です。
貯めるのに今までかかりました。遅くなってすみません」
 おばあさんはニコニコして、「また困ったときは、いつでもおいでなはれ。
このお金はちゃんと置いときますから」と言って、受け取ったそうです。
 
 その多恵ばあさんが、相も変わらず、ニコニコと暮らしていました。
花に囲まれて、それはそれはとっても幸せそうに見えました。
 この町では、すべてのものが調和と平穏の中に息づいているように感じられました。
 二人は美しい町をあとにしました。


「さあ、着いたよ」
 哲は嬉しそうに微笑んでいます。
「ここは?」
「子どもの楽園ってとこかな」
「子どもの楽園?」
「そう、きっと思い出すよ。淳平も」
 淳平はあたりをキョロキョロ見回しました。
「なんだか、なつかしい気がするなあ」
 淳平の心臓がドキドキワクワク波打ってきました。
 
 見ると、あちこちで子どもたちが楽しそうに遊んでいます。
花の中で妖精と戯れる子、小鳥と一緒に木々の間を飛んでいる子。
美しい女性のまわりを囲んで話を聞いている子どもたち。
虹色に輝く本を読む子どもたち。 
みんな何と幸せそうなんでしょう。
 淳平はかつて美術館で見た、天使たちの姿を描いた絵を思い出しました。
 そうです。あのとき観た絵とまったく同じ光景が目の前に広がっているのです。

「夢を見ているのかな?」
 淳平は思わず目をこすりました。
「淳平! こっち、こっちへおいでよ」
 いつの間にか哲は、宮殿のように美しい建物の前にいます。

「入ろう!」
 哲がそう言うと、重厚な門扉がスッと開きました。
 大きな図書館のようです。正面の庭には美しい噴水が見えます。
キラキラ輝く水しぶきは、まるで宝石のようにまぶしく光っています。
そのまわりで腰かけて、熱心に本を読む子どもたちがいました。
 仲良く微笑み合いながら、会話を楽しむ子どもたち。
でも、淳平にはその声が聞こえません。
耳を澄ましても、美しい音楽が聴こえるだけなのです。

 その音楽は、今まで聴いたこともないような、美しい音色をしていました。
それに不思議なことに、音楽に合わせて、光がいろんな色に輝き、まるでダンスをしているように見えるのです。
 哲は微笑んだまま、淳平をさらに建物の奥に案内しました。


「すごいなあ!」
 円形の図書館は球場のように見えました。淳平は何年か前に連れて行ってもらった甲子園球場を思い出していました。それくらい、とてつもなく広く見えました。
「信じられへん! 哲、ここほんまに図書館?」
 淳平が大きな声を出しても、他の子どもたちは気づかないふうです。
みんな真剣に本を読んだり、パソコンの画面のような前で、一生懸命勉強しています。

「来てごらん」
 哲が三列ほど下の本棚のところに、降りていきました。
 一冊の本を手にしています。
「見てごらんよ」
 すぐそばのテーブルの上で、おもむろにページをめくります。
「あれ? 見たことある風景。じいちゃんの田んぼ?」
「そうだよ。稲が実って黄金色に畝っている」
「きれいやなあ!」
「ほんとに、きれいね」
「せやけど、なんでこんな本に、じいちゃんの田んぼが…?」
 淳平には解せません。

「ここには、どんな風景もあるんだよ。見たいと思うものすべてが収まっている。地球以外の星も…。何億年前の宇宙だって…」
 哲はずいぶん大人っぽい口調で答えました。
「へ~!?」
 淳平は目をパチクリさせて、しばらく口もきけません。

 やっとのことで、尋ねました。
「なんで、この風景を?」
「うん。ぼくの植えた苗がどうなったか気になったからさ」
「じゃ、これって、半年先の…?」
「そうだよ。嬉しいなあ! こんなに豊かに実って」
 哲は自分の植えたあたりを指さしながら言いました。
たしかにそこは二人が並んで植えた場所にまちがいありません。
「ぼくの植えたお米、おいしいかなあ? 誰が食べてくれるんだろ…」
「決まってるやん。哲が食べるんや!」
 淳平はなぜか少し怒った口調で言いました。
「そうだね…」
 
 気のせいか、哲は弱々しく笑ったように見えました。
でも、すぐにニッコリして言いました。
「去年、総合学習で、田植えができなくて、とっても残念だったんだけど、これで心残りがないよ」
「変なことゆわんといて! また来年もあるやんか」
「うん、そうだね」
 淳平は気になっていたことを尋ねることにしました。
「なんで、田植えにこだわるのん?」
「そうだなあ。大自然の恵みに感動したからかなあ」
「大自然の? 恵み?」

「ぼくは、ちょっと前まで、宇宙飛行士や飛行機のパイロットに憧れていたけど…」
 それは淳平も知っていました。哲は科学図鑑を広げてはため息をついて、そう言っていたからです。淳平もその影響を受けて、宇宙のことに興味をひかれていたぐらいですから。
「ぼくだって…」

「最近、地球のことを知れば知るほど、自然は何と偉大なんだろうってことに気がついたんだ」しみじみとした口調です。
「大人はそんなことすっかり忘れてしまって、自分さえ豊かになれば、他のことはどうでもいいと思う人が増えた。
そんな人たちが、環境破壊や戦争など起こしてる…」
 哲は急に大人のような口ぶりで、淡々と話します。

「ぼくも偉そうなことは言えないけどね。去年までは…、ジコチューだった」
 そう言えば、たしかに去年の夏休みから、哲の性格がずいぶん穏やかになったなあと、淳平は内心驚いていました。
その前の年までは、わがままなところがあったからです。

「でも、いろいろあってさ」ますます大人びて見えます。
「人間は地球を愛し、人を愛するために生まれてきたということを知ったんだ。
それに、人にはそれぞれに与えられた役割というものがあるということも…」
「役割?」
「うん。役割だよ」哲は図書館の中をグルリと見渡しました。
「ホラ! みんなそのために一生懸命勉強しているんだ」
「エッ? みんな役割について勉強しとるん?」
「そう、自分がどれだけ地球や人のために役に立てるか。
そのためにどうしたらいいか。真剣そのものだろ」
 
 淳平は近くでパソコンの画面に見入っている子を観察しました。
 その子は熱心に画面を見つめ、カーソルを小気味よく動かしています。
「ああやって、何度も何度もシュミレーションするんだ。わからないときは、すぐに先生が来て、親切に指導してくれる」
 そう言えば、前のほうで大きな図鑑のような本を広げて、先生に質問している子もいます。みんな自主的に学んでいます。
嫌々学習している子は一人も見かけないようです。


「話を戻そう。ぼくがなぜ農業に興味を持ったかってこと…」
「うん」淳平はゴクリとつばを飲み込みました。
「いろんなことがあった…。これはまた別の機会に話すよ」
 淳平には、哲がさわやかな青年に成長したように見えてきました。

「結論を言うとね。みんなが自然の恵みに感謝して、欲張ることをやめれば、戦争もなくなるし、環境だって汚染されないってことに気づいたんだ」
「ふうん」
 当たり前と言えば、当たり前のことのような気がします。
「そんな当たり前のことに気づくのに、人類はまだそこまで進化していない。
いや、下手をすると、地球を破壊しかねない勢いだ」
『ノストラダムスの大予言』や『日本列島沈没』などと言った言葉が、淳平の頭を横切りました。

「また、脱線しちゃったかな? ところで、淳平のおじいさんの農業に対する姿勢はすばらしいね。尊敬しちゃうよ。世界のみんなが、心を込めて食べものや生活に必要なものを作る。そして、食べる人、使う人は作った人に感謝する。 
 それぞれの国の環境に応じて、必要なものを必要なだけ作って…。
人々は、楽しみながら働き、働きながら楽しむ。もちろん、健全な文化を育み、芸術、スポーツを楽しむ。
 競うことではなく、協力し合うことを教える教育が、子どもたちを幸せに育てる。そんなことが実現する日はきっと来る。
 欲張る人間がいなくなると、きっと地球は平和になるだろう。
宇宙の中でも最も美しく輝く模範的な星に」
 白い歯を見せて、哲は清清しく笑っています。

「ぼくは、そんな地球の未来を考えて、地球と人間に優しい農業を実践することを夢にみるようになった。でも…」
 哲は一瞬黙りこくってしまいました。
 淳平はなぜか、急に悲しい気持ちになりました。
「実を言うと、あまり時間がない。だから、是非、体験したかったんだ」
 哲はその情景を思い出したように、目を細めました。
「あの冷やっこい足の感触。汗ばんだ体を優しく包んでくれた風…。
きっと永遠に忘れない」
「そんな大げさな…」と言いかけて、淳平はハッと口をつぐみました。
 哲の目にキラリと光るものを見たからです。

 
 哲は何かのきっかけで、農業にすごく関心を持ち、どうしても田植えをしたかったのだ。ということがわかって淳平はホッとするのでした。
なぜなら、田植えのあと、哲が体の調子を崩したので、自分を責めていたからです。

「淳平に感謝してる」
 淳平の考えていることが、手に取るようにわかったようです。
「ぼくのほうこそ…。哲に感謝しとる。なんか、今までボーッと生きてきたのが、もったいない気がしてきたわ。哲のように勉強して、世の中に役に立つ人間にならんといかんって、心底思うようになっってきたわ」
「淳平、思い出さないかい? 昔ここで一緒に勉強したこと…」
 哲はそう言って、向こうのほうで、本を広げて、仲良く見入っている二人の子どものほうを指さしました。
 
 その子らは、熱心に本やコンピューターの画面を見ながら、話し合っています。そして真剣な顔をして頷きあっていました。
「ぼくらも、あんなふうだった」
 哲はなつかしそうに微笑みながら、淳平のほうを振り返りました。
「そうゆうたら、そんなことがあったような気もするなあ」
 何だか淳平もなつかしい気がして、彼らと自分たちの姿を重ね合わせるのでした。
 
「健も勇太も、この図書館で一緒にいたような気がするなあ。何でやろ?」
「そうだよ。一緒だったよ。みんなすっかり忘れてしまっているだけさ」
「みんな、ここで勉強していたのか…」
 ということは…。急に淳平の中で疑問がムクムク湧いてきました。
「哲、さっき見た暗い穴ぐらは、もしかして地獄なんか? 花畑のように美しいところは天国やったんか? そうなんや、きっと、そうなんや」
 
 哲は苦笑しながら答えました。
「まあ、そんなに簡単に決めつけないで。そんな単純なものではないんだよ。それぞれの人間の心の状態が、それぞれの環境に導かれるということなんだ。宇宙の波動の原理っていうものらしい」
「へえ~? 宇宙の波動?」
 淳平にはよく理解できません。
「これから勉強したらいい。最近は量子力学がずいぶん進んでいるようだし…。
そのうち誰にでもわかるようになるよ」
 やっぱり哲はすごい。尊敬しちゃう。淳平はますます哲のことが好きになりました。

「ところで、さっきの穴ぐらの人たちは、この図書館で勉強せえへんかったん?」
 淳平は権三じいさんたちのことが、気になって仕方ありませんでした。
「いや、みんな、ここで一生懸命学習して行ったんだよ。でも、地球に着いた途端、すべて忘れてしまったんだ。テストの答えがわかっていたら、勉強なんかしないだろ? だから、忘れるように神様が仕掛けた」
「神様?」
「神様なんて言うと、ピンとこないかな? じゃ、言い換えよう。全宇宙を作った創造エネルギーだ」
 淳平はクラクラしてきました。頭の中を銀河が渦巻いています。
星があちこちでチカチカしています。

「だいじょうぶ? 淳平」
「うん。なんとか…」
「そうそう、彼らはね。ある人はお金持ちになって、恵まれない人たちを救おうと、計画して行ったんだけど…。そんなことすっかり忘れてしまって、お金に執着することに夢中になってしまったんだ。
 お腹がはちきれそうになっても、いつまでも食べ続ける人たちがいたよね。
彼らは、物質の虜になってしまった人たち。いくら食べても、いくら物を持っても、いつまでも満足することができなくなったんだ。
 大きな声で演説していた人たちがいたろ? あの人たちは、ここでリーダーシップというものを、熱心に学んで行った人たちなんだけどね。
どこかで、間違って、その特技を自分の欲のためにだけ使った人たちなんだ」

「じゃ、あの人らはいつまでもあそこに、あんなことしておるの?」
「いや、永遠にいるわけではない。地球の時間にして、何百年、何千年とかかって、やっと目覚めるらしい」
「何百年? 何千年?」
 淳平は気が遠くなりました。
「うん、だから、この地球でどう生きるかってことは、ものすごく大切なことなんだ」
 
 自分は、あんな暗い穴ぐらには絶対に行きたくない。
そう思った淳平は目の前の本をめくろうとしました。
「淳平はだいじょうぶ。ぼくが保証する」そう言いながら、哲はそっとその本を閉じました。
「答えがわかっている問題を解いても面白くないだろ? 一生懸命知恵をしぼって努力することに意味があるんだよ。それが人生ってもんだ」
 哲はすっかり哲学者のような顔をしています。

「ここに来るまでに、すでにたくさんのヒントが与えられた。そう思わない?」
「うん。何となく…」
「自信持って進めばいいよ」
「うん」
「悲しいときや苦しいとき、今日のことを思い出して…。きっと勇気が湧いてくる」
 哲は本を棚に戻して、「さあ、急ごう! 向こうでは、もう日が暮れる」
 

 二人は大きな図書館をあとにして、また雲のようにフワフワした道を歩き始めました。歩くというより飛んでいるような感覚です。
「哲! 向こうのほうに見えるのは何や?」淳平は興奮して叫びました。「ホラ、まぶしい光に包まれて、いろんな色に輝いとる。
あんなきれいな光、見たことないわ」
「ああ、あれはね。この世界でもズーッと上の位の人たちが住んでいるところだよ。人というより『光』というほうが正しいかな?」
「光?」
「まったく肉体を必要としなくなった天使たち。
たとえば、地球や他の星で、偉大な宗教家や芸術家、科学者、思想家たちだった天使たちさ。あそこは、それはそれは美しいところだそうだよ。
とても口では表現できないくらい…」
 キリストや釈迦、レオナルド・ダ・ヴィンチのことが、淳平の頭をかすめました。

「ぼくらは行かれへんのん?」
「う~ん。難しいこときくんだね」
 哲は少し考え込んでいます。
「ぼくが聞いたところによると…。何千回、何万回と生まれ変わって、魂が透明になるほど美しく進化したら、あそこに行けるそうだ」
「進化?」
「そう、あの美しい光がそうだ。彼らは、慈悲深い愛そのものなんだ」
 淳平はまた、頭がクラクラしてきました。
これ以上質問することはやめました。
 
 少し行くと、雲の間から、下界のようなものが見えてきました。
「いいかい? 淳平。ここからは、目をつぶって飛び降りるよ。
ぼくの手をしっかり握って、離さないで!」
「うん」
「行くよ! 一、二、の、三!!」

 
 二人は山のふもとで眠っていました。手をしっかり握り合っています。
「まるで死んだみたいに、よう眠っとるなあ」
「淳平! 起きんか!」
「哲、起きて」
「だいじょうぶか?」
淳平の耳に、知ってる声が聞こえてきました。

「うう~ん、ここは…」
「アッ! 淳平がしゃべったぞ」
「淳平!? じいちゃんや。わかるか?」
「じいちゃん!? どうしたの? あれ、父ちゃんも…」
「あほ! お前らが暗うなっても帰って来んから、みんな心配して探しに来たんやないか」
「さ、哲は?」
 淳平は目で哲を探しました。
哲は答えるかわりに弱々しく手を握り返しました。  

「哲…。良かった。目が覚めたのね」
 哲のお母さんは、目を真っ赤にはらして、心配そうに見つめているのでした。

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