蓄電・発電機器:
3メートルの落差でも30kWの電力、らせん水車で小水力発電に挑む
日本では導入例が少ない、らせん形の水車を使った小水力発電の実証実験が鹿児島県の薩摩川内市で始まった。川から農業用水を取り込む場所に水車を設置して、わずか3メートルの落差の水流で発電する。最大で30kWの電力を作ることができて、年間の発電量は30世帯分になる見込みだ。
薩摩川内市(さつませんだいし)の北部を流れる川に沿って、らせん形の長い水車が動いている(図1)。市が小水力発電の導入促進モデル事業として国から補助金を受けて建設した「小鷹(こたか)水力発電所」の水車発電機だ。2012年から検討を始めて、2015年6月9日に実証試験を開始した。
らせん水車を設置した場所の近くには、川の水をせき止めて農業用水を取り込むための井堰(いせき)がある(図2)。井堰から管を通って水が流れてくるが、水車で利用できる水流の落差は3メートルしかない。小さい落差の水流でも大きな電力を生み出すために、らせん水車を採用した。
薩摩川内市が導入した水車はドイツから輸入したもので、直径が2メートル、長さが6メートルある(図3)。水が上から下へ、らせん状に流れる力で回転する仕組みだ。発電能力は30kW(キロワット)になり、年間の発電量は11万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して30世帯分に相当する。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は43%で、小水力発電としては低めだ。
この実証試験を通じて、薩摩川内市と設計施工会社の日本工営は発電効率やコストのほか、小水力発電で問題になるゴミの蓄積や魚の生息に対する影響、水車の騒音について検証する予定だ。導入効果が大きいことを実証できれば、全国に数多くある農業用水路に普及する期待がある。
薩摩川内市には早期の再稼働が見込まれる九州電力の「川内原子力発電所」がある。その一方で市は再生可能エネルギーの導入も推進してきた。南国の日射量を生かした太陽光発電や、東シナ海から吹く風を利用した風力発電の導入プロジェクトが相次いで始まっている。市内の全域に川が流れていて、小水力発電の適地も数多くある(図4)。
関連記事
- 南国の離島に豊富な自然エネルギー、火力依存からの脱却を図る
さまざまな再生可能エネルギーの導入が進む九州の中でも、鹿児島県の取り組みには目を引くものが多い。特に活発な動きを見せるのが薩摩川内市だ。太陽光や風力発電に電気自動車を加えて、新しいエネルギー供給体制の構築を急ぐ。背景には火力や原子力に依存している危機感がある。 - 太陽光発電と蓄電池によるスマートグリッド、九州の330世帯で実証試験
九州電力は佐賀県と鹿児島県で実施中の「スマートグリッド実証試験」を拡大する。330世帯の一般家庭にタブレット端末を設置して、地域内の太陽光発電や蓄電池と組み合わせた電力の利用形態を検証する試みだ。火力や原子力など集中型の電源を含めて最適な電力需給体制の構築を目指す。 - 開発に弾みがつく中小水力発電、2020年度に60万世帯分を超える電力に
水力発電を導入可能な場所は全国で2万カ所を超えると言われる。固定価格買取制度が始まってから各地で開発プロジェクトが広がり、2020年度までに合計40万kW以上の発電設備が運転を開始する見込みだ。中小水力は太陽光や風力と比べて発電効率が高く、安定した電源として利用できる。